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初心者組の二次職は決まったようで一安心
しおりを挟む鬼教官のヴォルフからしごかれ、妙にレベルアップが速いことに疑問を覚えながらも、俺たちは余計なことを考える暇も無く、ゲーム内で数日間に渡り魔物との戦闘に明け暮れた。
時々、様子を見に来てくれたロンバウドやテオドールがアドバイスをくれるのだが、それを頭に入れている余裕が無い。
いや、もう……体で覚えろって感じだ。
この系統の魔物は、この属性に弱い。
この魔物は、特性がコレだから、この状態の時には攻撃をするな───など、様々である。
ある意味、一癖も二癖もある魔物ばかりを相手にしている気がするのだが、気のせいでは無いだろう。
普通に力押しで行けるような魔物を選んでいないところから見て、ヴォルフは白の騎士団でありながら、魔物の知識も豊富だということは理解することが出来た。
まあ、ロンバウドやテオドールに可愛がられているようだし、必然的に覚えたのだろう。
何度目かの休憩中、拳星が「レベルアップが速くない?」という疑問を口にし、珍しく察しが良いことに驚いた。
コイツも、色々考えながら戦っていたらしい。
「そうだな。それは感じていた……が、多分、ドロップアイテムがないから、上乗せされている経験値があるんだろ」
「それだけかしら。もしかしたら、クエストカウントされているんじゃない?」
ヴォルフが設定した数の魔物を討伐するたびに、クエストクリアになっているということか?
さすがにそこまでの効果はないだろうと言いたいのだが、ルナたちのレベルを確認してみて頬が引きつる。
「……二次職に転職できるレベルに到達してんじゃねーか」
「でしょ? おかしいわよ。だって、Lv18からは、既存の魔物じゃレベリングがキツくなるはずでしょ?」
「既存の魔物じゃ無い件」
「確かに……そっかぁ……」
拳星の一言に撃沈したチルルは、二次職のことで話が盛り上がっているルナたちを見て、肩を落としてしまった。
そうだよな。
俺たちは苦労したよな……
でもさ、この鬼教官のメニューもかなり苦労していると思わないかっ!?
通常クエストで倒すより苦労しているし、工夫もしなければならない上、タフだし厄介だし……
敵のパーティー構成が、マジ勘弁! っていうのも多かったぞ?
頼むからさ、動きを阻害する系と回復系を確実に入れてくるの止めてくんねーかな。
途中、アーヤと拳星を集中的に狙っているのがバレて、2人が文句を言い出す場面もあったが、「回復役に負担を増やさないためだ」と冷たい声で言い放ったヴォルフに一蹴された。
親友のルナに甘いアーヤは、彼の言葉で火がついたのか、そこから文句一つ言うこと無く真剣に取り組むようになったのには驚いたが、元来優しい性格の妹である。
守らなければならない後衛職に気を配るようになってからは、格段とやりやすくなったし、拳星も考えて行動するようになったので、ヴォルフ様々だ。
まあ、考えようによっては、ルナに過保護なヴォルフが、問題児たちをしごいているのに、俺たちが付き合わされた図である。
だが、それも必要なことだ。
2人だけが強くなっても意味が無いし、戦闘には連携が必要なのだから、この訓練には意味がある───が、かなり辛い。
途中で用事があって様子を見に来た黒の騎士団の新米3人組は、顔を引きつらせて「すげーっす」「鬼だ……」「大変そうですね……」と、若干顔色を悪くしながら報告だけ済ませて、そそくさと退散したくらいだ。
「皆は二次職……どうする?」
「お母さんは【召喚術師】でしょ? 私は既に決めているけどー」
「決まっていたの?」
「うん。調べてみたらコレってのがあったから!」
「何?」
「ふふーっ! 【盗賊】は【アサシン】、【狩人】は【ハンター】にするつもりなんだー」
あ、お前……完全に暗殺者スタイルを貫き通すつもりだろう。
【盗賊】の二次転職は、短剣武器を得意とした【アサシン】と、片手斧を得意とした【ローグ】がある。
【アサシン】は敏捷に優れ、【ローグ】は攻撃力に優れるスタイルだ。
メインが【盗賊】で【アサシン】に進むということは、三次職は【忍者】に確定したということになる。
そう考えると、サブの職業である【狩人】が【ハンター】なのは納得だ。
弓特化の【ハンター】と銃特化の【ガンナー】は、互いに遠距離物理攻撃に優れる職業ではあるが、明確な違いがあった。
【ハンター】は、毒や出血などのデバフ系スキルが多く、防御力が関係無く時間と共にHPが減少していく『スリップダメージ』がメインである。
それとは違い、【ガンナー】は属性弾を使い、『攻撃力+属性ダメージ』を与えていくスタイルだ。
忍者を目指しつつも、遠距離ダメージを出したいのなら、ハンターは相性が良い。
他にも、武闘家系忍者や付与魔法系忍者や妖術師系忍者などもいるが、忍者のスキルは意外とMPを使うので、MPコストが低く命中率も上がるハンターは、よく考えた職業選択と言えた。
「意外と考えていたんだな」
「まーね! ハルくんが考えていたし、私だって可愛い天使を守るために、知恵を絞るってもんよ」
「後衛2人に対し、体を張る職業では無いのが疑問だけどな……」
「お兄ちゃんとやる予定だったから、問題ないもーん」
へいへい……最初から人数に入っていたことが嬉しいのやら悲しいのやら……
ルナは【聖職者】から【ビショップ】に決めたようで、回復量が上がるプリーストではなくビショップを選んだのは、単体でも蘇生が使えるようになるからだろう。
三次職の【アークビショップ】になれば、PT全員の蘇生が可能だが、ルナは【料理人】がメインなので、そこまでは進めない。
しかし、単体でも蘇生魔法があると、とても助かる。
全滅する危険性がグッと減るからだ。
俺たちはゲーム感覚で『蘇生魔法』というが、この世界を基準とした設定では語弊がある。
俺たちの体がオーディナルの力から作り出された物であるから、蘇生───いや、復元することが出来るのだが、この世界の人間を死から蘇らせることは出来ない。
その辺は、この地に住まう人間の方が詳しいので助かった。
誤解して諍いが起これば、大変なことになるからな。
「お兄ちゃんは、どっちに進むか決めていたの?」
「うん。勿論だよ」
ハルくんのメイン職である【妖術師】は、どちらの系統に進んでも魅力的な職業である。
二次職は【死霊使い】と【幻術士】であり、どちらも三次職が強力だ。
【死霊使い】は【ネクロマンサー】へ進化し、死霊を召喚できるようになるのだが、コレがまた強い。
MPに直接攻撃を与えるスキルがあったりするから厄介で、PKKギルドの後衛職には人気の職業でもある。
【幻術士】の三次職は【呪術師】で、妨害系魔法に特化した職業で、敵全体に妨害系魔法をかけたりすることができるのだが、重ねがけをすることにより『毒』が『猛毒』になり、『睡眠』が『昏倒』になり、『拘束』が『石化』になり、『混乱』が『洗脳』になる───など、効果は様々だ。
他にも、沈黙や石化や出血などの多種多様な状態異常もあることから、スキルの種類は豊富なのだが、魔物によっては耐性を持っていて効果が無いということもあり、そのややこしさから、玄人向けの職業となっている。
ハルくんなら、どちらでも行けるだろうが……
「僕は呪術師になりたいので、幻術士一択ですね」
「くーっ! 渋いね、玄人だねー!」
チルルが声を上げ、拳星は「やっぱりなー」というような反応だ。
「ハルくんが与えたデバフダメージを、私が追従して与えることにより、より強い効果のデバフを与えるって、良い連携だと思わない?」
「なるほど。ソレは良い考えだが、ハルくん任せにしないで、お前も覚えろよ」
「えー、ややこしいんだもーん」
「それをやってこその【アサシン】や【忍者】だろうが!」
「うー……そのうち……ね?」
これはやる気がねーな……
俺の視線を受け、アーヤはコソコソとハルくんの後ろに隠れてしまい、フラップに耳を引っ張られて「隠れるのはダメ」と怒られている。
さすが、おふくろ。
渋々だが「覚えますーっ」とアーヤに言わせるのだから、ありがたい。
初心者組の二次職は決まったようで一安心である。
あとは、それぞれが転職クエストをこなして、転職を完了させるだけだ。
チュートリアル……やってねーけど、完了ってことで良いのか?
一応、公式の救済措置的なシステムだから、問題は無い……と、思いたい。
それに、コレは良いチャンスである。
さすがに、この速度で二次職へ転職できるLvに到達したなんて考えないだろうから、今なら、あの歩く災厄に気づかれずに転職をすることが出来るだろう。
そこまで考えてのスパルタ訓練だったら、ヴォルフたちには感謝である。
いや、それでなくても、こうして配慮してくれたことに対しての感謝を忘れてはいけないな。
やっぱりさ……
この世界の人々と関わりながら生きていくってことを前提に、作られた世界なんじゃないかと思う。
もう一つの、別の世界───
そこで交流を深め、俺たちが知らなかった情報を得て、未知なる冒険へ旅立つ。
それこそ、この世界に生きている人の数だけ、そういう繋がりがあってもおかしくは無いのだ。
だってさ、こいつらは、この世界で生きているのだ。
泣いたり笑ったり怒ったりして、日々を懸命に生きている。
郷に入れば郷に従えという言葉があるように、俺たちは彼らの生活に溶け込み、共に生きていこう。
疲れていて気の毒だと考え、なんの交流も無いのに、飲み物を持ってきてくれる先ほどの新米3人組を見て、改めてそう思うのだった。
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