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ちょっとまってー、あと30分くらい!
しおりを挟む玄関から左に折れた廊下を歩き、あまり使っていない祖父母の部屋を案内し、二人が荷物を置くのを確認してから、来客用布団が入っている押入れなどの説明をし、戻ってきたときには母が綾音のスマホを眺めながら、質問をしているところであった。
どうやら、ロード・オブ・ファンタジアのキャラクリエイト画面を見せて、可愛いでしょうと自慢しているようである。
母に何を見せているのやら……
綾音がモデルにしているアーヤリシュカは、エスターテ王国の者にしては珍しい白い肌をしており、燃えるような真紅の髪と、ややつり上がり気味で猫のような大きな東雲色の瞳が印象的な女性である。
母親が他国の姫であったという設定だったから、その肌色でも不思議ではない。
書籍の方では、彼女の見事な髪が讃えられている描写が多くあった。
性格もそうだが、赤色が好きな綾音にとって、とても好ましいキャラなのだろう。
見事な銀髪と菫色の瞳を持つハルヴァートと並べば、凄まじく目立つ美男美女である。
今のハルくんが作ったキャラと並んでもスゴイがな……
青みがかった銀髪と檸檬色の瞳は、ルナによく似ていたし、とても彼に似合っていた。
どこぞのバカが目をつけそうな、とても美人系の男性キャラである。
そこまで考えた俺は、同時にギルドハウスとワールドチャットのことを思い出し、深い溜め息をついてしまった。
やべーよな……どうなっていることやら。
丁度タイミングを見計らったようにスマホが鳴ったので、素早く取り出して画面を確認すると、智哉であった。
「どうした?」
『あー、掲示板見た?』
「見てねーよ。飯を食っていた」
『すげー情報が錯綜していて、ある意味笑えるなぁ。そういえば、ラビアンローズが出入り出来ねーって騒いでいる書き込みもあったんだけど、お前、なんかした?』
「出禁にした」
『やっぱりなーっ! 仕事が早いっての!』
「何かマズイことになってんの?」
『いや、ラビアンローズ以外のプレイヤーからは賞賛の嵐だった! あそこ、マジで嫌われてんのなぁ』
だろうな……
智哉の背後から、千鶴さんの「リュートくん、ナイスーっ!」という声が聞こえてくる。
二人も嫌いなんじゃねーかよ。
「で? ソレ以外はどういう感じだ?」
ソファーに腰を掛けながら尋ねると、笑っていた智哉は少しだけ真面目な口調で語りだす。
『俺達のギルドは出来たばかりなのに、いきなりゲットとかおかしいからチートなんじゃないかって話になっていたけど、以前にパーティーを組んだ人とか、広場の騒ぎを知っているギルドがフォローしてくれたみたいだ』
「ありがてーな」
『それで、お前のレア運が極みだという話が出てからは、「爆発しろ」だの「運極め!」という恨み節が溢れている感じだなぁ』
まあ、個人攻撃されている分には問題ないし、軽くあしらえる。
チート疑惑をかけられて騒がれるほうが問題だが、そちらも上手く騒ぎが治まってくれたようで、一安心だ。
「ギルドとギルドハウスの設定は、落ちる前に触ってきたから、問題はないと思う。それに、ヴォルフたちがいるだろうから、騒ぎも起こせないだろ」
『ヴォルフってマジいいヤツだよなぁ! 女だったら、マジ惚れてたわっ』
「気持ち悪ぃこと言うなよ。ヴォルフが嫌がって近づかなくなったらどーすんだ」
智哉のバカな発言は毎度のことだが、慣れていない彼にしてみたら不気味な発言だろうし、正直、近づきたくなくなる可能性もある。
俺だって気持ち悪いって思うのだから、当たり前だ。
『冗談に決まっているだろ? でもさ、アイツって妙にルナちゃんと仲良いじゃん、気をつけろよぉ?』
「あそこは兄妹みたいな感じだから大丈夫だ」
『その油断が命取りに……いたっ……ち、ちーちゃん? どーして、グーで殴るのっ!?』
どうやらルナとヴォルフネタでからかう気満々だった智哉に、千鶴さんが思いっきり鉄拳制裁を加えたようだ。
結構鈍い音がしたが……
『と、とりあえず、ログインどーするっ!? こっちも食事が終わって、まったりしているところだし、時間合わせるからさぁ』
リュートが一緒じゃないと怖いんだもん……という情けない声は聞かなかったことにして、リビングに戻ってきた結月ちゃんとハルくん、母にスマホを見せて説明しながら操作をしている綾音に、確認を取ろうと声をかけた。
「ログイン時間を合わせようって言っているんだけど、みんな時間は大丈夫かな」
「わ、私はいつでもっ」
「僕もです」
「あー、ちょっとまってー、あと30分くらい!」
意外にも綾音がそんなことを言い出した。
どうやらスマホ越しにもそれが聞こえていたようで、智哉から『30分後ね、わかったー』という返事を貰ったのはいいのだが……何か嫌な予感しかしない。
綾音……お前、何でさっきからおふくろに色々教えてんの?
まさか───
「まさか……おふくろも……やってみんの?」
「やってみる」
「お母さんも興味を持ったんだってー」
珍しいっ!
仕事以外には興味を示さない母が、俺たちがやっているゲームに興味を示すとか、なんかの前触れか?
『え? お前のお母さんもやんの? へぇ……珍しいなぁ、別にいいんじゃねぇの? 俺の会社でも親子でVRやっている人いるみたいだし、面白そうじゃん』
『リュートくんとアーヤちゃんのお母さんってどんな人か会ってみたい! すごく興味があるわっ』
二人のお母さんだから、きっと凄い人なんでしょうねぇと笑っている千鶴さんの声を聞きながら、どう説明したら良いのか困ってしまった。
色んな意味で凄い人なのは否定できないが……
コミュニケーション力に欠けるとだけ伝えると、それでアーヤが喋り上手なんだと納得されてしまった。
そういうものなのだろうか。
現在、キャラクターメイクを頑張っているのだろう。
結月ちゃんとハルくんも一緒になって画面を覗き込み、和気あいあいとしている様子を眺めつつ、智哉や千鶴さんとも、こうやって仲良くできたら良いなと思った。
口下手なおふくろに、結月ちゃんとハルくんが親切にしてくれているのが、本当に嬉しい。
母が結月ちゃんの言葉に目を輝かせ、うんうんと頷いている姿を眺めながら思い浮かべた、少し未来の……自分勝手な未来予想図に照れてしまったのは内緒にしておこう。
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