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私の天使たち可愛すぎか!
しおりを挟む「おかえ……り?……って、なんやえらいことになってへん?」
俺たちを出迎えたキュステは、俺の腕に抱っこされている幼子を見て顔を引きつらせ、背後についてきている体の大きな黒馬を見てから天を仰いだ。
「ありえへん。何で魔物討伐に行って、そないなことになるん……」
「これはまた……すごいね」
キュステの後ろから現れたロンバウドが驚いた表情を浮かべ、とりあえずホクホク顔でアーヤと拳星が「肉をいっぱい持って帰ってきたぞー!」と、カフェやラテに報告しているし、シロたちはルナに怪我はなかったかと心配そうな表情で確認をとっている。
「これは見事なお肉ですにゃっ」
ラテが嬉しそうに声を上げ、さすがにあれだけの数を討伐してきた俺達は腹減り状態に陥っていた。
空腹度は生産職だと生産物のレベルや数によって変化し、戦闘職はスキル使用数で変化する。
それに共通して時間でも減るわけで……
「腹減った……」
俺の呟きにルナがピクリと反応し、カフェとラテの方を見る。
3人して頷き合っているところを見ると、目と目で会話ができた……のか?
「まずは、ご飯だにゃ」
「肉だにゃっ」
「お肉がいっぱいなので、こちらでお料理をするのは初めてなのですが、お邪魔でなければ私もお料理がしたいです」
一緒にお料理だにゃーっ! とテンションが高くなっているカフェとラテに付け加え、頬を綻ばせて満面の笑みを浮かべているルナ。
アンピプテラを倒した後に、ドロップ品回収をしながら時間ができたので、チェリシュが春の女神であることをヴォルフが暴露したときのプチパニックぶりは落ち着いたようだ。
事実を知ってオロオロするルナは、とんでもなく可愛かった。
腕に抱っこしているチェリシュと、事実を教えたヴォルフを交互に見て、助けを求めるように俺を見るということを繰り返していた彼女は、最後にチェリシュに確認を取ったのである。
「春の女神……様?と、いうことは……チェリシュ様とお呼びしたほうが良いのでしょうか」
「ダメなのっ、チェリシュはチェリシュ、なの! 」
「で、でも……」
チェリシュのぷっくりした頬がフグのようにぷくーっと膨れ、俺は笑いを堪えるのに必死で、ヴォルフも何気なく視線を外して肩を少し震わせたところを見ると、オロオロしているルナとチェリシュのやりとりに笑っていたのかも知れない。
アーヤたちも驚いてはいたが、二人のやり取りを静観……いや、「私の天使が可愛い」とか考えているような表情で見守っているし、ハルくんはいざとなればフォローするつもりで待機しているし、拳星とチルルはチェリシュのような幼子が女神だということに驚きを隠せないようであった。
「チェリシュ……なの……」
最終的には目をうるうるさせたチェリシュに勝てる者がいなかったようで、俺達全員が『チェリシュ』呼びをすると、嬉しそうにニパーッと笑ってくれた。
一応、ヴォルフにこっそりと「女神を名前で呼んでも大丈夫なのか? 」と確認したら、こちらの世界の神々は気に入った者たちに名を呼ばせることが多いので、あまり気にしなくて良いとのことで一安心である。
それでも律儀に公の場では「春の女神様」と呼ぶらしいヴォルフに、チェリシュがぶーたれていたのが微笑ましく、そういうところでブレないヴォルフもある意味スゴイと感じた。
ルナが疲れているかもしれないと帰りは交代して抱っこしていたのだけど、この好奇心旺盛な幼い女神は、俺の体を移動しながら、みんなと会話を楽しんで上機嫌だ。
現に今も、俺に肩車をされた状態でルナに話しかけている。
「ルーが作る……なの? 」
「そうなのです。料理スキルを持っているので、チャレンジですね」
「チャレンジなの! 」
あの騒ぎの中でも腕に抱いてしっかり守ってくれていたルナに懐いたらしいチェリシュは、ルナがすることに興味津々だ。
可愛いルナと愛らしいチェリシュのセットは、見ている者を和ませる効果があるのか、何故か二人が会話をはじめると黙って眺めてしまう。
「お肉いっぱいなの! 」
「チェリシュもいっぱい食べましょうね」
「あいっ! 」
その言葉で肉パーティーだー!と大はしゃぎのアーヤたちはさておき、俺に抱っこされていたチェリシュが、どこかに連絡を入れていたのが終わって近づいてきたロンバウドに「お久しぶりなの」と言っているところを見ると、ヴォルフ同様に知り合いだったらしい。
「春の女神様が、どうして彼らと一緒なんですか?」
「ベリリいっぱい落としちゃったの……ごめんなさいなの」
「やっぱりそういうことでしたか」
それだけである程度察したらしい彼は、俺の肩をポンッと叩いて「ご苦労さま」と苦笑を浮かべる。
もしかして、こういう事件とか事故って多いのか?
それに、チェリシュだけではない。
ずーっと俺達と一定の距離を保ち、ここまでついてきたトワイライトホースはどーすんだ?
春の女神であるチェリシュが心配なのか、どこまでもついてくるんだが……
「ほら、店の入口でわいわいやっとらんで皆は中入りぃな。お馬さんたちは、庭の方へ回ってな。そっちやったら姿も見えるし問題あらへんやろ?」
キュステが慣れたように、くっついてくるトワイライトホースとクリスタルホースに声をかけ、庭の方へ案内している。
扱いが慣れすぎていてスゴイの一言だ。
「元々トワイライトホースは竜帝領にいる天馬だからね」
そうか、キュステにとってトワイライトホースは珍しくない……が、シロたちの驚いた様子を見ると、聖都ではものすごく珍しい天馬なんだよな。
帰る道中にも周囲の視線をビシバシ感じていたし……中には頭を下げる人がいたから、チェリシュが春の女神だと知っている連中だと考えられる。
図らずしも聖都で目立つ行動を取ってしまったようだ。
「あちらも相談事が決まったようだね」
ロンバウドの言葉に促される形でルナたちの方を見る。
肉が大量にあるので、料理難易度が低いステーキはどうかとのカフェたちから提案されたルナは、それで行きましょう! と3人揃って準備の為に厨房へ向かってしまった。
カウボアの肉を炭火で焼くことにしたようで、キュステが炭などを取りに行き、シロたちがテーブルクロスや食器類を準備しに行く中、残った俺達はテーブルや椅子を庭へ運び出す。
人数が多いからすぐにセッティングが出来るだろうと判断し、ルナたちの方で何か手伝えることはないかと厨房へ向かおうとしたのだが、準備をする邪魔にならないように気を利かせてくれたロンバウドに抱っこされていたチェリシュが、何やら思いついたように真っ青な空へ向かって両手を上げたのが見えた。
何だ?
そう思ったのも束の間で、チェリシュの愛らしい声が辺り一帯に響く。
「チェリシュもお手伝いなの! おいもさん、玉ねぎさん、にんじんさん、ゴロゴローなのっ! 」
お手伝い?
そう問いかけようとした俺の頭上に何かの気配がして、思わず空を見上げる。
そこに見えたのは青い空に浮かぶ、日本の物より少し大きめな無数のジャガイモと玉ねぎと人参だった……てか多くねーかっ!?
呆然と見上げていたジャガイモたちが、重力というものを思い出したように落下しはじめたのは、数秒が経ってからだったので対応が遅れてしまった。
ヤバイ、この量が頭上から降ってきたら大惨事だろっ!?
これはマズイ! と身構えた俺の腕を引っ張ったヴォルフにかばわれる形でその場を退き、吹き抜ける風を感じたかと思ったら、庭の一角にジャガイモの山、玉ねぎの山、人参の山が出来ていた。
えっと……いま、何が起こったんだ?
「ホンマ危なかったわ。僕だけやのうて、トワイライトホースも力貸してくれたんか。瞬間的にあの数はさばけんかったから助かったわ」
そういうと、トワイライトホースは目を細めて「スゴイでしょ? 」とでもいいたげな様子でこちらを見ている。
「ヴォルフもキュステもトワイライトホースも助かった。ありがとうな」
「ごめんなさいなの。リューの上に出ちゃったの……」
「春になったばかりの時期ですから、調整が難しいのでしょう」
ロンバウドのフォローを聞きながらも気落ちしたようにしゅんとするチェリシュの頭を撫でて「気をつけてくれな」というと、「あいっ! 」と元気よく返答してくれたので、次は大丈夫だろう。
…………たぶん。
「わぁ……お野菜がこんなに沢山っ! 」
「チェリシュが出してくれたんだ」
肉を下処理しバットに入れて運んできたルナが、庭に出来た野菜の山に大興奮である。
まあ、これだけ見事な野菜がゴロゴロあったら、普段から料理をしている人としては血が騒ぐよな。
「スゴイですね。ありがとうございますっ」
「チェリシュが作ったの。すごい……の? 」
「とーってもスゴイです! 」
チェリシュスゴイの! と言いながら、ご満悦でテーブルにバットを置いたルナに両手を伸ばして抱っこの催促をする。
それを察してぎゅーっとしたルナに「きゃーっ」と喜びの声をあげるチェリシュ。
なんかすげー可愛らしい光景だ。
アーヤが「可愛い、私の天使たち可愛すぎか! 」とか言っているが、聞かなかったことにしよう。
……てか、複数形になってねーか?
いや、まあ……俺も考えたけど、兄妹揃って同じようなことを考えていたなんて知られたくはない。
いや、さすがに「俺の天使」とか考えて……いないぞ?
あー、でも……マジでぎゅーってしたくなるほど可愛いなぁっ!
「リュート様。お野菜も添えますが、苦手なものはありますか? 」
「いいや。好き嫌いはないから大丈夫だし、ルナが作るものは残さず食べるから心配いらないよ」
「え……あ……えっと……は、はい……」
はにかむような笑顔を見て、何だかこちらまで照れ笑いを浮かべてしまう。
そんな俺をアーヤたちがニヤニヤして見ているのが気になったが、今はとりあえず……バーベキューパーティーしようぜ。
「腹ごしらえが終わったら、アレの報告もしなければな……」
ヴォルフの言葉にそうだったなと苦笑を浮かべた俺は、アイテムボックスにある未開封の宝箱にため息が出るのであった。
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