ロード・オブ・ファンタジア

月代 雪花菜

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なーんか変だよ

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 マズイ!
 俺の反応を見て顔を上げたハルくんも焦ったように魔法を唱えるが、このタイミングでは間に合わない。
 その時だった、黒馬は俺の方をチラリと見てから少し前方へと視線を移す。
 ん?
 なんだ?
 目の前の空間には何もない。
 先程までカウボアがいたのだけれども、拳星の蹴りで遠くへ吹き飛ばされたばかりだ。
 ただ理解したのは、この近辺が危ないということであった。
 急ぎヴォルフの背を叩き離れろと告げると、俺は魔法詠唱に入っていたハルくんを抱えてそのままその場から退避する。
 それを待っていたかのように、天空から黒い物体が真っ逆さまに落ちてきて、土煙をもうもうと上げる様子を呆然と眺めた。
 ルナたちに突進したと思った黒馬は、アンピプテラを前脚蹴りだけで地上に叩き落としたのだ。
 前脚だけでこの威力かと戦慄を覚えるほどである。
 だがしかし、攻撃はそれだけでは終わらなかったのだ。
 まるで怒りをぶつけるかの如く天空から雷鳴が轟き、アンピプテラ目掛けて追い打ち攻撃の稲妻がほとばしった。
 耳に痛い轟音と苦しそうなうめき声。
 あの黒馬が離れろというような目配せをしなければ、俺たち3人も巻き込まれていただろう。
 ヴォルフたちも黒馬の一連の行動に驚いたようで、全員が雷の落ちた場所を注意深く観察する。
 視野を遮るような土煙の向こうに見えたのは、未だルナたちを狙い天空へ舞い戻ろうとするアンピプテラの姿───
 それを見た瞬間の、俺とヴォルフの動きは速かった。
 すぐさま移動速度を上げるバフ効果を付与し、アンピプテラが空へ逃げる前に仕留めるべく突進する。
 ヴォルフが大槍を前へ突き出し、俺も同じく剣を突き出す。

「は、速っ!」

 俺とヴォルフの突進攻撃に思わずアーヤが驚きの声を上げるが、構っている暇はない。
 まだだ……もう一撃!
 突きが浅かったのか、よろめきながら逃げようとするアンピプテラと、それを守るように動くカウボアに違和感を覚えつつも、カウボアの目的を察したアーヤたちが進行方向に立ち塞がり、それを捨て身でかいくぐってアンピプテラと俺達の間に入ってくるカウボアを薙ぎ払う。
 このままでは空に逃げられてしまうと感じた俺は、目の前に居たカウボアの体を踏み台にして飛び上がり、そのままアンピプテラの脳天目掛けて踵落としを決めた。
 地面に叩きつけられたアンピプテラがのたうち回り、その好機を逃さずにヴォルフがトドメとばかりに大槍の先端をアンピプテラに向かって突き刺した。
 凄まじい音と共に決まったその攻撃は、確実にアンピプテラを仕留めたようで、パリンッという音と共に砕けて消えていくのが見えた。
 僅かな光と共に現れた大きな宝箱を見て、俺とヴォルフは顔を見合わせる。

「やった……か」
「……仕留めたようだ」

 さすがは高レベルな魔物であったなと感じるほどのしぶとさだった……が、ここで気を抜いてはいけない。
 周囲にいるカウボアの集団が一気に襲ってくる可能性も……

「お兄ちゃん、なーんか変だよ」

 アーヤの言葉に示されたほうを見れば、明らかに動きが雑になったというか……一部、逃走を始めるカウボアたちの姿が見えた。
 お、おいおい、待て待て待て!
 お前らどこへ行く気だ!

「どうやら、アンピプテラに操られていたようだな」
「……コイツが原因だったのかよ」

 なるほど、自分は安全な空から指示を出していたわけか。
 やけに統率がとれていた理由もわかったのだが、ベリリを摂取して強くなってしまったカウボアをそのままにしておくこともできない。
 相手の戦意が喪失していようが、討伐対象である。

「逃すかああぁ、肉うぅぅぅっ!」
「肉祭りの礎となれええぇぇっ!」

 案の定、うちのバカ二人が暴走しはじめたな。
 一気に緊張感が失われたが、黒馬のことを思い出して天空を見上げると、ルナたちのところに黒馬が近づいて何かしている様子であった。
 あ、アレ……大丈夫なのかっ!?
 クリスタルホースは逃げる気配もないし、さきほどの動きから、敵ではないように思えるが……確証がない。

「大丈夫だ。アレはトワイライトホースという天馬の一種で、子供好きなのだ」
「子供好き?」
「あの方が襲われているのを見て、助けに来たのだろう」

 あぁ……見た目は幼子だもんな……
 妙に納得してしまった。

『こちらは大丈夫です。どうやらチェリシュを守りたかっただけのようで、いま撫でてもらって嬉しそうにしていますから、敵意は全くありません』

 こちらに余裕が出てきたことを察して通信を入れてきたルナの言葉を聞いて安心していると、隣にいたヴォルフが大槍を構える。
 何か気になる敵でもいたのかと注意していたら、近くにいたカウボアを軽々と仕留めてしまう。

「えっと……」
「まだ終わってはいない。カウボアの殲滅が目的だ。それに……これの肉は旨い。ルナが料理をするのに丁度良い食材だから喜ぶのではないのか?」
 
 肉祭りだなと口の右端を少しだけ上げたヴォルフを見て、コイツ……意外とユーモアがあって良いな。
 すげー、気が合いそうだ。

「この後、酒でも奢らせろ」
「あの店の酒は、安価で旨いぞ」
「なら決まりだ」
「肉と酒か、今日は旨いものにありつけそうだ」

 互いに武器を構え、逃げ惑うカウボア目掛けて駆けていく。
 ハルくんが苦笑を浮かべて魔法を唱え、チルルは暴走するアーヤたちについていきながらも、「バーベキューかな?」と問いかけ「ステーキだろう」と拳星が答える。
 緊張感はどこへやら。
 最初はどうなるかと思ったカウボア討伐クエストも、良い感じに達成できそうであった。

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