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王子様みたいだねー

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 広場でも黒騎士たちに指示を出したりしていたし、無言で立ち上がったヴォルフが頭を下げるので、それなりの地位がある人なのだろう。
 キュステと同じような優男風ではあるが、どう考えても彼の方が一枚も二枚も上手のように感じる。
 まあ……キュステは人が良すぎるからな。
 そんなことを考えていた俺に、キュステがこっそりと耳打ちをして「黒の騎士団を取りまとめる聖騎士の称号を持つラングレイ家の次男坊や」と教えてくれたが、とんでもねー人物が出てきたものだ。
 称号持ちといっても聖騎士といえば、この世界の中心となる十神と呼ばれる存在が直接加護を与えたという称号だろう?
 俗に言う上位称号持ちで、彼らが扱う神器と言われるアイテムは、軒並み揃ってチート性能だという噂だ。
 俺たち冒険者が相手にするなら最低でもLv80くらいは欲しいと言われているし、正直に言って、今の俺達では全く歯が立たない。
 特に聖騎士と呼ばれる家に守護を与えたというルナフィルラの精霊は、十神の中でも規格外であり、彼女の加護を持つ聖騎士の戦闘力が、他の上位称号持ちと比べても頭ひとつ抜きん出るのは当然と言えた。
 ある意味、この聖都レイヴァリスのラスボス級が目の前にいるという事実に、軽くめまいを覚えてしまう。

「俺はロンバウド・ラングレイ。黒の騎士団では参謀という立場にいる。黒騎士の許可が必要なら俺が手を貸してもいいけど、先にこちらの要件を済ませてもいいかな?噴水広場で起こった騒動の発端を、まずは聞かせてもらいたいんだ」

 微笑みながら自己紹介をしてくれた後、拳星とチルルの方を見る彼は単純に調書を取りに来たという感じだが、下っ端をよこさずに彼自身が来たのは偶然だろうか。
 キュステに用意された椅子に座り、シロたちが淹れたお茶を優しい笑顔で礼を言って受け取る。
 カップで紅茶を飲むだけなのに、妙に様になるな……中世貴族のご子息って感じか?
 いや、王子だと言っても納得してしまいそうなくらい優雅な立ち振舞である。

「王子様みたいだねー」

 調書を取るメンバーの邪魔にならないように俺の隣に椅子を引っ張ってきて座ったアーヤが、こっそりと耳打ちしてきた。
 俺も今思っていたところだと頷き返すと、やっぱりねーと、アーヤが笑って周囲を見渡し「美形率が高いわねー」とご満悦の様子である。
 しかし、ルナにもロンバウドが『王子様』に見えているのだろうかと、ちょっとだけ心配になってしまい、チラリと視線を向けた。
 俺の隣に戻ってきて着席していた彼女は、ヴォルフが出した薬草の説明をハルくんと共に聞いているようで、彼に見惚れている様子は伺えない。
 ルナって……キラキラ王子様系に興味ないのか?

「なるほど。じゃあ、暁が言っていることが正しいわけだね」

 拳星とチルルに話を聞いていたロンバウドは、どこからともなく取り出した書類を見ながら相槌を打つ。

「助かったよ。同じギルドのメンバーなのに言っていることが違ったので、こちらも困っていたんだ」

 そんな風には見えねーけどな……
 どう見ても、ラビアンローズの特攻隊長である暁の話のほうが正しいと考えていたような素振りだ。
 参謀なんてやってるくらいだから、頭もキレるのだろう。
 こういうタイプは、絶対に敵に回したらダメなやつだな。
 どうせ、そんな馬鹿なことを言っているのは、さっきの魔術師やアサシンだろ?
 聖騎士相手に何やってんだよ……即死級の攻撃を問答無用で喰らいたいのか?
 いや、あの馬鹿どものことだ、知らなかったというオチなんだろう。

「そういえば、君は攻撃スキルを使わなかったんだね」

 こちらを見てそんなことを言った黒騎士の彼に、俺は用心深く頷く。
 攻撃系は使っていなかったが防御系スキルは多用したのだから、お咎めなしとはいかないだろうな。

「そう警戒しなくていいよ。君に非はない。暁が全面的に自分が悪いと言っているし、聖都の住民からも、君に怪我は無かったかという問い合わせが来ているくらいだ。ここで君を処罰したら、みんなに怒られちゃうからね」

 あははっと笑って言ってはいるが……本当にそんな理由で大丈夫なのか?
 その問い合わせをしたという聖都の住人に心当たりがあるから、今度お礼を言いに行かねーとな。
 いや、今はそれよりも……

「一応、攻撃系は使っていなくてもスキルを使用したことに間違いはない。白や黒の騎士団のメンツもあるから、何もお咎めなしというわけにはいかないだろう?」
「白の騎士団はお前に罰を与える気がない」
「新米のお前が言うか?」

 白騎士であっても、明らかに新米のヴォルフにそんな権限はないように思える。
 あとでとんでもない大目玉を食らうなんてことになったら、こちらとしても寝覚めが悪いじゃないか。
 その気持はとてもありがたいけれども、我が身惜しさにヴォルフを差し出すなんてことをしたくはない。
 それほどの親しみを、この男には感じていた。

「まだ言ってなかったんだね」

 ロンバウドが驚いたようにヴォルフを見ているが、彼の表情はピクリとも動かない。
 本当に仮面でもつけているのかと疑いたくなるほど微動だにしないな。

「ヴォルフは白の騎士団の次期団長だよ。ヴォルフ・クルトヘイム。守護騎士という上位称号持ちなんだ。新米白騎士であろうと、彼にはある程度権限がある」

 へ?
 お、お前そんなこと一言もいってねーよな!
 まるで関係ありませんというように、ルナやハルくんと茶を飲んでる場合じゃねーだろっ!?
 ルナも驚き目を丸くしていたけれども、ヴォルフは「白騎士の新人だという事実に変わりはない」という始末だ。
 こいつ……なんかマイペースというか何というか……

 でも、変に権力を傘に相手を威圧することもなく、ただ輪に入って茶を飲みながら話をしている様子は好感が持てる。
 できればこれからも仲良くしていきたい相手であった。

「ったく……おもしれーやつ」
「お前もな」
「んー?なになに、いいね。ヴォルフがレオたち以外の人にそういう態度を取るのを初めてみたよ」

 あははっと笑ってヴォルフの頭を撫でたロンバウドは、俺の方を見て微笑む。

「でも、ヴォルフの気持ちはわかるかな。君はなんだかいい感じだ。出来れば仲良くしたいなって思うから」
「な、なんか嬉しいような恐れ多いような……」

 何故か俺まで頭を撫でられているのだが……こんなことされたの、いつぶりだろう。
 幼い頃に婆さんに撫でてもらったことを思い出し、不意に胸が締め付けられた。

「ああ、ごめんね。俺はね、ずっと弟が欲しかったんだ。今はヴォルフが弟代わりなんだけど、なんだか……二人が似ていたから、つい……ね」
「似ていた?」
「そう。二人共そっくりだよ」

 どこがだ?
 俺とヴォルフが揃って首を傾げていると、ルナが楽しそうにクスクス笑いながら「やっぱり似てますよね」と頷いた。


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