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なんや、難しゅう考えてはるなぁ
しおりを挟む「で、いつまでそうやって見つめ合っているつもりー?」
アーヤにそう声をかけられるまで、俺達はどうやら固まってしまっていたらしい。
い、いや、別に見つめ合っていたわけでは……
「お兄ちゃんも、言いたいことちゃんと言葉にしないと、ルナが困っちゃうよ?変に誤解されてもいいわけ?」
「良くない」
「んじゃあ、ちゃんと二人で話し合いなよ」
確かに妹の言う通りだ。
言葉が出てこないからといって見つめてどうにかなることはない。
照れるが、素直に伝えるしか無いだろう。
子供じみたワガママだから、呆れられるかもしれないが……よし、覚悟は決まった。
「あの……さ」
「は、はい」
「その……今のルナが消えるのは……嫌なんだ」
「え?」
「一緒に作って……ルナらしい……すげー似合ってて可愛いのに……消さないで欲しい。ルナが消えるのは寂しいって感じてしまった俺のワガママ……だな」
できる限り心に感じた、思い浮かんだ言葉を口にしたのだが、彼女に伝わっただろうか。
こういうときに、妹は決して茶化してこない。
黙って聞いてくれているのが、とても有り難く感じる。
ルナの顔を直視できず視線を彷徨わせた先で、妹が口元に笑みを浮かべて嬉しそうに目を細めるのが見えた。
どういう意味かわからずに目を瞬かせたら、ソッとルナの方を指で指し示され、導かれるように彼女を見つめる。
いつの間にか席に再び座ってうつむいてしまっている彼女の表情をうかがい知ることは出来ないが、耳とはいわず首まで赤く染まっているのは確認できた。
うん?
赤くなって……?
えっと……照れてる?
あれ?俺……彼女が照れるようなことを言っただろうか。
「ルーナー?お兄ちゃんが一生懸命頑張って言葉にしたんだから、今度はルナの番だよー?」
「う……うん……」
か細く震える声が響き、ぷるぷる震えている彼女はさらに赤く染まっていく。
い、いや、そんな無理しなくて良いんだが?
ていうか、何を無理しているんだろう。
「あ、あの……その……リュート様にそう思っていただけるのが、とても嬉しくて、わ、ワガママだなんてとんでもないです。料理人をメインにしたいという私がワガママであって……」
「でも、それって色々考えてくれた結果だろう?」
「やってみたいのも確かですから……それに、回復したいって言ってたのに……ごめんなさい」
「回復が全くできないわけじゃないし、回復だけじゃなく、ルナだけの料理を食べられるって考えたら、すげーことだと思う」
「……私だけの料理?」
「だって、特殊調合はルナが考えて配合したオリジナルだろう?それって、他の何よりも得難いものじゃないかな。得難くて……すげー楽しみだ」
「リュート様……」
こちらを向いてくれた彼女の頬の赤さと潤んだ瞳が……想像を絶する破壊力を持っていてヤバイ。
一瞬にして全ての考えがぶっ飛ぶほどの色気を含んでいる。
なに、このほんわか天然というイメージを覆す、とんでもない色気は!
ヤバイ、かなりヤバイ。
ルナはもしかして……天然無自覚小悪魔系かっ!?
「私もリュート様と作った姿を変えるのは……寂しくて悲しいです」
い、いかん。
これは違う方向へ意識を向けないと、いろいろとヤバイやつだ。
ラビアンローズのマスターの取り巻きをしている男たちなら、簡単に転がり落ちるくらいだろう。
無自覚天然娘のギャップ……恐るべし!
「あの……この姿を保存して、キャラクター作成で反映させることはできませんか?」
「れ、レベルを……10にしたら出来るけど……ま、まだ……だよな?」
「はい、まだレベル5です」
色気に呑まれて一瞬言葉が出てこなかったが、なんとか伝わったようだ。
まあ、さっきのヤツを倒しただけでLv5になっていることが驚きである。
経験値を結構貰ったな。
称号持ちにしては、経験値が高くないか?
「レベル10になったら、やっと使える設備が多いんだ。だから、チュートリアルが大事なんだけど……どっかのバカが暴走したせいだよな」
「うっ……ごめんよぅ。私も作り直したほうが早いかな……ハルくんと一緒に作り直してくればよかった」
「今から行ってくるか?」
「ルナの件はどーすんのよ」
それだよな。
ルナの考えもわかるし、挑戦したいのなら応援したい。
でも、その姿……俺が記録できるのなら代わりにやってUPしてどうぞと渡してあげたいくらいだ。
「なんや、難しゅう考えてはるなぁ」
「キュステ……」
「お料理頼みにこーへんから、何事か思うたら、そんなん簡単に解決するようなことで悩んではるんやもん、らしくあらへんやん」
「は?」
「使うてはれへんでしょ?アイテムボックス見たら、解決するんちゃう?」
「アイテムボックス……?使ってないアイテム?」
キュステが意味深に笑うのを見上げて、俺は出されたキーワードからあるアイテムを思い出す。
そして、慌ててアイテムボックスを開いて、それがまだあるかどうか確認した。
『職業変更券』
あった!これだ!
「そうか、俺はオープンβから変わらずに、この職業のままでいたから使わなかったんだ」
「そうやと思うたわ」
「サンキュ、キュステ」
「その分、うちにお金落として行ってくれたらええよ」
「わかった。飯もデザートもシッカリ食っていく」
「まいどおおきに!」
嬉しそうに笑い手をひらひら振って去っていくキュステは、実のところ俺たちが醸し出す深刻な雰囲気を心配して来てくれたのだろう。
全く良い奴である。
話についていけず、キョトンとしているルナとアーヤに説明が必要だと思い出し、俺はチケットをアイテムボックスから取り出してテーブルに置いた。
「俺って、このゲームにはオープンβから参加しているんだけど……」
「オープン……べーだ?」
「あー、えーと、まだ製品版じゃないしバグもある可能性が高いテスト期間中ってことかな」
「そんな期間があるのですね」
「まあ、誰でも参加できるから、プレイヤーは多かったんだけど……正式サービスになるときに、仕様が大きく変わった部分があってね」
一番大きく変わったのは、やはり生産ではないだろうか。
テンプレート生産ではなく、『特殊生産』というシステムを取り入れることを決定したのは、オープンβテストの終盤である。
それにより、さらに複雑になった生産を手放しで受け入れた者が多かったとは言えず、テンプレートでもレベルだけ達すれば高性能な品を作ることができた手軽さがなくなってしまい、生産職から戦闘職に変えたいという人も出てきたり、反対に生産職オンリーになりたいという人も出てきたのだ。
そこで運営が取った策が、オープンβ参加者に配布した『職業変更券』である。
全てのレベルはそのままで、職業だけ変更可能にするアイテムだ。
武器や防具も、その職業に合わせたものに変更する優れ物であった。
「これを使えば、職業を変更することが出来る。一回限りだけどな」
「で、でも……貴重な品……ですよねっ!?」
「いいんだ。俺は使わないから」
「でも……でもっ」
「その姿で居て欲しいっていうのは、俺のワガママだ。だから、使ってくれ。そして、その姿でそばに居て欲しい」
そういった瞬間、彼女は顔を両手で覆い隠し、勢いよく下を向いてテーブルにおでこをぶつけたのか『ごんっ』という鈍い音が響く。
「だ、大丈夫かっ!?」
「うぅ……だ……だい……じょうぶ……ですうぅぅ……」
「本当に?おでこ見せて」
「い、今は駄目です……いまは……駄目なのですうぅぅぅ」
何故?
あまりにも深くうつむいてしまっているために、顔を覗き見ることもできない角度だし、できることなら顔を上げてほしいのだが、彼女はそれを必死に拒否する。
もしかして、かなり痛かった……とか?
とりあえず、リジェネレーションをかけて回復させておくが……どうしたものかと困っていると、アーヤから呆れた視線がなげかけられた。
「ホント、お兄ちゃんってさー……まあ、ルナ相手だからいいけど、他の人にそんなこと言わないでね」
「は?ルナ以外の誰に言えと?」
首を傾げて問いかける俺に、アーヤは「やっぱりお兄ちゃんだわー!ナイス!」と言って笑い転げ、何故かルナからはくぐもったうめき声が聞こえてくる。
よっぽど痛かったのか……もう一度、俺が持っている回復魔法をかけてみるのだが、効果があることを祈るばかりであった。
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