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待った!右にしておいてくれ!
しおりを挟むそうだ……アーヤだけにアクセというのも何だし……
「ハルヴァートは、コレを使ってくれ」
「ブレスレットですか……わっ!詠唱速度UP!すごく助かります!うわぁ……こんなレア物いいんですかっ!?」
「俺は他にもあるから大丈夫だ、厄介なヤツの面倒をみて貰ってることもあるから遠慮なく使ってくれ」
すみませんと受け取るハルヴァートの横にいたルナの後ろから、「誰が厄介なヤツよー!」と文句を言っている妹はスルーしておく。
いちいち相手にしていたら、うるさくて仕方ない。
「ルナにはコレな」
そう言って彼女の手に指輪を置くと、何故か3人が固まった。
今までぶーぶー文句を言っていたアーヤですら、動きを止めてしまったようだ。
なんだ、どうした?
「あ、あの……リュートさん?こ……これ……」
ぷるぷる小刻みに体を震わせ、恐る恐るといった様子で俺を見つめた彼女は、か細い声で問いかけてくる。
「そこまでレアじゃないから気にしなくていいよ。MP回復速度UPとCT減少はヒーラーには重要だし。ああ、意味がわからなかったのか。CTはクールタイムという意味で、スキルやアイテムが再使用可能になるまでの時間のことを言う」
「そういう意味だったんですね……えっと、い、いえ……あ……あの、そうではなく……あ、アーヤちゃあぁぁんっ」
「うわー、やっぱりお兄ちゃんだわー、そういうところ本当にもー、でも、ナイス!」
何がナイスなんだ?
最初に呆れているような感じだったのは……もしかして、指輪のデザインが良くなかったのだろうか。
小さな青い宝石が一粒だけついた、シンプルな形の指輪だ。
レベルが低い装飾品は、総じてシンプルなものになる。
もっと可愛らしいタイプのほうが良かったか。
「あー……えっと、気に入らないなら、他の物を……」
「い、いえっ!こ、これで!これがいいです!」
手のひらに乗せてオロオロしている彼女から指輪をつまみ上げようとした瞬間、驚くべき速度で動き、指輪を死守するように両手で包み込んでしまった。
えっと……?
つまり、気に入ってくれたということでいいのかな。
「ねー、お兄ちゃん」
「うん?」
「どの指がいいと思う?」
「は?指なんてどこでも……」
「ほうほうナルホド!左手の薬指だってー!」
は?左手の薬指?
その指の意味するところを考え、暫くして答えに行き着いた俺は、勢いよく妹の方を見て「バカか!」と怒鳴るけど、顔がとんでもなく熱を持っていて迫力も半減だろう。
現に、妹はニヤニヤしていて反省の色が感じられない。
「左……く、くすり……ゆび……」
「あ、いや、そのっ……」
その指はさすがにマズイだろうと言葉にするより早く、彼女がはにかんだ笑みを浮かべ、嬉しそうに指へ……
「待った!右にしておいてくれ!」
「え……あ……だ、駄目ですか……」
見るからにションボリした彼女を見て、更に俺は慌ててしまう。
いや、そうじゃない、嫌ではなくて!
「いや、そうじゃなくて、そこは……あー、えーと……いずれ……もっと良いものを用意したときにして……ほしいかな」
ヤバイ、かなり照れる。
でも、さすがにその指につける指輪として、ソレは相応しくない。
できることなら、彼女のことを考えて準備し、綺麗な指につけていても遜色ない物にしたいというのが本音だ。
「これも……素敵ですよ?」
「俺が納得するような物でなければ、その指には相応しくないと思う」
「リュートさんが納得するもの?」
それ以上はいろいろな感情が入り混じって言葉にならず、辛うじてコクリと頷くと、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせて可愛らしい笑みを惜しげもなく見せてくれた。
本当に可愛いよな……
健気だし素直だし、優しい子だ。
だから、こんなスキルのことを考えて渡すような物ではない、納得いくような品を贈りたい。
「まあ……だから……」
彼女の手にある指輪をつまみ上げ、右手を取ると薬指に指輪をはめる。
「こっちにしておいて欲しい」
「は……はいぃ……」
うん?どうした?
真っ赤になってヘロヘロになってるけど……もしかして、右の薬指にも何か意味があったのか?
妹の方を見るとニヤニヤ笑っているし、ハルヴァートは複雑そうな表情をして苦笑を浮かべているし……ヤバイ、何かマズイことをした気配しかしない。
「え、えっと……」
「大事に……します……ね」
「あ、ああ、そうしてくれると嬉しいな」
「はいっ!」
大切な宝物をもらったかのような仕草で右手を左手で包み込んだ彼女は、アーヤの方へ走り見せている様子で……妹から「ナイス!」というジェスチャーを貰うのだが、意味がわからないと言える雰囲気でもなかった。
「あのさ……ハルヴァート」
「右の薬指は恋人が居ますという意味もあって、ゲーム内で効果があるかどうかはわかりませんが、ある程度は男よけになりますから良いんじゃないでしょうか」
「……マジか」
「まあ、リュートさんだからいいです。他の男だったらぶっ飛ばしてますけど」
「す、すまない」
「リュートさんだから、良いんですよ」
あははと笑ったハルヴァートは、俺の戸惑う様子を見て笑みを深め、そういうところがリュートさんの良いところだと思うし好きですよと微笑んでくれたのだが……なんか、本当にこの兄妹は似ていて困る。
妹が天使というのもわからなくはない。
「僕のことはハルって呼んでください。名前が長いですから」
「……じゃあ、妹と同じく『ハルくん』と呼ぼうかな」
「リアルでも、そうしてくれると嬉しいです」
ハルヴァート改めハルくんはそういうと、ルナに似た柔らかな笑みを浮かべてくれた。
この彼にぶっ飛ばされないように、今後も気をつけていかなきゃな。
「あぁ~、リュートさんだぁ!こんなところで奇遇ですねぇ」
そんな照れくさくも柔らかな雰囲気をぶち壊すように響いた声を聞き、俺の機嫌が急降下するのをハッキリと感じる。
このゲームで一番会いたくない相手といっても過言ではない、そんな人の襲来に頭痛を覚えるのであった。
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