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素敵だね、その装備!
しおりを挟む「えー!無難過ぎるーっ!」
アーヤの言葉を無視して、アイテムボックスからあるものを取り出し押し付けるように渡すと、文句を言い募ろうとしていた口を閉じ、キョトリと腕の中にある品物を見つめる。
「なにこれ」
「俺が持ってた防具だ。皮防具の中で一番いい物を持ってきた。今日から始めるって知ってたら、武器も準備できたんだが……良オプションの防具だから、大事に使え」
販売目的で良いオプションがついた装備を倉庫に預けていたのだが、こうやって役に立つのなら良いだろう。
売れば、それなりの金額にはなるが……使ってくれるなら有り難い。
「二人にもあるよ」
ルナとハルヴァートにも渡すと、二人は慌てたように俺を見るけれども、Lv制限があって、装備できないからと説明すると、嬉しそうに礼を言って受け取ってくれた。
すぐさま装備して見せてくれたのだが……
ヤバイ、やっぱりルナの白いローブが可愛すぎるだろう!
外套は長めだが、ウエストをキュッと引き締める3本の細いベルトが綺麗だし、ミニスカートに太もも半ばまであるリボンのついたブーツが可愛らしい。
頭を彩るティアラの細工が繊細で、この衣装が着たいからヒーラーやってますという人がいるくらい人気の装備であるけれども、入手困難装備としても有名である。
このゲームの衣装や装備のデザインは、本当に可愛いし、格好良いものも多いから見ているだけでも楽しい。
ハルヴァートの装備は、魔道士をイメージしたフード付きの目が覚めるような青いローブだ。
金糸の刺繍が見事な上に、青と黒のコントラストが素晴らしいバランスである。
こちらも、魔法職には人気の装備であった。
しかも、この装備は与えたダメージの20%をMPとして回復するという稀なオプションつきだ。
良い武器を装備して大ダメージを叩き出せば、序盤はMP回復POTがいらないだろう。
「うわ、軽っ!」
そういってぴょんぴょん跳ねるアーヤを見ると、こちらは露出度がそこそこあるな……うーん、ハルヴァートにとってあまり良くない装備だろうか。
深く考えていなかったが……と、彼を見てみるのだが、瞳をキラキラさせて大興奮の様子である。
「アーヤちゃん、すっごく可愛い!素敵だね、その装備!」
「そう?おへそ出てるのは気になるけど、ゲームくらいいいか。このゲームの衣装って、格好良いの多いよね」
「可愛いのも多いよ。ほら、ルナが可愛いもん」
「わああぁっ!お兄ちゃんわかってるー!天使、これぞ天使よ!」
ルナの周りをくるくる回って大絶賛している我が妹は、自分の装備について多く語らずだ……が、それは気に入っている証拠だということを俺は知っていた。
布地の黒と革部分の茶色、それを彩る赤が鮮やかだ。
お前、赤が好きだもんな。
レースアップのサイハイブーツと黒のショートパンツも気に入ったのだろう。
「お兄ちゃん、センスいいね。露出度高いほうが好みなんだ」
「バカ言え、オプションが良いんだよ。お前の装備は、攻撃と移動速度UPと攻撃力UPがついてるからな。簡単には死なないと思うが……」
正直、この3人の中で一番死亡確率が高いのはアーヤだと思っている。
こいつ……絶対に勘だけで敵に突っ込むタイプだ。
そこは拳星と同じだが、妹の場合は失敗したとしてもリカバリーができるだけの判断力があることだろう。
拳星にはソレがないからな……俺かチルルがいつもフォローに回ることになるんだよな。
「こ、こんな素敵な装備……い、いいのですか?」
「どうせ売ろうと思っていた物だし、使ってくれると嬉しいよ。それに、すげー似合ってて、可愛い」
「か、かわっ……」
ぽんっと音が出そうなくらい顔を赤くしてしまった彼女を見て、あ……しまったと思うが、後の祭りだ。
さすがに、ストレート過ぎたか?
普段なら照れが生じて「可愛い」と言うことは躊躇われるが、この世界くらい素直になってもいいだろう。
それに、清楚可憐な彼女のためにあつらえられた装備だといっても過言ではないくらい似合っているし、ほら……周囲の連中も、あまりの可愛らしさに衝撃を覚え、惚けたように見つめている。
いや、マジで可愛すぎる。
「武器は、また今度……というか、チュートリアルでもらえるし、そんなに時間もかからないから、そこのNPCに話しかけてやってみるといい」
面倒だというアーヤをなだめすかしながら、ハルヴァートがルナを引き連れチュートリアルクエストを受けたようで、3人はNPCに話しかけながら村の中を移動した。
基本的な操作方法を教えてくれるだけではなく、商店や設備の説明に、スキルセットや戦闘方法まで教えてくれる。
NPCの武器屋の説明でそれぞれが装備できる武器を貰ったようで、装備したらいよいよ戦闘だ。
何事もなければ良いのだが……我が妹がやらかしそうで怖い。
拳星とチルルは、生産工房の方へ行くと声をかけてきてくれたので、チュートリアルが終わったら、いつものところで合流しようと約束し、俺は3人の後を追う。
念の為に、初心者支援システム使っておくか?
初心者支援システムとは、支援する相手のレベルに合わせて、ペナルティが発生しないLv帯にまで一時的に下げることができる機能である。
PTを組むなら、レベル差は5が限度で、それ以上になるとペナルティが発生して、取得経験値が下がってしまう。
俺の現在のレベルから考えたら、PTを組んだ瞬間に、みんなは経験値もドロップ品も取得できなくなる。
メインメニューの中にある初心者支援システムを選択し、誰を支援するか選択するかとシステムに問われ、フレンドリスト一覧とギルドメンバー一覧が開く。
迷うことなく一番上にあったルナの名前をタップして設定すると、今装備している物が解除されてしまった。
まあ、そうなるわな。
俺の着用している鎧などは、全てLv20から着用が可能になる。
さて、前に使っていた装備は……と、アイテムボックスを漁って装備を整えていると、「アーヤちゃん!」というルナの叫び声が聞こえ、慌ててそちらを見た。
「あのバカ!」
状況を把握した俺は頬がひきつるのを感じ、急いで剣と盾を装備する。
戦闘フィールドには一般モンスターと、それよりも強い称号持ちのモンスターが存在し、出現場所は数カ所あるのだが、完全ランダムだ。
一般モンスターだと思って殴ったら、倒せなくてPTが全滅したなんてよくある話であった。
レイドと呼ばれる凶悪なフィールドボスも存在するが、初心者フィールドには存在しないから安心していたのに、まさか初っ端から称号持ちに突っ込んでいくバカがいるとは……我が妹ながら、本当にやってくれる!
ガリガリHPが削れていくのだろう、ルナが慌てて回復魔法を数回かけ、敵のターゲットが見事に移ってしまう。
これはマズイ……PT全滅のテンプレート展開だ!
「ハルヴァート!PTをくれ!」
「は、はい!」
魔法で攻撃をしようとしていたハルヴァートは、急ぎ俺にPT申請を飛ばしてくれたので、それを手早く承認するとPT全体の状況が一気に視覚化された。
アーヤのHPはほぼ1/5で、次の攻撃を食らったらマズイ状況である。
そして、敵の標的はアーヤを回復したルナへ移行し、アーヤとハルヴァートが敵のターゲットを奪おうと攻撃を加えるのだが、ルナの回復量が上回ってターゲットが取れない。
スキルも当然レベル制限を受けているが、これならなんとかなるだろう。
敵の迫力に呑まれて動けない彼女と称号持ちモンスターの間に滑り込み、ヘイトを稼ぐスキルである『ヘイトオーラ』を発動させる。
それにより、敵の標的が俺へと変更されたのを確認し、盾を構えて続けざまにスキルを2つ発動させた。
1つは『アイアンウィル』という敵愾心を高めて防御力を上昇させるスキル。
もう1つは、持続回復効果があるリジェネ魔法だ。
これで、彼女が稼いだヘイトを根こそぎ奪うことができるだろう。
「ルナ!HPが半分切ったら回復をかけてくれ。それまでは、状態異常にかかったら解除を頼む。アーヤはPOTを貰っているはずだから、それで回復した後、弓で敵を攻撃。ハルヴァートは、こいつの弱点属性である火を使ってくれ!」
「はい!」
指示を飛ばし、俺は背後のルナを守りながら『勇敢なインプ』という称号持ちを睨みつけた。
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