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あれれ?へぇー、そういうことなのねぇ
しおりを挟む「拳星とリュートくんは、またジャレてるの?」
この声は……智哉の奥さん登場だな。
千鶴さんは、苦笑を浮かべてこちらへやってくるが、いつものキャラと種族が違う。
新たにキャラクターを作っても、名前は固定だから反映されているが、見た目が全く違うことに違和感を覚える。
金髪美人系の剣士である彼女は、とても愛らしい姿へと変貌していたのだ。
「あれ?エルフをやめたのか?」
「ほら、昨日珍しい種を手に入れたでしょう?たまには、農民プレイでもしようかなって……」
「あー、それでわざわざキャラを作ったのか。ご苦労なことだな」
俺の背中に隠れていたはずの智哉がパッと離れて奥さんのもとへ走っていき、これとこれと……などといいながら、アイテムの受け渡しをしているようである。
アイテムボックスが同一アカウントで共有ではないから、荷物の受け渡しが少々面倒だ。
それも、そのうちアップデートされて変わると公式で発表があったようだから、おとなしく待っていよう。
俺がサブキャラ育成したいなと思ったときには、実装されているとありがたい。
綾音に頼んだら、高価なアイテムを見つけてパクられる可能性がある。
そういう時は、結月ちゃんか陽輝くんに頼むのが一番だろう。
「あの人が、智さんの奥さん?」
綾音の言葉に頷き返すと、荷物の受け渡しが終わったのか、いつもは金髪のポニーテールが特徴のエルフである彼女は、颯爽……というより、ポテポテという効果音が付きそうな足取りで歩いてくる。
「まさか、キャットシー族にするとは……」
にゃふふと笑った彼女は、真っ白な毛並みと揺れる尻尾を見せて「いいでしょう?」と満足の行くキャラメイクに仕上がったのだと報告してきたので、そうだなと頷けば嬉しそうに喉を鳴らした。
料理スキルにプラス補正がつく種族であるが、実は農業にも精通していて『ここ掘れにゃんにゃん』というスキルを使えば、瞬く間に畑ができてしまうのだ。
メインは農作業でサブに調合という、完全生産キャラがここに爆誕していたのである。
「拳星が湯水の如くPOTを使うから、お金がたまらなくて……苦肉の策なの」
「まあ、いらねーダメージ喰らいすぎてるからな」
「そうなのよ。それに、うちのPTってヒーラーいないでしょ?だから……」
と、そこで言葉を一旦切った千鶴さんは、俺の横を見て目をランランと輝かせた。
うん?何かいいものでもあったのか?
「って!その腕にしがみついている子、ヒーラーじゃない!でかした!リュートくん!ナンパ成功おめでとう!」
「は?ナンパ?腕にしがみ………………っ!?」
誰のことだと目を数回瞬かせたあと、俺は自分の左腕がやたらと柔らかいものに包まれている感触を覚え、何も考えることなく視線を移すと、そこには結月ちゃんがいて……
たわわに実る柔らかな果実に、俺の腕が包まれているなんて単語が生易しく感じるくらいの状況になっていた。
こ、これは……う、埋まって……るっ!?
「あ、いや、あの……ゆ、ゆづ……いや違う、ルナ……ちゃん?」
「呼び捨てでいってみよー」
背後からうるせーわ!
さすがに呼び捨てはマズイかも……と、リアルで呼んでいるときのように『ちゃん』をわざわざつけたというのに、チェックが細かいんだよ。
それに今は、それどころじゃねーっての!
しかし、再度強い口調で「よ・び・す・て・ね」という声がして、無駄な抵抗をしている余裕のない俺は、思わず彼女の名を敬称なしで呟く。
「る、ルナ、う、腕をまずは……は、離してほしい……かも?」
「え?うで?……腕……ひゅあっ!?」
どこから出たのか不思議になってしまう、悲鳴とも叫び声ともつかない声を上げたルナは、慌てて俺の腕を離して飛び退いた。
やべぇ……顔が赤い。
お互い、恥ずかしくて直視できない状態だ。
すげー照れる!
しがみつかれていた左腕を動かし、かすかに残る感触が薄れるのは惜しい気がして、右手のみで顔を覆う。
全部隠せていないのは百も承知だけど、多少は効果がある……か?
手のひらに伝わる顔の熱は、普段のそれよりも熱い。
これは、絶対に真っ赤だよな。
心臓の音も、みんなに聞こえてしまうのではないかというほど大きく鼓動を打つ。
本当にヤバイって……リアルではなくて良かったというべきなのだろうか。
いや、どっちでもヤバイことに変わりはない。
「あれ?あれれ?へぇー、そういうことなのねぇ」
俺とルナを交互に見て、ニヤニヤしはじめたキャットシー族のチルルは、俺が反論する前に近づいてきたアーヤに両手を握られてしまう。
いや、近ぇよ。
なんでお前って、そういう距離感なの?
相手は初対面だぞ……大丈夫か?
そんな俺の心配をよそに、アーヤは嬉しそうな声をあげる。
「そうなんですよー!」
「そうなんだっ!私、心から応援するわ!私はチルルっていうの」
「ご理解ご協力、感謝ー!私はアーヤリシュカ、アーヤって呼んでね」
おい、そこの二人。
打ち解けるのが早い上に、何を言っている……
アーヤとチルルが手を取り合い、早速ゲーム内フレンド登録をしているのを見て、めまいを覚えてしまった。
ヤバイ、変に波長が合うというやつか?
……もしかして、相乗効果とか言わないよな。
これ以上パワフルになったら手がつけられないぞ、この妹は……
嫁を取られている相手がアーヤであるからか、何も言えないでオロオロしている拳星と、仲良さそうでいいなあとでも言うように、笑顔を浮かべて眺めているハルヴァートが対象的である。
「私もフレンド登録したいなぁ……」
「行ってくると良いよ。チルルは気さくな人だから大丈夫」
「あ、いえ、あの……リュートさん……と……」
「お、俺?」
確認するようにたずねると、ほんのり頬を染めたルナが伏目がちにこくりと頷いた。
可愛すぎる反応に、心臓が再び騒ぎ出す。
「も、勿論……喜んで」
単なるフレンド登録であるのに、妙に照れくさい。
返答した俺の声も、かすれていたように感じたが……変に思われなかっただろうか。
よし、すぐに登録しよう。
手間取っていると、本当は嫌だったのでは……なんて、とんでもない勘違いをされても困ってしまう。
まずは彼女をターゲットして表示されている名前をタップするとたくさんの項目が開いくので、その中から『フレンド登録』を選択。
すると、フレンド登録をするかどうかというシステム音声が流れるので、ためらうことなく『YES』を選択すると、俺からのフレンド申請がきたのか、ルナは驚いたように目を一瞬だけ大きく見開いてから、嬉しそうに微笑んでくれた。
すぐに、フレンド欄に彼女の名前が追加され、なんだかとても嬉しい。
えへへ……と、照れたように笑う彼女に「ありがとう」と礼を言うと、破壊力抜群の愛らしい笑みを返してくれて……ヤバイな、すげー可愛いくてクラクラしそうだ。
「あー!私もフレンド登録したい!」
アーヤとチルルの声が重なり騒がしくなってしまったが、初登録なのですよと喜ぶ彼女の言葉は、俺の胸を甘く疼かせた。
俺が初めて……か。
嬉しいもんだな。
これからも、こうして彼女の初めてを、傍らで一緒に経験していけたらいいな……と心から願った。
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