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第八章 海の覇者

ベビーカステラがいっぱいです

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 さて、ベビーカステラ作りをしていきましょうか。
 まず、白丸石の粉末を準備して小麦粉と一緒にふるっておきます。
 ボウルに卵をときほぐし、牛乳と蜂蜜と塩を入れてしっかりと混ぜましょう。
 そこに、ふるった小麦粉と白丸石の粉末を入れてダマにならないように混ぜてから、溶かしバターを投入します。
 これで甘さは控えめの生地になるはず……
 あとは、綺麗に膨らんでくれるか心配ですが、白丸石の性能に期待しましょう。

「ノーマルで焼くか……チョコ……あ、そういえばカスタードが残っていましたね。あとは、ベリリのジャム……んー、砂糖と蜂蜜を入れない生地を作ってウインナーを切って入れても……」

 もしかしたら、しっかり甘くした生地の方が良かったかも───と考えながら生地を撹拌し、考えをまとめるためにブツブツ呟いていたら、肩をガシッと掴まれました。
 大きな手と、小さな手……ですね。
 だいたい手だけで誰かわかっておりますが、ゆっくりと振り返って相手を確認してみれば、そこにはリュート様とチェリシュが揃って此方を見ておりました。
 予想的中です。
 そして、やっぱりリュート様の手が空くと、チェリシュはリュート様の抱っこに戻るのですね。

「ルナ、そのウインナーって……アレだろ? ミニドッグみたいな? チーズも入れて欲しいな」
「ベリリジャムとカスタードクリームなのっ! お願いしますなのっ」

 必死にお願いをしてくる可愛らしい父娘に、思わず頬が緩みます。
 うふふ、そんなに食べたいですか?
 しょうがないですねぇ……二人の為なら喜んでっ!
 了承の旨を伝えて、いそいそと準備を始める私の様子を見た二人が喜びの声をあげながらハイタッチ。
 この可愛らしい父娘の姿が間近で見られるだけで、幸せですっ!

「そこの若夫婦、親子揃って幸せオーラを振りまくでないわい。アテられる者がチラホラでておるではないか」

 少し離れた場所にいるアレン様の言葉に、私たち3人はキョトンとして周囲を見回すのですが、別段……そういう方々はいらっしゃらないような?
 強いて言うなら、リュート様の元クラスメイトたちがモゾモゾ動いて何かを隠しているそぶりをしている位です。
 何かリュート様に見られたらマズイものでもあるのでしょうか。
 こういう時の彼らの連係プレーは見事ですよね。

「友人に恵まれたのぅ」
「ん? ああ、まあ……な」

 首を傾げながらも、元クラスメイトたちを褒められて喜びを隠せないリュート様ですが、それを素直に表現するのが気恥ずかしいのか、曖昧に笑って見せます。
 本当は、すごく嬉しいのだと伝わってくるので、付き合いの長い彼らには筒抜けなのでしょう。
 いっせいに此方を見た元クラスメイトたちは、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、リュート様を見つめております。

「あー、いつも……助かってるよ。感謝してる。今回も、サンキューな」
「感謝の言葉が素直に嬉しいっす! その感謝の気持ちとして【魔王化一回免除券】をくれないっすか? 魔王化さえ無ければ、リュート様は完璧っす」
「おい、馬鹿やめとけ。私たちはリュート様の為なら、これくらい何と言うことはありませんよ」
「それに、ルナ様からご褒美もいただけますから、頑張りがいがあります」
「確かにな」

 問題児トリオの言葉を聞いて、一言余計だったモンドさんを蹴りながら、私のご褒美という発言に激しく同意しておりました。
 え、えっと……ご期待に応えられるよう、頑張りますねっ!
 腕を止めること無く撹拌していたら、とろりとした生地ができあがったので、ポーチからカスタードクリームをとりだします。

「あ、ルナちゃん。チョコレートって使う?」
「え、あ、はい。使いますっ!」
「美味しそうなチョコレートを手に入れてきたから、これをどうぞ」
「おっ! ゴディーロイズンだ。これって、高級チョコだからなかなか手に入らないだろ?」

 ロン兄様が持ってきてくださったチョコレートを受け取っていた私の肩越しに、チョコレートを確認したリュート様が驚いたような声を出しました。
 え、そ、そんなに高級チョコレートなのですかっ!?

「ああ、それがね、この前ちょっと面倒な魔物を討伐したんだけど、その後の様子を見に行ったらお礼だということで大量にいただいてね。これは、出回っている高級チョコではなく、手頃な価格帯の物だから、安心して使ってね」

 ほ……本当ですか?
 その笑顔が、とてもうさんくさく感じるのは、私の気のせいなのでしょうか。
 チラリとリュート様を見ると、視線をソッと外したので嘘だと確定しましたよっ!?
 何気なくチェリシュも一緒になって視線を外す芸当を見せておりますが、そこに愛らしいと頬を緩めている暇がありませんっ!

「ろ、ロン兄様?」
「大丈夫。問題無い美味しいチョコレートなだけだから」

 ニッコリ笑って言われてしまったら、どうすることもできません。
 え、えっと……高級チョコレートは、そのまま味わうのが良い気がしますよ?

「高級チョコレートでしたら、コーヒー……は無いのですが、ブランデーかウィスキーと共にいただきたいですよね」
「あー、確かに……んじゃあ、これはあとで、大人で楽しむということにして……」
「ズルイなのっ! チェリシュも食べたいのーっ!」
「あー、チェリシュもな。あとでな」

 すかさず腕の中から猛抗議を受けたリュート様は、顔を引きつらせて降参しておりました。
 愛娘の大声での抗議は、聴覚を破壊せん勢いで放たれましたね。
 私からチョコレートの箱を受け取っていたために両手が塞がっていて、防ぐこともできなかったようです。

「おや、残念。じゃあ、そのチョコは皆と後でお酒と共に楽しむとして……コレなら使えるかな?」

 想定内とでも言いたげな笑顔で次の箱を手渡してきたロン兄様───もしかして、わざとですか?
 私の反応を見て楽しんでいませんか?

「あはは、ルナちゃんが良い反応をするからつい……ごめんね」

 表情から気づいたことを察したロン兄様は、ぷっと吹き出してから口元を手で押さえつつ謝罪してきますが、全然感情がこもっておりませんよっ!?
 可愛いなぁと呟いて私の頭をなでなでしてくれますが、何というか……ベオルフ様にいじられた後のような気分です。
 エナガの姿だったら、確実にぽんっと膨らんでいるところですよね。

「えっと、こっちはモメリイ・ナジガというヤマト・イノユエが手がけた商会が作っているチョコレートだよ。老舗だから味は確かだし、リーズナブルなのに上質だから料理にも合うと思うよ」
「あー、確かにチョコレート工場を作っていたよネ。あの時の獣人たちは、まだ作ってくれているんダネ」

 どうやら時空神様の記憶にある商会だったらしく、ヤマト・イノユエが手がけたお店なら品質が高くても不思議ではありません。

「確か商会名は、一つ飛ばしで名前を読むと、知っている人には笑える名前をつけたとか言っていたネ」

 一つ飛ばしで読む?
 えーと、『モ・メ・リ・イ・ナ・ジ・ガ』……でしたよね。
 私が「あ」と呟くと同時に、リュート様が目元を押さえて首を左右に振りました。
 肩がぷるぷる震えているので、笑うのを必死に堪えているのでしょう。
 さすがのネーミングセンスというのでしょうか。
 いえ、名前をつけさせたら駄目な部類の人ですね。
 どこかにもいましたよね、名前をつけさせたら壊滅的に駄目な方が……

 やはり、ネーミングセンスって大事です。
 商会の方々は、知らぬが仏。
 皆も知らない方が良いのです。
 これは、私とリュート様と時空神様の秘密にしておきましょう。

「ロン兄様、ありがとうございます」
「うん。甘いお菓子も楽しみにしているよ」
「お任せくださいっ!」

 ふふふっ……カスタードクリームにチョコレート……これは、中に入れろということですよねっ!
 あと、いいことを思いつきました。
 きっと、チェリシュが喜ぶはずっ!

 急ぎチョコレートを刻んでボウルに入れてから湯煎にかけて溶かします。
 トルティーヤを包んだときに使っていた紙を用意して適当な大きさに切ってからくるくる丸めていき、ペンくらいの細さと長さでカットして止めましょう。
 そこに溶けたチョコレートを流し入れ、簡易チョコペンのできあがりですっ!
 これは、固まらないうちにポーチへしまいましょう。

 あとは、カスタードクリームにチョコレートを混ぜたクリームを作り、カスタードクリームとチョコレートクリームの二種、ベリリジャム入り、カットしたウィンナーとチーズ入りを作っていくだけです。

 熱した鉄板のくぼみの4割くらいまで生地を流し込み、それぞれ生地の中央へ具材をIN。
 その隣には、何も入れないノーマルと、具材が入っているベビーカステラと合体させる用に手を加えずに焼いていきます。
 合体させる用は、くぼみの半分くらいまで注いでおきましょう。
 そうしないと、膨らんできて溢れてしまいますし、合体させたときに歪になりますからね。
 ふつふつと気泡が出てきたところを見計らって、何も生地を入れていない方にピックを刺して持ち上げると、入れた具材を隠すようにかぶせました。
 表面がまだ固まらないうちにくっつけておかないと、綺麗にできませんから、タイミングが大事です。

「合体したの!」
「あー、そういう作り方をするなら、鉄板を二つ折りにしてパタンと倒せるようにしたほうが良いか」

 私の行動一つに感動してくれるチェリシュと、改良点を見つけていくリュート様。
 嬉しいのですが、リュート様のほうは心配になってしまうので、ほどほどにしてくださいね?

「そなたは本当に根っからの仕事人じゃな……」
「そんなに仕事を詰め込むと、いつか倒れますよ」

 アーゼンラーナ様と海神様に呆れた顔をされておりますが、本人はどこ吹く風で、改良点をまとめているようでした。
 リュート様、そこまでくると病気ですよ?
 でも、社畜って病気の一種みたいなところがあるから、やっぱり治療が必要でしょうか。

「リュートくんって社畜っていうより、自分で仕事を詰め込んで追い込まないと存在意義を見つけられない病気にでもかかっているんじゃないカイ?」

 全くもって、時空神様の言う通りです。
 これは、長い目で治療していく必要がありますよね。

 くるんくるんとベビーカステラを回転させながら、私の手元を見てチェリシュと一緒にはしゃぐリュート様を見て溜め息が出そうになりましたが、ロン兄様が「今までだったら、すぐさま取りかかっていたから、ルナちゃんのおかげで少しはマシになってきたみたいだよ」と耳打ちされ、ちょっぴり嬉しくなったのは言うまでもありません。

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