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第八章 海の覇者

よぎる不吉な予感

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 席についてカレーを家族とともに囲む。
 その事実を改めて噛みしめたリュート様は、少しだけ涙目になったのですが、ぐっと唇を噛みしめてからカレーとチーズナンを大きな口を開いて頬張りました。

「やっぱさ……家族で食べるカレーって美味いよな」
「はいっ」
「あいっ」

 私とチェリシュの返事を聞いて笑顔をこぼすリュート様に、感極まったのか、ロン兄様が抱きつきます。

「リュートおおぉぉっ! お兄ちゃんも嬉しいし、とーっても美味しいよっ!」
「うむ。家族で食べる食事は、何物にも代えがたい」
「それは……わかるかもしれません」

 ロン兄様とテオ兄様の言葉に深く頷いた海神様は、両親である時空神様とアーゼンラーナ様を見て、嬉しそうに頬を緩めました。
 少年らしく、可愛い笑みを浮かべていて和みます。

「リュートが元いた世界では、当たり前の光景だったのか?」
「ああ、小さい頃は当たり前だったけど……俺が仕事人間になった時から、なくなっちまった光景だなぁ……もう少し、家族との時間を取れば良かった」

 苦笑を浮かべるリュート様にかける言葉が見つからなかったのか、お父様も眉尻を下げ、親子して同じような表情をしておりました。

「それがわかっただけ良いじゃ無いカ。同じ過ちは繰り返さないことダヨ」

 時空神様の言葉を聞いて、二人は確かにそうだなと頷き、今後は家族との時間を取ろうと誓い合っているようです。
 むしろ、今まで一番距離感がわからずに困惑していた二人が、変なところで意気投合している姿が嬉しいようで、お母様たちは顔を見合わせてくすくす笑っていらっしゃいました。

「時空神様、兄のカレーに比べてどう……でしょう」
「んー……現状でここまで仕上げてきたコトに驚きダヨ。足りない物も多いのにネ。陽輝はチャツネやらカレールーを使っているケド……ルナちゃんはスパイスだけデショ?」

 凄いよねぇとスプーンでカレーを掬い食べてから、やっぱり凄いと言ってくださいますが、兄のカレーには遠く及ばないのだと感じてしまいました。
 うぅ……もっと努力しなくては……

「今度はカレールーを作ることを目指したら、これより美味しくなると思いますか?」
「カレールーをカイ?」
「どうしても、あのなめらかなカレーを作りたいのです。確か、レシピがあったように思うのですが……」
「あー、それなら陽輝に聞いておくヨ。妹からの依頼だと知ったら、全部そっちのけで頑張っちゃいそうダネ」

 それは、ちょっと困ります。
 ゲームをプレイして、情報入手が第一ですから……しかし、ここでそれを話して良いかどうかもわかりませんので、視線だけで訴えかけると「わかっているヨ」と笑われてしまいました。

「カレールーなんて……作れるのかっ!?」

 ごくりと咀嚼していた物を急いで飲み込んだリュート様が、驚いたように私を見ます。
 カレールーを自分の手で作るという発想は、リュート様の中に無かったでしょう。

「可能だと思います。なめらかなカレーを作るには、それが手っ取り早いですし、今後、急に『カレーが食べたい』ということになった時も、対応が楽になりますもの」
「ダヨネ。カレールーがあれば、いつでも作れるし、他の人たちも使いやすいデショ。今開発中のゴーレムが量産できたら食品工場でも作ってみタラ? もう一つ、魔力系で考えているヤツで、不足魔力を補えばいけると思うケド?」

 魔力系で考えているヤツってなんですか?
 私に言ったのでは無いと理解し、隣のリュート様に全員の視線が集まりました。
 すると、彼は渋い顔をしてから「うーん」と唸りだしてしまいます。

「まだ企画段階だってのに……」
「ああ、アレのこと? 時空神様は、よう知ってはりますなぁ」
「良い案だと思うヨ。新たな雇用形態を生む切っ掛けになるからネ。問題にしている素材については、マーテルに聞けば良いヨ」
「……問題が解決したらってことか」
「そうなるネ」

 話が見えずにきょとんとしていると、私には説明しても理解出来るだろうと考えたのか、リュート様は苦笑を浮かべてから簡単に語ってくださいました。

「つまり、魔力版の電池を作ろうとしているんだ」
「え?でも、それは……本当に出来るのですか? いえ、あれば楽になりますけれども……実現したら、新たな動力源になるくらい画期的なことですよ?」
「だから、アレンの爺さんに相談している最中なんだ。これが実現したら、体が弱い人でも働き口が見つかるし、在宅での仕事も可能になる。今までは自分の魔力だけで補っていた物を、ソレで補えるようになれば、より生活は豊かな物になるだろうが……心配もあるからな」
「ならば、知恵も交えて相談してみれば良い。アレに話を通しておこう」
「え……いいのか?」
「リュートが困っていたと聞けば、喜んで来るじゃろう」

 知恵の神様が登場するフラグが立ってしまいましたが……そのうち、十神が地上に全員集合なんてことにはなりませんか?
 リュート様がいるから、その可能性は捨てきれないですよね。

「簡単に十神が集まる環境って……」
「だんさんと奥様がいはったら、それも些細なことなんよ……仕方あらへん。特に、奥様はオーディナル様に溺愛されてはるからなぁ」
「お祖父様に溺愛……」
「じーじはメロメロなのっ! ルーとベオにーにを傷つけたら、どっかーんするって言ってたのっ」

 どっかーん?
 意味がわからずに首を傾げている私たちとは違い、「そうなるよネ」と笑う時空神様の隣でアーゼンラーナ様は目元を覆って首を左右に振り、海神様は遠い目をしていらっしゃいました。
 え、えっと? どっかーん……て?

「まあ、心配はいらないヨ。ベオルフが止めてくれるカラ。それよりも、リュートくんは作る物が沢山あって、ルナちゃんのレシピのことを言っていられないよネ」
「そうかな……原案は俺だけど、基本的に他の人が作るからなぁ」

 その原案が凄いのだと理解してください。
 私には無い発想でしたよ、その『魔力電池』って……うーん、電池っていう名前は相応しくないですね。
 魔力が詰まっているエネルギーということから考えて、『魔池』というところでしょうか。
 あまり語呂がよくないですね。
 ネーミングセンスはベオルフ様より良いはずなので、もう少し考えておきましょう。

 まあ、全てはマーテルの件が終わってからだよ……と言った時空神様は、手に持っていたチーズナンをパクリと食べてご満悦です。

「チーズナンは、ルナちゃんの方が上手ダネ」
「あ、ありがとうございますっ」

 えへへ、褒められましたっ!
 兄の料理を毎日食べている、時空神様の肥えた舌でも満足がいくチーズナンが作れたことが嬉しくて笑っていると、チェリシュからチーズナンを渡されてしまいました。

「ルーが食べないと、ベオにーにが大変になっちゃうの」
「はっ……そ、そうでしたっ!」

 カレーとチーズナンを口に運びながらも、日本の食卓にあったなめらかなカレーが懐かしくなってしまいます。
 やっぱり、最終目標は、あのカレーですよね。
 その時には、お米も手に入ると良いのですが……
 なめらかなカレーでカレーライスですよねっ!

「みにゃあぁ、辛いのおぉぉっ! お水なのーっ」
「あっ! また俺のを食ったな!?」
「そ、そんな時はラッシーですっ! 水はいけませんっ」

 ちょっと目を離した隙に、リュート様のボウルからカレーを食べてしまったのでしょう。
 どうしてもリュート様の物を食べてみたい症候群にかかっているチェリシュは、慌ててベリリのラッシーを飲み、はふぅと息をつきます。
 必死にベリリのラッシーをこくこく飲んでいる姿が、とても可愛いなぁと思ったのは内緒にしておきましょう。

「もう……リュート様と時空神様のカレーは、特別に辛いのですから、食べたら駄目ですよ?」
「からからなの……」
「そんなに辛いの?」

 興味を持ったロン兄様が、リュート様のボウルから少し拝借して味見をしてから、うわっと驚いたような顔をして飲み込み、「舌がピリピリする」と感想を述べたのですが、何故かもうひと匙食べて首を捻りました。

「あれ? 俺も……好きかも?」
「無理してない?」
「うん。この辛いのが良いなぁって思えちゃう」
「そう? ロン兄も辛口派かぁ」

 嬉しいなぁと笑うリュート様につられて、テオ兄様も手を伸ばし、食べてみると「此方の方がいいな」とおっしゃいました。
 あれ?
 もしかして、ラングレイ一家は全員辛口が良い感じですか?
 おかわりのカレーを辛口に変えてみると、お兄様たちは平気そうな顔でパクパク食べてしまいます。
 兄弟の味覚も同じでしたか。
 他の方々もチャレンジしてみたようですが、慌ててラッシーを飲む様子から、やっぱり辛すぎますよね……と、思わず苦笑を浮かべてしまいました。

「あまり無理して食べない方が良いヨ。自分に合った辛みで食べるのが一番ダヨ」
「胃の粘膜をやられちゃいますからね」
「それだけで済めば良いケド……」

 どうやら、兄が言っていた『大学での悪ふざけシリーズ』を、時空神様も経験済みなのでしょう。
 とんでもない辛さのカレーがネットで売っていて、劇物扱いだから危険だと言いながらも、怖い物見たさでチャレンジして、全員がギブアップしたという伝説があると言っていましたものね。
 人によっては悶絶したと聞きました。
 日本では、時々こういう限度を超えた物が出てくるから恐ろしいです。

「まあ、カレールーについて陽輝は知っていると思うカラ、今晩にでも聞いて夢にお邪魔するようにするネ」
「お忙しいのに、伝言まで頼んでしまって申し訳ありません」
「気にしなくてイイヨ。ほら、ルナちゃんとベオルフのおかげで、毎日回復する時間があるからネ。父上も俺も二人が揃っている時に、出来るだけ回復できるようにしているカラ」
「あの光……ですか?」
「うん、海の底にも届いたデショ? あちらでは、世界全体を覆っているからネ。活動しやすいんダヨ。夜は自分たちの時間だと思っていたヤツらも、焦っているところだろうネ」

 黒狼の主は、主に夜活動しているということですか。
 しかも、それをベオルフ様が放つ回復の輝きが邪魔している───と?
 それって……大丈夫なのでしょうか。
 ヘイトを稼ぎすぎて危険すぎませんか?

「まあ、心配いらないんじゃ無いカナ。着々と力を削いでいるみたいダシ……」
「え? 力を……削ぐ?」
「うん。使い魔を2種封印シテ、返り討ちにしたみたいダヨ」

 うわぁ、その時にベオルフ様は、とーっても良い顔をしてニヤリと不敵に笑っていそうです。
 だから、怒らせると怖いのですよ……
 あまり怒らない人を怒らせるほうが悪いのですからね?

「チェリシュもお邪魔したいの……」
「一週間の我慢ダヨ」
「うー……あいっ!」
「俺も行ってみてぇ……」
「さすがにリュートくんの魔力は強すぎて、干渉しちゃうから無理ダヨ。だいたい、他者の夢に人が入り混むのは難しいことダヨ」

 そう言われしまうと、私が異質のように感じられますが……?

「だからこそ、この前……ミュリアが干渉してきたことが信じられないんダヨネ。ルナちゃんが撃退したんダヨネ?」
「はい、あまりにもふざけたことをなさるので……」

 ニッコリ微笑みながら言ったはずなのに、何故静まり返るのでしょう。
 しかし、いま思い出しても腹が立ちます。
 何が「キスしてくれたら考えてあげてもいいわよ?」ですかっ!
 思い出しただけでも腹が立ちます。
 もっと、くちばしで髪を引っ張ってさしあげたら良かったでしょうか。

「あ、あの……ルナ?」
「ルーがおこなの……ぷんぷんなの」

 い、いけません。
 つい、怒りの感情があふれ出てしまいました。
 とりあえず、コホンと一つ咳払いをして気持ちを落ち着けます。

「人の夢に干渉できるだけの力を持つ者が、あっちにもついているってことダヨネ……父上がいるから心配はないと思うケド、ルナちゃんも気をつけるんダヨ?」
「はい……」
「でも、さっきの話だとさ、ルナの兄貴である陽輝さんは問題ねーの?」

 そういえば、そうでした。
 兄もベオルフ様の夢に干渉しているということになりますよね?
 それは、大丈夫なのでしょうか……

「あー……うん。陽輝には俺がいるからネ」

 どことなく歯切れの悪い返答をする時空神様に違和感を覚えつつも、ここではこれ以上話す気がないように感じられました。
 リュート様に話せない事実もありますし、ヘタに突っ込んで聞いて良いのか迷いますよね。

『ん……? あ……そうか……そういう可能性もあるのかっ!』

 いきなり立ち上がった時空神様は、日本語で思わず叫びます。
 何か閃いたという感じ……ですか?
 でも、咄嗟に日本語が出てくるって……随分と染まってしまいましたね。

『ミュリアの魂は、彷徨っているのでも、封印されたのでもなく、誰か相性の良い人間の魂に寄り添い、マナの器に間借りして休んでいる───それだったら、いくら俺たちが血眼になって探していてもわからないじゃないかっ!』

 え?
 そ、そんなことが……可能なのですか?

『あの子と相性が良い魂を探した方が早いか? いや……でも……』

 今度はストンと座って、頭を抱えながらブツブツ呟き始めましたが、傍目から見ても不審者のようにしか見えません。

「ミュリアの魂?」
「今現在のミュリア様ではなく、元のミュリア様の魂です。体を乗っ取られて、魂が行方不明になっている状態ですから……」
「ああ……そうだったな」

 リュート様って、本当にミュリア様に興味が無いのですね。
 言われるまで思い出さなかったという感じですが、少しは興味を示してあげてくださいね。
 元のミュリア様は、全く問題のない善良な方だと思いますから……

「コレも、父上に報告しないとダネ」
「他の方の体に入り混み、魂が休息を得るなんてことが、本当にあるのですか?」
「よほど相性が良くないとできないことだケド。不可能じゃ無いヨ」

 それは、弱った魂なら、善し悪し関係なく───ですか?

 不意に浮かんだ疑問を言葉にすることは出来ず、嫌な予感が頭をよぎります。
 これ以上、リュート様が変な物に煩わされることが無ければ良い。
 私の中にある不吉な予感が当たることが無ければ良いと、家族で笑い合いながらカレーを食べている姿を見つめ、こんな日がずっと続けば良いのに……と願わずにはいられませんでした。

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