悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第七章 外から見た彼女と彼

ナイショナイショなの!(チェリシュ視点)

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「そういうところは、本当に変わらんな……」

 じーじは、何かを思い出すみたいに遠い目をして懐かしんでいたかと思うと、小さく溜め息をついたあと、ルーの様子を見ながら静かに語り出したの。

「そういえば、ベオルフは僕の愛し子に鳳凰の件を話したのだろう?」
「はい。主神オーディナルがいない間が良いと、おっしゃっておりましたので……」

 チェリシュが首を傾げていると、じーじは少しだけ寂しげな表情をしたあと、静かに『鳳凰』という神獣について、簡単な説明をしてくれたの。
 あの綺麗なねーね───ユグドラシルが実らせた黄金の果実から誕生した鳳凰という神獣は、じーじたち世界を管理する創造神や創世神の守護者だったの。
 対で一体の神獣である鳳凰は、力を使うと金色に輝く方が鳳、銀色に輝く方が凰というらしいの。
 ……あれ?
 チェリシュ……さっき、それに似た感じの物を見た気が……
 まぶたをパチパチさせてじーじを見上げると、意味深に微笑まれちゃったの。
 うぅー……でも、ルーもベオにーにも人間だし……神獣は神獣だって聞いたことがあるの。
 はっ!
 も、もしかして、二人の魂の核は、鳳凰……なの?
 それが真実なら……こ、これは……誰にも内緒なの。
 じーじがどうしてチェリシュに教えてくれるのかわからないけど……きっと、ルーとベオにーにも知らないことなの。
 もちろん、リューも知らないの。
 パパとママやねーねたちも知らないの。
 チェリシュは、偶然知ってしまったの!

 でも……良かったの?

 ちょっぴり不安になって、じーじとゼルにーにを見ると、目を細めて「ナイショにしてね」と言われた気がしたので、慌てて両手で口を塞いで必死に頷いたの。
 な、ナイショナイショなのっ!

 でも、鳳凰が放つマナの輝きを核としている魂は、すべての世界を通してどれくらい存在するか疑問なの。
 珍しいのかな……
 じーじと大ママのマナの輝きを、核にしている魂が少ないことは知っているの。
 確か……強すぎる輝きは、魂を作り出す前に消えちゃうからだって聞いたの。
 外を巡る魂を作り出すには、神族が放つマナの輝きが一定量と長期間とどまる必要があったはずなの。
 お勉強ノートがここにないから、自信はないけど……た、多分、あってるの。

 補足説明みたいにゼルにーにが、チェリシュのパパとママの力は、もともと鳳凰の物だったって教えてくれたんだけど……それで納得なの。
 ベオにーにとルーが、パパとママに似た感じの力を宿しているのは、魂の核が鳳凰だからなの。
 ベオにーにが、太陽で回復。
 ルーが月で浄化。
 二人の力は、鳳凰の核から引き出されているもの。
 ルーとベオにーにが二人そろうと力があふれ出してくるのは、それが原因……ということなの!
 謎は解けたの!

 チェリシュがすっきりした顔をして頷いていると、ベオにーにが怪訝そうな顔をしたけど、教えられないの。
 これは、いつかじーじからお話があると思うの。
 チェリシュは、それまでナイショナイショなの。

「僕たち管理者にとって忘れられない、ユグドラシルから誕生した神獣である鳳凰が、命をかけて施した封印───二人が導かれたのは、その封印がある場所だ」

 相性がいいベオにーにとルーの力を注いでくれたから、安定したのだろうっていう話をじーじはしていたけれども、真実は、鳳凰の力を魂の核にしているベオにーにとルーが行って力を注いだから、封印が安定したということみたいなの。
 ベオにーには真っ黒な空間に引きずり込まれて見た闇一色の空間と、黒いツタと、真っ黒にうごめく触手のことを淡々とお話しているけど、真っ暗な闇の中で、ちゃんと見えていたことにびっくりなの。
 でも……チェリシュの悪夢にも出てくるような触手がうにょうにょ……気味が悪くてぷるぷるしていたら、ベオにーにが頭をよしよしと撫でてくれて、ノエルも心配してぴとってくっついてくれたの。
 だ、大丈夫なの。
 ここでは平気なの。

 囚われていた銀髪のにーにが誰かわからないけど、悪い人ではなさそうで、ベオにーには『鳳凰が施した封印』という言葉に納得がいっていない様子だったの。
 ベオにーにはチェリシュよりも詳しく知っている様子だったけど、じーじは封じられた理由を話してくれなかったし、それは誰であるかもお話してくれなかったけど、いつか知ることになるのかな……

 力の強い神族の光を核にして誕生した『外を巡る魂』は、苦労が多いって聞くけど……ルーとベオにーにの場合はどうなるのか、ちょっぴり心配なの。
 神獣だって考えたら、心配するほどでもない……かもしれないけど、なんだか……不安になっちゃうの。

 だ、大丈夫なの!
 ルーとベオにーには、そろったら最強なの。
 それに、リューもいるから平気なの。
 じーじもいるし、ゼルにーにもいるし、パパやママもいるし、チェリシュとノエルだって頑張っちゃうの!
 あんしんあんしんなの。

「何故、先代の時空神は自らを結晶化してまで封印を守る必要があるのですか」
「アレが、誰よりも時間と空間を操ることに長けているからだ。アレは単なる封印ではない。鳳凰の封印の上を覆うように時間と空間の力を作用させたものが重ねがけされているのだ」

 じーじの言葉を聞いていたベオにーには、一瞬だけチェリシュの頭とノエルを撫でていた手を止めたの。
 そして、静かな声で呟いたの。

「まるで、外敵から守っているようにも感じられますね」
「……お前は、そういうところが鋭くて困るな」
「そちらの方が、納得がいきます。つまり、彼は首謀者ではなく、利用された側ですか」
「それについては、僕から話すことができん」
「そうですか……」

 鋭くて冷静な判断……す、すごいの!
 パパも鋭いところがあるの。
 やっぱり、似るのは仕方がないことなの。

「では、別の質問をしてもよろしいでしょうか」
「封印に関しては、あまり話せんが……」
「いえ、そちらよりも……ルナティエラ嬢に関することなのですが……」
「何だ?」
「あの空間での記憶を、黒狼の主に知られる危険性があったのでしょうか」
「あの方が記憶をいじったことに関しての疑問か。それは簡単に答えられる。通常ならば、僕の力が影響して、奴らは正確に把握することはできないだろう。しかし、あの空間は少し特殊だから、僕の力が及ばぬところも出てくるかもしれないと危惧されたのだろう」
「あくまで、守るため……ですね」

 確かめるように問いかけたベオにーにの真剣なまなざしを正面から受け止めたじーじは、苦笑を浮かべながらもしっかりと頷いたの。

「あの方は、お前たちに危害を加えたりしない」
「主神オーディナルがそうおっしゃるのでしたら、もう何も言いません」
「お前は本当に、僕の愛し子のことに関しては過保護だな」

 普段は、それほどでもないだろうに……って、じーじがぼやいているけど、ベオにーには、とっても優しいの。
 みんなに過保護なの。
 チェリシュとノエルをなでなでしてくれているところからも、伝わってくるの。
 優しくて、とーってもいい人なの!

「ねーねー、ベオ。ルナの頭がそろそろ落っこちそうだよー」
「そうだな」

 はっ!
 た、大変なの!
 ルーの体勢が崩れて、ずるずる落ちそうなの!

「チェリシュ、じーじのところへおいで。ノエルも一緒にどうだ」
「あいっ!」
「ボクもーっ!」

 ノエルと一緒にじーじへ手を伸ばすと、じーじがぎゅーって抱っこしてくれたの。
 お久しぶりのじーじなの!
 きゃーって言っていたら、じーじはとってもうれしそうに、チェリシュたちに笑顔を向けてくれたの。
 じーじはチェリシュを抱き上げたまま、ベオにーにの方を見たの。
 ルーは、ベオにーにのお膝の上で丸くなるようにして眠っていたの。
 あ、チェリシュも、ママやねーねにしてもらうの!

「私の膝は硬かろうに……幸せそうな顔をされても困るな」

 ベオにーにがルーのほっぺを指でつっついていて……ちぇ、チェリシュもしたいの!
 つんつんしたいのっ!

「ベオって、ルナを膝で寝かせるとき、いつもそーしてるよねー」
「……そうか?」
「そうやって、ルナをいつも起こしちゃうんだよー」

 ぷくくってノエルが可愛らしく笑ったの。
 ぎゅーってしたくなるほど可愛いのっ!

「ノエルは可愛いのっ」
「なにいってるのー、チェリシュのほうが可愛いよー」
「お前たち揃って可愛いに決まっている」

 じーじがそう言って頬ずりをしてくれたので、ノエルと一緒にぎゅーって抱きついたの。
 嬉しそうなじーじを見て、ゼルにーにも笑顔なのっ!

「父上にとって、ノエルは可愛い神獣で、チェリシュは可愛い孫ですからね」
「当たり前だ。それに、人の世で子は宝というだろう。これほど可愛らしい宝を大切にしない者などいない」
「確かにそうかもしれませんね」

 えへへ……チェリシュもノエルも、じーじのお宝なのっ!
 んぅ? お宝……?
 はっ! そうだったのっ!

「じーじ、見て欲しいの。チェリシュにも、すごい宝物ができたの!」
「そんな大事な物を見せてくれるのか? どれどれ」

 じーじが興味津々さんなの!
 大切に保存しておいたルー特製のわんちゃんパンを取り出して、みんなが見えるように両手で高く掲げたの。
 ノエルからは「すごーい!」って声が聞こえて、じーじたちは「パン?」って不思議そうにしていたの。

「ルーが作ってくれた『わんこパン』なの! 可愛いわんこなのっ」
「なるほど。食べるだけではなく、愛でることもできるとは……僕の愛し子は本当に手先が器用なことだ」
「へぇ……店で売っている動物パンみたいに上手だね」

 じーじとゼルにーにが感心した声を上げてくれて、ベオにーにも良かったなって言ってくれたの。
 とーっても嬉しくてニコニコしていたら、ベオにーにが顔を下げて、ルーの耳元でこっそり何かを呟いたの。
 それと同時に、ルーの体がピクリと揺れたのがわかったの。

 あ、ルーが起きたの!
 でも……様子が……変……なの?
 小さな声で会話をしている様子なんだけど、聞こえないの……もう少し大きな声で言ってくれたらいいのにって思っていたら、ルーが大声を出したの。

「そ、そういう意地悪なことを言うお口には、パンを詰め込んじゃいますよっ!?」

 テーブルに置いてあったリンゴパンをつかんだルーは、ベオにーにのお口にパンを押しつけちゃったの。
 ハラハラして見守っていると、それを一口食べたベオにーには、良い笑顔を浮かべて……

「こんな旨い物を詰め込まれるなら、これからも言い続けてしまいそうだ」

 なんて言っちゃったから、ベオにーにの腕をルーがぺちぺち叩き出しちゃったの。
 怒っているみたいに見えて、恥ずかしがっているルー。
 そんなルーをからかって遊んでいるように見えて、大切に慈しんでいるベオにーに。
 とっても仲良しさんの二人なの。
 その様子を、じーじたちは苦笑交じりで見つめ、チェリシュとノエルは、とーっても自然体な二人に、とーってもうれしくなっちゃったの。
 だから、顔を見合わせて「仲良しさんなの」「仲良しだよねー」と同時に言って笑い合っちゃったの。

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