悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第七章 外から見た彼女と彼

ベオにーにとノエルなの(チェリシュ視点)

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「ルナティエラ嬢。いま、私の膝の上にいる」

 リューよりも低めに響く声は落ち着いていて、白騎士のランちゃんに似ているの。
 んぅー……不思議な人なの。
 ルーにソックリで、ここまでソックリな人は存在しないはずなのに、全く別の人として生きているの。
 同じ器を作っても、内に宿る力は別物だってパパに教わったのに、そこから外れた存在が、ルーと大きなにーにだったの。
 だから、じーじは隠すようにしているの?
 ルーに意地悪している嫌な感じのモノに知られたら、かなりマズマズなのっ!

「よかった……チェリシュは一人で来たのですか? どうしてここへ来ることができたのでしょう……」
「えっと……えっと……緑の髪とルーみたいな目をしたねーねが連れてきてくれたの。チェリシュに、いってらっしゃいってしてくれたの」

 チェリシュの言葉は聞こえていないみたいで、ルーは無反応だったの。
 やっぱり……ちょっぴり寂しいの。

「ふむ……緑色の髪にルナティエラ嬢とよく似た瞳の持ち主が、どうやらここまで連れてきてくれたようだ」

 すぐに、大きなにーにがチェリシュの言葉を伝えてくれたのだけど、思い当たる人が居なかったみたいで、二人共、同じような仕草で悩みだしてしまったの。
 すごいの!
 顎に手を当てて、二人して似たような格好で悩んでいるの。
 リューに見せてあげたいの。
 ぜーったいに大笑いしてくれるのっ!

「それはユグドラシルだな……此方まで来ていたのか」

 声がしたほうを見たら、ずっと会っていなかったじーじがいたのっ!
 じーじなのっ!
 なかなか会えなくて、みんなが会いがっているじーじ……本物なのっ!

 後ろから、ゼルにーにと、神獣っぽい子が軽快な足取りでついてきたの。
 ここからだと、尻尾しか見えないの……残念なの。
 身を乗り出して見ようとしたら、バランスを崩して落ちそうになって、大きなにーにが、チェリシュの状態を見ることもなく支えちゃったの。
 すごいの……さすがは、ルーを支えてきたプロなのっ!

「チェリシュがいるのですか? 俺には見えないけど……」
「それはそうだろう。本来ならば来ることは出来ないはずだ。ユグドラシルからの加護で一時的に移動することができたのだろう」
『じーじなのっ!』
「久しいな。チェリシュ。じーじが抱っこをしてやるから、こっちへおいで」

 手を伸ばしかけて、思わず考え込んじゃったの。
 じーじに抱っこされたい……けど、離れたくない気がするの。
 あったかくて、ぽわぽわして……すごく心地良いの。
 うぅぅ……もう少し、ここでジッとしていたいの。
 ルーと同じ力と匂いがする上に、リューみたいな安心感があるの。
 初対面でこれだけの安心感は、ルー以来なの。
 やっぱり、似ているだけはあるのっ!

「気にせずに行けば良い」

 じーじのところへ行くよう勧められているけど、チェリシュはもう少しここに居たいという気持ちが大きいの。
 でも、素直にそれを伝えていいかどうかわからなくて、もじもじしちゃったの。
 ここに居たいという気持ちを言葉で伝えるのは難しかったから、服の裾を掴んじゃったの。
 怒らないかな……と、見上げてみると、少しだけ驚いたような様子を見せたけど、その目は優しくて、ちょっぴり……あんしんあんしん、しちゃったの。

「どうやら、随分とベオルフを気に入ったようだ」
「リュートくんとは、また違った意味で、一緒に居たいと感じさせる何かがありますからね」
「それは当然だ」

 確かに、リューも……そんな感じがするの。
 でも、この大きなにーには、それをもっと強く感じて……とーっても不思議なの。

「うふふ、チェリシュは人を見る目がありますから、ベオルフ様が気に入ってしまったのですね」

 楽しそうに笑うルーに、チェリシュは大発見したことを、聞こえないとわかっていても「ルーが、手放しで甘えてたのっ! すごいことなのっ」って報告しちゃうの!
 大きなにーにの隣にいるルーは、とても自然体で……チェリシュの知らない顔をいっぱい見せてくれるの。
 いまも、甘えるようにベオにーにの隣に座っているの。
 こんなに子供っぽくて無邪気なルーの笑顔は、見たことがないの!
 リューが知ったら、「ナニソレ、俺も見たいっ!」って絶対に言うこと間違いなしなの。
 リュー、ごめんなさいなの。
 チェリシュは、先に見ちゃったの。
 えへへー、チェリシュが先なのっ!
 それがとてもうれしくて、ついつい大きなにーにに抱きついちゃったの。

 チェリシュの様子を見ていたじーじが、イマイチ反応が薄い大きなにーにへ声をかけたの。

「なんだ。ベオルフも姿を可視化できないのか?」
「光の塊……人型には見えるのですが、ハッキリと見えているわけではありません」
「お前なら見えるはずだよ。ほら、目を閉じて……意識をこの辺りに集中させるんだ」

 じーじの声が、とても優しいの。
 家族以外に、こんなに優しくもあたたかい声を出さないじーじだから、やっぱり、この大きなにーには神族……なの?
 不思議がいっぱいの大きなにーにの眉間を、指で突いたじーじは、優しく微笑んでいたの。
 一瞬、大きなにーにの後ろに、さっきの綺麗なねーねが見えた気がしたけど……気のせい……なの?
 ゆっくりとまぶたを開いた大きなにーにのお月さまのような青みがかった銀色に輝く、お月様のようなお目々が辺りを見渡したあと、チェリシュの方へ向けられたの。
 しっかりと視線があったのっ!

「……ああ、やはり、リュートが抱っこしていた幼い女神だったか」
「チェリシュが見えたの?」

 確認をするために尋ねた瞬間、横からルーの声が飛んできたの。

「ああああっ! やっぱりチェリシュ! どうして一人でここへっ!?」
「きゃーっ! ルーにも見えたのっ!」

 ルーにも見えたことがうれしくて、思わず叫んじゃったの!
 やっぱり、ルーの蜂蜜色の瞳がチェリシュを見ているってうれしいことなの。
 見えなくて、声も聞こえなかったから……ものすごーくさびしかったの。
 大きなにーにごとチェリシュを抱きしめてくるルーの喜びが伝わってきて、チェリシュもうれしくなっちゃうの。
 ルーに抱きつかれることが慣れているのか、大きなにーには、少しだけ呆れたような視線をルーに投げかけたあと、唇の端を少しだけ上げたのが見えたの。
 笑ったの!
 あまり表情を変えないけれど、大きなにーには、こうやって感情を表現していることがあるのかもなの?
 見逃さないようにしないとなの!

「チェリシュ、紹介しますね。此方が、私の兄代わりのベオルフ様です。とーっても優しくて、頼もしい方なのです」
「あいっ! チェリシュなの、よろしくお願いしますなの」

 挨拶は基本中の基本! という、リューが教えてくれた言葉を思い出したの。
 頭をペコリと下げて、ご挨拶なの。

「グレンドルグ王国の騎士団長を務めるアルベニーリ家の長男で、ベオルフという。ルナティエラ嬢とは、学友だが……妹代わりでもある。いつも、何かと世話になっているようで、心から感謝する」

 穏やかな低めの声が、丁寧に挨拶を返してくれたの。
 リューと同じ騎士のお家なの!
 しかも、とーっても落ち着いていて大人な感じなの。
 あ……りゅ、リューが落ち着いていないという話ではないの。
 ママがいっていた、静と動というタイプでいうと、ベオにーにが静、リューが動という感じなの。
 タイプの違う、落ち着きがあるの。
 そんなことを考えていたら、何かが飛び込んできたの。

「ボクはノエルっていうの!」
「はっ! ルーのカーバンクル姿なのっ」
「モデルにしておりますから」

 ルーが変じるカーバンクル姿にソックリさんなの。
 額のルビーみたいな宝石が綺麗で、毛並みはルーの色よりも少し緑色が強め。
 だけど、とーっても綺麗なの!
 真っ黒なお目々を好奇心いっぱいにキラキラさせて、無邪気さんなの。
 はっ!
 これは、一緒にベオにーにのお膝に乗るべきなの。
 場所を少し移動してスペースを譲ると、ノエルが「ありがとうー」って言ってくれたの。
 いつもはノエルの場所かもなの。
 だから、チェリシュもありがとうなの!

「チェリシュも、ルナがボクにくれたリンゴを食べる?」
「リンゴ……なの? じゃあ、ノエルはチェリシュが育てたベリリを食べる……なの?」
「ベリリ?」

 もしかして、ノエルはベリリを知らないの?
 それは大変なの!
 人生……人じゃないけど、リューの言葉を借りちゃうと「人生の半分は損をしている」なの!

 ノエルにベリリを身振り手振りで説明していると、ルーが何だかジトリとした視線をベオにーにへ向けながら名前を呼んだの。
 何かあったの?
 ベオにーにの眉がピクリと動いたけど、すぐに「りんごパンは良いのか?」って問いかけて、ルーは慌てたように立ち上がって走り出そうとしたのだけど、ベオにーにが手を掴んで止めちゃったの。
 ルーの行動を読んだ、無駄のなく流れるような見事な動きなの!
 ママが見たら、絶対に「出来るな」って言いそうなの。

「走るな。転ける」
「こーけーまーせーんー」
「ほう? そうやって何度転けそうになり、私に助けられたのか、ここで報告しても良いのだな」

 指折り数えだしたベオにーに。
 オロオロしはじめて焦るルー。
 ベオにーにの大きな手を、ルーの小さな手が必死に包み込んで、数えるのを止めていたの。
 暫く見つめ合っての攻防があったけど、手を離して、ジリジリ後退したルーは、ベオにーにが数えないとわかったみたいで、慌てずゆっくりキッチンの方へ行ってしまったの。

「ルーが……お転婆さんなのっ」
「いつもあんな感じだな」

 いつも、ルーがお転婆さん……なの?
 びっくりしてベオにーにを見上げると、穏やかなお月様のお目々が優しげな色を宿しているの。
 とーっても、優しくて綺麗なの。

「表情も豊かなの……いつもより、ルーが……元気いっぱい感情いっぱいなの」
「そうか……」
「ルナは、いつもあんな感じだけど……チェリシュが知っているルナは違うんだね」

 はっ!
 ノエルの耳と尻尾が垂れちゃったの!
 こ、これはいけないの。
 チェリシュの失言で、ノエルが落ち込んじゃったの!
 ど、どうしたら……どうしたらいいの?
 思わずベオにーにを見ると、お目々を少しだけ細めてチェリシュの頭を「心配ない」というように撫でてくれたの。

「ノエル。呪いの影響だと思われるから、大丈夫だ。そのうち、ノエルの知るルナティエラ嬢になるはずだ」
「いつか戻るよね。いつものルナに戻って、チェリシュも安心できるよね」

 ノエルの言葉は、チェリシュの心をジーンとさせてくれたの。
 自分も不安なのに、チェリシュの心配もしてくれていたの。
 とても優しい子なの。
 さすがは、じーじのところにいる子なのっ!
 ベオにーにの大きな手が、チェリシュとノエルの頭を優しく撫でてくれるの。
 とーっても、うれしいのっ!
 ノエルと顔を見合わせて「うれしいね」って笑っていたら、ルーの声が聞こえてきたの。

「綺麗に焼き上がりましたよっ!」

 元気の良いルーの声。
 お料理をしているときのルーは、どこにいても同じなの。
 お目々キラキラで、しあわせいっぱいなの!
 ルーが持つお皿に盛り付けられていたのは、甘い香りがするパンだったの。
 見た目がリンゴなのっ!
 やっぱり、ルーはスゴイの!
 あとで、ルーが作ってくれた『わんこのパン』を、ベオにーにたちにも見せてあげるの。
 きっと、その可愛らしさに驚くの!
 楽しい考えにわくわくしながら、ルーが作ってきてくれた新しいパンに見入っちゃったの。

 すごーく、甘い香りがするパン。
 どんな味がするのかな。
 今ここにいないリューに「ごめんなさい」しながら、甘い香りをまずは楽しんじゃったの。

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