悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

文字の大きさ
上 下
262 / 558
第七章 外から見た彼女と彼

いっぱいいっぱいのしあわせ(チェリシュ視点)

しおりを挟む
 
 
 くらいくらい闇がうねうねしている星の海。
 飲み込まれる光。
 何もかもが飲み込まれるなか、2つの小さな光が大きな光の鳥になってうねうね動いている物に突進し、激しくぶつかりあったあと、命を燃やし尽くしたように弾けて消える。

 真っ白になって、全てが消えていく……
 パパもママも、ねーねたちも、みんながサラサラと砂みたいになって崩れ落ち、動けないリューが叫んで必死に手をのばす先にあるのは、さっきの大きな光の欠片で……
 その輝きが小さく「大丈夫」というように、最後の光を弾けさせて消えていく。
 全ては、白く塗りつぶされて、黒が白に変わり、全てが無へ───

『どうか、こうはならないで……』

 とても大きな樹の下、何もかもを飲み込もうとする光の中で、新緑色の髪と、ルーのような黄金の瞳を持つ女の人が、とても悲しそうに微笑んだ。



 はっ!

 慌てて周囲を見渡して、チェリシュを抱え込むように眠っているリューを見て、ホッとするの。
 すーすーと息をしているから、眠っているだけなの。
 ここにリューがいるから、ぜーんぶ悪い夢だったの。
 大丈夫なの。
 みんなは……大丈夫なの?
 ルーは?
 姿が見えないルーを探してみると、枕元にある籠の中で眠る小鳥さんを見つけて、ゆっくりと息を吐く。
 時々見る悪夢だったの。
 でも……今日はリアルでドキドキしちゃったの。

 まだ、少しだけぷるぷるしている手を伸ばして籠の中のルーを撫でてみると、ふわふわでやわらかいの。
 じんわりとあたたかくて、やさしくて、とても嬉しくなったの。
 起こしちゃダメだけど、何だか怖くてルーを籠から出して抱きしめると、ぷるぷるが自然にとまったの。
 さすがはルーなの!

『なんだ、寝ていたのではないのか?』

 ママなの!
 天井が邪魔をして見えづらいけれども、ママは放つ銀色の光がキラキラしているの。

『嫌な夢でも見たのか? それなら、そこですやすや眠っているリュートの頭を殴りつけ、叩き起こしてしまえばいい』

 ママ、それはメッ! なの。
 リューはお疲れなの。
 起こしたら可哀想なの。
 お仕事いっぱい、訓練いっぱいだったの!

『そ、そうか。まあ、それくらいでへこたれるような男ではないだろうがな……』

 人間は、睡眠大事なの。
 いっぱーい食べて寝ないと、大きくなれないの。

『ソレ以上は、どう頑張っても大きくならないだろうに……』

 リューなら、大丈夫なの。
 もっといっぱーい、大きくなるのっ!

『まあまあ……成人しても身長が伸びる可能性はあるから、絶対にないとは言い切れないし、チェリシュの言うことにも一理あるよ』
『そうやって、すぐ娘に甘い対応をするのだから困ったものだ』
『い、いや、可能性があるっていう話でしょ?』

 大好きなパパの優しい声……パパも起きていたのっ!

『神界にいる間は睡眠が必要ではないから大丈夫だよ。父上の世界にいる太陽神ほど強くはないから、色々と調整をしないといけないのが困るよねぇ』
『あの世界にいる太陽神と月の女神は別格だ。他の世界の太陽と月の神々は、我々とそう変わらないと兄上が言っていたぞ』
『そうなの?』
『むしろ、我々は強い部類に入るそうだ。比較対象がおかしいのだと言われた』

 パパとママのおしゃべりを聞いて、じーじの世界にいる太陽神と月の女神様が強いとしかわからなかったけど、チェリシュみたいな季節の女神もいるのかなって気になったの。
 でも、ルーはじーじ以外の神様に会ったことがないし、動けないって言っていたから、大変そうなの。
 でも、パパとママよりも強いって……とってもつよつよなのっ!

『ほら、チェリシュ。ちゃんと寝ておかないと、春の季節を発動させるために消費した神力が戻らないぞ』
『そうだね。リュートくんとルナちゃんも心配するから、寝ておきなさい』

 ママの言葉にパパも頷いたような気配がして、天井から金と銀の光がキラキラなの。
 思わず手をのばすと、リューから「……ん?」と声が聞こえたの。

「チェリシュ? ……なんだ、起きたのか」

 すぐに気づいたリューは、チェリシュをぎゅーっとしようとしてから、チェリシュが抱っこしているルーに気づいたみたいで、慌てて動きを止めちゃったの。
 あぶなかったの……ルーがむぎゅーってなるところだったの!

「なんでルナがここに……って、チェリシュか。どうした? 何か変な夢でも見たのか?」
「ちょっとだけ……なの」
「そういう時は、変に遠慮しなくていいって言ったろ? ほら、ルーは籠へ戻してやろうな」

 押しつぶしたら危ないからといって、リューはルーを籠へ戻しちゃったの。
 残念……なの。
 しょんぼりしていたチェリシュを、リューがぎゅっと抱きしめてくれたので、すぐにぬくぬくあんしんなの。
 チェリシュのことを、ずーっと心配していてくれたリューのあったかいが、とってもうれしいの。
 でも、チェリシュはリューとルーにぎゅーってされているのが好きなの。
 パパとママにぎゅーってされるくらい大好きなの。
 だから、やっぱり……ちょっぴり、ざんねんざんねんなの。

「ルーもぎゅー……できたらいいの」
「朝になって起きたら、一緒にぎゅーってしてやろうな」
「あいっ!」

 リューは、いつも嬉しい提案をしてくれるの。
 チェリシュの体は小さいけど、ちゃんとお話がわかることを理解して、ごまかさないし侮らないところが大好きなの。
 今まで会ってきた人は、チェリシュの外見や立場だけを見て判断をする人が多かったの。
 でも、リューの近くにいる人は、みんなチェリシュのことをわかろうとしてくれるの。
 女神ではなく、チェリシュを見てくれるの。
 それが、とってもうれしいの。

 眠りそうになりながらも、そういうチェリシュの話を聞いて頷いてくれるリューの優しさがうれしくて、ついつい長くなっちゃうけれども、優しく「そうか」といって頭を撫でてくれるリューが大好き。
 ルーも、そうしてくれるの。
 いっぱいいっぱい、幸せなの。

 つらいときはあったけど、今は大丈夫。
 だって、リューとルーが守ってくれるし、チェリシュだってちゃんと守るの!

「チェリシュ、そろそろ寝ないと、朝が辛くなるぞ」
「辛くなるの?」
「ルナの朝飯が食えなくなるかもな」
「はっ! それは大変なのっ!」

 慌ててお布団をかぶってねんねの姿勢にはいると、リューが肩の上までちゃんとお布団をかけてくれて、ぬくぬくしながらリューの腕の中で、あんしんあんしんしながら目を閉じたの。
 背中をぽんぽんと優しく叩いてくれるリズムがぽわぽわして、すぐに眠くなってきたの。
 次に起きた時は、ルーをぎゅーってできるかな?
 リューと一緒にぎゅーってして、ルーが笑ってくれたら、とっても嬉しいの。

『それなら、早く寝ることだ』
『リュートくん……いいなぁ……』
『バカなことを言っていないで、仕事を片付けてしまえ』
『え……これは君の管轄……』
『よろしくな』

 パパは、まだ休めそうにないの。
 でも、後ろからねーねたちが手伝おうかって言っているから、きっと大丈夫なの。
 溜め息をつくパパに「がんばってなのっ」というエールを送って、リューの懐に潜り込むと、低い笑い声が聞こえてきたから見上げるの。
 優しくあたたかい目をしたリューが「おやすみ」って言ってくれたの。
 とっても優しい眼差しと声なの。
 みんなにも知ってほしいの。
 リューは、悪い人じゃないの。
 とってもいい人で、とっても優しくて、とっても強い人なんだって……知ったら絶対にだーいすきになるのっ!

 うとうと眠りそうになっていたけど、不意にリューが動いて、なにかしているのがわかったから、ちょっぴり目を開いて見てみると、籠に入ったままのルーを引き寄せて、小さなおでこにちゅってしていたの。
 おやすみのちゅーなの?
 元の位置に戻して、見ていたことに気づいたリューは苦笑した後、チェリシュのおでこにもちゅーしてくれたの。

「早く寝ろ」

 言い方は乱暴だけど、とーっても優しい声だから、全然怖くないの。
 はっ!
 チェリシュもするべきなの!
 もぞもぞ動いてリューの腕から抜け出すと、ルーのおでこにちゅーをしたの。

「ルー、おやすみなさいなの」
「ったく……ほら、まだ空気が冷えているから早く布団に入れ」
「あいっ」

 戻る前に、リューのおでこにもちゅーなの!
 ああーっ! というパパの声は聞かなかったことにしちゃうの。
 これは、悪い夢を見ない悪夢よけだってリューが前に言っていたの。
 だから、これはおまじないなの!

「リュー、おやすみなさいなの」
「ああ、おやすみ」

 今度こそ眠るためにリューの懐に入ってぬくぬくしていたら、パパとママの声が聞こえてきたの。

『まじないくらいさせてやれ』
『でも……僕もしてほしいのに……リュートくん、いいなぁ』
『ヤキモチか?』
『むしろ、小さい頃を思い出して、リュートくんからのおまじないもいいなーって思っちゃう僕は変だろうか』
『いいや、それは激しく同意だ』

 パパもママも、リューが大好き。
 チェリシュも大好き。
 きっと、ねーねたちも大好き。
 ルーは、いっぱーい大好き!
 キューちゃんは、蹴られても大好き!
 お店のみんなも、リューが大好き。
 リューの家族も、みんなみんな、大好きの輪がもっと大きく広がればいいな……なの!
 いっぱいいっぱい、しあわせになってね。
 チェリシュは、ずーっとリューとルーのしあわせいっぱーいを祈っているの。

 はじめてかもしれないの。
 春の季節が一日でも長くなればいいな……って考えるなんて……離れたくないなってわがまま……なの。
 でも、春の季節を、いっぱーい、一緒にいろいろ覚えて、学んで、一緒に楽しむの!
 パパ、ママ、心配いらないの。
 チェリシュは、今日も元気いっぱいしあわせだったの。
 明日もきっと、そうなるの。

 帰ったら、おまじないをパパとママにもするの。
 だから、それまで……チェリシュは、いっしょうけんめーがんばりますなの!
 明日も、ルーと一緒においしいを作るから、今日はおやすみなさいなの。

 悪夢は見ない。
 リューのおまじないがあるから大丈夫なの。
 そして、夢の中の綺麗なねーね、心配しなくても、きっと……大丈夫なの!
 リューとルーがいるから、あんな未来は来ないの。

 じーじは……どう思う?
 ずーっと昔に会った、とーっても強いじーじを思い出して、ゆっくりと目を閉じたら、優しい手付きで撫でてくれるリューが、笑った気がした───

しおりを挟む
感想 4,337

あなたにおすすめの小説

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

魅了が解けた元王太子と結婚させられてしまいました。 なんで私なの!? 勘弁してほしいわ!

金峯蓮華
恋愛
*第16回恋愛小説大賞で優秀賞をいただきました。 これも皆様の応援のお陰だと感謝の気持ちでいっぱいです。 これからも頑張りますのでよろしくお願いします。 ありがとうございました。 昔、私がまだ子供だった頃、我が国では国家を揺るがす大事件があったそうだ。 王太子や側近達が魅了の魔法にかかり、おかしくなってしまった。 悪事は暴かれ、魅了の魔法は解かれたが、王太子も側近たちも約束されていた輝かしい未来を失った。 「なんで、私がそんな人と結婚しなきゃならないのですか?」 「仕方ないのだ。国王に頭を下げられたら断れない」 気の弱い父のせいで年の離れた元王太子に嫁がされることになった。 も〜、勘弁してほしいわ。 私の未来はどうなるのよ〜 *ざまぁのあとの緩いご都合主義なお話です*

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

妻の死で思い知らされました。

あとさん♪
恋愛
外交先で妻の突然の訃報を聞いたジュリアン・カレイジャス公爵。 急ぎ帰国した彼が目にしたのは、淡々と葬儀の支度をし弔問客たちの対応をする子どもらの姿だった。 「おまえたちは母親の死を悲しいとは思わないのか⁈」 ジュリアンは知らなかった。 愛妻クリスティアナと子どもたちがどのように生活していたのか。 多忙のジュリアンは気がついていなかったし、見ようともしなかったのだ……。 そしてクリスティアナの本心は——。 ※全十二話。 ※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください ※時代考証とか野暮は言わないお約束 ※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第三弾。 第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』 第二弾『そういうとこだぞ』 それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。 ※この話は小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。