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第五章 意外な真実と助っ人
勇者と魔王
しおりを挟む「まあ、とりあえず……元ミュリアの魂は、その3つの内どれかの状態が当てはまると思うんだけど、2つ目が一番怪しんじゃないかなーって考えて今現在は動いている感じかな」
そうですね、3つ目でなければ良いと思います。
だって、もしも消滅しているということになれば、元のミュリア様にはもう二度とお会いすることも出来ないでしょう。
しかし、オーディナル様をも欺き、目的を成し遂げるなんて……
かなり厄介な相手であることに間違いはないようです。
「だからっていうわけでもないんだけど、陽輝に頼んで進めてもらっているゲームは、今のミュリアが異常なほどに執着していることもあり、何かヒントが隠されているかもしれないと考えていることもあって、全エピソードのクリア待ちなんだ」
「無茶を言うよ……正直、このゲームってやりこみ要素が多すぎて、バットとノーマルは余裕でも、ハッピーエンドを迎えるには難易度が高すぎるって説明したよね? 」
「陽輝なら大丈夫だって! 」
「あのね……最初にやり方を教えたのに、ものの10分足らずで音を上げた奴が何言っているの? 」
それだけ難易度が高い乙女ゲームというのもどうなんですか?
兄や綾音ちゃんでも苦労しているということから考えても、かなりハードですよね。
私だったら、絶対にクリアできそうにありません。
そう考えるとミュリア様の中に入っている人は、とんでもないゲーマーだと考えられますね。
だから、ゲーム脳なのでしょうか……
「それほど難しいのなら、時間がかかると考えて動いたほうが良さそうだな」
「まあ、進展があればこうやって情報交換をしようと思うんだけど……」
ベオルフ様の言葉に時空神様がため息交じりにそう告げます。
それって、これからもこうやって一同に介して会議みたいなことをするということでしょうか。
それは……少し嬉しいかも。
ベオルフ様と二人っきりというのも嬉しいのですけど、お兄ちゃんたちとワイワイやっているのも楽しいです。
ノエルも兄に懐いたようで、お膝の上でまったり中ですね。
「ねえ、お兄ちゃん。リュート様のことは全くわからない?聖杯と王笏についてとか……」
「攻略情報なら持ってきたよ。ゲームのほうはまだ手つかずだから、真偽の程は定かではないけどね」
「物語には無かった設定でしょ?」
「そりゃそうだ。あの物語以降のお話という設定だし、リュートだって出てこなかったでしょ?」
そうですよね……とため息交じりに呟けば、兄は攻略本をテーブルの上に置き、ペラペラと数ページめくって私たちの前に差し出します。
「ここに聖杯と王笏について書いてある。勇者を召喚するアイテムで、2つ揃わないと機能しない。ただ……ここを見て、勇者と書いてある場所に(魔王)って注釈があるのがわかる? 」
「あ……本当だ……」
「つまり、この召喚の儀式は、リュートを『勇者』として召喚するのか、『魔王』として召喚するのか2パターンあるってことなんだよ」
……はい?
リュート様が……魔王?
召喚方法が2つ用意されていることにも驚きというか、え……メインヒーローが闇落ちルート有りでストーリーを作られているって問題ではないでしょうか。
でも、だからこそ【1万人の命を捧げる】という条件を思い出してしまいます。
彼女はリュート様のことを勇者と言っていましたが、実際には魔王として召喚しようとしている……でも、おかしいですね。
ミュリア様の言い分もそうですが、勇者と魔王って相対する存在なのに、どうしてリュート様が1人で両方の役割を持っているのでしょう。
1万人の命を犠牲にして成し遂げる召喚を知ったら、実際に召喚されてしまったとき、リュート様の心は耐えることが出来るでしょうか。
あの優しい彼が、その事実を知ったら……首謀者全てを滅ぼしかねません。
そして、それにより一番傷つくのは間違いなくリュート様です。
今のミュリア様がそれを望み、実行しようとしているなら絶対に阻止しなければ!
しかし……リュート様が勇者ではなく魔王ですか───
何故かそちらのほうがしっくり来るとか考えてしまいましたが、それは性格が魔王に合っているというわけではなく、彼が怒った時に出す気配というかプレッシャーがそう感じさせるだけであり、本人はいたって善良です。
「あれ?魔王って聞いて驚かないんだ?」
「一応驚いているのよ?でも……リュート様は勇者というより魔王のほうがあっているなーって……」
何気なく言った私の言葉に、兄は目を丸くしたあと、暫く思案してから恐る恐るといった様子で尋ねてきました。
「あの……リュートって……そんなに悪い男なの? 」
「ち、違うのっ! リュート様には何というか……えーと……言葉では言い表しづらい感覚で、魔王っぽいというか何というか……」
「いや、普通の人は魔王っぽいなんて言われないよねっ!? 」
あれ? そうですか?
いえ、でも、しかし……そう言われる色々なものがあるのです。
勇者って爽やかイケメンってイメージですけど、リュート様は爽やかですが、そういう感じではなく……妖艶な色気がたっぷりなのですもの。
アレはいけません。
見た人が腰砕けになるような、凄まじいものです。
「なんか結月……リュートに騙されてない? 大丈夫? 前に聞いた時、すごくいい人だなって感じたのに、どうして魔王なんて呼ばれるの? 」
「誤解しないで、悪い人ではないからっ! とっても素敵な人だから、大丈夫なのっ」
「でも……」
「本当の本当に大丈夫なの! 時空神様もなんとかおっしゃってくださいっ」
「うーん……そうだね、彼は良い子だよ? 怖いけど……ものすごく、怖いけど……」
時空神様、何があったのですか?
お説教された口……ではないでしょうし、リュート様はそんなこと一言もおっしゃっておりませんでした。
もしかして、誰かが説教されているのを見たのでしょうか。
リュート様にお説教されている神様で思い当たる方は……お説教予定に入っている知識の女神様……以前にもお説教されたことがあるようですから、そこで色々と知ってしまったという可能性が高いですね。
「僕のお説教だってどこ吹く風で、飄々としているゼルにも怖いって言われるとか……本当に大丈夫? 」
心底心配というような顔をする兄に、どう説明していいものかと悩んでいたら、オーディナル様から笑いを含んだ声が聞こえてきました。
「アレを言葉で説明するのは難しいだろう。ゼルディアス、少しばかり僕の愛し子に力を貸してあげたらどうだい? 」
「良いのでしょうか」
「制約上、彼をここへ呼ぶことはできない。でも、他にも方法があるだろう?」
「……あ! ナルホド」
何の話をしているのか把握できなかったのですが、時空神様は私の方を見てニッコリ笑います。
な、何か企んでいらっしゃいますね……
「こうなったらさ、リュートくんを見てもらうしかないと思うんだけど、夢でつながる者は血縁関係があった魂同士という制約があるから、彼をここへは呼べないんだ」
神ならば別だけどね? と笑った時空神様の言葉を聞いて、思わず隣のベオルフ様を見上げました。
今の説明通りなら、私はベオルフ様と兄妹だったということになりませんか?
前世ではなく、その前……もしくは、もっと前ということになりますよね。
でも、妙に納得してしまいました。
私はベオルフ様と兄妹で、こうして隣に並んで座っていたことがある。
「ルナティエラ嬢を妹だと感じるのは、以前にそういうことがあったから……ということか」
「そうみたいですね」
私もベオルフ様を兄だと感じることがあったので、お互いにそう感じていたことが嬉しくなりました。
やっぱり、魂のつながりというものが存在するのですね。
互いの顔を見合わせ微笑み合っていると、それを見ていた時空神様が小さな声で呟きます。
「まあ、君たちの場合はソレだけじゃないけど……」
「ゼルディアス」
「あ、いや、まあ、その……えーと、とりあえず、ルナちゃん手を出して」
チラリと視線を向けられただけで慌てだした時空神様は、いらないことを言ってしまったみたいです。
時空神様はお優しいので、親しい相手にはつい助言したくなるのかもしれません。
むしろ、愛の女神様が関わっているので、私たちが最悪な結果を導き出してしまい、最愛の妻が悲しむ姿を見たくないのかも?
オーディナル様と同じく愛妻家な感じがしますから、十分にありえます。
「まったく……」
いらんことを……と言いたげなオーディナル様の様子を伺いながら、私は思わず苦笑を浮かべてしまいました。
オーディナル様、時空神様がおっしゃらなくても私たちは意外とわかっていたりするのですよ?
だって、こんなにも力の受け渡しがスムーズに行えるなんて、普通はありえませんよね。
召喚主と召喚獣という関係や、私と相性が良いというリュート様でも、これほど抵抗感がなく私の中へ染み込んでいくという感覚は得られませんから、ベオルフ様から補給される物がいかにスゴイのかと感じておりました。
その理由についても、互いに封じられてしまっている記憶の中に答えがあると気づいておりますから、多少のことでは動揺しません。
私たちはきっと、その事実を知っても大丈夫ですし、何も変わらないと思います。
それは、ノエルが教えてくれましたから……
「えっと、い、いいかな?」
「はい。リュート様のためですよね」
「勿論。彼は言葉で言い表すのが難しいと思うんだ。とても複雑で、とても……スゴイからね」
時空神様が私の手に触れた途端に、金色の輪が辺り一帯へと広がり消えていきます。
なんだったのかと首を傾げていたら、時空神様の手のひらに小さな宝珠が出現して、淡く輝きました。
それが光を放ち、映画館のスクリーンのような物を出現させます。
「調整ができたかな。えーと……ちょうどルナちゃんが眠ったくらいの時間に接続できたみたいだ」
リュート様のポケットに潜り込んで眠っているところでしょうか。
ポッケの中でもぞもぞしているエナガの姿が映し出されておりました。
「寝ているのに、もぞもぞしています……」
「まあ、寝心地確認なんだろうね」
「これではリュート様が見えないのではないでしょうか」
「アングルを変えよう」
ふわりと球体が浮いてクルクル回りだし、それに同調するようにスクリーンの映像が変化します。
『ルーが寝ちゃったの、ふわふわなでなでなの』
『そんなにぐりぐり撫でると起きちまうぞ』
『はっ! それはダメダメなの』
リュート様の低い魅力的な声が響き、続いてチェリシュの声が聞こえてきました。
どうやら、眠った私をチェリシュが撫で回しているようです。
ふふっ、チェリシュったら……と笑っていたら、映像が切り替わり、ドアップのリュート様とチェリシュが映し出されました。
柔らかな笑顔がイケメン過ぎますリュート様!
興味津々の大きな目が愛らしいですよチェリシュ!
「彼が……リュート? てか、リアルリュートはイケメン過ぎないっ!? 」
「だから言ったでしょ、イケメンだって……」
呆然と映像に映るリュート様を見ていた兄は、ベオルフ様とリュート様を交互に見て頭を抱えます。
「ヤバイ……イケメンしかいない」
何にショックを受けているかわかりませんが……乙女ゲームに出てくる人たちがイケメンじゃなかったら売れませんよね。
まあ、顔だけの方もいらっしゃいますけど……
兄が変なショックを受けているので、ベオルフ様はどうだろうと見上げてみると、彼は懐かしい人でも見るかのような視線を向け、目を細めておりました。
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