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第五章 意外な真実と助っ人
人物設定だけでも違いがありました
しおりを挟むテーブルに置かれたゲームソフトは、ポータブルゲーム専用の物でした。
ゲームタイトルは『君のためにバラの花束を2~遥かなる世界を超えて~』というもので……そこであることに気づき首を傾げます。
「……2?」
「やっぱりそこに気づくよね。これは続編なんだよ」
そう言って、兄は更に二本のゲームソフトを取り出しました。
そこには、ヒロインであるミュリア様が愛らしい笑顔を振りまく『君のためにバラの花束を~華の章~』に加え、悪役令嬢であるはずの私、ルナティエラを表紙にした『君のためにバラの花束を~月の章~』がありましたけど……えっと、どういう……意味でしょう?
「この二本は、4年前に発売されていたみたいなんだよね。まあ、コレのファンだった綾ちゃんも色々あったからそれどころじゃなくて知らなかったんだけど……」
前回、夢でお邪魔した私がルナティエラとして転生しているということを知った兄は情報が欲しくなり、綾音ちゃんから本を借りて読みふけったそうです。
そんな兄の変化を訝しんだ綾音ちゃんに問い詰められ、観念した兄は夢であった出来事を話し、それを信じてくれた綾音ちゃん協力のもと、二人で色々な資料を集めだして見つけたのが、テーブルの上に置かれているゲーム。
兄の説明によると、物語が人気になり大手ゲーム会社が乙女ゲームとしての販売を企画し、よくある乙女ゲームとは差別化を図るために、メインヒロインと悪役令嬢の2本立てにしたみたいです。
思い切ったことをしたものだと感心しますが、コレが意外にも大ヒット!
しかも、面白いことにルナティエラを主人公にした方が売れたという話でした。
「まあ、さすがに妹の色恋話をやる気にはなれなかったから、僕がミュリア編を担当して、綾ちゃんにルナティエラ編をお願いして攻略している最中だったんだ」
「こちらも、書籍などで情報収集はしていたんだけど、さすがにゲームは難しくて……そこで、大学時代から知り合いだった陽輝に協力を要請したわけなんだ」
時空神様……大学に通っていたのですかっ!?
本来は、他の世界のことを知るために行われる研修の一環だったらしいのですが、父であるオーディナル様に頼まれて、私に関する情報を集めていたようです。
そこで行き着いたのが、兄たちと同じく乙女ゲームという存在だったというわけで……
さすがにゲームは難しいですものね。
それに、やりこみ要素が多くて他の乙女ゲームと比較しても難易度が高いらしく、ゲームが得意な兄や綾音ちゃんでも苦労しているようでした。
そんな説明を隣で黙って聞いていたベオルフ様が、疑問に感じたことを兄に問いかけます。
「そのゲームという物に、物語にあるような情報が詰まっているということなのだろうか」
「まあ、情報は詰まっているけど、物語とは違う設定がかなりあってね。例えば、物語の中の君はとても活発で純粋で一直線なキャラクターだ。でも、ゲームでは冷静沈着で頭脳派な上に兄キャラポジなんだよね」
兄キャラポジって……
チラリとベオルフ様の方を見れば、案の定というべきでしょうか、片眉を上げて「ん?」という顔をしておりました。
お兄ちゃん、それはベオルフ様に通じない言い方ですよ。
そう注意しようとした私が口を開くより先に、兄はパッケージを指差します。
「ほら、ここに君がいる。まあアニメ調のイラストだからリアルとは違うけど、特徴を捉えているでしょ?あと、君はルナティエラ編のメイン攻略キャラクターなんだよね」
ああ……だから兄は、かなり警戒していたというわけですか。
妹を取られた兄の図だったのですね。
ていうか……いま、爆弾発言が……聞こえたような?
「えっと……お兄ちゃん、どういう……こと?」
「ミュリア編とルナティエラ編は、時系列などの変化はないんだけど攻略対象が変わるんだよ。ミュリア編のメインヒーローがセルフィスになっているのに対し、ルナティエラ編ではベオルフなんだ。その他の、アルバーノ、ガイセルク、裏キャラ扱いの王太子殿下であるハルヴァートは共通攻略可能なキャラクターだね」
「弟も……か」
弟……ああっ!そういえば、ベオルフ様には弟さんがいらっしゃいましたよね。
とっても声が大きい元気な子です。
どこにいてもわかるくらい通る大きな声と、威風堂々とした姿は眩しいくらいでした。
学園でも何度かお見かけしましたが、とっても良い顔で笑ってくださった数少ない人物でしたから覚えております。
「原作とは大きく違ったベオルフは、原作者が攻略対象を増やす際に設定を変更したみたいで、今でもその改変に賛否両論があるんだけど、綾ちゃんイチオシキャラでね……」
「そ、そうなの?」
「綾ちゃん自身のタイプというより、『うちの可愛い天使を任せられる唯一のキャラよ!』って感じで熱く語っていた」
な、なるほど……そういう視点での推しキャラなのね。
どうしてリュート様じゃないのでしょう……あんなに素敵な方ですのに、誰も推してくれないなんて少し寂しいです。
まあ、私だけがリュート様の良さを知っているというのは、少し嬉しいとも感じている部分があったりもしますが……
あ、ミュリア様が何かおっしゃっておりましたけど、アレはリュート様の姿をした別の誰かのお話だったと考えておりますので除外ですね。
ここまで名前が出てこないということは、もしかしてリュート様は攻略対象として出てきていないのでしょうか。
「リュートと呼ばれる彼の名が無いようだが?」
ベオルフ様も同じことを考えていたのか、兄に疑問を投げかけます。
すると、兄は『君のためにバラの花束を2~遥かなる世界を超えて~』のパッケージを前へ出しました。
「彼はこっちの続編に出てくるメインヒーローなんだ。他にも攻略キャラクターが追加されていて、騎士のスレイブ、南の辺境伯ナルジェス、リュートの付き人キュステというキャラが追加されているね」
………………はい?
いやいやいやいや、待ってください!
無理です、それはかなり無理がありますよっ!?
「キュステさんは無理ですよっ!?シロが泣いちゃう!」
「え?シロ?っていうか、結月はキュステにも会っているの?」
「キュステさんは、リュート様の右腕みたいなものですもの。お店の経営を任されておりますし、前竜帝陛下のお孫さんでリヴァイアサンみたいな海竜なんです。それに、奥さんで番のシロもいますから、絶対に無理です!」
確かに攻略キャラだと言われたら納得の美貌の持ち主ですけど……でも、絶対にダメです。
不倫ですよっ!?
しかも、シロにメロメロなキュステさんが他の誰かに靡くなんて、絶対にありえません。
あの手の人は絶対に他の女性に興味を持つことがないので、安心安全なのです。
不憫な上にちょっぴり残念な方ですが、その辺りの信頼はありますよ?
必死にそう説明していると、兄の顔が険しくなりました。
「キュステがリヴァイアサン?そんなキャラクター設定は無かったはずだけど……」
リュート様が「ルナにわかりやすく言うなら『リヴァイアサン』だ」とおっしゃっておりましたと伝えれば、兄は腕を組んで唸ります。
「つまり、キャラクター設定は、あくまでもゲーム内設定として見ておいたらいいか、参考程度にしかならないってことだよね」
「そうですよね……キュステさんが攻略対象だったなんてビックリです……」
「ちなみに、2の裏キャラはオーディナル様ね」
「もう、何が何だか……恐れ多いというか何というか!」
「何でもありだな……」
ベオルフ様と揃って頭を抱えてしまいましたが、正常な反応ですよね。
それもあり得ません……オーディナル様には創世神ルミナスラ様がいらっしゃいますし、子沢山ですよ?
その事実にアハハッと笑い声を上げて「面白いな」と呑気な声を上げている、親子神……
ノエルも同じようにケタケタ笑い、今まで大人しくオーディナル様の膝の上にいたのに、テーブルに飛び乗ると、その上にあるゲームのパッケージをジッと見ておりました。
そして、そこに描かれている私とベオルフ様のイラストを発見してテンションがあがったのか、ぴょんぴょん飛び跳ねて「ボク、コレ欲しいーっ」と言っている始末です。
ああ……ツッコミが間に合いません。
攻略対象の人物設定を聞くだけでコレでは、先が思いやられます。
とりあえず、2のパッケージに印刷されているリュート様の凛々しいイラストは、私もノエルのように「欲しいーっ!」と言いたいところですが……じ、自重しておきますね。
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