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第四章 心を満たす魔法の手

カルレン・メイトル・ラングレイ

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「ったく、隙あらば料理しようとするんだからなぁ」

 リュート様の呆れた声を聞きながら、えへへ……と、私は翼を広げて嘴を覆いぴょんぴょん跳ねていると、ぷるぷるしているイーダ様を発見。
 どうしたのかしら……
 不思議に思い見ていると、イーダ様は「ルナに触っても良いかしら」とレオ様に尋ねておりました
 えっと、イーダ様?
 そこは、リュート様か私に尋ねるべきなのでは……
 返事がないことに業を煮やしたのか、イーダ様が無言でレオ様の腕を叩いています。
 抵抗すること無く心底うんざりした表情をしているレオ様を見ていると、これがはじめてではないのでしょうか。

「ルーはお料理大好きなの」
「わかっちゃいるけど、今日は我慢な?」
「はい。心配かけているとわかっていますが、何だかうずうずしちゃいまして……」
「カフェとラテとカカオとミルクに触発されたんだろ」

 一緒に作っている時、楽しそうにしているものな……と、リュート様は私のことを本当によく見てくださっているのだと感じられる言葉を呟きます。

「カフェたちだけではありませんよ?チェリシュと一緒にお料理するのも大好きです!」
「チェリシュもなの!」

 きゃーっと手を伸ばして私の体を優しく撫でてくれる手に頭を寄せてすりすりしていると、「やべぇ、マジ可愛い……頭の上でこれをやってたのか!」……と、残念がっておりました。

「じゃあ、ポンポン跳ねるのは?ベオルフ様のバカバカは?」
「え、えっと……こんな感じでしたっけ?」
「そんな感じなの!」

 リュート様の手のひらの上でぴょんぴょん跳ねて翼をパタパタさせて見せると、記憶の水晶を取り出して撮影モード……りゅ、リュート様?
 私を撮影してどうするのですか。

「リュート!ちょ、ちょっと待ちなさい!ソレはなんなの!」

 いきなりお母様の鋭い声が飛び、私たちは驚きそちらを見ると、ラングレイ家の関係者全員と黒騎士様たちが固まっていました。
 あ、あれ?
 記憶の水晶を使った撮影って……今までやってませんでしたっけ?

「あー、そういえば、レオたちや商会のメンバーにはギムレットと一緒に詳しい説明をしたが、最近は使う機会がなかったから母さんたちは知らなかったか」

 記憶の水晶を使ったこのアイテムの性能を、皆様に説明している中で知ったのですが、商品名がとうとう決まったようで、開発者であるギムレットさんが『カルレン・メイトル・ラングレイ』と名付けたそうです。
 近々製品化することが決定して、今のままでは使い勝手が悪いだろうと、撮影できる時間をできるだけ延長するために工房の方々が開発研究中なのだとか……
 長時間撮影できるようになるのは嬉しいですし、ありがたいです!

「商品名にリュート様の家名が入っていますけど、良かったのですか?」

 こういう目立つことは極力したくないリュート様にしてみたら、遠慮したかったでしょうし、恥ずかしい!とか言いそうですのに……

「ギムレットが、俺の名前か家名を入れなければ商品化しねーとか言い出してな……」
「だんさんの名前を入れたいって前から言うてはったし、今回はボツにする作品を見出してくれたいう感謝の気持ちもあったみたいやわ」

 え、アレはボツになる予定だったのですかっ!?
 とっても良い商品だと思いますし、現に私たちは記憶に残したい映像をたくさん撮れてますもの!勿体ないですよ!

「ギムレットが使える空間魔法ではあれが限界だったらしい。俺が使う時空間魔法を魔石に刻むことで質を向上していけば時間の延長も可能だし、より鮮明に映像化できる」

 ただ、時空間魔法と光の調整が難しくて難航しているとリュート様が苦い顔をしました。
 水晶そのものを良い物に変えても、本体がそれに追いついていなければ意味がないということで、試行錯誤中みたいです。

「あの……商品名が長いと、覚えづらいんじゃないでしょうか」
「ああ、それはみんなで考えた結果、頭文字だけとって『カメラ』っちゅう愛称をつける予定なん」
「カメラ……?えっと……リュート様?」
「そんな目で見ないでくれ……俺は反対したんだが満場一致で『カメラ』にしようって……」

 何でも、ギムレットさんがつけた長い名前にも意味があるようで、古代ドワーフ語を使っているのだとか。
 
 カルレン(刻む)
 メイトル(永遠の時)
 ラングレイ(リュート様の家名)
 
 という説明をキュステさんから聞いて納得しました。
 ただ、愛称の『カメラ』には違和感を覚えてしまいますが、個人的にはとても覚えやすくて助かります。
 厳密に言うと、日本のカメラとは異なりますけど……こちらの世界の立体映像化機能が搭載されたビデオカメラと考えたら違和感も無くなるでしょう。 

「まあ、アレンの爺さんがもっと上質な記憶の水晶の入手ルートを手配してくれたから、製品化したら、今持っている物よりも凄いカメラができると思うぞ」
「ギムレットさん……張り切りすぎて工房に籠もって出てこなくなるんじゃ……」
「あー、ま、まあ……大丈夫だろ?」
「リュート様?まさか一緒になって籠もってたとか言いませんよね?」
「それは無理だ。ルナからそんなに長い間離れられねーだろ。それに、ギムレットは他にもいろいろ作っているし、カメラの性能は俺が作る魔石と術式が要だから、そこまでヒドイことにはならないだろ」

 では、大丈夫……なのでしょうか。
 あれ?
 その言い方だと、ギムレットさんは無理しないけれども、リュート様が無理するフラグではありませんか?
 時空間魔法の術式を魔石に刻む工程は、リュート様にしかできませんよね。
 いけません。
 ちゃんと見張って置かなければ!

「ねえ、リュート。それが製品化されたら、黒の騎士団に20台ほど頼めないかな」
「え?ロン兄が使うの?」
「魔物の資料を作るのに今まで絵を描いてたでしょ?これならより詳しく記録できるから助かると思うんだよね」
「あー!そっか、魔物のデータ作成!あれ?だったら他にも利用価値があるんじゃ……」
「前科のある犯罪者名簿も作りやすいな……現在は魔力パターン登録だけで済ませている」

 テオ兄様の言葉に、お父様やロン兄様たちが集まり、アレには使えるかコレには使えるかと話し合いを初めてしまいました。
 黒騎士様たちは遠くからそれを眺めて青い顔をされているのは……資料集めのために駆り出されるかも……と、心配されているのでしょう。
 やっぱりリュート様のクラスメイトであったこともあり、優秀な方が多いので、本来の黒騎士様たちのお仕事である魔物討伐よりも、こういう厄介事のほうが多くなるのでは……
 ガックリしている彼らに、可愛らしいメイドさんが数人声をかけ、こちらはまだ準備中ですが、ガゼボの方は昼食準備が整ったのか、黒騎士様たちが庭の奥へと案内されているようです。
 先程ガックリしていたのはどこへやら、嬉しそうに歩いていく後ろ姿を見送り、その立ち直りの早さは素晴らしいと称賛を贈りたいほどでした。

「そういうお仕事に使うことも重要ですわね。でも、お母様が知りたいのは……」

 お説教していたボリス様を置いてリュート様に歩み寄ってきたお母様は、リュート様の手にある記憶の水晶をチラリと見てから微笑みを浮かべ尋ねます。

「それがあれば、愛らしいルナちゃんとチェリシュちゃんの姿も記憶して立体化できるということよね?」
「そうだけど……」
「リュートはシッカリ撮っているの?」
「あ……ああ……撮ってるけど……」

 若干お母様の様子に引き気味になりながらも、リュート様は今までカメラで撮った映像を立体化させて見せ、3人の自撮りパジャマ映像にロン兄様が食いつきました。

「それ俺に頂戴!それがあったら、どんな激務だろうと耐えるから!」
「いや、そっち方向で頑張っちゃダメだって、休んでロン兄!」
「お母様も欲しいわっ!リュートたちが実家にそうそう帰れなくても、これで我慢するから!」
「そ、それを言われるとつらい……」

 ロン兄様とお母様のテンションが同じです。
 とりあえず、製品化したら黒の騎士団に20台納入の約束と、家族みんなに一台ずつ(私たちの映像付き)で発注を受けたみたいですね。
 お父様には「家族の映像が欲しい」と言われ、テオ兄様もソレが良いとおっしゃったので、みんなで撮影会を開くことも約束しておりました。

 アレン様やイーダ様、キュステさんとサラ様もカメラが欲しいということだったので、製品化されたら間違いなく人気商品になりそうな予感です。
 やっぱり、記憶に焼き付けたい映像を手元に残したいというのは、自然なことなのかもしれません。
 いつか古い時に撮った映像を見て、みんなで笑いあえたら幸せだな……と思いました。
 
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