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第三章 見えなくても確かにある絆

見えない絆

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 貴方は、ちゃんと守ってくださっていた───

 そう伝えたときの、彼の表情をなんと言えばいいのでしょう。
 言葉にするには難しく、ただ……この方は優しすぎるのだと感じた。
 表情は動かないけれども、その分、冷たい氷を思わせる色とは正反対の深い優しさとあたたかさをたたえる瞳が、何よりも雄弁に語る。

 私を守りたいとおっしゃるベオルフ様は、どうして……こんなになってまで守ってくださるのでしょうか。
 でも、そうなるだろうなと理解している自分もいる。
 まただ……私と彼の間には、いったい何があるというのでしょうか。
 お互いが生命線だと時空神様はおっしゃっておりました。
 ベオルフ様の魔力枯渇を現状何とか出来るのは私だけですから、それはわかります。
 そして、彼から確かに流れ込んでくる不思議な感覚……多分、これが私に足りないものなのだと悟りました。
 疑問は尽きません。
 いつかはわかるよと微笑む時空神様の姿を思い出し、私達の間にある謎も氷解する時が来るのでしょう。

 そして、変なところで頑固だけど勇敢な優しい彼の口から、思いがけない事実を知ることになりました。
 お父様とお母様のことです。
 黒狼の術中にあった両親は、私が居なくなったあと動揺し、嘆き悲しんだ。
 にわかには信じられない言葉であったのですが、自らも術中にあったために、理解できることもあります。
 自分の意志など関係なく、アレは思うがままに動かそうとする。
 消えた私のことなど、意に介していなかっただろうと考えていた私の予想は裏切られ、心に深い衝撃を与えました。
 前世の両親は、私が居なくなったあとどうしたでしょう。
 今の両親も、同じような悲しみを味わったのでしょうか。

 何故……
 何故、私なのですか?

 口をついて出た『何故』という言葉に、ベオルフ様の瞳が悲しげに揺れる。
 次の瞬間、強く引き寄せられて彼の胸の上へと倒れ込んでしまいました。
 胸に渦巻く、言葉にならない激情を抑え込むのに必死で、なすがままになっている私の頭を、硬くて大きな手が撫でていきます。

 まるで、大丈夫だというように───

 幼子をあやしているように、よしよしと撫でる手は止まらず、新たに衝撃的な真実を告げられる。
 私の死……しかも、絶望をして死ぬことを望んでいた……
 だからかと納得していると同時に、やはり『何故、私なのだろう』という疑問が強まります。
 いつもであったなら、相手を心配させまいと飲み込んでしまった言葉は、不思議とこぼれ落ち、ベオルフ様の耳に届いてしまったようでした。
 こんな弱音など吐きたくないのに、全てを包み込んでくれる。
 私がこんなに弱くても、この方は変わらないという絶対的な信頼感がそこにあった。
 これは……そうだ、前世の兄に持っていた信頼感に似ています。
 だからでしょうか、次から次へとこぼれ落ちる弱音と涙を止めることができませんでした。
 そして、彼はソレを黙って受け止めてくださいます。

 どれくらい自らの中にある激情を堪えていたのでしょうか。
 その間、ずっと優しく慰めてくれるぬくもりと手に癒やされ、少しずつ心が凪いでいくのがわかりました。
 みっともなく取り乱したのに、ベオルフ様は優しい言葉をたくさんくださいます。
 全て受け止めて笑ってくださる彼の懐の大きさは、やはり……兄に似ていると感じました。
 でも、こんなに悲しんでいる姿を、リュート様には見せられませんね。
 悲しみに暮れる姿をリュート様に見せてしまえば、確実に激怒してしまう。
 自惚れではなく、私を傷つけられたと知った彼は、怒り狂って何をしでかすかわかりませんもの。
 この事実を彼に告げるには、時期尚早です。
 
 少しの間だけですが、二人だけの秘密にしましょう───

「ふふ……まるで兄に甘えているようです」
「いま、同じことを考えていた」
「そうなのですか?では、ベオルフ様は、私のお兄様ですね」
「そうだな。家族……だな」

 家族……そうですね、家族ですね。
 その言葉が嬉しくて、あまりにもシックリきて笑みがこぼれ落ちました。
 トクリトクリと聞こえてくる心音は、全く変わること無くリズムを刻んでいて落ち着きます。
 ベオルフ様にとっても、家族は複雑なものでしょう。
 血の繋がりのないのに仲が良い家族だと噂には聞きましたが、彼の性格上、遠慮している部分が必ずあるはずですもの。
 私には、遠慮なんてありませんものね。
 不思議と壁を感じたことはありません。
 むしろ……境界が曖昧で、時々ですが意識が溶け合ってしまうような感覚がします。
 不思議ですね。
 召喚主と召喚獣という間柄でも感じたことがない、深いつながりがあるのでしょうか。
 しばらくその感覚に身を任せていると、全てが満たされたようなぬくもりが体いっぱいに広がります。

 これで大丈夫!
 エネルギー充填完了です!
 元気いっぱい、活力いっぱい!

 ……というのは、おかしいでしょうか。
 何故そう感じるのかと言われてもわかりませんが、ただ、心も足りなかったなにかも満たされた私は、やる気に満ち溢れております。

 私が彼のために出来ること。
 それは、コレしかないでしょう!

 お願いして出していただいた食材たちを、胸元にある神石のクローバーと新米時空神のルーペが一体化したペンダントで見ることにしました。
 たくさんの料理に使われる食材であったり説明文が浮かび上がりますが、どれもこれも知っている物な上に、魔力保有量が0です。
 これでは、ベオルフ様の回復になりません。
 私が今いる世界であれば、こんなことをしなくても簡単に回復できるというのに……

 ギシリとベッドが軋む音がして、なんだろうと振り返れば、ベオルフ様が起き上がろうとしておりました。
 ちょっと!何をしているのですか!
 慌ててお説教をしながら寝かしつけようとしたのに、彼は頑なに受け入れようとしません。
 私がしていることが気になるのでしょうか。
 上半身を起こすだけだというので、渋々承知すると、彼は柔らかな瞳で私を見ました。
 うぅ……この目に弱いのです。
 仕方ありませんね、少しだけ……ですよ?

 そうだ!ベオルフ様のこの状況を改善するためにも、食材探しをしなくては!
 こうやって頻繁に来ることも出来るでしょうが、それまでに魔力が枯渇しては意味がありません。
 時空神様も、できるだけ来たほうがいいとおっしゃってましたし……
 なんとか、それまで魔力が枯渇することがないよう、必要になればリュート様のように、魔力を含んだ食べ物を口にして回復していただきましょう。
 食材をルーペで見ながら、見慣れた野菜が輝いていることに気づきます。
 淡い光を纏ったソレはジャガイモでした。
 これです……これ!
 あれ?
 このハーブたちも輝いてますね……ということは、ハーブソルトも作れそうです。

 喜び勇んでベオルフ様のもとへ持っていけば、何故かジャガイモを見て微妙な表情をなさいました。
 なんですか?
 ジャガイモになにかあるのでしょうか。
 あと、ハーブはあからさまに顔を顰めましたね。
 珍しく表情に出るほど嫌いですか?

 ハーブのことをお伺いしてみると、どうやらこれを煎じて飲むらしく……あー……それは……すごいですね。
 苦味のあるハーブもありますから、ベオルフ様はそこが苦手なのかもしれません。
 いろいろ出してくれるようにお願いしたのですが、抵抗しないから好きにしろと言われてしまいました。
 ほ、本当に良いのですか?
 悪いことを考えたら、ベオルフ様を拘束してくすぐりの刑なんてこともできるのですよ?
 ベオルフ様もお人好しなところがありますよね。
 注意したほうが良いのではないでしょうか……少し心配です。

 実際にハーブソルトの作り方を教えながら、使い方も説明しました。
 お料理を作るところを実際に見ていただきましたが、飲み込みの早いベオルフ様は、なるほど……と言って頷き、完璧にマスターしてしまったようです。
 夢の中だけど出来た料理を食べてみますか?と誘ってみると、彼はベッドから降りてきてくださいましたが、まだ万全ではありません。
 急ぎ支えると、小さな声で感謝の言葉を述べられました。
 席について料理を頬張る彼の様子をじっくり眺めていると、嬉しい変化が!
 本当に些細な変化ですが、目尻がすこーし下がって、口角がわずかに上がりました。
 美味しいって感じてくれているとわかる変化です!
 うわ、うわぁーっ……嬉しいですね!
 リュート様のように、少年の笑みを浮かべてくださるのも嬉しいですが、この変化も嬉しいものです。
 うふふ、きっと私しか知らないのですよ?
 美味しいお料理は、人を幸せにしてくれますものね。
 今度一緒にお料理を作ってみたいですね……きっと、楽しいものになるでしょう。
 いまからワクワクしてしまいます。

 でも、どうしてハーブとジャガイモに魔力が含まれていたのでしょうか。
 ベオルフ様から聞かされた意外な共通点は、彼のお母様の出身国である『ジャンポーネ』という場所にあるようでした。

 ……ていうか、ツッコミを入れていいですか?

 あまりにも名前が似すぎていて、ツッコミどころが満載です。
 まさかですが、日本と関係があるなんていいませんよね?
 いえ、可能性として……高いような気がします。
 日本に似た環境と名前ですもの。
 実際に行ってみたらわかることもあるのでしょうが……調べる手立てはありませんね。

 そして、彼からもう一つ問題発言が!

 え?えぇっ!?
 大豆……大豆うううぅぅぅっ!?

 私とリュート様が探している大豆が、そこにあるというのです。
 名前だけのまがい物かと思ったら、本当に大豆でした。
 うわぁ……欲しい、欲しいです、大豆! 
 慣れ親しんだ醤油や味噌を作るのに欠かせない大豆です!
 他の素材を使って作ることが可能かもしれませんが、やっぱり癖のない醤油や味噌が欲しいのですよ!
 ヘルシーなお豆腐や、豆腐にちなんだ厚揚げやうす揚げ、高野豆腐なども作れますし、卯の花や五目豆もいいですよね。

 はぁ……このまま持って帰れないかしら……

 そんなことを考えていた私の目の前で、ベオルフ様の体が傾ぎます。
 
「無理はいけません!」
「すまん……元気がなかったようだから……つい……な」

 どうやら、心配をかけてしまったみたいですね。
 無いものは無いなりに工夫する。
 今までだってそうしてきたのだから、これからもそうやって頑張りましょう!

 この状態のままでは辛いでしょうから、朝起きてお料理を食べるように勧めていた私は、ベオルフ様の口から意外な言葉を聞きました。
 王太子殿下とエスターテ王国のアーヤリシュカ第一王女との婚約が既に決まっていたという事実です。
 卒業パーティーの半年後に決まるはずだったのに?
 やはり、物語は物語……なのでしょうか。

 そんな疑問を頭の片隅に抱えながら、お料理の話を語って聞かせ、相槌を打つベオルフ様と楽しくおしゃべりをしていた最中、卒業パーティーから日数がそれほど経ってないのだと感じました。
 兄のところへ行ったときには、かなり時間が流れていたようで、大人びた雰囲気に驚きましたが……ベオルフ様はそのようなことがなくて良かったです。
 あまり深く考えること無く、あの日からそれほど時間が流れていなくて安堵したことを伝えたくて言葉にする。

「でも、それほど時間が経っていなくて良かったです。兄のほうは、随分と時が流れているように感じましたから……」

 そして、それがとんでもない失言であったことに気づきました。
 今の私に兄は居りません。
 慌てて口元を手で覆いますが、飛び出してしまった言葉を回収することなど不可能です。
 どうしよう……と、嫌な汗が吹き出すのを感じていた私に、ベオルフ様は穏やかな口調でいいました。

「言いたくないのなら聞きはしない。貴女を困らせたいわけではないからな」

 そこで、気づきます。
 私が持っている情報は、彼の役に立つ。
 確定の未来ではないし、ところどころ違う箇所が出てきているけれども、大まかな流れは変わっていない。
 未来予知と言えるほど正確でもない。
 しかし、注意すべき点であることに変わりありません。

 それを彼に伝えるには、私が前世の記憶を持ち、違う世界の知識を持っていることを伝えなくてはならない。
 下手をすれば、変人か妄想癖を持つヤバイ人扱いですよね。
 でも……ベオルフ様はそういう方ではありません。
 ちゃんと、真剣に話をきいてくださいます。
 今までだってそうでしたもの。

 きっと、この情報を役立てて、良い方向へ導いてくださるでしょう。

 同じ境遇であったリュート様に語るのとはまた違う緊張感に、体が震えてしまいます。
 そんな私をソファーに導き、聞く態勢を整えた彼の真剣な瞳を見つめながら、前置きをして言葉を慎重に選び真実を告げると、彼は呆気ないくらい疑うこと無く全てを受け入れてくださいました。
 え……えっと……ベオルフ様は、貴族社会で騙されたりしませんか?
 大丈夫ですか?
 いじめられたりしておりませんよね?
 日本のことも、この世界が物語として書き記されていたことも告げましたが、簡単に真実なのだろうと受け入れてしまうなんて……ありえませんよ!?
 反対に驚かされながらも、聞き上手な彼に促されるまま、前世の記憶を語ってきかせれば、納得がいったというように微笑まれました。
 こ、ここで貴重な笑顔を披露ですか……なんだかズルイです。
 一気に安心してしまい、体から力が抜けてしまいました。

 彼の関心は、ミュリア様が物語の主人公であるということだったようです。
 まあ……今のミュリア様を見ていれば、そう感じてしまっても仕方ありません。
 どちらかといえば、彼女のほうが悪役令嬢の名にふさわしい振る舞いをしていらっしゃいますものね。

 それよりも大事なことがあるのです。
 物語の終盤……現在、ここに差し掛かりつつあるのではないかと推測されますから。
 一度考えをまとめるために一呼吸置いて、ベオルフ様を見つめます。

「物語の終盤で、王太子殿下が暗殺されてしまいます」

 そう告げると、さすがの彼も驚いたのか、目を見張り私の瞳を見つめてきました。
 言葉の真意を知ろうとしているようにも感じたので、その言葉は真実なのだと告げたくて見つめ返します。
 しばらくすると、深い溜め息をついたベオルフ様は、話の先を促されました。

「婚約した時期が物語より早かったので、少々驚いてしまいましたが……王太子殿下は婚約者と文通をされていらっしゃいますよね」
「ああ……」
「文通なら問題ないのですが、彼女から小包が届くことがあったら要注意です。それは、彼女からの贈り物ではなく、誰かが王太子殿下を狙って届けた毒が塗られたガラス細工の盃ですから」
「……そうか、エスターテはガラス細工も名産だったな」
「はい。細かな細工が施されたガラスは毒が付着していてもわかりづらいでしょう」
「そんなことになれば、両国の関係は再び……」

 今度こそ修復できないほど、悪化してしまう───

「その結果、戦争が始まり……セルフィス殿下とミュリア様も戦火に身を投じることになります」
「ミュリア・セルシア男爵令嬢も?」
「兄の死や自国の民の命が失われることに嘆き悲しむセルフィス殿下には聖剣を、彼を心から助けたいと願う彼女には聖なる宝珠が、天より降臨した主神オーディナル様から与えられるのです」

 物語では、そういう展開になっていた。
 ベオルフ様の表情を見れば、彼らがその展開にふさわしい人物ではないと言っているようで……まあ、その気持ちはわかります。
 それでも大まかな物語の流れだけは、話して置かなければ……
 
「その強大な力でエスターテ王国の兵士から国を守り、戦争はグレンドルグ王国の勝利で幕を閉じます。そして、たくさんの犠牲を出し疲弊してしまったグレンドルグ王国とエスターテ王国は、新たに神聖カナルア国を築きます。二人はその国の王と王妃になり、末永く幸せに暮らした……というのが、物語の流れになります」

 すると、ベオルフ様はなにか思い浮かぶものがあったのか、ハッとした顔をしたまま固まってしまいました。
 目まぐるしく思考を巡らせているのか、口元を右手で覆い、目つきを鋭くして一点を睨みつけています。
 考えの邪魔にならないように黙り込んでいると、不意に問いかけられました。

「その物語では、ルナティエラ嬢はオーディナルの愛し子だったのか?」
「い……いいえ……単に二人の邪魔をする、陰湿な婚約者ですね」
「それでは、あの二人が主神オーディナルの加護を与えられる可能性は……」
「事実はどうであれ、人々がそう勘違いすればいいのです」

 そう……勘違いすればいい。
 誰が二人に力を与えていたとしても、そうなのだと周囲が騒ぎ出せば、それが真実となる。
 オーディナル様が二人に力を与えるということはないでしょう。
 黒狼の狙いはコレなのではないかと、脳裏に閃きます。

 しかし、それによって……何が起こるというのでしょうか。

 戦争を誘発して、新たな王国を作ること……では、ありませんよね。
 王国を作って何があるというのでしょうか。

「まさか……黒狼の主は、大量の人の命を欲しているのか?」

 その言葉は、奇妙なほど腑に落ちました。
 大量の命……大量の……マナの輝き?
 それは、とんでもない力なのだと教わったばかりですもの。
 今まで黒狼の呪いのせいで、物語の先を考えることができなかった。
 ベオルフ様のそばにいて、はじめて考えることが出来たことです。
 まだまだ、抜け出せない部分が多いのだと再認識しました。

 本来なら、その黒狼は『オーディナルの愛し子』である、私がなんとかするべきことですのに……実際に対峙されているのはベオルフ様です。
 申し訳なくて、何も出来ない自分が情けない。

 私に任せろというベオルフ様は頼もしくもあり、心配でもあります。
 信頼の置ける方々に話をして、解決できるよう尽力するとのことですが、黒狼の妨害を考えると、私もできる限りベオルフ様の夢に訪れて現状を知る必要があるでしょう。

 妹を守るのは兄の役目だと、優しい表情でおっしゃってくれるベオルフ様に甘えてばかりではいけませんね。
 もっとしっかりしなくては……

『無理はいけない、今の君は呪いに抗い覆い隠すだけで力を使い果たしているのだから……』

 抗い、覆い隠す?
 不意に聞こえたオーディナル様の声に耳を傾けていると、体がずしりと重くなったように感じました。

『彼らがいい方向へ導いてくれる。君の運命と守護騎士は本当にスゴイな。息子から聞いたと思うが、あまり離れないように気をつけて』

 どちらとも離れないようにという意味ですよね。
 オーディナル様……ベオルフ様をお守りください。
 私は大丈夫ですから、この方を……私の大切な兄をお願い致します。

『心配しなくてもいいよ。君がすべてを掛けて彼を守ったように、私が代わりに守ろう。ボクの世界の愛し子よ』

 ふらりと体が傾ぐ感覚と共に訪れた、優しくも力強いぬくもりに包まれ、私は安堵の吐息をつく。

『お疲れ様。今は二人揃ってゆっくりとおやすみ』

 頭を大きく優しい手が触れて、愛しむように撫でてくれる。
 お父さんみたい……そう思いませんか、ベオルフ様。

 幼い頃、こうしてオーディナル様に見守られ、ベオルフ様と共に眠ったような……?
 あれはいつのことだったのでしょう。

 うすぼんやりと見えた過去の光景は、とても懐かしく、手を伸ばしてももう届かない残滓であると、誰よりも私自身が知っているような気がしました。


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