悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第三章 見えなくても確かにある絆

次は何に変じましょう

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 はて……どうしてこういう状況になっているのでしょうか。
 リュート様の両手に包まれて、ジーッと見つめられております。
 いけません、そんな熱い眼差しの端正な顔を近づけすぎたら……私のいろいろがゴリゴリ削られていきますよっ!?

「ルナ?俺とお話しような」
「はい、リュート様のお話でしたら、しっかりと聞かないといけませんね」
「そう思うのなら、なぜ俺の肩に乗ると、いつも制止も聞かずに飛び出していくんだ?」
「リュート様の肩は、とても安心できる上に景色が良くてわくわくしちゃうのです」

 きゅっ
 あれ?さらに強くぎゅーって包み込まれましたよ?
 お顔も先程より近いです。
 額をくっつけてぐりぐりされてしまいますが、なんだかとっても嬉しいというか、くすぐったいというか、すごーく幸せな感覚ですね。
 もっとしてください、リュート様!

「ルーナー?危ないだろう?いいか、俺の肩は高いから、もっと低い位置から練習しなさい」
「嫌です。リュート様の肩がいいのです。リュート様の肩から飛べたら、怖いものなんてありません!きっと大丈夫なのです」
「チェリシュも頑張ってキャッチするの」

 ナイス援護ですチェリシュ!

「リューの肩がいいのわかるの。チェリシュもリューの肩の上が好きなの」
「いいですよね、とても景色が良くて安心しますものね」
「そうなの!」
「あのなぁ……」

 がっくりと肩を落としてしまったリュート様には申し訳ないのですが、こればかりは譲れません。
 心配してくださっているのはわかるのですけれども、ジッと見つめてくれている安心感といい、リュート様が普段見ている目線の世界へ飛び出す時の高揚感は、何者にも代えがたく……本当に危ないときにサッと伸ばされる手へ着地したときの喜びをなんと伝えたら良いのでしょう。
 全身全霊で守られていると感じが胸いっぱいに広がった後、言葉にできない想いできゅーっとしてしまうのです。

「まあ、本当に危なければ、お主がフォローしておるのじゃから問題なかろう。飛行訓練は時間がかかるじゃろうから、ルナよ。地を駆けるモノを決めて変じ慣れていたほうが良いのではないか?」

 確かにアレン様がおっしゃる通りかもしれません。
 現在飛行訓練を繰り返しましたが、あまり上達していないようにも感じます。
 ということは、普段の移動は地を駆けるのが早いタイプが良いかも?
 いえ、タイミングを見計らって練習は必須です。
 鳥類となったからには、絶対に飛べるようにならなくては!

「万が一に備えて、攻撃できる爪と牙を持っていたら御の字じゃな」
「爪と……牙……ペンギンはいかがでしょうかっ」
「待て、ペンギンに爪も牙もねーぞ。しかも、なぜ地を駆けると言われて浮かんだのがソレ?飛べない鳥類で地を駆けるなら、ダチョウやキーウィだろ?」

 リュート様からの的確なツッコミがきてしまいました。
 だって……コウテイペンギンの赤ちゃん、可愛くて好きなんですもの。
 もふもふして、ぽてぽてして、ふわっふわですよ?
 なぜ額を手で押さえて首を振るのですか?
 ……その姿も、様になってとても格好良いですね。
 ほんの少しだけ漂う悩ましげな色気と、チラリとこちらへ向けられる視線が形容し難い格好良さを醸し出しております。
 リュート様は、どのような姿をしても素敵すぎてキュンキュンしちゃいますね。
 罪づくりな方なのです。
 でも、そ、そろそろ視線をはずしていただけませんか……だんだん赤く……
 あっ!
 この姿だと赤くなっても「ベリリなの!」と言われないのでは!

「ペンギンとはなんじゃ?」

 ジーッとリュート様を見つめて妙案が浮かんだ私の耳に、アレン様の疑問が聞こえてきました。
 どうやら、この世界にペンギンは存在しないようです。
 なんてことでしょう……あの愛らしいペンギンがいないなんて!
 首を傾げているアレン様とチェリシュのためにコウテイペンギンの赤ちゃんの愛らしさを語っていると、だんだん姿形が理解できたのでしょうか、アレン様はリュート様と同じように額を押さえて首を左右に振っていらっしゃいます。

「地を駆けるという言葉からなぜそれが思い浮かんだのか……」
「地面をすべりますから、大丈夫です」
「アレは氷の大地や砂地だから可能なのであって、普通の地面は駄目だろ」

 アレン様の問いかけに答えていると、リュート様から再度ツッコミが……うぅ……ペンギンは駄目ですか。
 それなら違う動物を考えなければなりません。
 うーん……小さくてすばしっこいものがいいでしょうね。
 爪と牙があって素早く走れる動物といえば狐などが思い浮かびますが、それと同時にヨウコくんの姿が……キャラかぶりはいけません。
 ウサギは、シロたちがいます。
 定番の猫は、ファスとカフェとラテとナナト。
 クマはチル。
 ライオンはガルム。
 わんこはコンラッド少年……意外と難しいです。

「こちらの世界にいる生き物でオススメはございますか?」
「うーん……ルナのイメージにあった小さい生き物か……フェザーラビットとか?」
「確かにアレは地面を走るのも早いが、お主本当に良いのか?また飛行訓練をしはじめるぞ」
「あっ!そうか、アレは耳が翼になるんだった……だ、駄目、絶対に駄目!」

 耳が翼のウサギ……?
 耳が大きな小象を思い浮かべてしまいましたが、ああいう感覚で飛ぶウサギさんでしょうか。
 でも、ウサギはシロたちがいるから駄目です。
 狼はベオルフ様を思い浮かべてしまい、いいかも……と考えたあとに思い出した黒狼の存在で却下とあいなりました。
 アレは違う意味でよくありません。

 虎!そうです、虎はいかがでしょう!
 小さい虎なら……と、提案仕掛けた私に、ふっと思いつくように浮かんだ姿がありました。

 爪や牙は一応ありますけど、役に立つかどうか自信はありません。
 しかし、大地を驚くべき速度で走り抜けられる小さな生き物。
 
 これって……オーディナル様が「これにしなさい」って言っている感覚でしょうか。
 そうですね、その感覚ですね。
 体毛は私の髪の色に似ていて、白から天色へ変わるグラデーションがとても綺麗ですし、ウサギのような長い耳とふわっふわの長い尻尾がキュートなのです。
 日本でも名前だけは知られておりましたし、ゲームでも出てきたことがあります。
 どちらかといえば、そちらのイメージが強いかもしれませんね。
 あちらの世界では、オーディナル様の御使いとして誰もが知っている生物です。

「決まりました!虎にしようかと思ったのですが、オーディナル様のオススメがあるようです」
「うん?オーディナルの……オススメ?」
「変じてみますね!」

 念の為にリュート様たちから離れた場所へと飛んで移動しようとしたら、リュート様にキュッと両手で包み込まれてしまいました。
 これでは飛べません。

「リュート様……」
「いま飛ぼうとしただろう」
「……なぜバレたのでしょう」
「きゃっちなの?」
「今はしなくていいからな?」

 変に力の干渉などがあったら困るから、みんなから離れたいのですが……と伝えれば、リュート様が少しだけ移動して私を床にソッとおろしてくださいました。
 本当は飛行訓練をもう一度したかったのですけど、リュート様から「ダメ」と言われては仕方ありません。

「では、次の姿に参りますっ」

 オーディナル様のオススメならばということで、リュート様たちは黙って私の方を見つめておりました。
 何に変じるのだろうという好奇心と……少しばかりの不安が入り交じる視線を受け止め、私は頭の中でその姿をイメージします。

「白から私の髪色へ変じるふわふわの毛並み、大地を滑るように音も立てず駆り、大きく綺麗な黒曜石のような黒い瞳は遠くを見通す……」

 目を閉じて言葉に出しイメージを固めていくと、それならば問題ないだろうとアレン様が安堵した声を出しました。

「額の赤い宝石がトレードマークの……」
「……は?赤い宝石?額に?……って、おい、それってまさか……」

 私が変じるものに気づいたリュート様が慌てて声をあげますが、オーディナル様に導かれるように呟くキーとなる言葉『ヘン・シィン』と、リュート様の「待て!」という制止の声が重なり部屋に響きました。

「ルナっ!それは小動物ってよりも、神獣や幻獣の類だろうが!」
「なにっ!」
「神獣……なの?……ルー、それはダメなの!」

 指輪から駆け巡る魔力が先程より大きく忙しい感じがしておりますが、何がダメなのでしょう。
 瞳を開いて見れば、なぜか絶望にも似た驚愕の表情をしたリュート様が必死に私の方へ腕を伸ばしていらっしゃいましたし、チェリシュは今にも泣きそうな様子でこちらへ駆けてきます。
 全てがスローモーションに見えているのが不思議ですね。

 どうして……

 そう疑問に感じたのも束の間、私の意識はスマホやPCの電源を切った時のように、見事にプツリと途絶えてしまい真っ暗な闇へ飲み込まれてしまったのでした。

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