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第三章 見えなくても確かにある絆

今後の予定を話しましょう

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「ああ、すみません。言葉が足りませんでしたねぇ。つまり、この世界の神々を彼女が召喚したのでは?と考えたわけですねぇ」

 ああ、なるほど……

 これまた、クラス全員の心の声が一致したような気がします。
 ですが、そんな能力はございません。

「チェリシュは姿を隠して入ってきただけですから、私が召喚したわけではございません」
「姿を……ああ!春の女神様はそういう能力を持っていらっしゃいましたねぇ」
「そのうち、学園長から知らせが入ると思うが、これから春の間は俺がチェリシュの面倒を見ることになった」
「そうですかぁ、良かったですねぇ」

 嬉しそうに目を細めるアクセン先生が、リュート様の苦しみを知っていた事実に驚きます。
 意外と見ている?
 いえ、きっとずっと見ていてくれたのでしょう。
 だから、心配をかけたとリュート様がおっしゃったのかもしれません。

「では、これから春の女神様も一緒に授業を受けることになるのでしょうか」
「あいっ!」
「わかりました。席は……彼女の膝の上で問題ないのですね?」
「俺かルナの膝の上か、間に座ってるのが安定だろうな」
「今日はルーなの。リューはその子たちナデナデしてあげてほしいの」
「ん、わかった」
「えらいえらい、がんばったの」

 チェリシュも手を伸ばしガルムの背を撫でると、嬉しそうに尻尾がゆらりと揺れ、こっちもーというように、レイスがふわふわ浮いて同じくリュート様の膝の上に乗りました。
 正直、いいな……と感じてしまいますけど、二人は命に関わる状態ですから、そんなことを言っている場合ではありません。
 二人が気兼ねしないように、リュート様が消費した魔力を完全回復できるくらいのお料理を頑張って作らなくては!
 チーズトロトロのパリパリクリスピー生地のピザです。
 リュート様が「旨い!」って、あの素敵な笑顔を浮かべてくれるような物に仕上げたいですね。

 チラリとリュート様の膝の上を見るチェリシュも、本当はリュート様のお膝の上で授業を受けたかったでしょうに我慢しているのですから、ここで私が二人に「いいな」と言うのは、チェリシュの教育上よくありません。
 健気なチェリシュの行動を見て、いろいろと反省です。

「しかし、来週に予定されている『魔物討伐遠征訓練』の時はどうしましょうねぇ」
「は?来週?」
「ああ!まだお知らせしてませんでしたねぇ」

 既に端末に連絡が入っていると思いますよとアクセン先生がおっしゃったのと同時に、みんなが慌ただしくイルカムを装着したり、ファンデーションのコンパクトのような大きさで綺麗な装飾がされている物を取り出し、中身を確認しているようでした。
 なんだか女性心をくすぐる可愛らしい小物ですね。
 あれは、地球で言うところのタブレットみたいなものでしょうか。
 女性の半数は、それを所持しているようでした。
 やっぱり、可愛らしい物が好きなのは、どの世界の女性でも同じなのでしょう。
 リュート様のハート型の洗浄石、絶対にヒットする予感がします!
 あれは、可愛らしいですものね。

 そんなことを考えている私の隣で、リュート様も長くて綺麗な指を空に滑らせて操作し、内容を確認したあと苦笑します。

「来週の月曜日から木曜日にかけてか……レオ、お前大丈夫か?」
「うっ……さすがに休日訓練明けはつらいな」
「だろうな。日曜日は遠征のために買い出しが必要だから、イーダのところみたいに訓練を休ませてくれたらい良いんだがな」
「遠征なんぞ聞いたら、更にヒートアップしそうではないか?」
「有り得そうだ……」

 やれやれとため息を付いたリュート様は、心配そうにレオ様を見ているガルムの頭を大きな手で撫でてから、口元に悪戯っぽい笑みを浮かべました。
 あ、その笑顔いいですね!
 私に向けられていなければ、変にドキドキすることなく素直に素敵だなーって思えます。
 こちらに向けられていたら、逃げる算段をしなくては……だって、絶対にからかわれてしまいますもの!
 ベオルフ様に散々いじられてきた私ですから、そういうモノには敏感なのですよ?
 ま、まあ……リュート様なら、別に……いいかもしれませんけど……
 いえ、やっぱり駄目です。
 そんな事実を万が一にもベオルフ様が知ったら、絶対に弄る頻度を上げてきますもの!
 駄目です、絶対に危険です。
 あの方は、表情筋が死滅していると言われるほど顔に感情が出ないので、わかりやすい反応をしませんが、長年の付き合いからか微妙な表情の変化を感じ取ることができるようになりました。
 私をいじろうとするとき、目をスッと細めて右の唇の端がほんの少しだけ上がるのです。
 アレは危険の合図以外のなにものでもありません。
 次の瞬間、どんないじりがくるのやら……まあ、私が嫌がることは基本的にしませんし、困るけれども嫌ではありませんものね。

 そういうところが、兄に似ていると思います。
 性格は全く違うのに、意外と周囲をよく見ていて頼りがいのあるところが、そう感じさせるのでしょうか。

「まあ、遠征訓練の話をしても来いというなら、俺が行って今回の件も含め説教だな」

 リュート様がそういうと、シモン様が「いつもながら大変ですね」と苦笑し、他の方々も慣れているのか「そろそろだろうと思った」と笑います。
 い、いつも……なのですか?
 
「レオの傷が増えすぎて、お祖母様とお母様が大変そうですものね。リュートが止めてくれたら、とてもありがたいですわ」
「イーダの婆さんも、そろそろ説教しようと機会を伺っていそうだけどな」
「本当は昨日お説教しようとしていたのに、エルフの使者がアポも取らずにいらっしゃったのですわ」
「おかげで、昨日は父も大変だったようだよ」

 イーダ様とシモン様の言葉に、リュート様は困ったようにため息を付きました。

「忙しすぎて国王陛下も疲れが出たのか、昨夜は早く休まれていたしな」

 レオ様って、城内の情報をよく知っていますよね。
 そういうことに疎いイメージでしたのに……意外です。

「エルフの連中、白の騎士団長とも揉めてたみたいだしな。大人しくしてくれりゃいいけどさ、なんか奇妙な感じなんだよな、アイツら」

 どうやら城へ行く用事があったクラスメイトの1人が、昨日の城内で起きた揉め事を目撃したらしく、ため息交じりに教えて下さいましたけど……そんな問題が起きていたら心配ですよね。
 昨日、白の騎士団の方々が少ないようで黒の騎士団の方々が駆り出されているようなことをロン兄様がおっしゃっておりましたが、アレン様やエルフの方々の対応に追われていたのですね。
 そこに加えて、恋の女神様騒動……本当にお疲れさまです。

「それでは、すまんが……いざという時は頼む」
「ああ、任せろ」

 ニッと笑って快諾するリュート様が、とっても男らしくて格好良い!
 い、いけません、また頬が赤くなってしまいます。
 ……何故じーっと見てくるのですか、チェリシュ。
 ま、まだ、赤くありませんよ?
 それよりも、チェリシュはどうして赤くなりそうなタイミングがわかるのでしょう……いろいろと侮れませんね。

「話がついたところで、今後の予定をもう一度お知らせしますねぇ。来週の魔物討伐遠征訓練については、それぞれに送られている資料を熟読し、何も設備のない野外で寝泊まりすることになりますから、各自、準備はシッカリしておいてくださいねぇ」

 野外キャンプのようですね。
 魔物がいるから、日本でやっているような和やかのんびりキャンプというわけにもいかないでしょうけど、必要なものは似たりよったりだと考えて良いのでしょうか。
 リュート様が詳しそうですから、お任せしちゃいましょう。
 こういう時は、経験者の持つノウハウがとても大事ですものね。

 野外料理……何がいいでしょうか。
 そちらは、私が考えなければ!
 キャンプ料理をイメージすれば良いかしら……魔物を討伐したときに手に入る食材を使っての料理なども視野にいれておきましょう。

「そして、順番があべこべになってしまいましたが、今週の予定についてお知らせしますねぇ。午前中は座学を中心にし、午後は召喚獣との絆を深めたり、発現したスキルを伸ばしたり、個人的な質問を受け付ける期間にします。場所は問いません。それぞれの召喚獣に適した環境で行ってくださいねぇ」

 適した環境……私のスキルに適した環境って、リュート様のお店ですよね?
 つまり、それって……

「学園の外に行く場合は?」
「外出許可申請を提出していただけたら問題ありません。私が責任を持って即座に申請を受理していいと学園長に許可をいただきましたので、お時間も取らせません。安心して訓練に専念してくださいねぇ」

 リュート様がアクセン先生の意図するところを理解して、すぐさま質問しますが、アクセン先生もわかっていたのでしょう、意味深にニコリと笑います。
 こういうところがあるから、アクセン先生は頼りになるとリュート様がおっしゃっているのかもしれません。
 先手先手を打ってくる感じですよね。

「代表で申請しても?」
「ええ、構いません。ただし、問題を起こした場合、代表者にはそれ相応の罰がありますけどねぇ」
「問題ねーよ」
「では、申請お願いしますねぇ」

 リュート様は手慣れた感じで素早く操作して、レオ様やイーダ様たちの名前を書き連ねていきます。
 ……やっぱり、ガイアス様の名前もあるのですね。
 まあ、仕方ありません。
 デレ期到来のガイアス様でしたら、問題ない……はず?
 いえ、違う意味で問題があるかもしれませんけど!

「がう」

 ガルムの声が少し元気になったかしらと感じて視線を向けると、リュート様の膝の上からズリ落ちそうになりながら、私の太ももをぺちぺち叩きます。
 続けて聞こえてきた張りがなくて小さな囁きのような「ぐぅ」という声は、「ごめんね」といっているようで……
 もしかして、リュート様や私に迷惑をかけたと考えているのでしょうか。
 元気がないというよりは、叱られる前の子供のようなしょんぼりとした姿です。
 そんなことを今は気にしなくていいのだと微笑み、丸まった背中を撫でると、先程よりあたたかくなっているのを感じることが出来ました。
 ガルムとレイスも、ご飯を食べて元気になれば良いのですけど……
 そういえば、レイスはご飯を食べられるのでしょうか。
 ちょっとだけ疑問です。

「ちゃんとリュート様のお膝の上で魔力を分けてもらって、はやく元気になりましょうね」
「いいこいいこなの。大丈夫なの。ルーはとっても優しいの。リューもちゃんとわかってるの。二人はチェリシュのじまんなの、えっへんなの」

 胸を張ってみせるチェリシュに、リュート様とシモン様とレオ様が吹き出すように笑い、何がそんなにおかしいのでしょうと首を傾げていたら、チェリシュが「まねっこなの」というのですけど……あれ?それって、私の真似ですか?
 じゃあ、私も───

「ルナは、ここでやらなくていいからな」

 リュート様、二人でおそろいは駄目ですか?
 チェリシュと一緒に、「えっへん」したかったのですが、仕方ありません。
 だって、リュート様から放たれる圧力というか、笑顔なのに怖いと感じる何かがすごかったのですもの!
 そんなに怒らなくてもいいと思うのです。
 イーダ様に助けを求めてもジトリと見つめられ、何故かマズイことをしたような気分になり、どうしましょうとトリス様に視線で問いかければ、彼女は「それに触れてはいけない」と首を振りました。

 リュート様の前ではしていいというお話でしたけど、他の方が……特に、イーダ様がいる前では「えっへん」をしないほうが良さそうです。
 しばらくは、チェリシュが真似っ子をしてくれるでしょうから、いつか一緒にできたらいいですよね。

 教室内でグループにわかれてアクセン先生に申請を出している方や、召喚獣関連や来週の遠征訓練について質問している方々を眺めながら、二人で「えっへん」をしているのを見たリュート様が、どんな反応をしてくださるかと思い描きます。
 その時は、喜んでくださればいいな……と考えながら、真似っ子が成功してにぱーと嬉しそうに笑うチェリシュを見て、心がほんわかあたたかくなりました。

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