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第二章 外堀はこうして埋められる

大地母神の大盾

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 衝撃波を物ともしない鈍色の巨大な盾は、先程まで体に感じていたプレッシャーのようなものすら寄せ付けず、全てを包み込むような黄金の輝きを放つ。

「それって、大地母神の大盾……って、オイオイ、大丈夫なのかよ」
「問題ない」

 リュート様が信じられないというように呆然とその大きな盾を見つめていたのですが、安心して良いのだと目を細めた長兄である彼は、力強く巨大な盾を支えている。

「ルナちゃん、簡単に紹介するね。俺たちの兄で、テオドール・ラングレイって言うんだ。寡黙で言葉足らずだけど、怖くないからね。こちらは、リュートの召喚獣でルナちゃん」
「報告は聞いている。そうか……優しそうな娘で良かったな、リュート」
「ああ、俺は得難いものを得たよ」
「ならばいい……正式な自己紹介はあとにしよう」
「そうだな。しかし、テオ兄。なんで上から登場だったんだ?」
「理由はアレだ」

 スッと向けられた指の先を目で追い、全員が天空を見上げると、そこには真っ黒な馬……
 天馬でしょうか……すごく綺麗な馬ですね。

「グレンタール!」

 リュート様の声に喜びが混じります。
 え?知っているのでしょうか……その声に応じて、漆黒の馬はこちらに向かって急降下……って、怖いです!すごい勢いですよっ!?
 まっすぐ降りてきたグレンタールと呼ばれた馬は、地面に音もなく着地してリュート様に鼻先を擦り寄せる。

「ルナ、コイツが俺の馬で、トワイライトホースのグレンタールだ」

 うわぁ、黒い目がぱっちりした可愛らしい顔つきです。
 体が大きいことをのぞけば、どこが怖いのでしょうか。
 足元の青紫色の炎も、光の加減によって足元の炎と同じ色に輝くたてがみも、とても綺麗で艷やかです。
 素晴らしいお馬さんですね。
 あちらにも馬はたくさんいましたが、ここまで綺麗なお馬さんは初めてですよ?

 私の方を見たトワイライトホースのグレンタールは、首を傾げてふんふん鼻を鳴らして匂いをかいだあと、リュート様にしたのと同じく鼻先を擦り寄せてくれました。
 可愛い!
 そして、続いて……目が輝きましたね。
 私の腕の中の春の女神様を見て、とっても嬉しそうに目を細めます。

 あ、子供が好きなんでしたね。

「ロンの報告より先に、主の危機を察知して俺を呼びに来た。この馬は優秀だな。幻影の鏡のスキル持ちか」
「そうか、それでここの状況を知ったのか」

 幻影の鏡というのは、トワイライトホースの持つスキルの1つらしく、離れた場所の光景を青紫色の炎から作り出した鏡に投影するそうです。
 とんでもなく優秀ですね!

「グレンタールは、ルナとチェリシュを頼む」

 コクリと頷いたグレンタールは、私達のそばに立つと何かの魔法を使ったようで、体が少し軽くなる。

「スゴイの。強化魔法なの」

 なるほど、こういう強化魔法を体にかけて、リュート様たちは戦っているわけですね。
 体が軽くなって、視野が広がった感じがします。
 感覚が研ぎ澄まされた……という言葉が一番しっくり来るでしょうか。

「さて、準備は良いか。リュート、この大地の盾は使用者の魔力によって変化する。任せたぞ」
「任された!」

 一度、春の女神様を抱きかかえている私をぎゅっと抱きしめたあと、リュート様は大盾に手を添えた。
 それと同時に、周囲に展開する魔法陣が増え続ける様に、さすがの兄二人も驚いたようで、僅かに目を見開いている。

「これだけ沢山の者が頑張ってんのに、俺がへばってられっかよ!」

 一番頑張ってる人が何を言っているのですか……もうボロボロで、体のあちらこちらから流れた血の量だって、軽視できるものではありません。
 なのに、彼は好戦的に笑ってみせる。

「大地母神の大盾よ、俺の魔力をやるから、ここにいる皆を守れ!」

 リュート様の言葉に応えるように、大盾の輝きが増し、今まで鈍色であった盾が金色に染まっていく。
 その光景に、誰もが息を呑んだ。

「何をしている!総員、リュートに回復魔法をかけ続けろ!遮音魔法が使える者は、暴走した女神を取り囲むように展開!衝撃吸収、衝撃波無効系スキル持ちも同じくだ!それ以外の者は一般市民の避難に当たれ!」

 大地母神様の大盾が光り輝き形を変えていく光景を見守っていた一同に、テオ兄様からビリビリと空気を震わせるくらい鋭く大きな怒号が飛ぶ。
 弾かれたように人々が動き出し、リュート様が支える巨大な黄金の盾は先程よりも大きなものに変化を遂げ、盾の周囲に出現した無数の翼が衝撃波から全てを守るように広がった。
 1人で支えるにはあまりにも大きな盾に、すぐさま二人の兄のフォローが入る。

「ロン、リュート、共に支えるぞ」
「了解ですよ、副団長」
「……ははっ!兄弟総力戦ってね!」

 これで怖いものなんてねーなというように、リュート様が笑い、彼を中心に3人で大きな盾を支えている。
 リュート様たちは大量に魔力を消費しているのか、時折苦しそうに顔を歪める。
 しかし、それでも余力のある様子が伺えて安心してしまいます。
 何とも言えない安堵感に、体から力が抜けそうになる。
 気を引き締めましょう。
 いまはまだダメですよ、私!

 先程より激しく泣きわめく声の衝撃波は、大盾に無効化されているのか、プレッシャーも感じられない。
 これならいける?
 腕の中の春の女神様も、市民の避難経路を確保することに専念しているようで、大きな瞳が何かを見ているように忙しく動いていた。

 黒騎士様たちもリュート様の回復に専念するようになり、ようやく力の均衡がとれたようで、先程までの悲壮感はない。

 いまだ泣き続ける恋の女神様───

 ただ泣くだけでこれだけの被害だということに驚きを隠せませんが……
 泣けば、何かが変わるのですか?
 不意に心に浮かんだ言葉は、私の心に猛烈な怒りを呼び起こした。
 リュート様に謝りたかったと言っていましたね。
 でも、そのために沢山の人を巻き込んだというのは……

「身勝手すぎますよね」

 私の口からこぼれ落ちた言葉は、意外にも冷たい響きで……驚いた春の女神様が私を見上げてくる。

「春の女神様、恋の女神様のところまで直通ルートを引けますか?」
「できる……けど……ルー?」
「泣くのを止めてきます」

 私の決意のこもった表情を見て、春の女神様は一瞬目をまんまるにしてから、花がほころぶように愛らしい笑みを浮かべた。

「……あいっ!」

 にぱっ!と笑った春の女神様は、すぐに意識を集中させて蔦と春の花々で彩られた人が1人通れるだけの通路を、恋の女神様に向けてまっすぐ伸ばす。

「行ってきますね!」
「あいっ!まってるの!」

 春の女神様をグレンタールの背に預けた私は、彼女が作ってくれた通路めがけて走り出す。
 先程より体が軽くなる感覚……どうやらグレンタールが魔法をかけてくれたようですね、さすがはリュート様のお馬さん!スゴイですね!
 私が走り出したのが見えたのか、驚いた表情のリュート様が私の名を呼んだので、横を走り抜ける瞬間だけではあったが、思いをこめて彼の目を見つめる。

「……ったく!怪我したら承知しねーからな!」

 リュート様の魔法陣が私の体を幾重にも取り囲んで、守られているのだと感じた。
 本当なら怒られても仕方がないことをしようとしているのに、心配かけているとわかっているのに、それでも私はこれを見過ごす訳にはいかない。
 大切な人たちの余力がある内に動かなければ、最善をつくさなければとひた走る。

 通路を抜けた先に、泣きわめく恋の女神様がいた。
 私の体を取り囲む魔法陣が、彼女の衝撃波を受けて壊れていくけど……それほど時間は必要ありません。
 この一瞬で十分です!

 一歩大きく踏み出した私は、右手の拳にぐっと力を入れて握りしめる。

「いい加減にしなさいっ!」

 私の怒りの声と共にゴツンッ!と鈍い音が響き、今まで泣き喚いていた彼女が驚きのあまり、ゲンコツをくらった頭を両手で押さえて動きを止めた。
 それと同時に、辺りを破壊しつくそうとしていた衝撃波が、嘘のように消えてしまう。
 涙に濡れたその瞳を、呆然と向けてくる恋の女神様……

「どれだけの人に迷惑をかければ気が済むのです!貴女はリュート様に謝りたいと言いました。ですが、その為にこれだけ沢山の人を巻き込む必要がどこにあったのです?」
「だ……だって……」

 反論はあとでお願いします。
 今は言わせていただきますよっ!

「貴女のわがままを叶えるために尽力してくださった方々の命を脅かすなど言語道断!力ある者としての自覚がなさすぎます!」

 叱りつけられている恋の女神様は、怯えたように体を震わせる。
 弱い者いじめをしている気分になったけれども、この方は神であり、今回これだけの人たちの命を危険に晒したのですから容赦してはいけないと、己を奮い立たせた。

「貴女が心のままに泣き喚いた結果を御覧なさい」

 ぐいっと引っ張り立たせて、周囲を指さして彼女に見るように促す。
 このイベントの為にきれいに飾り付けられていた会場は見るも無残に切り刻まれ、周囲に植えられていた花々は跡形もなく散り、樹木は根本から倒れていた。
 一見すると、ハリケーンでも通過したような有様である。

「今のところ死者はでておりません。しかし、けが人が多数でていることでしょう。これに対しての責任をどう取るおつもりですか」

 呆然と辺りを見渡す恋の女神様に対し、私は静かに語りかける。
 感情のままに怒鳴りつけるのではなく、怒りをねじ伏せて、できるだけ冷静に言葉を紡いだ。

「力ある者としての自覚の欠如。幼いからといって許される範囲はとっくに超えております。力がある者にはそれ相応の覚悟と責任が伴うはずです」

 己の強大な力に溺れること無く強い心で制御し、その力故に苦しい立場に追いやられ、心無い言葉という無数の刃に切りつけられようとも、決して腐ること無く真っ直ぐ前を見つめ続ける……
 そんな彼の姿を知っているからこそ、己のためだけにふるわれた強大な力が許せなかった。

「大きすぎる力により、恐れられ、心無い言葉を投げかけられて心に負った傷の痛みも感じなくなるくらい麻痺させてしまい、それでも誰かの為に、守るために力を使う方を間近で見てまいりましたから、こういう力の使い方をする貴女を許せないのです」

 きつく睨みつけて彼女にそう言い放てば、彼女の瞳に再び涙が溜まっていく。

「泣きますか?泣けば誰かが助けてくれるのですか?貴女の思う通りにことが運びますか?だったら、貴女は幸せですね。泣いても、喚いても……変わらないことなどたくさんあります」

 思い出す薄暗い部屋。
 陽の光が恋しくて外に向かって手を伸ばし……怖くなって握り込む。
 届かない、誰にも───

 誰か、私の方を見て、声に答えて……

 孤独の中で、何度そう願っただろう。
 折角会話ができても、つきまとう罪悪感に押しつぶされそうになり、薄暗い部屋に逃げ帰る。

 泣き喚いたら何か変わったのでしょうか。
 それこそ、物語のルナティエラのように───

「なんじゃ……貴様は……リュートに……大事に守られているだけで、何でも思い通りになるではないか!」
「守られてるだけだったら、ルナがそこに1人でいるわけねーだろ」

 大盾の必要がなくなったからか、リュート様はテオ兄様に盾を預けてこちらに歩いてきていた。
 地面に音を立てて流れ落ちる血に、息が詰まりそうになる。
 かなり深い傷があるのでしょう……止まる気配がありません。

「ケガするかもしんねーのに、泣いてるお前を止めるために単身突っ込んだんだ。無茶しやがる……ほんと、いつも守られてばっかで格好つかねーな」
「何をおっしゃいます。リュート様が守ってくださっていたから、こんな無茶もできるんですよ?」
「ジリ貧になる前に、なんとかしようとしたんだろ?」
「ただ……泣いているだけのこの方に、一言物申したかっただけです」

 苦笑を浮かべて言う私に、リュート様は全て理解しているのか困ったように笑った。
 私の苦しみなどもお見通しというのは……ちょっとだけ困ってしまいますね。

「お前、俺に謝りたいって言ってたが、そっからまずは違うってわかれよ」

 どういう意味だろうと、恋の女神様は傷だらけのリュート様を見てから視線をそらします。
 自分の暴走の結果だと信じたくないのでしょう。

「お前がまず謝らなきゃなんねーのは、あの時ぶっ倒れた騎士科の連中であるべきだ。今回の件で言うなら、お前の企画したイベントに手を貸してくれた奴らと、参加してくれた人たちに対してだろう。怒っている俺やルナじゃねーよ」

 確かにそうですね。
 怒るから謝る……それって、何に対しての謝罪なのでしょう。
 謝罪にも色々ありますが、意味がわかっていないのに言われる「ごめんなさい」ほど腹立たしく感じるものはないです。

「さて、この後始末はどうしてくださるんでしょうね。愛の女神アーゼンラーナ」
「親として謝罪するだけでは済みそうもない。十神の1人として、それ相応の罰をあたえねばならぬ。しかし……出るタイミングを失ってしもうたわ……お主の召喚獣、すさまじいのぅ」
「召喚獣らしく、俺にとっての得難い者……でしょう?」
「違いない」

 リュート様の呼びかけと共に、彼の視線の先に光が集まった。
 まばゆい光に目が眩みそうになって、目を閉じ、光がおさまるのを待つ。
 そして、瞼をゆっくり開いた先に居たのは、バラ色の緩やかなウェーブを描く腰までの髪を靡かせ、藤色の瞳を細めてこちらを見る美女の姿であった。
 ただ、胸が……大きいですね、私と同じくらい……ということは、苦労されているのですね。

「ったく、いつもながらすげー神気だな。抑えててコレかよ」

 顔をしかめてボソリと呟くリュート様の言葉に首を傾げてみせると、視線だけで周囲を指し示されて、改めて辺りを見渡す。
 え……?皆様……大丈夫ですかっ!?
 テオ兄様もロン兄様も辛うじて立っている状態で、他の方々なんて膝から崩れ落ちています。

「え、えっと?」
「ルナは感じてねーのか?神気だよ。神々の放つ力、神力の奔流だ」

 そう言われても困ります。
 何も感じませんもの……ま、まさか、魔力調整が終わっていないから……とか?
 そんなことを考えていたら、愛の女神様に意味深に微笑まれてしまった。
 う、うん?
 何かあるのでしょうか……気になります。


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