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第二章 外堀はこうして埋められる
2-1 これからこれが日常となる朝
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【ご注意ください!】
第一章の書籍化に伴い、今後のお話に違和感を覚えたり、設定の矛盾を感じたり、何かおかしいと感じる部分も出てくると思います。
それ以上に引っかかってくるのが、地の文の印象ではないかと……
今後、校正する機会があれば徐々に修正されますが、現在の地の文はウェブ版限定ということで、ご理解いただけたら幸いです。
これからも変わらずに、更新を続けて頑張って行こうと思いますので、何卒、よろしくお願いいたします。
・・✿・❀・✿・・・・✿・❀・✿・・・・✿・❀・✿・・・・✿・❀・✿・・
まぶたに光が当たる気配と共に聞こえてくる小鳥のさえずりで、朝なのだと体が覚醒を開始する。
早く起きなければ……使用人たちが来る前に目を覚ましておかなければ、朝1人で起きることも出来ないなんて、手のかかる面倒な娘だという顔をされてしまう。
侍女たちの冷たい瞳を思い出し、私は慌てて重いまぶたをこじ開けた。
ん?
あれ?
目の前は真っ黒……布地? 黒い肌触りのいい布地に、白のパイピングがアクセントになっている、前世の日本ではよくある一般的なパジャマよね?
待って、おかしい……どうして、私のベッドに……
そこまで考えてから、パジャマを辿るようにそろりと視線を上げ、ひっと息を呑む。
窓の外から差し込む柔らかな朝日に照らされ、神々しくも見えてしまう端正な顔がそこにあった。
寝顔がいつもより少し幼く見えるのに、間違いなくイケメンです。
神様は、どうしてこの人の造形に手を抜かなかったのでしょう……スゴイと褒め称え崇め奉りたいです!
落ち着け私、それどころではないでしょう……
そうだ、そうでした、もう侯爵家の私の部屋ではなく、リュート様のお部屋だったんですよね!
『リュート様のお部屋』というフレーズに、ほんのり頬を赤くしながら、もう一度ちらりと彼の寝顔を見ると、さらに頬が熱を持つ。
……うわぁ……リュート様がいる!
私の願望でもなく、作り出した幻でもない。
もしかしたら……あの後、気を失っただけで、薄暗い牢に繋がれていて、現実が受け入れられずに都合のいい夢を見ているのかもしれないなんて考えたりもしていた。
だから、朝を迎えるのが怖かった……幸福の内に眠れたから、余計に怖かったのだ。
夢ではなかった……良かったですっ!
思わず目に涙が滲みそうになって、慌てて唇をかみしめて堪えると、そろりと起こさないようにリュート様の逞しい胸板に擦り寄る。
リュート様の良い香りと、あたたかなぬくもり……そして、とくりとくりと脈打つ鼓動が心を落ち着けてくれた。
彼は、お願いしたことをちゃんと守ってくれているのか、私の体をしっかりと抱きしめてくれている。
嬉しい……すっごく嬉しいです、リュート様!
ああ、目覚めてすぐにこんな幸せを私にくださるなんて……今まで迎えてきた朝が嘘のように幸福ですね。
イーダ様が呪いを解いてくださったせいか、今まで雁字搦めで硬さの残る思考ですら柔軟になり、スッキリ爽快な気分がします。
だからでしょうか、素直に嬉しいという喜びを感じることが出来ました。
喜びとぬくもりを感じて心から安心したからなのか、リュート様に包まれ軽やかな寝息を聞いているだけで、また眠くなってしまいそうです。
このまままどろみに身を任せてみたい欲求が生まれますが、朝ごはんの支度をしたいという気持ちも湧いてきました。
リュート様に美味しいと言っていただける朝食を作りたい。
で、でも……
もうちょっとだけ、リュート様を堪能していてもいいかしら。
こんなにじっくりと至近距離で顔を見つめるなんて、そうはできませんものね。
いつもだったら、その麗しさに顔が真っ赤になってしまって狼狽えて視線をさまよわせる結果になりますが、今は……はぁ……素敵……と、うっとりしていられます。
「ん……ルナ……」
な、なんですか?
呼びました?
夢の中に私が出てきているのですかっ!?
りゅ、リュート様……私を悶えさせてどうしたいのですかっ!
朝から瀕死になってしまいます。
いけません、これはチャンスだとうっとりしていたら、強襲を受けていきなり即死コースもありえますね。
勿体無いし、後ろ髪を引かれる思いではありますが、腕から抜け出してご飯の準備を……って、えっと……何故それほど力が入っているように見えないのに、抜け出せないのでしょう。
おかしいですね……おトイレとか行く予定であったらどうなって……
あれ? 夜中に起きたときは、すぐに解放されましたね。
ああ、そういう感知センサーみたいなものが搭載されているのですね?
…………そ ん な 馬 鹿 な !
そういうものが搭載されていたら、色々と大問題ですよ!?
乙女の色々なものが危機です!
リュート様だからこそ知られたく無いことがいっぱいあるのですから!
うぅ……リュート様の前では、できれば可愛い女の子だと思われたいですよね。
可愛いから自信を持てと言っていましたが、それとこれとは話が別です!
とても、とーってもデリケートな部分になりますからね?
そんなことを考えながら力を振り絞り、やっとのことで腕の中から抜け出した私は、ベッドから降りようとして、腰にするりと回った腕に気づく。
しっかりと鍛えられた、男らしい腕……こ、これは!
「ダメ……行くな……」
な、な、なんですか、今の低く掠れ、程よく甘くて色っぽすぎる腰に来そうな声はっ!
フリーズした私の体を少し強く引き寄せ、後ろから抱きしめてガッチリホールドしたリュート様は、耳元で甘く囁く。
「離さねぇ……まだ、ここにいてくれ……」
ひいいぃぃぃっ!
この色気たっぷりのイケメンをどうにかしてくださいぃぃっ!
朝ですよ!?
朝なのに、アダルティですよ!
耳元にかかる熱い吐息、体をシッカリホールドしている硬くも逞しい肉体の感触がとてもリアルで……だ、ダメです、意識が飛んでしまいそうです。
マズイ……このままでは本当にマズイことになりかねない。
絡んだ足、体を拘束する腕。
触れている部分が発熱したようで、全身に甘い熱が回る。
このままではいけないと体勢を変えるべく足を少し動かしただけで、逃すまいと更に足が絡んで来て離れられない。
昨日足を絡めるのは、令嬢としてはしたないぞ……みたいなこと言っていた人が、それをするのですか!?
考えていた以上の密着度にドキドキしっぱなしです!
ダメです、マズイです、朝食の準備が……と考えているのに、このぬくもりにぴったりと包まれていたい。
も、もう……
リュート様がこんなに求めてくれているのに、自分を誤魔化すことなんて無理です!
無駄な抵抗をやめます。
頑張るだけ無駄でした。
朝ごはんの支度は、起きてからにしましょう。
リュート様をもっと堪能します!
誰がなんと言おうと、もう決定ですよっ!
ですからリュート様、もっと、ぎゅうううってしてくれていいのですよ?
甘えて後ろに体を傾けると、「ん……」と、嬉しそうに笑う気配が感じられた。
「ルナ……可愛い……もっと甘えて……」
まだ寝ぼけているのか、夢の中なのかわかりませんが、可愛いおねだりが聞こえてくる。
どうしたら喜んでくださるかしら。
ごそごそと体を動かしたら、逃げないとわかっているのか腕が緩んで絡んだ足も解放される。
やっぱり、なにかのセンサー発動していませんか?
体をくるりと反転させて、リュート様と向き合う。
未だ閉じられた瞼は開く気配が無いようで、どうやらまだ夢の中らしい……
なるほど、眠っている時に発動するのですね、そのセンサーは。
つまり、リュート様が意識しているわけではないから、ギリギリセーフですね?
そうだと思っておかないと、精神衛生上色々大変です……
リュート様がまだ眠っているなら、起きているときには羞恥心でできないあれこれができるかも?
腕の中にすり寄ってリュート様の腕やら頬を撫でてみたり、胸に頬を擦り寄せてピッタリとくっついたりして、とても良い香りを堪能しながら、ベッタベタに甘えてしまうのもアリかも知れません。
しかし、いまは甘えたいより……甘えさせたいです。
こんな可愛いリュート様を癒やしたいのですよ!
ですから、再チャレンジなのです。
まだ起きないでくださいね?
加減を注意して……呼吸できないなんてことにならないように……そぉっと……
リュート様の頭を私の胸元に誘い、優しく抱え込む。
そして、ゆっくり彼のくせのない硬そうに見えるのに柔らかな髪を撫でた。
あちらは長めの人が多かったのに対し、こちらはスッキリと短い人が多いのも特徴で、指に絡みはしないけれども、なめらかな手触りは癖になりそう。
艶のある髪……羨ましいですね!
「ん……」
心地良いのかしら。
ぎゅうっと抱きついてきて、胸に擦り寄るリュート様が可愛らしくて、キュンキュンしてしまいます!
ああ、その口元の笑みが素敵です。
そんなに癒やされますか?
力加減を間違わずに済んで良かったです。
昨日は加減を間違って癒やしになりませんでしたが、こうやって手加減を覚えていけば、ちゃんと癒やしになりますよね?
胸の谷間に顔を埋めて……苦しくないかしら。
少しどころかくすぐったいのですが……すっごく幸せそうですから、このままでいましょう。
抱きつかれて癒やされるなんて意外ですが、母親が子供を腕に抱いて幸せそうにしているのにも似ていますね。
ただ……リュート様が子供だという感覚は持ち合わせていないので、やっぱりキュンッとして、ドキドキしてしまうのですけれど……
幸せな胸苦しさですね。
うっとりと髪を撫で、こうして甘えてくれることに喜びを感じてしまうのは、きっとリュート様が相手だからなのでしょう。
他の方がされたら……例えば、前世の兄なら間違いなく拳でこめかみグリグリの刑です。
もう、容赦なくグリグリしてしまいます。
結構痛いと評判ですから、撃退できるはずですもの。
「ん……柔らけぇ……」
「そうですか? それは良かったです」
「甘く……いい匂い……ふかふか……して……気持ち……い………………い?」
「うふふ、そんなにスリスリしないでください。くすぐったいです」
もう、可愛いのですからっ!
なんて思っていたら、リュート様の体が硬直しました。
何があったのでしょう……胸元からそろりと顔を上げて、自然と上目遣いになっているリュート様が貴重すぎてじっくり見つめてしまいます。
耳まで赤くなってますね。
「あ、あの……ルナ……さん?」
「おはようございます」
「お、おはよう……ではなく、この体勢は……一体……」
「リュート様への癒やしの力加減訓練です」
「違う方向へ全力投球で頑張らないでくれええぇっ!」
がばりと勢いよく起きたリュート様……残念です。
朝から試される俺って一体……って、何故か打ちひしがれていますが、癒やしにならなかったのでしょうか。
「ダメでした? 癒やされませんでしたか……」
「いや、違う、そうじゃなくてだな……い、癒やされました……すげー良かったです。マジ、ヤバイくらい至福のひとときでした」
「何故敬語なのでしょうか。でも、それだったら、そんなに勢いよく離れなくても……少し寂しいです」
「あ、悪い……」
急に離れちゃ嫌です……と、リュート様に両手を伸ばすと、咳払いをした彼はゆっくりと私の方へ再び近づき、優しく抱きしめてくれた。
眠っているリュート様に色々試してみるのも良いし、寝ぼけている時にぎゅうっとされるのもいいのですけれど、やっぱり起きている時にしてくれる、優しい抱擁が一番好きかもしれません。
大事にされている感が、とても伝わってきます。
「ったく……朝から、すげー状態だった。マジでビビった……」
「すごくドキドキしてますね」
「そりゃな……」
リュート様のドキドキを聞き、私も少しドキドキです。
心音までリンクするものなのでしょうか……
それすら嬉しく感じてリュート様の腕の中で幸せを噛み締めていると、「やれやれ」と低く呟かれた。
「こりゃ、目覚まし時計より効果あるな」
「お気に召しました?」
「……天然娘は怖いって改めて認識した」
「私は天然ではないです」
むーっと唇を尖らせて抗議したけれど、リュート様は溜め息をついているだけである。
だけど、どこか嬉しそうで……口元が緩んでいますものね。
良かった、お気に召してもらえたようです!
よし、またタイミングを見て、胸にぎゅーっとしてさしあげようと心に誓った。
第一章の書籍化に伴い、今後のお話に違和感を覚えたり、設定の矛盾を感じたり、何かおかしいと感じる部分も出てくると思います。
それ以上に引っかかってくるのが、地の文の印象ではないかと……
今後、校正する機会があれば徐々に修正されますが、現在の地の文はウェブ版限定ということで、ご理解いただけたら幸いです。
これからも変わらずに、更新を続けて頑張って行こうと思いますので、何卒、よろしくお願いいたします。
・・✿・❀・✿・・・・✿・❀・✿・・・・✿・❀・✿・・・・✿・❀・✿・・
まぶたに光が当たる気配と共に聞こえてくる小鳥のさえずりで、朝なのだと体が覚醒を開始する。
早く起きなければ……使用人たちが来る前に目を覚ましておかなければ、朝1人で起きることも出来ないなんて、手のかかる面倒な娘だという顔をされてしまう。
侍女たちの冷たい瞳を思い出し、私は慌てて重いまぶたをこじ開けた。
ん?
あれ?
目の前は真っ黒……布地? 黒い肌触りのいい布地に、白のパイピングがアクセントになっている、前世の日本ではよくある一般的なパジャマよね?
待って、おかしい……どうして、私のベッドに……
そこまで考えてから、パジャマを辿るようにそろりと視線を上げ、ひっと息を呑む。
窓の外から差し込む柔らかな朝日に照らされ、神々しくも見えてしまう端正な顔がそこにあった。
寝顔がいつもより少し幼く見えるのに、間違いなくイケメンです。
神様は、どうしてこの人の造形に手を抜かなかったのでしょう……スゴイと褒め称え崇め奉りたいです!
落ち着け私、それどころではないでしょう……
そうだ、そうでした、もう侯爵家の私の部屋ではなく、リュート様のお部屋だったんですよね!
『リュート様のお部屋』というフレーズに、ほんのり頬を赤くしながら、もう一度ちらりと彼の寝顔を見ると、さらに頬が熱を持つ。
……うわぁ……リュート様がいる!
私の願望でもなく、作り出した幻でもない。
もしかしたら……あの後、気を失っただけで、薄暗い牢に繋がれていて、現実が受け入れられずに都合のいい夢を見ているのかもしれないなんて考えたりもしていた。
だから、朝を迎えるのが怖かった……幸福の内に眠れたから、余計に怖かったのだ。
夢ではなかった……良かったですっ!
思わず目に涙が滲みそうになって、慌てて唇をかみしめて堪えると、そろりと起こさないようにリュート様の逞しい胸板に擦り寄る。
リュート様の良い香りと、あたたかなぬくもり……そして、とくりとくりと脈打つ鼓動が心を落ち着けてくれた。
彼は、お願いしたことをちゃんと守ってくれているのか、私の体をしっかりと抱きしめてくれている。
嬉しい……すっごく嬉しいです、リュート様!
ああ、目覚めてすぐにこんな幸せを私にくださるなんて……今まで迎えてきた朝が嘘のように幸福ですね。
イーダ様が呪いを解いてくださったせいか、今まで雁字搦めで硬さの残る思考ですら柔軟になり、スッキリ爽快な気分がします。
だからでしょうか、素直に嬉しいという喜びを感じることが出来ました。
喜びとぬくもりを感じて心から安心したからなのか、リュート様に包まれ軽やかな寝息を聞いているだけで、また眠くなってしまいそうです。
このまままどろみに身を任せてみたい欲求が生まれますが、朝ごはんの支度をしたいという気持ちも湧いてきました。
リュート様に美味しいと言っていただける朝食を作りたい。
で、でも……
もうちょっとだけ、リュート様を堪能していてもいいかしら。
こんなにじっくりと至近距離で顔を見つめるなんて、そうはできませんものね。
いつもだったら、その麗しさに顔が真っ赤になってしまって狼狽えて視線をさまよわせる結果になりますが、今は……はぁ……素敵……と、うっとりしていられます。
「ん……ルナ……」
な、なんですか?
呼びました?
夢の中に私が出てきているのですかっ!?
りゅ、リュート様……私を悶えさせてどうしたいのですかっ!
朝から瀕死になってしまいます。
いけません、これはチャンスだとうっとりしていたら、強襲を受けていきなり即死コースもありえますね。
勿体無いし、後ろ髪を引かれる思いではありますが、腕から抜け出してご飯の準備を……って、えっと……何故それほど力が入っているように見えないのに、抜け出せないのでしょう。
おかしいですね……おトイレとか行く予定であったらどうなって……
あれ? 夜中に起きたときは、すぐに解放されましたね。
ああ、そういう感知センサーみたいなものが搭載されているのですね?
…………そ ん な 馬 鹿 な !
そういうものが搭載されていたら、色々と大問題ですよ!?
乙女の色々なものが危機です!
リュート様だからこそ知られたく無いことがいっぱいあるのですから!
うぅ……リュート様の前では、できれば可愛い女の子だと思われたいですよね。
可愛いから自信を持てと言っていましたが、それとこれとは話が別です!
とても、とーってもデリケートな部分になりますからね?
そんなことを考えながら力を振り絞り、やっとのことで腕の中から抜け出した私は、ベッドから降りようとして、腰にするりと回った腕に気づく。
しっかりと鍛えられた、男らしい腕……こ、これは!
「ダメ……行くな……」
な、な、なんですか、今の低く掠れ、程よく甘くて色っぽすぎる腰に来そうな声はっ!
フリーズした私の体を少し強く引き寄せ、後ろから抱きしめてガッチリホールドしたリュート様は、耳元で甘く囁く。
「離さねぇ……まだ、ここにいてくれ……」
ひいいぃぃぃっ!
この色気たっぷりのイケメンをどうにかしてくださいぃぃっ!
朝ですよ!?
朝なのに、アダルティですよ!
耳元にかかる熱い吐息、体をシッカリホールドしている硬くも逞しい肉体の感触がとてもリアルで……だ、ダメです、意識が飛んでしまいそうです。
マズイ……このままでは本当にマズイことになりかねない。
絡んだ足、体を拘束する腕。
触れている部分が発熱したようで、全身に甘い熱が回る。
このままではいけないと体勢を変えるべく足を少し動かしただけで、逃すまいと更に足が絡んで来て離れられない。
昨日足を絡めるのは、令嬢としてはしたないぞ……みたいなこと言っていた人が、それをするのですか!?
考えていた以上の密着度にドキドキしっぱなしです!
ダメです、マズイです、朝食の準備が……と考えているのに、このぬくもりにぴったりと包まれていたい。
も、もう……
リュート様がこんなに求めてくれているのに、自分を誤魔化すことなんて無理です!
無駄な抵抗をやめます。
頑張るだけ無駄でした。
朝ごはんの支度は、起きてからにしましょう。
リュート様をもっと堪能します!
誰がなんと言おうと、もう決定ですよっ!
ですからリュート様、もっと、ぎゅうううってしてくれていいのですよ?
甘えて後ろに体を傾けると、「ん……」と、嬉しそうに笑う気配が感じられた。
「ルナ……可愛い……もっと甘えて……」
まだ寝ぼけているのか、夢の中なのかわかりませんが、可愛いおねだりが聞こえてくる。
どうしたら喜んでくださるかしら。
ごそごそと体を動かしたら、逃げないとわかっているのか腕が緩んで絡んだ足も解放される。
やっぱり、なにかのセンサー発動していませんか?
体をくるりと反転させて、リュート様と向き合う。
未だ閉じられた瞼は開く気配が無いようで、どうやらまだ夢の中らしい……
なるほど、眠っている時に発動するのですね、そのセンサーは。
つまり、リュート様が意識しているわけではないから、ギリギリセーフですね?
そうだと思っておかないと、精神衛生上色々大変です……
リュート様がまだ眠っているなら、起きているときには羞恥心でできないあれこれができるかも?
腕の中にすり寄ってリュート様の腕やら頬を撫でてみたり、胸に頬を擦り寄せてピッタリとくっついたりして、とても良い香りを堪能しながら、ベッタベタに甘えてしまうのもアリかも知れません。
しかし、いまは甘えたいより……甘えさせたいです。
こんな可愛いリュート様を癒やしたいのですよ!
ですから、再チャレンジなのです。
まだ起きないでくださいね?
加減を注意して……呼吸できないなんてことにならないように……そぉっと……
リュート様の頭を私の胸元に誘い、優しく抱え込む。
そして、ゆっくり彼のくせのない硬そうに見えるのに柔らかな髪を撫でた。
あちらは長めの人が多かったのに対し、こちらはスッキリと短い人が多いのも特徴で、指に絡みはしないけれども、なめらかな手触りは癖になりそう。
艶のある髪……羨ましいですね!
「ん……」
心地良いのかしら。
ぎゅうっと抱きついてきて、胸に擦り寄るリュート様が可愛らしくて、キュンキュンしてしまいます!
ああ、その口元の笑みが素敵です。
そんなに癒やされますか?
力加減を間違わずに済んで良かったです。
昨日は加減を間違って癒やしになりませんでしたが、こうやって手加減を覚えていけば、ちゃんと癒やしになりますよね?
胸の谷間に顔を埋めて……苦しくないかしら。
少しどころかくすぐったいのですが……すっごく幸せそうですから、このままでいましょう。
抱きつかれて癒やされるなんて意外ですが、母親が子供を腕に抱いて幸せそうにしているのにも似ていますね。
ただ……リュート様が子供だという感覚は持ち合わせていないので、やっぱりキュンッとして、ドキドキしてしまうのですけれど……
幸せな胸苦しさですね。
うっとりと髪を撫で、こうして甘えてくれることに喜びを感じてしまうのは、きっとリュート様が相手だからなのでしょう。
他の方がされたら……例えば、前世の兄なら間違いなく拳でこめかみグリグリの刑です。
もう、容赦なくグリグリしてしまいます。
結構痛いと評判ですから、撃退できるはずですもの。
「ん……柔らけぇ……」
「そうですか? それは良かったです」
「甘く……いい匂い……ふかふか……して……気持ち……い………………い?」
「うふふ、そんなにスリスリしないでください。くすぐったいです」
もう、可愛いのですからっ!
なんて思っていたら、リュート様の体が硬直しました。
何があったのでしょう……胸元からそろりと顔を上げて、自然と上目遣いになっているリュート様が貴重すぎてじっくり見つめてしまいます。
耳まで赤くなってますね。
「あ、あの……ルナ……さん?」
「おはようございます」
「お、おはよう……ではなく、この体勢は……一体……」
「リュート様への癒やしの力加減訓練です」
「違う方向へ全力投球で頑張らないでくれええぇっ!」
がばりと勢いよく起きたリュート様……残念です。
朝から試される俺って一体……って、何故か打ちひしがれていますが、癒やしにならなかったのでしょうか。
「ダメでした? 癒やされませんでしたか……」
「いや、違う、そうじゃなくてだな……い、癒やされました……すげー良かったです。マジ、ヤバイくらい至福のひとときでした」
「何故敬語なのでしょうか。でも、それだったら、そんなに勢いよく離れなくても……少し寂しいです」
「あ、悪い……」
急に離れちゃ嫌です……と、リュート様に両手を伸ばすと、咳払いをした彼はゆっくりと私の方へ再び近づき、優しく抱きしめてくれた。
眠っているリュート様に色々試してみるのも良いし、寝ぼけている時にぎゅうっとされるのもいいのですけれど、やっぱり起きている時にしてくれる、優しい抱擁が一番好きかもしれません。
大事にされている感が、とても伝わってきます。
「ったく……朝から、すげー状態だった。マジでビビった……」
「すごくドキドキしてますね」
「そりゃな……」
リュート様のドキドキを聞き、私も少しドキドキです。
心音までリンクするものなのでしょうか……
それすら嬉しく感じてリュート様の腕の中で幸せを噛み締めていると、「やれやれ」と低く呟かれた。
「こりゃ、目覚まし時計より効果あるな」
「お気に召しました?」
「……天然娘は怖いって改めて認識した」
「私は天然ではないです」
むーっと唇を尖らせて抗議したけれど、リュート様は溜め息をついているだけである。
だけど、どこか嬉しそうで……口元が緩んでいますものね。
良かった、お気に召してもらえたようです!
よし、またタイミングを見て、胸にぎゅーっとしてさしあげようと心に誓った。
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