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第一章
1-44 引き継がれる意志
しおりを挟むあれだけ降り注いでいた青い薔薇の花びらはとまり、どこかへ継続的に転送されているようであるが、外から何か大きな声が聞こえてきている気がする。
もしかして……
私とゼオルド様は顔を見合わせたあと、式場の窓から外を見る。
外には、ひらりひらりと舞う、青い薔薇の花びらが……
「あ……終わった」
「王都だけだろうか……まさか……」
『王国全体に、幸せのお裾分けだ!』
あはははっ! と豪快に笑う蓮太郎さんに返す言葉が見つからず、私は小さな声でそのことをゼオルド様にも告げた。
「ま、まあ……うちの領民にも届いているなら、良かった……でしょうか」
あくまでもポジティブに考えてくれるゼオルド様に感謝しながら、困った師匠へ溜め息をこぼした。
『ところで、そろそろコルのお披露目かな?』
「おそらく、そうなると思います。大分、場内も落ち着いてきましたし……さすがは、『勇者様を崇拝する会』のメンバーですよね」
『あははは! 死してなお覚えてくれているだけでも嬉しいのに……』
蓮太郎さんの言葉に、私は目を細める。
それだけの偉業を成し遂げた人なのだ、肖像画や銅像も至る所にあるのだから、忘れるはずが無い。
「皆の者、静まれ! 今から、とても重要な発表がある。ホーエンベルク夫妻が、この式場を使うことに不満を持っている者も居たと聞くが、これには事情がある。その事情を、これから話そうと思う」
私たちのところまで来て声を上げた国王陛下に、全員の視線が集まる。
さて、みんなの反応はどんなものだろうか……
若干、緊張している私の手を、ゼオルド様が握ってくれた。
それだけで勇気が湧いてくるから不思議なものだ。
「皆も知っての通り、ホーエンベルクの家は、【勇者の遺物】を管理する一族である。そして、その【勇者の遺物】は、今まで誰も目覚めさせることが出来ずにいた」
ここで話が判らないという表情をする者が居ないのは、さすがである。
やはり、【勇者の遺物】に関しては、上位貴族と言われる爵位を持つ人たちは、しっかりと勉強しているのだろう。
「しかし、数ヶ月前、その【勇者の遺物】が目を覚まし、ここにいるククルーシュ・ホーエンベルク夫人が主となったのだ。ホーエンベルク卿が保有していた【勇者の遺物】は、『錬金釜』――初代国王陛下が最期まで気にかけ、国王となる者にしか口伝として詳細を残さなかったほど、貴重な【勇者の遺物】である」
「王家に伝わる資料には、天空神様と時空神様が加護を与えた【勇者の遺物】だとされ、継承者が現れた際には、全力でサポートをするよう書き記されておりました」
国王陛下に続き、宰相閣下の声が響き渡る。
にわかには信じられない言葉だったのだろう。
一瞬にしてざわめき、『勇者様を崇拝する会』のメンバーの家族は色めきだつ。
その中には、私をペテン師でも見るような視線を送る者もいた。
『まあ、にわかには信じられないよな……そう思ったから、無理矢理にでも信じさせるために来たんだけど?』
「あ……やっぱり、そうなんですね……」
『勿論! 弟子を悪し様に言われるのが判っていてスルー出来る師匠なんていない!』
だから、任せなさいと笑う蓮太郎さんに肩をすくめて見せる。
『さて、とりあえずは、コルとモエを呼んで上げたら良い。ずっとソワソワしているから』
「そうですね……待たせてゴメンネ、コル、モエ、来て!」
『待ってました!』
「モエも一緒でいいのぉ?」
ひゅんっと飛んでくる小さな錬金釜と、その中に収まっている小動物。
しかも、人の言葉を操ることに驚き、一瞬にして式場は静まり返った。
「ただいまご紹介に与りました、ククルーシュ・ホーエンベルクです。この飛んできた小さな錬金釜が初代国王陛下の相棒だったコルと、中に入っている人の言葉を話せる可愛い子が、この国の毒素を浄化している四聖珠のモエです」
四聖珠についても、公にして良いということだったので、まとめて紹介してみる。
コルはボードに文字を書いているが、おそらく皆が見ることはできないだろう。
しかし、モエは違う。
声を出して、「私はオモチャじゃないよぉ? 本物だよぉ?」と可愛らしく、自分の存在を主張する。
国王陛下と宰相閣下、コルとモエの説明があっても、半信半疑な人はいるものだ。
全員が納得するなど無理だと考えている中で、蓮太郎さんの「そろそろかな」という声が聞こえた。
何がそろそろなのか――
そう、考えていると、式場の天井を突き破り、空から飛来した何かが深々と突き刺さる。
「せ、聖剣――カランシェール」
魔王を倒したあと、行方不明になったと言われていた聖剣で、蓮太郎さんが魔王を倒した際、共に消えたとされている剣だ。
特徴的なのは、八枚の翼を持つ剣で、それぞれの神々が力を与えた結果、現在の形となったらしい。
『よし、ちゃんと覚えていたようだ。ナイスタイミング!』
蓮太郎さんが聖剣のところへ行き、慣れ親しんだ感触を確かめるようにグリップの部分を握る。
ゆっくりと引き抜かれた聖剣は、淡く輝き、蓮太郎さんは目映い鎧に包まれた。
「お前達が信じないのは勝手だが、一応、初代国王として我が弟子となるククルに手を貸して欲しいとお願いしたんだがな……」
低く響く蓮太郎さんの声。
それは、全ての者に聞こえているようであった。
「しょ、初代国王陛下――」
国王陛下が息を呑み、私の方を確認するように見る。
「はい、どうやら……弟子のために、天から降りてきてくれたみたいです」
私の言葉を聞いた後の国王陛下は、凄まじい速さで階段を駆け下り、聖剣を持つ蓮太郎さんの前に跪く。
「お目にかかることが出来て光栄です。初代国王陛下――いえ、この世界を救った勇者様!」
それに習い、『勇者様を崇拝する会』のメンバーが蓮太郎さんを囲むように跪いた。
さすがは、『勇者様を崇拝する会』のメンバー……流れるような、無駄の無い動きである。
私もゼオルド様に抱えられて、蓮太郎さんの側へ移動した。
「レン! 神界から降りてきて大丈夫なのぉ?」
「ああ、時空神と天空神には許可を得ているし、ククルを助けてやれって言われた。ククルのおかげで、とんでもない神が動いてくれたみたいでな……神族が、多少は力を取り戻せたらしい」
思い当たる節がありすぎて、私はただ苦笑するしか無い。
しかし、あの偉大なる神は、此方の神々にも何かしらのプレゼントをしてくれたようだ。
本当に慈悲深い神である。
もし、もう一度会うことが出来たのなら、是非ともお礼を伝えたい。
「ククルとゼオルドはいいが……他の連中は頭が高くないか?」
目の前の光景が信じられずに固まっていた人たちに向かい、蓮太郎さんの容赦ない声が飛ぶ。
彼から放たれる圧力と鋭い視線に、ようやく理解したのだろう。
全員が真っ青な顔をして頭を垂れ、跪く。
蓮太郎さんが放つプレッシャーは、魔王と戦った人だけが持つ物だと言われても納得がいくほど圧倒的であった。
私は慣れていたので平気だが、あのゼオルド様でも体が反応してしまうほどだ。
「あの……私もよいのですか?」
「ゼオルドは弟子の夫だから野暮なことは言わない。それに、お願いがあるからな」
「お願い……ですか」
嫌な予感がする――その表情から察した私たちは、頬を引きつらせてこの場から逃げたしたくなったが、それもあって、わざわざ実体化したのだろう。
つまり、ただ単に弟子を祝いに来たわけでは無いと言う事だ。
「俺の聖剣を、ゼオルドに預ける。意味は……わかるよな?」
「……まさか」
「魔王が復活するかもしれない」
衝撃的な言葉だった。
全員が息を呑み、蓮太郎さんの言葉の意味を理解するべく頭を働かせる。
出来る事なら現実逃避をしたいくらいだ。
「可能性があるという段階なのですね?」
「冷静で助かる。そうだ、まだ確定ではない。しかし、極めて高いと思われる」
「それで……聖剣ですか」
「お前なら使いこなせるだろ? 以前は俺が1人で全部やってきた。でも、今回は分担する。ゼオルドが戦い、ククルがサポートに徹する。ククルの魔力は、成長すれば俺以上になるはずだ」
そんな過大評価しないでください。
あり得ないと首を振ろうとした私の目を見て、蓮太郎さんは微笑んだ。
「俺は魔王を倒しはしたが、封じることは出来なかった。アレは肉体を滅ぼしても、いずれ何らかの形で復活する可能性がある。そこでだ!」
「嫌な予感しかしないのですがっ!?」
「あははは! もう頼めるのがククルしかいないんだ。頼むよ」
「あああぁ……聞きたくない、心底聞きたくない……けど、そうしたら世界が滅ぶとか言われそうで聞くしか無いんですよね?」
「そうなんだよなぁ……アレのよしみで頼むよ」
同郷の件を出されたら弱い。
しかも、これまで沢山助けてくれたのだ。
私だけが知らないとは言えないではないかと、覚悟を決める。
「しょうがないですね……なんですか?」
「錬金術師なら一度は聞いたことがあるだろう【賢者の石】を造り、魔王を封じて欲しい」
蓮太郎さんの言葉が重く響く。
聞いたことがある……いや、日本人だった頃の記憶を持っていて、漫画やアニメやゲーム好きなら知っているアイテム名だ。
錬金術師に深く関わってくるアイテムで、古い時代には不老不死にも効果があるとされ、熱心に研究していたとも聞く。
「魔王を滅するのではなく、封じるのですか?」
「アレは、滅ぼすことが出来ない。人の中に悪意がある内は……」
それって、必ず蘇るじゃないですか……とツッコミたかったが、グッと堪えた。
「つまり、私にしか作れない……と?」
「ククルなら、いつか作れると信じてる。魔王復活の兆しはある。モエの浄化が弱体化していること。ゼオルドの領地にいる魔物の数が増加したこと。おそらく、この先は他の領地も影響が出てくるはずだ」
それが事実なら、一大事だ。
「材料は……わかっていないのですよね?」
「さすが、師匠のこと判ってるね!」
「嬉しくないですー!」
軽口を叩いてはいるが、内容は真剣な物だ。
言うほど簡単な物では無いと判っているし、私にのしかかってくる責任は大きい。
だけれど、こうなると……私はどこかで判っていたのかも知れない。
思ったほど動揺していなかった。
「人妻になったところで悪いんだけど、これだけはククルにしか出来ないから頼んだよ。あ、ゼオルドには俺の聖剣と鎧を貸して上げるから、ククルのサポートをよろしく」
「サポート……ですか」
「材料が入手しやすい物だけとは限らないだろう?」
「承知いたしました。夫として、勇者様の期待に添えるよう、身を粉にして頑張ります」
「本当に粉になったら困るから、ほどほどに――と、言うわけだ。ハラルド、判るよな?」
先ほどまでのフレンドリーな口調は消え失せ、一国の主としての顔で国王陛下を見る。
彼にかかれば、現在の国王すら子供扱いだ。
「直ちに、いかなる戦闘にも対応できるよう、各領主に通達します」
「それだけじゃない。例の連中の情報も集めてくれ」
「……アーク教のことですね」
初めて聞く単語に、私とゼオルド様は顔を見合わせる。
どうやら、私たちが考えているよりも事は進んでいるらしい。
水面下で、国王陛下達が動いていたのだろう。
「魔王を崇拝するヤバイ連中だからな。まあ……俺が、手助け出来るのもこれくらいだ。勇者だったとは言え、既に死んだ身だ。後継者と子孫に託すしか無いのは歯がゆいが……頑張ってくれ。内部で争っている暇は無いからな?」
「重々承知しております」
「それじゃあ、俺は行くよ。コル、モエ、ククルの事を頼んだ」
『お任せください!』
「モエも頑張るね!」
蓮太郎さんは、コルとモエの頭を撫でたあと、私とゼオルドを抱き寄せた。
「苦しい戦いになるかもしれない。でも、先手を打てば戦いも回避出来るだろう。頑張ってくれ……こんなことしか出来なくてすまない」
「……死したあともゆっくり出来ないなんて大変ですね。私とゼオルド様でなんとかしますから、休んでいてください」
「全力を尽くしますので、ご安心を……」
「ありがとう……勇気ある意志を継ぐ夫婦に、神々の祝福あれ! ――またな」
最高の笑みを浮かべて、蓮太郎さんは約束通り、聖剣と鎧を託して消えていった。
全てが夢のように感じるが、これが現実だ。
私がたくさんの奇跡により助けられたのは、おそらく……【賢者の石】を造るためだろう。
未だ見ぬ【賢者の石】に導かれた結果、ここにいるのだ。
「コル、モエ……私は……必ず成し遂げます。だから、手伝ってくださいね」
『勿論です、頑張りましょうマスター!』
「モエも一緒に頑張るねぇ」
仲間達がいれば、怖い物などあるはずが無い――と言いたいけれど、やっぱり、少しだけ怖い。
でも、折角助かった命だ。
弟子として師を超えたい……いや、超えてみせる!
そう固く誓い、私は父から渡された【天晶華の杖】を強く握りしめた。
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