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第一章

1-18 神殿のシステムと結婚式のプラン

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 その後、何故初代国王陛下が私の結婚資金を出すのかと父が不思議がっていたので、前世の記憶のことを話そうかと考えたのだが、思いとどまってしまった。
 原因は、姉の存在だ。
 あの姉が、このことを知ればどうするだろうかと考えるだけで身震いがした。
 両親が姉に話すとは思えないが、どこで見ているか判らないし、ストーカーのような粘着質な部分がある。
 それに付け加えて、人を殺すことも躊躇わないような人だ。
 おそらく、得た情報を逆手に取り、あることないこと言いながら、両親を苦しめる材料にするのではないだろうか。
 人の心に影響する言葉を巧みに使う姉である。
 油断はならない。
 そういうこともあり、ヘタに両親を巻き込まない方が良いと判断して、その部分は覆い隠した。
 あくまで、後継者のための支度金だという風に伝えている私から何か感じ取ったのか、ゼオルド様も話を合わせてくれたし、王太子殿下も間違い無いと頷いてくれたので助かった。

「しかし……娘が城内にとどまるのは少し心配だな……」
『大丈夫です! ボクがマスターのそばに居て、何かあったら必ず守りますから!』
「初代国王陛下が大切にしていた【勇者の遺物】であるコル様に、そう言っていただけるのなら安心です」

 心配する父に、コルが元気よく「大丈夫だ」と言ってくれる。
 それだけでも安心する両親だったが、すぐに母はキッと此方を見てお説教モードに入った。

「ククルーシュ、良いですか? 好き嫌いや夜更かしをしないようにして、ちゃんと規則正しい生活を送るのですよ? 貴女は、何かにつけてやれ文献だ、珍しい本だと言って読みあさっては夜更かしをするのですから……」
「お、お母様、わ、わかっておりますので……それ以上は……」
「いいえ、貴女は気を抜くと頑張りすぎる傾向にあるから、母は心配なのです」

 母の言葉に深く頷く父は、止めてくれる気配が無い。
 えっと……こ、これはどうすればっ!?
 何とか母を止める手立てを考えていたのだが、そんな私の耳に王太子殿下の軽やかな笑い声が響いた。

「気を抜くと頑張りすぎるとは斬新な言葉だな! いや、でも、判る気がする!」
「殿下、笑っては失礼ですわ」
「だが、ククルならやりそうだろう?」
「そうですわね」

 王太子夫妻に笑われた私は心底困ってしまったのだが、私が落とした視線の先にコルが回り込む。

『元気を出してください、マスター! でも……そういうところも前のマスターとソックリなんですね。本当に血のつながりはないのですか?』
「うちは王家の血を引いていないから……」
『雰囲気も似ているのに、不思議ですね』

 元日本人ということもあり、やはり似ているところがあるのだろうか。
 そんな疑問を抱きながらも、私を元気づけようとしているコルに感謝をした。

「ククル。貴女は自分で作っておいて、あまり食べないのですね」
「え? あ……そういえば、それどころではなかったもので……」

 気を遣ってくれたのか、ゼオルド様にも勧められて塩バタークッキーを食べるが、やはり、某お菓子メーカーを思い出す味で、本当に美味しい。
 これなら、初代国王陛下も食べ物で苦労はしなかっただろう。
 むしろ……日本の食材を作り出すことも可能なのでは?
 そんな考えが浮かぶ。
 修練を積めば見えるようになるページに、そういう品はないだろうか。
 そんなことを考えていると、父が先ほどの話を頭の中でまとめていたのだろうか、何気なく呟く。

「しかし、神々は自分を祀る神殿に干渉するくらいだと思っていたのですが、意外とみているのですね……」
「そのようだな。我々が考えている以上に、心配してくださっているのかもしれないな」

 父の言葉を聞いた国王陛下は、そう言って深く頷いた。
 この世界には、いくつか神々を祀る神殿がある。
 私が眠っている時に来ていた治療師がいる神殿も、その一つだ。
 神殿と考えるとややこしいが、日本にある病院だと考えればイメージもしやすい。
 神殿に勤める者の中で花形だと言われる治療師は医者のようなものだ。
 治療師になるには、長い期間を神殿で過ごし、修行を通じて神力に触れることで力を得る。
 しかも、神の力と使い手の波長みたいなものもあるようで、力の強さは個人差があった。
 神殿も慈善活動をしているわけではないので、治療能力が高ければ高いほどお金がかかる。
 神殿に勤める者たちの苦労を考えれば、決して高くはない治療費ではあるが、平民がおいそれと出せる金額でもない。
 最近では症状によって金額を決めたり、平民と貴族で金額を変えたりしている神殿もある。
 試行錯誤しながら時代のニーズにあわせようとする努力は感じられるし、医学という物が発達していないこの世界には、必要不可欠な存在でもあった。

「初代国王陛下との約束でもあるようだからな」
「最近では、神殿でも上位の力を習得出来る治療師が少なくなったというが、何を考えていらっしゃるのか……イマイチ読めない存在だ」

 国王陛下の言葉に続き、現状を嘆いた王太子殿下にコルが体をねじった様子を見せた。
 もしかして……首を傾げるという動作をしているつもりだろうか。

『多分それは、修行をちゃんとしていないだけでは? 力を得るために果たす責任や覚悟が足りなければ、強い力は使いこなせないと……どの神様かおっしゃっていましたよ?』
「力を得るために必要な覚悟か……確かに、無責任な者に強大な力を与えては、神殿の存続にも関わりますからね」

 コルがホワイトボードに書いた言葉を見たゼオルド様は、深く頷いて納得した様子を見せる。
 確かに生半可な人に力を与えたら、とんでもないことになるだろう。
 責任感がない人が力を悪用してしまえば、人の世はどうなるのか……それを考えて、ちゃんと管理してくれている。
 あまり人の世に干渉しないようにしていても、人々にとって生存の要となる神殿は、神族から見てもまだまだ手のかかる存在なのかもしれない。

『だからこそ、マスターにボクが託されたのです! マスターは責任感も向上心も探究心もありますから!』
「あ、ありがとうコル。でも、その……うん、頑張るけど……あまりハードルを上げないでね?」
『大丈夫です。マスターなら、やってくれると信じてますから!』

 うん、だから、ハードルを上げないでえぇぇぇっ!
 可愛いコルの無邪気な言葉に、何とも言えない物を抱える。
 いつかその期待を裏切らないか心配なのだ。

「ククルなら大丈夫よ。焦らずにいきましょう?」
「脳天気に構えているくらいが丁度良いだろう」

 王太子ご夫妻にそう言われて、少しは心が軽くなるが……やはり、責任重大だ。
 初代国王陛下が託してくれたコルに幻滅されないように、私は一生懸命に努力しよう。

「しかし……見事な物ですなぁ……ここまで美しい記念コインは、なかなか残っておりませんし……」
「うむ。この輝き……まさに、初代国王陛下に相応しい品だ。この輝きに負けないほどの結婚式にして、初代国王陛下にはご満足いただかなければ!」
「あ、あの……陛下? 私の娘の結婚式なので……」
「何を言う。初代国王陛下の後継者であれば、私の娘も同然だ」

 いや、違いますから! ――というツッコミは出来なかったが、私たち家族は全員が同じ言葉を思い浮かべていたに違いない。
 あまりにも私たち家族が似た表情をしていたからか、王太子殿下のツボにはまったようで、お腹を抱えて笑い出してしまった。
 笑い上戸ですか?

「とりあえず、結婚式のプランは我々も口を出すし、資金も出す。その免罪符もあるから、ゼオルドのように拒否はさせん」
「国王陛下……」
「お前は遠慮しすぎだが、その考えもわかる。だから、今回はお前の方が折れてくれ。女性にとって結婚式は一大イベントだぞ」
「は……はい、わかりました」

 ゼオルド様の承諾を得た国王陛下はニヤリと笑い、宰相閣下に目配せをすると、いつから準備していたのだろうと疑問に思ってしまうような量の資料を出してきた。
 父やゼオルド様は、その資料に目を通して、眩暈がするほどの金額がかかりそうな結婚式のプランに頭を抱えている。
 とりあえず、私が初代国王陛下からいただいた記念金貨でまかなう予定だが、それでもいただいた金貨袋の半分も使えないだろうと国王陛下は笑っていた。
 一応、金貨は手元に数枚だけ残し、それ以外の全てを国王陛下たちが買い取った。
 現在は買い取り金額を宰相閣下が計算しているところで、総額がいくらになったのか知るよしもない。
 全部換金したほうが裕福になるのはわかっていたのだが、初代国王陛下の心が詰まった記念金貨を、少しでも手元へ置いておきたいと思ってしまったのだ。
 コルから聞く初代国王陛下は、どこか他人ではないような感覚がして……すごく心があたたかくなる。
 記念コインを見ながら『前のマスターにソックリです!』と絶賛しているコルに、今度時間があったら、初代国王陛下がどんな人だったのか語って貰おう。
 そして、この不思議な縁を築く切っ掛けになった人を、私が生きている限り記憶にとどめておこうと考えたのである。

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