21 / 52
第一章
1-18 神殿のシステムと結婚式のプラン
しおりを挟むその後、何故初代国王陛下が私の結婚資金を出すのかと父が不思議がっていたので、前世の記憶のことを話そうかと考えたのだが、思いとどまってしまった。
原因は、姉の存在だ。
あの姉が、このことを知ればどうするだろうかと考えるだけで身震いがした。
両親が姉に話すとは思えないが、どこで見ているか判らないし、ストーカーのような粘着質な部分がある。
それに付け加えて、人を殺すことも躊躇わないような人だ。
おそらく、得た情報を逆手に取り、あることないこと言いながら、両親を苦しめる材料にするのではないだろうか。
人の心に影響する言葉を巧みに使う姉である。
油断はならない。
そういうこともあり、ヘタに両親を巻き込まない方が良いと判断して、その部分は覆い隠した。
あくまで、後継者のための支度金だという風に伝えている私から何か感じ取ったのか、ゼオルド様も話を合わせてくれたし、王太子殿下も間違い無いと頷いてくれたので助かった。
「しかし……娘が城内にとどまるのは少し心配だな……」
『大丈夫です! ボクがマスターのそばに居て、何かあったら必ず守りますから!』
「初代国王陛下が大切にしていた【勇者の遺物】であるコル様に、そう言っていただけるのなら安心です」
心配する父に、コルが元気よく「大丈夫だ」と言ってくれる。
それだけでも安心する両親だったが、すぐに母はキッと此方を見てお説教モードに入った。
「ククルーシュ、良いですか? 好き嫌いや夜更かしをしないようにして、ちゃんと規則正しい生活を送るのですよ? 貴女は、何かにつけてやれ文献だ、珍しい本だと言って読みあさっては夜更かしをするのですから……」
「お、お母様、わ、わかっておりますので……それ以上は……」
「いいえ、貴女は気を抜くと頑張りすぎる傾向にあるから、母は心配なのです」
母の言葉に深く頷く父は、止めてくれる気配が無い。
えっと……こ、これはどうすればっ!?
何とか母を止める手立てを考えていたのだが、そんな私の耳に王太子殿下の軽やかな笑い声が響いた。
「気を抜くと頑張りすぎるとは斬新な言葉だな! いや、でも、判る気がする!」
「殿下、笑っては失礼ですわ」
「だが、ククルならやりそうだろう?」
「そうですわね」
王太子夫妻に笑われた私は心底困ってしまったのだが、私が落とした視線の先にコルが回り込む。
『元気を出してください、マスター! でも……そういうところも前のマスターとソックリなんですね。本当に血のつながりはないのですか?』
「うちは王家の血を引いていないから……」
『雰囲気も似ているのに、不思議ですね』
元日本人ということもあり、やはり似ているところがあるのだろうか。
そんな疑問を抱きながらも、私を元気づけようとしているコルに感謝をした。
「ククル。貴女は自分で作っておいて、あまり食べないのですね」
「え? あ……そういえば、それどころではなかったもので……」
気を遣ってくれたのか、ゼオルド様にも勧められて塩バタークッキーを食べるが、やはり、某お菓子メーカーを思い出す味で、本当に美味しい。
これなら、初代国王陛下も食べ物で苦労はしなかっただろう。
むしろ……日本の食材を作り出すことも可能なのでは?
そんな考えが浮かぶ。
修練を積めば見えるようになるページに、そういう品はないだろうか。
そんなことを考えていると、父が先ほどの話を頭の中でまとめていたのだろうか、何気なく呟く。
「しかし、神々は自分を祀る神殿に干渉するくらいだと思っていたのですが、意外とみているのですね……」
「そのようだな。我々が考えている以上に、心配してくださっているのかもしれないな」
父の言葉を聞いた国王陛下は、そう言って深く頷いた。
この世界には、いくつか神々を祀る神殿がある。
私が眠っている時に来ていた治療師がいる神殿も、その一つだ。
神殿と考えるとややこしいが、日本にある病院だと考えればイメージもしやすい。
神殿に勤める者の中で花形だと言われる治療師は医者のようなものだ。
治療師になるには、長い期間を神殿で過ごし、修行を通じて神力に触れることで力を得る。
しかも、神の力と使い手の波長みたいなものもあるようで、力の強さは個人差があった。
神殿も慈善活動をしているわけではないので、治療能力が高ければ高いほどお金がかかる。
神殿に勤める者たちの苦労を考えれば、決して高くはない治療費ではあるが、平民がおいそれと出せる金額でもない。
最近では症状によって金額を決めたり、平民と貴族で金額を変えたりしている神殿もある。
試行錯誤しながら時代のニーズにあわせようとする努力は感じられるし、医学という物が発達していないこの世界には、必要不可欠な存在でもあった。
「初代国王陛下との約束でもあるようだからな」
「最近では、神殿でも上位の力を習得出来る治療師が少なくなったというが、何を考えていらっしゃるのか……イマイチ読めない存在だ」
国王陛下の言葉に続き、現状を嘆いた王太子殿下にコルが体をねじった様子を見せた。
もしかして……首を傾げるという動作をしているつもりだろうか。
『多分それは、修行をちゃんとしていないだけでは? 力を得るために果たす責任や覚悟が足りなければ、強い力は使いこなせないと……どの神様かおっしゃっていましたよ?』
「力を得るために必要な覚悟か……確かに、無責任な者に強大な力を与えては、神殿の存続にも関わりますからね」
コルがホワイトボードに書いた言葉を見たゼオルド様は、深く頷いて納得した様子を見せる。
確かに生半可な人に力を与えたら、とんでもないことになるだろう。
責任感がない人が力を悪用してしまえば、人の世はどうなるのか……それを考えて、ちゃんと管理してくれている。
あまり人の世に干渉しないようにしていても、人々にとって生存の要となる神殿は、神族から見てもまだまだ手のかかる存在なのかもしれない。
『だからこそ、マスターにボクが託されたのです! マスターは責任感も向上心も探究心もありますから!』
「あ、ありがとうコル。でも、その……うん、頑張るけど……あまりハードルを上げないでね?」
『大丈夫です。マスターなら、やってくれると信じてますから!』
うん、だから、ハードルを上げないでえぇぇぇっ!
可愛いコルの無邪気な言葉に、何とも言えない物を抱える。
いつかその期待を裏切らないか心配なのだ。
「ククルなら大丈夫よ。焦らずにいきましょう?」
「脳天気に構えているくらいが丁度良いだろう」
王太子ご夫妻にそう言われて、少しは心が軽くなるが……やはり、責任重大だ。
初代国王陛下が託してくれたコルに幻滅されないように、私は一生懸命に努力しよう。
「しかし……見事な物ですなぁ……ここまで美しい記念コインは、なかなか残っておりませんし……」
「うむ。この輝き……まさに、初代国王陛下に相応しい品だ。この輝きに負けないほどの結婚式にして、初代国王陛下にはご満足いただかなければ!」
「あ、あの……陛下? 私の娘の結婚式なので……」
「何を言う。初代国王陛下の後継者であれば、私の娘も同然だ」
いや、違いますから! ――というツッコミは出来なかったが、私たち家族は全員が同じ言葉を思い浮かべていたに違いない。
あまりにも私たち家族が似た表情をしていたからか、王太子殿下のツボにはまったようで、お腹を抱えて笑い出してしまった。
笑い上戸ですか?
「とりあえず、結婚式のプランは我々も口を出すし、資金も出す。その免罪符もあるから、ゼオルドのように拒否はさせん」
「国王陛下……」
「お前は遠慮しすぎだが、その考えもわかる。だから、今回はお前の方が折れてくれ。女性にとって結婚式は一大イベントだぞ」
「は……はい、わかりました」
ゼオルド様の承諾を得た国王陛下はニヤリと笑い、宰相閣下に目配せをすると、いつから準備していたのだろうと疑問に思ってしまうような量の資料を出してきた。
父やゼオルド様は、その資料に目を通して、眩暈がするほどの金額がかかりそうな結婚式のプランに頭を抱えている。
とりあえず、私が初代国王陛下からいただいた記念金貨でまかなう予定だが、それでもいただいた金貨袋の半分も使えないだろうと国王陛下は笑っていた。
一応、金貨は手元に数枚だけ残し、それ以外の全てを国王陛下たちが買い取った。
現在は買い取り金額を宰相閣下が計算しているところで、総額がいくらになったのか知るよしもない。
全部換金したほうが裕福になるのはわかっていたのだが、初代国王陛下の心が詰まった記念金貨を、少しでも手元へ置いておきたいと思ってしまったのだ。
コルから聞く初代国王陛下は、どこか他人ではないような感覚がして……すごく心があたたかくなる。
記念コインを見ながら『前のマスターにソックリです!』と絶賛しているコルに、今度時間があったら、初代国王陛下がどんな人だったのか語って貰おう。
そして、この不思議な縁を築く切っ掛けになった人を、私が生きている限り記憶にとどめておこうと考えたのである。
28
お気に入りに追加
725
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】
うすい
恋愛
【ストーリー】
幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。
そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。
3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。
さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。
【登場人物】
・ななか
広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。
・かつや
不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。
・よしひこ
飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。
・しんじ
工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。
【注意】
※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。
そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。
フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。
※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。
※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
転生特典:錬金術師スキルを習得しました!
雪月 夜狐
ファンタジー
ブラック企業で働く平凡なサラリーマン・佐藤優馬は、ある日突然異世界に転生する。
目を覚ますと、そこは見知らぬ森の中。彼に与えられたのは、「錬金術師」としてのスキルと、手持ちのレシピブック。
素材を組み合わせてアイテムを作る能力を持った優馬は、錬金術を駆使して日々の生活を切り開いていく。
そんな彼のもとに集まったのは、精霊の力を持つエルフの少女・リリア、白くフワフワの毛並みを持つ精霊獣・コハク。彼らは王都を拠点にしながら、異世界に潜む脅威と向き合い、冒険と日常を繰り返す。
精霊の力を狙う謎の勢力、そして自然に異変をもたらす黒い霧の存在――。異世界の危機に立ち向かう中で、仲間との絆と友情を深めていく優馬たちは、過酷な試練を乗り越え、少しずつ成長していく。
彼らの日々は、精霊と対話し、魔物と戦う激しい冒険ばかりではない。旅の合間には、仲間と共に料理を楽しんだり、王都の市場を散策して珍しい食材を見つけたりと、ほのぼのとした時間も大切にしている。美味しいご飯を囲むひととき、精霊たちと心を通わせる瞬間――その一つ一つが、彼らの力の源になる。
錬金術と精霊魔法が織りなす異世界冒険ファンタジー。戦いと日常が交錯する物語の中で、優馬たちはどんな未来を掴むのか。
他作品の詳細はこちら:
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/270920526】
中でトントンってして、ビューってしても、赤ちゃんはできません!
いちのにか
恋愛
はいもちろん嘘です。「ってことは、チューしちゃったら赤ちゃんできちゃうよねっ?」っていう、……つまりとても頭悪いお話です。
含み有りの嘘つき従者に溺愛される、騙され貴族令嬢モノになります。
♡多用、言葉責め有り、効果音付きの濃いめです。従者君、軽薄です。
★ハッピーエイプリルフール★
他サイトのエイプリルフール企画に投稿した作品です。期間終了したため、こちらに掲載します。
以下のキーワードをご確認の上、ご自愛ください。
◆近況ボードの同作品の投稿報告記事に蛇補足を追加しました。作品設定の記載(短め)のみですが、もしよろしければ٩( ᐛ )و
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる