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第一章
1-2 【勇者の遺物】
しおりを挟む色々と語って聞かせてくれていた父は、ふと何かを思い出したように会話を止め、急に唸り出す。
いったい何事かと母と見つめていたら、おぼろげな記憶をたぐり寄せるように父が口を開く。
「確か……ホーエンベルク伯爵家は、勇者の遺物を保管している一族では無かっただろうか」
「そうなのですか?」
「遺物の管理をしているなら、婚約者候補なんて沢山居たでしょうに……」
私と母が驚いて顔を見合わせた後にそういうと、父は緩く左右へ首を振る。
「いや……ホーエンベルク卿が所持している遺物は使い物にならなくてな。いわゆる、勇者様だから使えた代物だったのではないかという遺物なのだ」
なるほど……と、納得してしまった。
使い物にならなければ、遺物であっても意味が無い。
父がハッキリと記憶していなかったのも、このせいだろう。
「初代国王である勇者様のみが使える遺物……本来は、どんな力を宿していたのだろうな」
「興味がありますが、神々の加護を受けし力ですから、私たちには考えも及ばないような力なのでしょうね……」
「勇者様が何本か所持していた剣の内、青い剣の遺物が持つ力を見たことがある。山が裂けるのではないかというほど偉大で、危険な力を秘めた物であった」
「まあ……恐ろしい力ですわね」
父と母の会話を聞きながら、この国の初代国王を思い出す。
城に行かなくても街の広場には銅像が飾られているので、そんな姿がすぐに想像することができる。
それくらい、今でも人々に愛されている名君だ。
初代国王の名はレン・マイヤー。
彼は神々の加護を与えられ、見事魔王を討ち取った勇者である。
そんな彼は、後の世を心配して自分が得た加護を子孫や友人に残し、子々孫々と受け継いでいくように言い残した。
その遺言通りに彼の子供と親友達が彼の遺物を管理し、未だに守り続けているのだ。
彼が残した遺物は使える物も多く、多大なる効果を発揮して人々を守っているが、中には全く使えない、使い方すらわからない物まで存在した。
最近では、それを総じて『ハズレ遺物』と呼んでいるそうだ。
全く失礼な話である。
「でも、未だにそれを守り続けているのは、並大抵な努力では無いと思います」
「そうだな。周囲になんと言われようとも、守り続ける姿勢は素晴らしい」
父も笑顔でそう言ってくれた。
初代国王が逝去してから五百年。
当時とあまり代わり映えしていない世界は、常に魔物の脅威にさらされていた。
時には大きな国が魔物に滅ぼされることもあったが、世界が恐慌状態に陥っても守り通してきたのである。
私には想像もつかない苦労をしたことだろう。
使えないと言われる遺物の中には、日本に関わる物が無いだろうか。
もしかしたら、私なら使い方がわかるかもしれないという淡い期待も込めて、早く夫となる人が治める領地へ行ってみたくなった。
「では、本当にこの婚約を決めてしまって良いのだな? むしろ、すぐに結婚という話になって領地へ旅立つ事になりそうだが……」
「そうなのですか?」
「うむ。彼は忙しい身の上だ。今回は国王陛下から呼び出しがあって王都へ来たのだが、その案件も、すぐに結果が出るようだというのでな」
「領地へ戻ってからお互いに準備をして……というわけにもいかないのですね」
私の言葉にしゅんとしてしまった父が可哀想になってきたので、比較的明るい声を出して微笑む。
何も責めているわけではないのだ。
「お父様もお母様もご心配には及びません。嫁ぎ先に1人で向かうのではなく、旦那様となる方が迎えに来てくださるだけでも助かりますもの」
「まあ……そうなのだがなぁ」
我が国では春から夏前に定例会議が行われる。
そこで、一年間の成果や、様々な情報を交換するのだ。
時には、良縁を探して大規模なパーティーに参加する若者がいたり、領地の問題を解決するべく知恵を出し合う場を設けたりしていた。
今年も、その期間が終わってしまったので、貴族達は領地へ戻ろうと動き出していた。
私と両親も祖父母に任せている領地が心配になり、今年は戻る予定にしていたのだ。
昨年は腕の良い治療師が王都にしかいないこともあり、リハビリのために王都へ残ったが、これ以上の快復は見込めないし、体力も随分戻ったので良い機会だという話をしていたのである。
心配なのは姉夫婦だが、お目付役を父の弟である叔父夫婦が買って出てくれた。
それだけでも安心なのだが、どうやら社交界で噂になりすぎたせいで、周囲の貴族からも自然と視線を集めるため、どんな小さな事でも噂になってしまうようである。
人の噂とは本当に怖いものだと身震いした。
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