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第一章

1-10 只今、建築中

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 それから、延焼の恐れが無い場所へ作成した焚き火を設置し、残りわずかな鉄で鉄鍋を作業台で作って設置した。
 その鍋で先ずは井戸水を布で濾過して鍋へ注ぎ、煮沸して飲み水を作る。

「何か……リアルと【ゲームの加護】が上手い具合に噛み合って、楽が出来るところはあるけれども、ちゃんとしないといけないこともあって、ゲームじゃ無いんだって実感できるわ」
「ゲームは何度死んでもやり直せますが、リアルではそうは行かないでしょう?」
「そうね……慎重に行動しないといけないわ……ゲーム内にいるみたいな感覚でやっていたら、すぐに死んじゃうよね」
「それは、【ゲームの加護】の弊害かもしれませんね」

 確かに豆太郎の言う通りだと考えたユスティティアは、深く溜め息をついた。
 切り株の椅子に腰掛け、焚き火を見つめているだけで火のぬくもりを感じるし、近づきすぎれば熱くて火傷してしまう。
 それは、現実世界では当たり前のことだ。

「これも、装備が充実してきたら……あまり熱さを感じなくなるのかな?」
「おそらくは……」
「それはそれで怖いね」
「ポジティブに、強くなったのだと考えましょう!」
「だね……前向きに考えよう!」
 
 豆太郎の頭をヨシヨシと撫でたユスティティアは、夕食の準備をしようと解体用ナイフで魚をアイテムに変換してみる。
 すると、魚の骨と魚肉がアイテムボックスに入ってきた。

「魚の骨……あ、肥料の材料にするんだっけ?」
「骨粉は使えますね。でも、マスター……農作業もするのですか?」
「安定した食糧の供給は必須でしょ?」
「確かにそうですね、美味しい野菜が食べたいです」
「私も!」

 沸騰してきた鍋を見ながら、一人と一匹は他愛ない会話に花を咲かせる。
 その間にも、作業台では大量のアイテムを作成中だが、さすがに時間がかかっているようだ。
 飲み水を確保した後は、再び鍋に水を満たして海藻と魚肉をミンチ状に加工した物を入れる。
 魚肉のミンチはスキルが無くても習得出来る数少ない調理レシピだ。
 この魚肉のミンチから、様々な加工をほどこしていくのだが、彼女は夕食の一品にすることを思いついたらしい。
 本来は、ペットの餌や釣り餌になるのだが、勿論、食用としても活用できる。
 作業台で作ったすりこぎに入れておけば勝手に出来上がってくるのだから、使わない手は無いと考えたのだろう。
 つまり、完全にゲームシステムに依存しているわけでは無く、リアルも織り交ぜて調理しているというわけだ。
 
 食後のデザートは、豆太郎が見つけてきた木の実があるので、作業台で作ったばかりのテーブルを設置して出来上がった物から並べていく。
 無人島にしては充実した食事内容だと、ユスティティアと豆太郎は笑い合う。

「ヘタしたら、海藻と砂でジャリジャリした貝のスープになっていたかも……」
「貝は砂抜き中ですし、明日の朝が楽しみですね。魚介類は豊富ですし、魔物の肉も食べられそうですし、あとは――」
「やっぱり野菜が欲しいわよね! その辺りの草むらを刈ったら、種が出てこないかな?」
「どこまで【ゲームの加護】が反映されているかわかりませんし、試してみるのが良いかもしれません」
「そうね。あ……そういえば、帰ってきたときに土台が出来ていたから、作業台は範囲外でも稼働してくれるのね」
「壊れもしませんでしたし、範囲外に行った場合の弊害はないのでしょうか」
「んー……あと考えられるのは、新たに作業命令を受け付けない可能性があることくらいかな」
「一人だったら問題ないデメリットですね」
「あはは……確かに……」

 鍋のスープを煮込んでいる間に、ユスティティアは食事に必要な木製の椀とフォークやスプーンを作り、ペット専用の水入れと餌入れを作って設置する。
 どうやら、豆太郎専用の容器らしい。
 この【蒼星のレガリア】専用のAIは、初心者救済ナビだけではなく、戦闘サポートシステムも搭載されている。
 つまり、ナビ兼ペットというカテゴリーに分類されるようだ。
 
「もうちょっと時間がかかるかな? ……よし、その間に整地しちゃおう!」
「どこに家を建てるんですか?」
「んー……そうねぇ。この作業台と井戸の方に出入り口を作りたいから、ここから……このあたりまでかな?」
「結構広めに取りますね」
「作業場を一階に作ろうと思って! やっぱり、雨風がしのげるようにしたいし……」
「そうですよね。濡れながら作業はしたくないですよね」
 
 ずぶ濡れになりながら作業をする光景を頭に描いたのか、ユスティティアと豆太郎は同じような苦い笑みを浮かべていた。
 そうこうしている内に出来たトンボと家の基礎となる土台を作業台から取り出し、先ずは地面を綺麗にならしていく。
 軽く一回ならすだけで、面白いほど平面になる。
 本来なら重労働のはずだが、やればやるほど平らになる大地を見ていると気持ちが良いのか、彼女のテンションが上がってきた。

「これは……ヤバイ、ずっとやっちゃいそう!」

 どうやら、足元の高さに合わせて地面を整えているらしく、整地した場所に立って範囲を広げるようにすると綺麗に出来る。

「うわぁ……すごく平らですね! しかも、地面がかたーい!」

 前脚を使って、テシテシと叩いている姿が可愛らしくて、思わずユスティティアの頬が緩んでしまう。
 システム関係のことを話しているときは丁寧な言葉で話をするが、素は可愛らしくて好奇心旺盛なやんちゃっぷりを発揮する。
 そこがまた可愛いのだと、ユスティティアは豆太郎を抱き上げてスリスリしたい衝動を抑えつつ、作業を続けた。

「よし、これくらいでいいかな? 土台を設置ー!」

 アイテム欄から土台を選ぶと、青く輝く土台のフォログラムが現れる。
 設置出来る場所は青、障害物があったり、強度に問題があったりする場合は赤になるのだ。

「綺麗に整地できたから、どこにでも置けちゃう! 拡張性を考えるなら……この辺りかなぁ」

 トントントンと軽快に土台を置き、続いて壁を設置していく。
 部屋の間取りを考えていたので、かなりスムーズに置けているが、これは様々な家を見学してきたから成せる業だ。
 窓を入れる壁、扉をはめ込む壁、空調などを考えて配置し終えると、屋根を設置して完成である。

「うわぁ……マスター、見事な……豆腐建築ですね」
「それは言わないの! ほ、ほら、屋根って……難しいし……拡張性を考えているから、これが正解なのよ」
「拡張性……」
「四角い家は、邪魔になる物が無くて、色々手を加えやすいでしょ?」
「建築センスが迷子なんですね」
「うぅぅ……みんなに頼んでいたから……そんなものが私にあるはずないでしょうっ!?」

 彼女が前世で特殊なプレイスタイルになった一端は、この建築センスが欠片も無かったからだ。
 内装や部屋の間取りに関してはセンスを磨かれてきたのだが、屋根を張るのが何よりも苦手で、家の外装が残念なことになるのである。
 仲間内からは「のっぺり建築」「豆腐建築の申し子」と呼ばれることも多かった。
 
「楽しみの内装が、今のレベルだと殆ど出来ないのが痛いわよね……テーブルと椅子。ベッドは……布団が……」
「今日は雑魚寝ですね」
「お豆さんを布団にして寝るからいいもん」
「しょうがないですねぇ、特別ですよ?」
「わーい! お豆さん大好きー!」

 ぎゅーっと抱きしめていると、溶鉱炉の火が消えた。
 どうやらガラスが出来たらしい。
 ガラス……と、中から取りだして窓に嵌めてみると、吸い込まれるようにカコンと音を立てて綺麗に収まる。
 これで、雨風に悩まされることは無くなったと、豆太郎と喜び、良い具合にスープも出来た頃だろうと焚き火へ戻ることにした。


 
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