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第一章
1-9 意外な収穫
しおりを挟む「とりあえず、拠点を確保しないと!」
自分の【ゲームの加護】を発動させたことにより、冷静に現状を考え、まず必要なのは活動拠点である。
サバイバルゲームでは基本中の基本になるが、近くに水があり、できるだけ平らな場所が望ましい。
それこそ、採取できる素材などの距離感も考えて拠点の位置を決めるのだが、彼女には限られた空間しか無い上に、ヘタに動けば死ぬ可能性もある。
ゲームであれば無理をしてでも良い場所を――と探索するが、これは現実だ。
いくら、【ゲームの加護】があっても、命は一つである。
それなら――と、彼女はこの場所に拠点を作ろうと、次の工程を頭の中で組み立てていく。
その中で、一つマズイことに気がついた。
彼女は、貴族の令嬢らしいドレス姿なのだ。
いつもよりも着飾っていなくても、ドレスで採取はあり得ない。
「この姿はちょっと厳しいわね。お豆さん、クローゼットから外見変更用装備を出して貰える?」
「了解しました! どれがいいですか?」
豆太郎がサポートしてくれたことにより、新たなウィンドウが開いて、煌びやかな衣装の一覧が表示される。
この衣装は、クラフト作成やクエスト報酬で得られる物では無く、基本的に課金をして得るもので、専用のクローゼットが存在する。
彼女が現在選択している【蒼星のレガリア】は、武器防具の課金は無く、武器や防具を強化するアイテムやポーション、外見装備と家具に課金をするスタイルであった。
その辺りにこだわらず時間をかければ、無課金でも楽しめるゲームではあるが、課金している人だけが受けられる恩恵という物も存在していた。
課金購入の家具と外見変更用装備は、特殊な効果が付与されていたのである。
何が特殊なのかというと、インテリアや装備に回復効果がついていたり、採取などのスピードや採取量UPのバフであったり、比較的便利な効果が付与されていた。
「確か、採取量と採取速度UP効果のついた衣装があったはず……あ、これこれ! だけど……えっと……リアルで着るには、ちょっと勇気がいる……かな」
「そうですか? マスターはいつも平気で着ていたはずですが? 他の衣装はもっと派手だし露出度が……」
「たーしーかーにー」
非現実的なゲーム空間では、いつもと違うオシャレをしてみたかった彼女は、フリフリの可愛い系ではなく露出度があるセクシー系に走ったのだ。
現実世界では恥ずかしくて着られないデザインが多いのも、そのせいである。
全体のデザインを通して見ても露出度がそこそこあり、ミニスカートやショートパンツ、ファンタジー系にありがちな『セクシーだけど、ちょっと可愛い系』な衣装や、和風の衣装が多い印象だ。
素材集めに最適とされる効果がついている衣装は、首から肩を出していて上はピッタリとした素材でゴテゴテと飾り付けておらず、スッキリとしている。
下は、コルセット風のミニスカートに、ホットパンツ。
ニーハイソックスとショートブーツという出で立ちだ。
ゲームシステムのままであれば、採取したアイテムは自動的にアイテムボックスへ収納されるので、重量に悩まされる事もなさそうである。
彼女と豆太郎だけが見えるウィンドウに表示されている装備を選択した途端、彼女の体に身につけていた衣装が変更された。
着ていたドレスは、アイテムボックスへ収納されているところを見ると、外見変更用装備は普段着扱いなのかも知れない。
「よし、お着替え完了! では……初心者らしく石斧から作りますかっ!」
「はい! マスター、木の枝と石はこっちに沢山あるみたいですよ」
こうして、ユスティティアと豆太郎は、この島の開拓を開始したのである。
石斧をつくり、低木や小さな岩を砕いて素材を集め始めると、それだけでレベルが上がっていく。
これも最初だけだと知っているから喜んだりもせず、淡々とユスティティアは素材集めに勤しんだ。
レベルアップすると解放される作成レシピを眺め、拠点にすると決めている井戸から少し離れた場所にある、白い岩肌がむき出しになっている場所へ、作業台と溶鉱炉を設置する。
白い岩肌の目立つ土地は、やや広い。
そこに家も建てる予定だが、素材が山ほど必要だ。
整理の意味も兼ねて、木箱を作り、その中へ建築に必要な素材を入れていく。
本来なら、こんなスピードで出来る作業では無いが、これが彼女の持つ【ゲームの加護】の効果だ。
「マスター! こっちに木の実がありますよー」
「あ……そういえば、そういう物も確保しておかないと……【蒼星のレガリア】には無かったけど、現実は水や食料も必要だものね」
失念していたと、ゲーム脳になっている部分の修正を行いながら、必要な作業を頭の中で再構築する。
先ずは、暗くなる前に休める場所を作りたい――それが、今のユスティティアの第一目標であった。
周囲に落ちている素材だけだと、小さな家を完成させるのも難しい。
だからといって、何の用意も無く背の高い草むらへ足を踏み入れたら、視界が悪い中で魔物に襲われる可能性もある。
「せめて、武器と防具が揃わないと……でも、石に含まれる微量な鉄で装備まで作るのは……ジレンマだ……いや、地下を掘るのもアリ?」
「ナシです。まず明かりが足りませんし、地盤が心配です」
「いくら【ゲームの加護】でも、覆せない現実問題があるのね……」
仕方が無いと、ユスティティアは黙って作業を進めることにした。
採取に集中している彼女が攻撃されないように、豆太郎が周囲を警戒しているが、今のところ特に問題はなさそうだ。
魔物とも遭遇していないが、チラリチラリと赤く点滅する何かが見える。
敵が近づいてきたときに出る警告サインだが、あまりにも定期的に点灯するため、ユスティティアは警戒の色を強めた。
「お豆さん……近くに魔物がいる……」
「そのようですね……ギリギリのラインを判っているのでしょうか」
「違うと思う……多分、その魔物が把握出来るギリギリのラインじゃないかな」
「マスター……武器は?」
「石を削って作った、石のナイフしかないよ?」
「石器時代ですね」
「本当にそうよね……早く、文明開化したい……」
冗談を言い合いながらも間合いを取り、ジリジリと後退していく。
視界が悪い場所で襲われたら不利であると判断したからだ。
しかし、彼女たちの意図を察したのか、赤い警告サインが点灯してから消えること無く近づいてくるのが見え、ユスティティアは緊張に息を詰める。
「来る……」
ガサガサという音を鳴らして飛びかかってきたのは、大きな角を生やした豆太郎の倍はあるウサギだ。
本来ウサギは臆病な生き物だというイメージだが、異界の魔物であるウサギは凶暴である。
ターゲットウィンドウには、『一角跳ねウサギ Lv5』と表示されていた。
「うわぁ……ゲームみたい……ていうか、これは【蒼星のレガリア】そのものだね……」
魔物は違うが、戦闘システムのUI位置が同じなので、現実味がない。
それが良いのか悪いのかと聞かれたら微妙なところではあるが、今のユスティティアには良い方向へ働いたようだ。
体の緊張がほぐれ、イノシシのように飛びかかってくる一角跳ねウサギを華麗に避けた。
一応ではあるが、学園で戦闘訓練は受けている。
それに、【ゲームの加護】が発動しているため、【蒼星のレガリア】の効果も上乗せされているのだ。
負けるはずが無いと深呼吸をして息を整えた彼女は、短く息を吐く。
右手に持っていた石ナイフの柄を握りしめ、目の前の魔物を睨み付ける。
身を低くして相手の動きに集中し、持っていた石ナイフで横に薙ぐ。
「キュゥッ!」
甲高い悲鳴があがるけれども、傷は浅い。
逃げるそぶりも無く突進する一角跳ねウサギの攻撃を避け、振り向きざまに石ナイフを背中へ突き立てた。
しかし、それでも止まらない。
「これが……レベル差!」
攻撃力が足りずに仕留め損ねたのだ。
これは武器が足りないと、作業台へ向かって走る。
材料は作業台の中にあるので、作業台の効果範囲の中に入って選択すれば良い。
「余分に作っておくんだったー!」
「ボクが威嚇していますから、マスター、早く!」
「ありがとう!」
グルルルッ! と、歯をむき出しにして一角跳ねウサギを威嚇する豆太郎に感謝しながら作業台へ走り、クラフト画面を開く。
そして、今度は石ナイフを二本作成した。
すぐに作業台の上からアイテムボックスへ移動したソレを装備して駆け戻ると、豆太郎に飛びかかろうとした一角跳ねウサギ目がけて石のナイフを投擲する。
狙い通りに突き刺さり、持っていたもう一本で転がった一角跳ねウサギの急所を仕留めた。
ターゲットウィンドウの文字がグレーに変わり、対象を討伐したことを確認する。
「お見事です、マスター!」
「うはぁ……リアル戦闘は……こんなにもキツイのね……」
肩で息をしていたユスティティアは、地面にへたり込む。
命を奪ったショックもあるが、それはゲームシステムに組み込まれている制御系プログラムで緩和されたようだ。
リアルの感情をデジタル化して制御するなんて、システムが進化しすぎていないだろうかと不安になるが、元々この『加護』そのものが神の御業である。
細かいことを気にしてはいけないな……と、心の中で呟いたユスティティアは、深く息を吐いて顔を上げた。
「とりあえず、回収しないと……」
出来たばかりの鉄を使って、作業台で新たに解体用ナイフを作成し、一角跳ねウサギの体に解体用ナイフを突き立てる。
すると、死体が消え、アイテムボックスには骨と毛皮と肉が入ってきた。
実際に手間暇かけて解体したわけではないので、入手できる量は現実世界で職人が解体するより少なめだ。
しかし……と、ユスティティアはアイテムボックスの肉を見る。
「肉……何にも書いてないなぁ」
「マスター?」
「あ、うん……この異界の魔物の肉ってね、毒があるから食べられないはずなんだけど……普通に食肉扱いされているから驚いちゃって……」
「それは、【蒼星のレガリア】の効果かもしれませんね。料理レシピもありましたし……」
「そうなんだよね……というか、この【ゲームの加護】って……万能過ぎないっ!?」
「マスターの選択したゲームが万能なのでは?」
「そっちかも? あ、でも、それだったら……今晩のご飯はコレで大丈夫じゃない?」
お肉、お肉~と歌いながらスキップをしそうなユスティティアの後ろを、豆太郎も同じようにぴょんぴょん跳ねながら移動する。
暫くの間はひもじい生活を覚悟していた彼女にとって、この事実は大収穫だ。
「えーと、作業台に家の土台を作成依頼して……壁、戸枠、戸、窓枠、窓は……あ、砂……海岸へ行こうかな。その前に、ツール優先、ツルハシは絶対必要だし、斧とシャベルも欲しいなぁ。クワと鎌も……って、本当に忙しい!」
そうこうしている内に太陽は随分と傾いてきた。
時間が無いと焦る気持ちを抑えて、ユスティティアはツルハシと斧とシャベルをアイテムボックスに放り込み、他の作成は任せたまま浜辺へ降りていく。
きめ細かい砂が広がる浜辺を見ながら、もうここに放り出されたのがずいぶん前のような気分になりつつ、砂を確保する。
海岸を歩いていたら、どうやら砂の下に貝が隠れているようで、シャベルで掘り起こしてゲットしていくと、かなりの数になった。
海藻や岩と岩の間に取り残されていた魚など、海からの恵みに感謝して、ユスティティアは魚を咥えて得意げに戻ってくる豆太郎を抱き上げる。
夜の闇は、もうすぐそこまで迫っていた――
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