異世界シャーロック

河村大風

文字の大きさ
7 / 7
紅の剣

6話 ブリクストン街事件ー3

しおりを挟む
「ちょ、ちょっと待てよ。やっぱりわからないって! 宿屋の人が犯人?」

「ああ、全く尊敬に値するよ。復讐のためにわざわざ宿屋で働くなんてね。貴族の屋敷の警備は厳重だ。だが旅先ともなればどうしても付き人を制限せざるおえない。犯人たちはそれを狙ったんだ」

 信じられない。つまりシャーロックが言うには俺たちにいろいろ説明してくれたあのヒンストンさんすら容疑者の1人かもしれないというのだ。

 まあ確かに、推理ものでホテルの従業員が犯人とか見たことはあるけどさ……。

「でもだとしたらなんでそんな回りくどいことを? 復讐なんだろ? 家を調べて侵入すればいいような気がするんだけど」

「貴族の家に侵入するのはかなり難しい。被害者ドレッバ―卿は王への謁見が叶うほどの有力貴族だ。警備兵もいるだろうし防御魔法が張られている可能性もある」

「……そういうことか、それは理解した。じゃあ、お前が複数の犯行でそれが従業員だと思うんだ?」

「「聞かれたらまずい? いったい誰に?」

「それはもちろん、ヒンストンだ。彼が犯人の可能性がある以上あまりに核心をついたことを話すと取り押さえる前に逃げられるかもしれない」

 俺はシャーロックの言葉が理解できなかった。なぜなら俺たちにいろいろ話をしてくれたあの気の明るそうな受付人が人を殺したなどとは到底思えなかったからだ。一体どこにその根拠があるのか、動機すらも何もわからない。俺は少し動揺しつつシャーロックにそのわけを聞いた。

「うん、まず従業員が犯人である理由だが、あの魔法陣だ。あれは昨夜描かれたものではない。おそらく一週間以上は前に描かれたものだ」

「なんでそう思う?」

「魔法陣は木の壁にナイフか何かの刃物で彫られていた。つまり、もし昨夜の犯行であれば必ず木くずが落ちているはずなんだ。もしなかったとしてもそれには掃除が必要であって、床をホウキではいたような跡は見受けられなかった。タンスと壁の間のほこりがたまっていたからね。部屋を使った客が被害者のドレッバー卿だけである以上、部屋を自由に行き来できるカギを持つ従業員が犯人でなくてはいけない。そして何より、ほかの部屋も調べてみたんだが、同じ魔法陣がほかの5つの部屋すべてに刻まれていた」

「ホントか?」

「嘘をついて何になる?」

「あ、ああ、まあそれもそうだが。じゃ、じゃあ複数犯だって根拠は?」

 俺がそう言うとシャーロックは突然下をさす。俺は足元を見るが特に変わった様子はない。昨日振ったらしい雨による水が少し残っている石畳の道路だ。

「なんだよ?」

だ。床にあるカーペットを虫眼鏡でじっくりと調べてみたところ面白いものを見つけてね」

「面白いもの?」

「大量の土だ。大量とはいうものの室内にしてはなのだが明らかに普通に靴につく土の量ではない。雨の中泥を踏み、その靴で室内に入りでもしない限りね。そしてヒンストンの後に受付に入っていた従業員に聞いたところ宿屋の出入り口はボクらが入ったあの入り口のみ、そしてその後その入り口から入ってきた人物はいない。となればもう侵入経路が窓からしかなくなる。魔法陣を描いた者、窓から侵入した者、前者が宿屋の従業員で後者がこの近くに住む何者かだろう」

 俺はシャーロックの話をただ茫然と聞いているだけだった。あまりにあまりに突飛押しがないながらも絶対であるよう確信する彼女の姿が不思議でならなかった。

「余程、恨みがあるらしい。わざわざ危険を冒してまで2人でドレッバ―夫妻の死をしかと目で見届けたいほどにね」

「……ずいぶんと自信がおありのようで。じゃあもう従業員、全員を取り調べすればいいじゃね?」

「私がそんな王国の隠密部隊のような姑息な手段で犯人を捕まえるとでも? 疑わしきは罰せず、容疑者を犯人と断定し精神的苦痛を与えるなど探偵にとって最も恥ずべき行為だ」

「なるほど、お前のポリシーってことか?」

「ああ、だが今回はそれも致し方ないかもしれない」

「何?」

「ワトソン君はなぜいま彼らが殺されたと思う?」

「なぜ今かって? そりゃあ、犯人がこの街に住んでいて復讐相手が自分が働いてる宿に泊まりに来たから?」

「まあそれはそうなんだがね。犯人の目的が奴らへの復讐だけならその目標が住んでいる街に出向いて殺せばいいだろう。あの血の文字からしても復讐相手がまだ残っているのだ。そしてそれはこの街に住んでいる貴族で自分の屋敷から碌に出ないものだろう。屋敷に侵入する計画を綿密に立てるためにその貴族の住むこの街に留まっているんだ。それで2組の貴族がこの街に集まった今を狙って復讐を始めたんだ」

「じゃあ、早くしないと次の犠牲者が出るってことか? やばいじゃん、早く見つけないと!」

 焦る俺を見てシャーロックはふっと笑った。この感じ、さすがにもうわかってきた。シャーロックはもうその目星がついているのだろう。

 俺の予想は見事的中したらしくシャーロックはもうわかっていると言った。しかし、俺が出は早く行こうと急かすと何やら手を引いて俺を制止してくる。

「少し待ちたまえ、その前に言っておきたい場所がある、スラム街へ」

―――

「おい、なんでいきなりスラム街へ? 犯人はスラムの住人じゃないんじゃないのか?」

「別に犯人を探しに行くわけじゃない、少しばかりをしたいだけさ」

 頼み事? スラムの住人に? 何を考えてるかさっぱりわからん。

 俺はシャーロックの考えを理解できなかったがとりあえず彼女の言う通りに薄暗く、まるで下水かのような匂いのスラムへと入っていった。

 スラムの中に入るとその凄惨さは遠目で見るよりもより一層酷く感じられた。道端の人々の目には光がなくまるで生気を感じない。かと思うと俺たちを見て必死に金をくれだの飯をくれだの言ってきた。

 俺はその姿に唇を噛み締めるも金も食料も特に持っていないため無視することしかできない。

「俺の服でも渡してやった方がいいか? そうすれば少しは足しに……」

「いや、やめておいた方がいいね。もし少しでも施しを与えれば他の奴らが寄ってくる。身動きが取れない上に絶対にスリに遭うよ」

「じゃ早くその頼み事とやらを済ませようぜ。一体誰に何を頼むんだよ」

「あの子供達さ」

 そうシャーロックが指差した先にはスラム街にありつつも笑顔で走り回る子供達の姿があった。6人のその子供達は他の大人達に比べ身なりが整っていて、俺たちを見るや否やすぐさまこちらに走ってきた。

「ホームズ社長! 我ら少年探偵団ブリクストン支部6名、只今参上いたしました!」

「うむ! 早速だが仕事だ」

 そう言うとシャーロックはかがみ込んでヒソヒソと子供達に何かを伝える。その後にポケットの中から金色に光るコインを1枚ずつ渡すと子供達は走り出してスラム街を飛び出して行った。

「あの子供たちは一体?」

「ボクの部下だ。孤児院にいたときに出会ってね、よく探偵ごっこを一緒にしたものだ。ワトソン君、聞き込みにおいて最も重要なことはなんだと思う?」

「は? ええと……」

「警戒されないことさ。その点においてスラムの少年たちを使うのは最も効率の良い方法だ。1人たった1シリング、君が使っていた円に換算すればおよそ2000円ほどか、それを渡すだけで数日間もの間働いてくれる。服をこしらえてスラムの住民と悟らせなければただの子供、警戒する大人は少ないだろう」

 俺の答えを待たずしてシャーロックはそう言った。

「まあ、それはわかったが一体何を頼んだんだ?」

「なに、ちょっとした人探しだよ。さあ、これで用も済んだことだし、さっき言った次の犠牲者のところへ行くとしよう!」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

yukataka
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...