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紅の剣
1話 シャーロックホームズという人-1
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「このままで大丈夫ですかね?」
「問題ないだろう脈拍はあるし、魔力もしっかりと……」
体が動かない。いや、正確には指先は動く。どうなってんだ? 俺トラックにはねられて死んだよな。意識がある、口は……開く。
ん? これもしかしてやってる。トラックにはねられ死んだと思ったら意識がある。=異世界転生!?
「まじでか……」
なかなかおぼつかない口でそう言葉にすると周りにいるであろう人間が反応する。
「うわ、起きましたよ!!」
「落ち着きたまえ」
耳がうまく聞こえない。まるで水の中にいるみたいだ。視界もぼやぼやだし、口も回らない。ああ、やばい、また眠くなってきた。
俺は人生2度目の気絶を1回目のすぐ後に味わった。
―――
「……丈夫ですか? 大丈夫ですか?」
目を開けると目の前に赤い髪の青年がいた。青年は俺のことを心配そうに見つめている。その姿を見て俺は今一度ここが異世界であることを確信するのだった。
だって髪と目が赤いんだもん。それに腰に日本じゃ銃刀法違反で捕まるだろって剣をぶら下げてんだもん。
周りは草むら、というより森。うーん、これはクエストを終えた冒険者が魔獣の森の中で倒れている俺を見つけ声をかけているシチュ。間違いないね。
「ええと、あんたの名前は?」
「僕はスタンフォードです。冒険者をやってまして、クエスト終わりに人影が見えたんで何かなと思ってたらあなたが倒れてたわけです」
自分の推理が恐ろしい。別に何の根拠もなかったんだけどな。
しかしどうしたものか、異世界から来たというのは混乱するから伏せておいた方がいいとして、異世界に来てまずすることは……。
「俺の名前はジオン・ワトムラ。冒険者ギルドに入って魔法を使いたいと思ってるんだがどこかいいギルドを知らないか?」
俺は最短で自己紹介を済ませ自分でも驚くほどのスピードでギルドに入りたいことを伝えた。
「ええ? いきなりですね。ううんと、じゃあついてきてください。すぐ近くにアルビオン王国の首都があります。そこに冒険者ギルドがありますからそこを紹介しますよ」
「ありがとう!」
うん、完璧だな。おそらく最速でギルドに向かうことができたぞ。え? 異世界探偵? ナニソレおいしいの?
俺はスタンフォードに連れられてギルドに向かうこととなった。
―――
「ですから、ジオンさんは魔法が全く使えないので冒険者ギルドに加入していただくことはできません」
はい、俺の異世界ライフ終わりました。
どうなってんだ? 普通、ギルド加入時にやる魔力試験があったら、”なんだこの数値は!?”とか”白銀ランクの冒険者並みだぞ!!”とかベタに俺の潜在能力に周りが驚くみたいな展開になるだろう!?
ほら見ろよスタンフォードの顔。何とも言えない表情になっちゃってるだろう。ザコ―、と思いつつもそれを表にあらわしちゃいけないから”気の毒ですね”的な”きっと何とかなりますよ”的な表情になっちゃってるじゃないかよ!
「き、きっと何とかなりますよ! ねえ、受付の人!」
「そ、そうですね。魔力は上がることもありますし、努力すればきっと!」
2人の憐れみが俺の心をグサグサと刺す。この二人に知ってほしいのは励ましは時に人を傷つけるということだ。
「もう大丈夫です……。ありがとうございました……」
俺は死にそうな声で何とかそう絞り出し、トボトボとギルドを出る。
俺の完璧な異世界プランが崩れた今、俺は何をすればいいのかわからなくなってしまった。基本異世界転生なんてチートスキルで話を進めていくってのに俺は魔法すら使えないって? ギルドに入れなきゃどうやって仲間を作ればいいんだ? どうやって国王様の恩寵を受ければいいんだ? どうやってハーレムを作れってんだ!?
一通り心の中で文句を言い終えた俺は街の広場のような場所の噴水の縁に座り込んだ。
「ふう、腹減った……」
思えば元の世界にいた時から数えて、まあどれほど眠っていたが分からないが、少なくとも1日は何も食ってない。腹が空くのは当然のことだ。
そんな俺の元に何やら誘惑的なにおいがどこからともなく匂ってくる。もちろん空腹の俺がそれに耐えきれるはずもなく、匂いに誘われて歩いて行くとそこにはバカでかい豚が丸々回転して焼かれている店があった。
「こ、これは一体?」
「ん、お客さんかい? これはヨークシャーホッグの丸焼きだよ」
店主の男はそう言うと手に持っていたナイフでその豚の肉をこそぎ取りそれを串にさして差し出してきた。我慢できずに俺がその肉にかじりつくと1日ぶりの食事に前身の細胞が歓喜の声を上げるのが聞こえるような錯覚を起こす。
う、うめぇ。こりゃあ、元いた世界の焼き肉屋で食う食べ放題の豚くらいうまい。最高だ!!
「はい、2ポンドね」
まあそうですよね、ただで飯を食えるほど世の中甘くないってな。どうしたもんか、誤って皿洗いでもさせてもらうか。
と俺が悩んでいると横から何者かが俺の代わりにこの飯代を払った。ぱっと顔をあげるとそれはさっき会ったスタンフォードで俺はもう一度彼に感謝することとなった。
「さっきはすいません。ジオンさんを傷つけるようなことを」
「いや大丈夫、ただの事実だし。……そんなことよりさ、手っ取り早く金を稼げる仕事とかないかな? できれば住み込みで食事つきとかだとありがたいんだけど」
その質問に対しスタンフォードは悩み顔を見せた。
「ううん、何が問題かってジオンさんは魔法が使えないんだよなあ」
また魔法だ。どうやらこの世界では魔法が使えなきゃろくに仕事もできないらしい。まあそもそも衣食住が一気にそろう仕事なんてそうそう……。
「あ、1つあった」
「あるんかい!」
つい心の声が漏れてしまった。
「いや、でもこれはちょっとお勧めできないですね」
「なんで?」
「ううん、まあなんでも同居人兼実験の助手を探してるらしくてですね、それはいいんですがその人かなり変わってまして」
「大丈夫! 俺もだいぶ変わってるし、そういうやつには慣れてる」
「慣れという問題じゃなくてですね、まあいいか。とりあえず案内しますよ」
俺はそう言われてまたもやスタンフォードの後をついて行った。
―――
スタンフォードが立ち止まったのは同じような建物が数十と横に並ぶ住宅街のような場所だった。その建物は3階建てほどであり、入り口のドアは少し高く数段の階段がついていてその周りは鉄製の低い柵で囲まれている。
この通りはベイカーストリートと呼ばれているらしくここアルビオン王国の首都であるロンディニウムの少し外れの居住地区らしい。俺たちの前の建物には221と書かれた表札があり両隣が220と222であることから建物の番号のようなものだろう。
スタンフォードがドアを開け中の階段を上がっていくのについていって2階に上がると同時に近くにあった扉の中からまるで銃声のような音が聞こえてきた。
わーお、これは俺が思っている以上にやばそうなやつだな。
少し恐ろしさを覚えつつも俺はスタンフォードに促されてその扉をノックした。
……数秒の静寂が流れる。居留守か? いやアの音で居留守は無理だろ。
などと考えているとギィ、と音を立てて扉が開いた。しかし目の前に人の姿はない。ちょっと中を見ようとするそぶりを見せると下から、
「ここだよ」
とかわいらしい声が聞こえてきた。視線を落とすとそこには赤く長い髪に朱色の瞳を持ち、背丈が俺より頭一つ分ほど小さい少女が立っていた。
「こいつ?」
俺がそう問いかけるとスタンフォードはこくりとうなずく。そしてその少女は不満げな顔をしながら俺を指さした。
「こいつとは失礼だな君。ボクにはちゃんとした名前があるんだがね」
「じゃあ名前は?」
「ふん! 聞いて驚くがいい、このボクこそが世界一の名探偵、シャーロック・ホームズさ!」
ああ、なるほどだからそんな探偵みたいな恰好を……。ん? え?
「シャーロック・ホームズぅぅ!!??」
「問題ないだろう脈拍はあるし、魔力もしっかりと……」
体が動かない。いや、正確には指先は動く。どうなってんだ? 俺トラックにはねられて死んだよな。意識がある、口は……開く。
ん? これもしかしてやってる。トラックにはねられ死んだと思ったら意識がある。=異世界転生!?
「まじでか……」
なかなかおぼつかない口でそう言葉にすると周りにいるであろう人間が反応する。
「うわ、起きましたよ!!」
「落ち着きたまえ」
耳がうまく聞こえない。まるで水の中にいるみたいだ。視界もぼやぼやだし、口も回らない。ああ、やばい、また眠くなってきた。
俺は人生2度目の気絶を1回目のすぐ後に味わった。
―――
「……丈夫ですか? 大丈夫ですか?」
目を開けると目の前に赤い髪の青年がいた。青年は俺のことを心配そうに見つめている。その姿を見て俺は今一度ここが異世界であることを確信するのだった。
だって髪と目が赤いんだもん。それに腰に日本じゃ銃刀法違反で捕まるだろって剣をぶら下げてんだもん。
周りは草むら、というより森。うーん、これはクエストを終えた冒険者が魔獣の森の中で倒れている俺を見つけ声をかけているシチュ。間違いないね。
「ええと、あんたの名前は?」
「僕はスタンフォードです。冒険者をやってまして、クエスト終わりに人影が見えたんで何かなと思ってたらあなたが倒れてたわけです」
自分の推理が恐ろしい。別に何の根拠もなかったんだけどな。
しかしどうしたものか、異世界から来たというのは混乱するから伏せておいた方がいいとして、異世界に来てまずすることは……。
「俺の名前はジオン・ワトムラ。冒険者ギルドに入って魔法を使いたいと思ってるんだがどこかいいギルドを知らないか?」
俺は最短で自己紹介を済ませ自分でも驚くほどのスピードでギルドに入りたいことを伝えた。
「ええ? いきなりですね。ううんと、じゃあついてきてください。すぐ近くにアルビオン王国の首都があります。そこに冒険者ギルドがありますからそこを紹介しますよ」
「ありがとう!」
うん、完璧だな。おそらく最速でギルドに向かうことができたぞ。え? 異世界探偵? ナニソレおいしいの?
俺はスタンフォードに連れられてギルドに向かうこととなった。
―――
「ですから、ジオンさんは魔法が全く使えないので冒険者ギルドに加入していただくことはできません」
はい、俺の異世界ライフ終わりました。
どうなってんだ? 普通、ギルド加入時にやる魔力試験があったら、”なんだこの数値は!?”とか”白銀ランクの冒険者並みだぞ!!”とかベタに俺の潜在能力に周りが驚くみたいな展開になるだろう!?
ほら見ろよスタンフォードの顔。何とも言えない表情になっちゃってるだろう。ザコ―、と思いつつもそれを表にあらわしちゃいけないから”気の毒ですね”的な”きっと何とかなりますよ”的な表情になっちゃってるじゃないかよ!
「き、きっと何とかなりますよ! ねえ、受付の人!」
「そ、そうですね。魔力は上がることもありますし、努力すればきっと!」
2人の憐れみが俺の心をグサグサと刺す。この二人に知ってほしいのは励ましは時に人を傷つけるということだ。
「もう大丈夫です……。ありがとうございました……」
俺は死にそうな声で何とかそう絞り出し、トボトボとギルドを出る。
俺の完璧な異世界プランが崩れた今、俺は何をすればいいのかわからなくなってしまった。基本異世界転生なんてチートスキルで話を進めていくってのに俺は魔法すら使えないって? ギルドに入れなきゃどうやって仲間を作ればいいんだ? どうやって国王様の恩寵を受ければいいんだ? どうやってハーレムを作れってんだ!?
一通り心の中で文句を言い終えた俺は街の広場のような場所の噴水の縁に座り込んだ。
「ふう、腹減った……」
思えば元の世界にいた時から数えて、まあどれほど眠っていたが分からないが、少なくとも1日は何も食ってない。腹が空くのは当然のことだ。
そんな俺の元に何やら誘惑的なにおいがどこからともなく匂ってくる。もちろん空腹の俺がそれに耐えきれるはずもなく、匂いに誘われて歩いて行くとそこにはバカでかい豚が丸々回転して焼かれている店があった。
「こ、これは一体?」
「ん、お客さんかい? これはヨークシャーホッグの丸焼きだよ」
店主の男はそう言うと手に持っていたナイフでその豚の肉をこそぎ取りそれを串にさして差し出してきた。我慢できずに俺がその肉にかじりつくと1日ぶりの食事に前身の細胞が歓喜の声を上げるのが聞こえるような錯覚を起こす。
う、うめぇ。こりゃあ、元いた世界の焼き肉屋で食う食べ放題の豚くらいうまい。最高だ!!
「はい、2ポンドね」
まあそうですよね、ただで飯を食えるほど世の中甘くないってな。どうしたもんか、誤って皿洗いでもさせてもらうか。
と俺が悩んでいると横から何者かが俺の代わりにこの飯代を払った。ぱっと顔をあげるとそれはさっき会ったスタンフォードで俺はもう一度彼に感謝することとなった。
「さっきはすいません。ジオンさんを傷つけるようなことを」
「いや大丈夫、ただの事実だし。……そんなことよりさ、手っ取り早く金を稼げる仕事とかないかな? できれば住み込みで食事つきとかだとありがたいんだけど」
その質問に対しスタンフォードは悩み顔を見せた。
「ううん、何が問題かってジオンさんは魔法が使えないんだよなあ」
また魔法だ。どうやらこの世界では魔法が使えなきゃろくに仕事もできないらしい。まあそもそも衣食住が一気にそろう仕事なんてそうそう……。
「あ、1つあった」
「あるんかい!」
つい心の声が漏れてしまった。
「いや、でもこれはちょっとお勧めできないですね」
「なんで?」
「ううん、まあなんでも同居人兼実験の助手を探してるらしくてですね、それはいいんですがその人かなり変わってまして」
「大丈夫! 俺もだいぶ変わってるし、そういうやつには慣れてる」
「慣れという問題じゃなくてですね、まあいいか。とりあえず案内しますよ」
俺はそう言われてまたもやスタンフォードの後をついて行った。
―――
スタンフォードが立ち止まったのは同じような建物が数十と横に並ぶ住宅街のような場所だった。その建物は3階建てほどであり、入り口のドアは少し高く数段の階段がついていてその周りは鉄製の低い柵で囲まれている。
この通りはベイカーストリートと呼ばれているらしくここアルビオン王国の首都であるロンディニウムの少し外れの居住地区らしい。俺たちの前の建物には221と書かれた表札があり両隣が220と222であることから建物の番号のようなものだろう。
スタンフォードがドアを開け中の階段を上がっていくのについていって2階に上がると同時に近くにあった扉の中からまるで銃声のような音が聞こえてきた。
わーお、これは俺が思っている以上にやばそうなやつだな。
少し恐ろしさを覚えつつも俺はスタンフォードに促されてその扉をノックした。
……数秒の静寂が流れる。居留守か? いやアの音で居留守は無理だろ。
などと考えているとギィ、と音を立てて扉が開いた。しかし目の前に人の姿はない。ちょっと中を見ようとするそぶりを見せると下から、
「ここだよ」
とかわいらしい声が聞こえてきた。視線を落とすとそこには赤く長い髪に朱色の瞳を持ち、背丈が俺より頭一つ分ほど小さい少女が立っていた。
「こいつ?」
俺がそう問いかけるとスタンフォードはこくりとうなずく。そしてその少女は不満げな顔をしながら俺を指さした。
「こいつとは失礼だな君。ボクにはちゃんとした名前があるんだがね」
「じゃあ名前は?」
「ふん! 聞いて驚くがいい、このボクこそが世界一の名探偵、シャーロック・ホームズさ!」
ああ、なるほどだからそんな探偵みたいな恰好を……。ん? え?
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