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1巻
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「あぁ、ミサキさんは一度村人で職業登録されているんですね。ステータス表記の職業は変更できませんが、ライセンスを持っていれば冒険者として活動できるので大丈夫ですよ」
「そうなんですか。……よかった」
受付嬢さんが教えてくれて、ホッとした……これで冒険者になれませんって言われたら泣いたかもしれない。ていうか、この国の普通の人は職業選択の自由があるのに、召喚された私は最初から決められてた上、村人って……ひどくない?
「それにしても……」
受付嬢さんは持っていた書類をパラパラめくりながら言う。
「冒険者登録された皆さんのステータスは、こちらの書類に【複写】されるのですが……ミサキさんには魔法の才能があるんですねぇ。〈光魔法〉に〈回復魔法〉……魔法系スキルが最初から複数ある人は珍しいですよ」
受付嬢さんがまじまじと書類を見てる。そんなすごいんだ、村人なのに?
「へぇ……」
「あ、でも……強化系のスキルがないので、戦闘には向かないかもしれません。戦闘なら後衛か……治癒師の仕事などもいいかもしれませんね。〈回復魔法〉の使い手は希少なので」
「そ、ソウデスカ……」
結構言われた。ちょっと傷つく……まぁ私が武器持って戦う未来なんて見えないし、お姉さんはアドバイスをしてくれてるんだろうし……
「ミュウさんはすごいですねぇ。冒険者がほしがるスキルだらけです」
あ……お姉さんの標的がミュウに移った……
「……よかったぁ……」
「〈身体強化〉があれば女性でも戦闘はできますし……〈探知〉があれば魔獣を見つけやすく……さらに〈鑑定〉で質のいい採集ができて……いいですねぇ」
……お姉さんがミュウをべた褒めしてる……当のミュウは嬉しいのか恥ずかしいのか、目が泳いでいるけれども。これ以上言ったらミュウが逃げちゃいそうですよ、お姉さん……
それにしても、私のスキルがやたら魔法寄りなのはなぜだろう。それだけ才能があったと喜ぶべきか、ミュウみたいな冒険者向きのスキルがなかったと嘆くべきか……いや、日本じゃ使えなかった魔法が使えるんだから、喜んでいいはず。そういうことにしておこう。
……ミュウがそろそろ逃げ出しそうだから、話題を変えようかな……
「あの、これで終わりですか?」
私が尋ねると、受付嬢さんはパッとこっちを向く。
「んぇ? あぁはい。登録は完了ですよ」
「……登録料とかは……」
「あ、それはかかりません。登録は無料です」
「……っはぁー……よかった……」
よく考えたら、お金のことはあらかじめ聞いておけばよかったんだよね。これで費用がかかりますって言われたら、どうしようかと思ったよ。これで私の一番の心配事も解消された。
私がホッとしていると、受付嬢さんは改めて私たちに向き直った。
「では、説明をします。このカードは、冒険者ライセンスといいます。依頼の受注に必要で、依頼を成功させると、成果がこのカードに記録されます。そして、一定の成果を上げるとランクが上がるシステムです。ランクの話は後ほど。あっ、なくさないでくださいね。再発行は時間もお金もかかりますから。小金貨五枚は意外と高いですよ」
……ほとんどポイントカード? いやまぁ実際そうなんだろうけど。デパートのお姉さんの説明にすごく似てるし。再発行は私の全財産と同じ……高いなぁ……
「カードを持っていれば、世界のどこのギルドでも依頼を受注できます。護衛依頼や遠征などで国外に行くときも必要になりますので」
「なるほど……」
「身分証明にも使えますよ。街への出入りの際は通行料がかからなくなります。冒険者は討伐にしても採集にしても、街の外に行くことが多いですからね」
おぉ……なかなか便利な冒険者ライセンス。でもそうか、いちいちお金を払って出入りするのも嫌だよね。
「先ほど少しお話しした、ギルドでのランクの確認にも使います。ランクは、依頼の達成や仕事の功績を考慮して上がります。まぁ採集や雑用系は相当数をこなさないといけませんが……で、お二人は登録直後なのでFランクですね。このランクは見習いだと思ってもらえば……」
「「はい」」
「自分のランクによって受けられる依頼が異なります。依頼はAからFまでの段階に分けられていて、自分のランクの一つ上の依頼までなら受けられます。ランクの高い依頼ほど、報酬も高くなりますよ。討伐系は依頼を受けていなくても、達成したという証明ができる部位……だいたいは魔獣の爪や鱗ですが……を持ってきてくれれば達成したことにしています」
この辺はだいたい予想通りかな。いきなり無茶するつもりもないし、地味な依頼でポイント稼ぎでもしよう。なにか倒してって言われても無理です。即死する気しかしないもんね。
「最後に、さっき言った討伐証明部位の略奪や暴行などの行為は禁止です。冒険者資格の剥奪もあり得ますので……気をつけてくださいね。……まぁ大丈夫だとは思いますが……」
うん、登録したの女の子二人だからね。そうそう加害者にはならないと思うよ。でも気をつけないと……資格剥奪とかとっても嫌だ。
「ギルドの建物内での争いや問題行動も厳禁です。うっかり魔法で吹っ飛ばしたりしないでくださいね」
「「……」」
……そんなことはしないと言いたいけど、私のスキルはほぼ魔法……まだ使ったことないし、ないと言い切れないのがなんとも……うっかりには気をつけよう。でも、そもそも魔法を使えるようになるのが先かな?
「以上です。なにか質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「わたしも大丈夫です」
受付嬢さんが聞いてくれたけど、私とミュウは揃って首を横に振った。
もしなにかわからないことがあれば、そのときに聞けばいい。とりあえず今は登録を終わらせて安心したい。
「はい、では……改めて。ようこそ! 冒険者ギルドへ!」
私とミュウはこれで冒険者の仲間入り。駆け出し冒険者になった。
「うあぁ……緊張したぁ……」
「わ、どうしたのミュウ」
登録が終わって部屋から出た途端、ミュウが大きなため息とともに崩れ落ちた。
「こんなの一人でなんて無理……」
「そんなに?」
「うん、ミサキがいてくれてよかったよ。……じゃなかったらまだ外にいたかも……」
……ミュウは、一体いつからあそこをウロウロしていたんだろう……気になって声をかけて正解……私の手を引っ張ってギルドの中に入った、あの勇ましいミュウはどこ行った。あまりの落差に思わず苦笑が漏れた。
……と、なにかを考えるようなそぶりを見せていたミュウが、突然私をじっと見て、口を開いた。
「んー……うん! ねぇミサキ」
「うん?」
「わたしとパーティー組まない?」
パーティーというとアレかな、一緒に行動する仲間になって、みたいな? 私はミュウにあれこれ教えてもらいたかったし、このお願いを断る理由はない!
「うん、いいよ」
「ホント⁉ ありがとうミサキ!」
「よろしくね、ミュウ」
「うん!」
なにより……まだ会ったばかりだけど、ミュウと一緒にいると楽しいからね。ずっと一緒にいてくれるといいなぁ……
「一緒に頑張ろ! ミサキ」
「うん! 頑張ろう!」
……まぁなんにせよ、私がするべきなのは勉強だよね。なんにも知らないままじゃ、冒険者どころか普通に生活するのも難しい。パーティーを組んだばっかりで申し訳ないけど、ミュウにいろいろお世話になろう……このままじゃマズい……
ちなみに、パーティーの申請もギルドに報告しなきゃいけなかったんだけど、登録をしてくれたお姉さんに言ったら……
「あらパーティー? じゃ、これ書いてね」
「「あ、はい」」
こんな感じですぐ終わった。名前はなぜか『ミサキのパーティー』になったけど。ミュウがこれがいいって言って決めちゃった。なぜに私の名前……
その日の夕方、私とミュウは宿にいた。
依頼を受ける前に、とりあえず今日は街を見ておこうって話になったんだ。ミュウは王都じゃなくて、北のほうの街出身らしい。でも王都には何回か来たことがある……ということで、案内してもらった。あちこち見て回っているうちに、辺りが暗くなってきたから泊まるところを探したんだけど……安宿はなぜかどこもいっぱいで、ご飯つきで小金貨四枚の宿しか空いてなかった。……いや、高いなぁ……シャワーあるし、ご飯もおいしいから文句言えないけど……早速ほぼ一文無し……はぁ……
それはそれとして、もう少しこの世界のことを知って、明日からも頑張らないとね。部屋でくつろいでいるミュウのほうを向く。
「ねぇ、ミュウ」
「ん? なに?」
「私に、この世界のことを教えて!」
「え⁉ なに、急にどうしたのミサキ⁉」
ごめんねミュウ、意味わからないかもしれないけど、今の私は無知で一文無しっていう大ピンチなのです。
でもこのままだとミュウは混乱してしまうだろうから、私は本当のことを包み隠さずミュウに話すことにした。
「……私、この世界の人間じゃないの」
「……え? どういうこと?」
ミュウの頭の上に疑問符が溢れだした。まぁそうなるよね、目の前の人がいきなり異世界人だって言い始めたら、誰だってそうなるもん。でもミュウには知ってほしいから、なるべくわかりやすく話す。
「……勇者召喚、って知ってる?」
「うん……聞いたことあるけど……確か、魔人に対抗するために、勇者を呼び出す儀式……だっけ? 大昔からあるっていう……」
「そう、それ」
勇者召喚って意外と有名みたい。ホッとして先を話す。
「私ね……それに巻き込まれてここに来たんだ……」
話が早くて助かるけど、ミュウの反応やいかに……
「…………え」
「?」
「ええええええええ⁉」
「うわびっくりしたぁっ‼」
ミュウの大声初めて聞いた……あれ? 叫んだ反動なのか、肩で息をしてるミュウの目が……キラキラしてる……? ど、どうしたのミュウ……
「……勇者召喚……まさかミサキが……」
「ミュ、ミュウ?」
「でも納得……本物……へー」
「ミュウさーん?」
「そういうことなら……うん……」
「……おーい、ミュウさんやーい」
……どうしよう、ミュウの様子がおかしくなった。私を頭からつま先までじーっと見て、なんか呟いてる。物珍しげな感じで見られても、不思議と嫌な感じはしない。……けど、そろそろ話を続けたいな。
「えーと……ミュウ?」
「……はっ⁉ ご、ごめんミサキ!」
「ううん、大丈夫……どうしたの、ミュウ」
……あ、ミュウが戻ってきた。この反応……どうも私が異世界人なのが嫌ってわけではなさそうだけど、なにを納得したんだろう……というか私、別に勇者じゃないからね? あくまでも巻き込まれた村人だからね?
「はぁ……勇者召喚かぁ。ホントにいたんだね……召喚者って。伝説だと思ってた」
「私のこと、怪しいとか思わないの?」
「全然? むしろいろいろ納得。黒髪黒目って見たことないもん……綺麗だけど」
「……そういえば……全然いなかった……」
ミュウに言われていまさら気づいたけど、この街に黒い髪の人はいなかった。金とか銀とか、赤とか青とか、カラフルな髪の人はいっぱいいたんだけど。……あれ? 私が着替えた意味ってなに? 髪色でもう目立ってるなら、服もそのままでよかったんじゃ……無意味に取られた感が半端ない……
そしてミュウは私が召喚者だって知っても、敬遠するどころかむしろぐいぐいくる。それはとてもありがたいことなんだけど、ミュウは思ったよりも明るい。というか……アイドルを前にした女子高生みたいな……って私アイドルじゃないけど。アイドルを前にしたこともないけど。
「えっと、世界のことが知りたいんだっけ? ……うん、わたしが知ってる範囲でよければいくらでも!」
「ほんとに⁉ ありがとうミュウ~‼」
「ほっとけないもん。パーティーだし、友達だし……」
「ミュウ~‼」
……で、まずは私が今いるサーナリア王国について聞いてみたんだけど、衝撃の事実が……
「……え、この国、大国なの?」
「うん。規模だけなら世界有数……って聞いたことあるよ」
「……マジですか」
なんかこう……なんとも言えないけど、なんかね? もやっとする。
勝手に呼び出して、村人だからって理由だけで叩き出した王様。私の中の王様株は急下落、もう上げる気もない。そんな王様が大国の統治者っていうのは……うーん。
次に、冒険者についても知らないことだらけだから、聞いてみた。
ミュウ曰く、この国は冒険者がとても多いんだって。あちこちに宝があるとかなんとか……一攫千金狙いで他の国からも人が集まってるらしい。人が多いなら討伐系の仕事は私がやらなくても誰かがしてくれるんじゃ……村人の私にできる気もしないし、戦う必要もないんじゃ……? 逆にどんなことをするのか聞いてみたら、ミュウが答えてくれる。
「討伐じゃなくっても、薬草集めとか……街の外に行く機会も多いと思うよ」
「……だよね。戦えないとまずいかな?」
「んー……最低限自衛はできたほうがいいかな……」
「……頑張ります」
私たちが冒険者登録をしたのは王都のギルドだから、王都での活動がメインになるんだって。王都は壁に囲まれている。東西南北の四方にそれぞれ門があって、そこから他の街に出入りするんだけど、他の街に行くまでには平原や森があって、そこには人を害する魔獣がいるらしい。それを退治するのが冒険者の主な仕事なんだよね……
確かに、魔獣がうようよいる街の外に行くのに戦闘できません、じゃ厳しいかな……街の近くには魔獣は寄りつかないらしいけど、外に出ないとできない仕事も多そうだし。私に戦闘経験なんてあるはずないけど、身を守るなにかは必要か……魔除け? ……効かなさそう。
それと、自分のスキルのこともよくわからないから、聞きたいんだよね。
「ねえ、ミュウ。私、自分のスキルの使い方が全然わからないんだけど……どうすればいいのかな」
「ステータスを開いて、詳細を見たいスキルを眺めるの。そしたら使える技が出てくるから、意識を集中させて、その名前を声に出すだけだよ」
そうなんだ。蓋を開けてみればとっても簡単だった。試しにやってみようかな。
「……【ステータス・オープン】」
改めて確認。私が使えるスキルは〈言語適正(人)〉と〈光魔法〉、〈回復魔法〉。
〈言語適正(人)〉をじっと眺めていると、詳細表示になった。なになに……『あらゆる人の言語を理解する』? ……あらゆる人って、どこまで含むんだろう。もっと細かく知りたい。
まあ、気を取り直して、私が楽しみにしていた魔法を見てみよう。スキルに魔法があったときから、実は楽しみだったんだよね。今まで魔法とは無縁の生活だったし、嬉しくなるのは仕方ないことなんだよ。
気合いを入れて〈光魔法〉を眺めてみる。
〈光魔法〉……所持者に光属性の魔法を与える。
【サンクチュアリ】【ライト】【ライトアロー】
おお、これが私が使える魔法……
「ミュウ……魔法、ちょっと使ってみていい?」
「なんて魔法なの?」
小首を傾げるミュウに、私は答える。
「【サンクチュアリ】、【ライト】、【ライトアロー】っていうみたい」
「んー、わたしも知らない魔法ばかりだけど……【ライトアロー】はやめたほうがいいかもね」
確かに……アローって、矢のことでしょ。明らかに危険だよね、ここ宿だし。
そしたら、【サンクチュアリ】と【ライト】を試してみよう。
「【サンクチュアリ】!」
……あれ? なにも起きない。やっぱり私は村人だし、魔法使えないのかな……。ぼふっとお布団に寝転んだ。
しょんぼりする私を見て、ミュウが慰めてくれる。
「ちょ、ちょっと調子が悪いだけかも! もう一つのほうやってみようよ!」
そうだ。もう一つは使えるかもしれないし、まだ諦めるには早いよね。意識を集中させて呟いた。
「……【ライト】」
……ううん、これは、できてるの、かな?
さっきと違うことといえば、手に持っている枕が光ってることだけなんだけど……
「……んー、うん。ちゃんと魔法できてるよ」
「……お、おぉぉ……!!」
憧れの魔法を私は使っている……! 地味でも魔法は魔法だし!
きっと、【ライト】は持ってるものを光らせる魔法なんだね。嬉しくなっていたら、ミュウにちょっと笑われてしまった。
「ふふっ……ミサキは魔法が好きなんだね」
「う……だ、だって魔法使えなかったんだもん、前は」
とはいえ、もっとすごい魔法を使ってみたかったのも事実……
いや、まだ〈回復魔法〉がある! こっちに期待しよう。
きっと〈回復魔法〉はファンタジー小説でよく魔法使いが使っているような、怪我とかを治せる魔法だよね!
でも、ミュウに怪我させるわけにいかないし、これは別の機会に確かめよう。
その他にもたくさんミュウは話してくれて、私もだいぶこの世界について知った気がする。
「ありがとう、ミュウ。おかげでいろいろわかったよ」
「どういたしまして」
だいぶ長い間話し込んでいたはず……なのに、嫌な顔一つしないで付き合ってくれたミュウには感謝しかない。今日初めて会った人にここまで優しくできるなんて……天使かな。
ちなみに、ミュウがかなりの知識人なのは、将来困らないようにって両親にいろいろ教わったからだとか。ミュウの両親は現役の冒険者で、経験したことや聞いたことなんかをミュウに叩き込んだらしい。お父さんからは戦い方とか魔獣について、お母さんからは雑学……スキルとか魔法について。子どものときから冒険者について触れてきたから、ミュウは冒険者になったばかりなのに詳しいんだって。
突然ふわぁとあくびが出た。ウトウトしてるミュウに声をかける。
「……もう遅いね。寝よっか」
「うん、さすがにもう眠いや……」
「おやすみ、ミュウ」
「おやすみ……ミサキ」
冒険者としての活動は明日から。……少しでもお金を稼がないと生活できない。心配事はたくさんあるけど、新たな異世界での生活に、胸が高鳴っているのも事実。
「ふふ……明日からは、本格的に冒険者だね、ミュウ」
「だね。頑張ろう」
「うん」
ミュウもワクワクしてるのか、眠る直前までテンションが高かった。しばらくまた、おしゃべりを再開。
いつ眠りに落ちたかの記憶がないんだけど……それだけ疲れていたのか、朝が楽しみだったのか……多分どっちもだよね。
「おはようミサキ」
「おはよー……ミュウ。早いね……」
「うん、いつもなんだ。冒険者になるなら早起きしなさいってお母さんに言われてて。いつの間にか癖になっちゃったんだよねぇ……」
翌日、私が目を覚ましたら、ミュウはもう身支度を済ませていた。外はまだ薄暗いのに……一体いつから起きていたんだろう。昨日だってかなり遅かったよね? え、私が怠けてるだけ? そんなことないって言えないのがつらい……
「……冒険者ってこんなに朝早いの?」
「うん。朝早くのほうが、ギルドに依頼いっぱいあるんだって。選び放題」
「……へぇー……」
「だから今くらいが一番多いらしいんだ……ギルドに行く人」
「……マジですか」
こ、これは慣れるまでは大変そう……頑張りますか。持ち物は極端に少ないし……あっという間に荷造り終了。バッグ一つに、今の私の全てが詰められる。手早く準備して宿から出た。ほぼ無一文だし……早くなんとかしないと……ね。
宿はギルドから近かったので、出発してから割とすぐ着いた。
相変わらず人が多いなぁ……え、ということはあの人混みの中で依頼を探すの? ちょっと厳しくない?
「……いい依頼、見つけられるかな……」
「んー……聞いたほうがいいかも」
「……うん? 聞く?」
「うん。受付嬢さんに」
そんなことできたんだ。にしてもミュウ、やっぱりすごく冒険者に詳しい……これがアルメリア家式冒険者英才教育の賜物かぁ……すごいね。
ともあれ依頼を探すなら、私の最低条件……武器がいらないって依頼を探さなきゃ。丸腰で街の外に出たら軽く死ねる。……あっても戦える気がしないけど。
「すみませーん」
「はーい……あら昨日の。もう依頼探しですか?」
早速昨日の受付嬢のお姉さんを呼ぶ。こういうときって、なんとなく知ってる人に聞きたくなるんだよね。
「はい。武器のいらない依頼ってありますか?」
ミュウが尋ねると、お姉さんはにこやかに頷いた。
「Fランクの武器なし……ありますね。ちょっと待っててください」
おお、意外と簡単に見つかりそう。よかった。
「お待たせしました。こちらですね」
「あ、結構ある」
どれどれ、とミュウと一緒にお姉さんが出してくれた紙を見る。
「そうなんですか。……よかった」
受付嬢さんが教えてくれて、ホッとした……これで冒険者になれませんって言われたら泣いたかもしれない。ていうか、この国の普通の人は職業選択の自由があるのに、召喚された私は最初から決められてた上、村人って……ひどくない?
「それにしても……」
受付嬢さんは持っていた書類をパラパラめくりながら言う。
「冒険者登録された皆さんのステータスは、こちらの書類に【複写】されるのですが……ミサキさんには魔法の才能があるんですねぇ。〈光魔法〉に〈回復魔法〉……魔法系スキルが最初から複数ある人は珍しいですよ」
受付嬢さんがまじまじと書類を見てる。そんなすごいんだ、村人なのに?
「へぇ……」
「あ、でも……強化系のスキルがないので、戦闘には向かないかもしれません。戦闘なら後衛か……治癒師の仕事などもいいかもしれませんね。〈回復魔法〉の使い手は希少なので」
「そ、ソウデスカ……」
結構言われた。ちょっと傷つく……まぁ私が武器持って戦う未来なんて見えないし、お姉さんはアドバイスをしてくれてるんだろうし……
「ミュウさんはすごいですねぇ。冒険者がほしがるスキルだらけです」
あ……お姉さんの標的がミュウに移った……
「……よかったぁ……」
「〈身体強化〉があれば女性でも戦闘はできますし……〈探知〉があれば魔獣を見つけやすく……さらに〈鑑定〉で質のいい採集ができて……いいですねぇ」
……お姉さんがミュウをべた褒めしてる……当のミュウは嬉しいのか恥ずかしいのか、目が泳いでいるけれども。これ以上言ったらミュウが逃げちゃいそうですよ、お姉さん……
それにしても、私のスキルがやたら魔法寄りなのはなぜだろう。それだけ才能があったと喜ぶべきか、ミュウみたいな冒険者向きのスキルがなかったと嘆くべきか……いや、日本じゃ使えなかった魔法が使えるんだから、喜んでいいはず。そういうことにしておこう。
……ミュウがそろそろ逃げ出しそうだから、話題を変えようかな……
「あの、これで終わりですか?」
私が尋ねると、受付嬢さんはパッとこっちを向く。
「んぇ? あぁはい。登録は完了ですよ」
「……登録料とかは……」
「あ、それはかかりません。登録は無料です」
「……っはぁー……よかった……」
よく考えたら、お金のことはあらかじめ聞いておけばよかったんだよね。これで費用がかかりますって言われたら、どうしようかと思ったよ。これで私の一番の心配事も解消された。
私がホッとしていると、受付嬢さんは改めて私たちに向き直った。
「では、説明をします。このカードは、冒険者ライセンスといいます。依頼の受注に必要で、依頼を成功させると、成果がこのカードに記録されます。そして、一定の成果を上げるとランクが上がるシステムです。ランクの話は後ほど。あっ、なくさないでくださいね。再発行は時間もお金もかかりますから。小金貨五枚は意外と高いですよ」
……ほとんどポイントカード? いやまぁ実際そうなんだろうけど。デパートのお姉さんの説明にすごく似てるし。再発行は私の全財産と同じ……高いなぁ……
「カードを持っていれば、世界のどこのギルドでも依頼を受注できます。護衛依頼や遠征などで国外に行くときも必要になりますので」
「なるほど……」
「身分証明にも使えますよ。街への出入りの際は通行料がかからなくなります。冒険者は討伐にしても採集にしても、街の外に行くことが多いですからね」
おぉ……なかなか便利な冒険者ライセンス。でもそうか、いちいちお金を払って出入りするのも嫌だよね。
「先ほど少しお話しした、ギルドでのランクの確認にも使います。ランクは、依頼の達成や仕事の功績を考慮して上がります。まぁ採集や雑用系は相当数をこなさないといけませんが……で、お二人は登録直後なのでFランクですね。このランクは見習いだと思ってもらえば……」
「「はい」」
「自分のランクによって受けられる依頼が異なります。依頼はAからFまでの段階に分けられていて、自分のランクの一つ上の依頼までなら受けられます。ランクの高い依頼ほど、報酬も高くなりますよ。討伐系は依頼を受けていなくても、達成したという証明ができる部位……だいたいは魔獣の爪や鱗ですが……を持ってきてくれれば達成したことにしています」
この辺はだいたい予想通りかな。いきなり無茶するつもりもないし、地味な依頼でポイント稼ぎでもしよう。なにか倒してって言われても無理です。即死する気しかしないもんね。
「最後に、さっき言った討伐証明部位の略奪や暴行などの行為は禁止です。冒険者資格の剥奪もあり得ますので……気をつけてくださいね。……まぁ大丈夫だとは思いますが……」
うん、登録したの女の子二人だからね。そうそう加害者にはならないと思うよ。でも気をつけないと……資格剥奪とかとっても嫌だ。
「ギルドの建物内での争いや問題行動も厳禁です。うっかり魔法で吹っ飛ばしたりしないでくださいね」
「「……」」
……そんなことはしないと言いたいけど、私のスキルはほぼ魔法……まだ使ったことないし、ないと言い切れないのがなんとも……うっかりには気をつけよう。でも、そもそも魔法を使えるようになるのが先かな?
「以上です。なにか質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「わたしも大丈夫です」
受付嬢さんが聞いてくれたけど、私とミュウは揃って首を横に振った。
もしなにかわからないことがあれば、そのときに聞けばいい。とりあえず今は登録を終わらせて安心したい。
「はい、では……改めて。ようこそ! 冒険者ギルドへ!」
私とミュウはこれで冒険者の仲間入り。駆け出し冒険者になった。
「うあぁ……緊張したぁ……」
「わ、どうしたのミュウ」
登録が終わって部屋から出た途端、ミュウが大きなため息とともに崩れ落ちた。
「こんなの一人でなんて無理……」
「そんなに?」
「うん、ミサキがいてくれてよかったよ。……じゃなかったらまだ外にいたかも……」
……ミュウは、一体いつからあそこをウロウロしていたんだろう……気になって声をかけて正解……私の手を引っ張ってギルドの中に入った、あの勇ましいミュウはどこ行った。あまりの落差に思わず苦笑が漏れた。
……と、なにかを考えるようなそぶりを見せていたミュウが、突然私をじっと見て、口を開いた。
「んー……うん! ねぇミサキ」
「うん?」
「わたしとパーティー組まない?」
パーティーというとアレかな、一緒に行動する仲間になって、みたいな? 私はミュウにあれこれ教えてもらいたかったし、このお願いを断る理由はない!
「うん、いいよ」
「ホント⁉ ありがとうミサキ!」
「よろしくね、ミュウ」
「うん!」
なにより……まだ会ったばかりだけど、ミュウと一緒にいると楽しいからね。ずっと一緒にいてくれるといいなぁ……
「一緒に頑張ろ! ミサキ」
「うん! 頑張ろう!」
……まぁなんにせよ、私がするべきなのは勉強だよね。なんにも知らないままじゃ、冒険者どころか普通に生活するのも難しい。パーティーを組んだばっかりで申し訳ないけど、ミュウにいろいろお世話になろう……このままじゃマズい……
ちなみに、パーティーの申請もギルドに報告しなきゃいけなかったんだけど、登録をしてくれたお姉さんに言ったら……
「あらパーティー? じゃ、これ書いてね」
「「あ、はい」」
こんな感じですぐ終わった。名前はなぜか『ミサキのパーティー』になったけど。ミュウがこれがいいって言って決めちゃった。なぜに私の名前……
その日の夕方、私とミュウは宿にいた。
依頼を受ける前に、とりあえず今日は街を見ておこうって話になったんだ。ミュウは王都じゃなくて、北のほうの街出身らしい。でも王都には何回か来たことがある……ということで、案内してもらった。あちこち見て回っているうちに、辺りが暗くなってきたから泊まるところを探したんだけど……安宿はなぜかどこもいっぱいで、ご飯つきで小金貨四枚の宿しか空いてなかった。……いや、高いなぁ……シャワーあるし、ご飯もおいしいから文句言えないけど……早速ほぼ一文無し……はぁ……
それはそれとして、もう少しこの世界のことを知って、明日からも頑張らないとね。部屋でくつろいでいるミュウのほうを向く。
「ねぇ、ミュウ」
「ん? なに?」
「私に、この世界のことを教えて!」
「え⁉ なに、急にどうしたのミサキ⁉」
ごめんねミュウ、意味わからないかもしれないけど、今の私は無知で一文無しっていう大ピンチなのです。
でもこのままだとミュウは混乱してしまうだろうから、私は本当のことを包み隠さずミュウに話すことにした。
「……私、この世界の人間じゃないの」
「……え? どういうこと?」
ミュウの頭の上に疑問符が溢れだした。まぁそうなるよね、目の前の人がいきなり異世界人だって言い始めたら、誰だってそうなるもん。でもミュウには知ってほしいから、なるべくわかりやすく話す。
「……勇者召喚、って知ってる?」
「うん……聞いたことあるけど……確か、魔人に対抗するために、勇者を呼び出す儀式……だっけ? 大昔からあるっていう……」
「そう、それ」
勇者召喚って意外と有名みたい。ホッとして先を話す。
「私ね……それに巻き込まれてここに来たんだ……」
話が早くて助かるけど、ミュウの反応やいかに……
「…………え」
「?」
「ええええええええ⁉」
「うわびっくりしたぁっ‼」
ミュウの大声初めて聞いた……あれ? 叫んだ反動なのか、肩で息をしてるミュウの目が……キラキラしてる……? ど、どうしたのミュウ……
「……勇者召喚……まさかミサキが……」
「ミュ、ミュウ?」
「でも納得……本物……へー」
「ミュウさーん?」
「そういうことなら……うん……」
「……おーい、ミュウさんやーい」
……どうしよう、ミュウの様子がおかしくなった。私を頭からつま先までじーっと見て、なんか呟いてる。物珍しげな感じで見られても、不思議と嫌な感じはしない。……けど、そろそろ話を続けたいな。
「えーと……ミュウ?」
「……はっ⁉ ご、ごめんミサキ!」
「ううん、大丈夫……どうしたの、ミュウ」
……あ、ミュウが戻ってきた。この反応……どうも私が異世界人なのが嫌ってわけではなさそうだけど、なにを納得したんだろう……というか私、別に勇者じゃないからね? あくまでも巻き込まれた村人だからね?
「はぁ……勇者召喚かぁ。ホントにいたんだね……召喚者って。伝説だと思ってた」
「私のこと、怪しいとか思わないの?」
「全然? むしろいろいろ納得。黒髪黒目って見たことないもん……綺麗だけど」
「……そういえば……全然いなかった……」
ミュウに言われていまさら気づいたけど、この街に黒い髪の人はいなかった。金とか銀とか、赤とか青とか、カラフルな髪の人はいっぱいいたんだけど。……あれ? 私が着替えた意味ってなに? 髪色でもう目立ってるなら、服もそのままでよかったんじゃ……無意味に取られた感が半端ない……
そしてミュウは私が召喚者だって知っても、敬遠するどころかむしろぐいぐいくる。それはとてもありがたいことなんだけど、ミュウは思ったよりも明るい。というか……アイドルを前にした女子高生みたいな……って私アイドルじゃないけど。アイドルを前にしたこともないけど。
「えっと、世界のことが知りたいんだっけ? ……うん、わたしが知ってる範囲でよければいくらでも!」
「ほんとに⁉ ありがとうミュウ~‼」
「ほっとけないもん。パーティーだし、友達だし……」
「ミュウ~‼」
……で、まずは私が今いるサーナリア王国について聞いてみたんだけど、衝撃の事実が……
「……え、この国、大国なの?」
「うん。規模だけなら世界有数……って聞いたことあるよ」
「……マジですか」
なんかこう……なんとも言えないけど、なんかね? もやっとする。
勝手に呼び出して、村人だからって理由だけで叩き出した王様。私の中の王様株は急下落、もう上げる気もない。そんな王様が大国の統治者っていうのは……うーん。
次に、冒険者についても知らないことだらけだから、聞いてみた。
ミュウ曰く、この国は冒険者がとても多いんだって。あちこちに宝があるとかなんとか……一攫千金狙いで他の国からも人が集まってるらしい。人が多いなら討伐系の仕事は私がやらなくても誰かがしてくれるんじゃ……村人の私にできる気もしないし、戦う必要もないんじゃ……? 逆にどんなことをするのか聞いてみたら、ミュウが答えてくれる。
「討伐じゃなくっても、薬草集めとか……街の外に行く機会も多いと思うよ」
「……だよね。戦えないとまずいかな?」
「んー……最低限自衛はできたほうがいいかな……」
「……頑張ります」
私たちが冒険者登録をしたのは王都のギルドだから、王都での活動がメインになるんだって。王都は壁に囲まれている。東西南北の四方にそれぞれ門があって、そこから他の街に出入りするんだけど、他の街に行くまでには平原や森があって、そこには人を害する魔獣がいるらしい。それを退治するのが冒険者の主な仕事なんだよね……
確かに、魔獣がうようよいる街の外に行くのに戦闘できません、じゃ厳しいかな……街の近くには魔獣は寄りつかないらしいけど、外に出ないとできない仕事も多そうだし。私に戦闘経験なんてあるはずないけど、身を守るなにかは必要か……魔除け? ……効かなさそう。
それと、自分のスキルのこともよくわからないから、聞きたいんだよね。
「ねえ、ミュウ。私、自分のスキルの使い方が全然わからないんだけど……どうすればいいのかな」
「ステータスを開いて、詳細を見たいスキルを眺めるの。そしたら使える技が出てくるから、意識を集中させて、その名前を声に出すだけだよ」
そうなんだ。蓋を開けてみればとっても簡単だった。試しにやってみようかな。
「……【ステータス・オープン】」
改めて確認。私が使えるスキルは〈言語適正(人)〉と〈光魔法〉、〈回復魔法〉。
〈言語適正(人)〉をじっと眺めていると、詳細表示になった。なになに……『あらゆる人の言語を理解する』? ……あらゆる人って、どこまで含むんだろう。もっと細かく知りたい。
まあ、気を取り直して、私が楽しみにしていた魔法を見てみよう。スキルに魔法があったときから、実は楽しみだったんだよね。今まで魔法とは無縁の生活だったし、嬉しくなるのは仕方ないことなんだよ。
気合いを入れて〈光魔法〉を眺めてみる。
〈光魔法〉……所持者に光属性の魔法を与える。
【サンクチュアリ】【ライト】【ライトアロー】
おお、これが私が使える魔法……
「ミュウ……魔法、ちょっと使ってみていい?」
「なんて魔法なの?」
小首を傾げるミュウに、私は答える。
「【サンクチュアリ】、【ライト】、【ライトアロー】っていうみたい」
「んー、わたしも知らない魔法ばかりだけど……【ライトアロー】はやめたほうがいいかもね」
確かに……アローって、矢のことでしょ。明らかに危険だよね、ここ宿だし。
そしたら、【サンクチュアリ】と【ライト】を試してみよう。
「【サンクチュアリ】!」
……あれ? なにも起きない。やっぱり私は村人だし、魔法使えないのかな……。ぼふっとお布団に寝転んだ。
しょんぼりする私を見て、ミュウが慰めてくれる。
「ちょ、ちょっと調子が悪いだけかも! もう一つのほうやってみようよ!」
そうだ。もう一つは使えるかもしれないし、まだ諦めるには早いよね。意識を集中させて呟いた。
「……【ライト】」
……ううん、これは、できてるの、かな?
さっきと違うことといえば、手に持っている枕が光ってることだけなんだけど……
「……んー、うん。ちゃんと魔法できてるよ」
「……お、おぉぉ……!!」
憧れの魔法を私は使っている……! 地味でも魔法は魔法だし!
きっと、【ライト】は持ってるものを光らせる魔法なんだね。嬉しくなっていたら、ミュウにちょっと笑われてしまった。
「ふふっ……ミサキは魔法が好きなんだね」
「う……だ、だって魔法使えなかったんだもん、前は」
とはいえ、もっとすごい魔法を使ってみたかったのも事実……
いや、まだ〈回復魔法〉がある! こっちに期待しよう。
きっと〈回復魔法〉はファンタジー小説でよく魔法使いが使っているような、怪我とかを治せる魔法だよね!
でも、ミュウに怪我させるわけにいかないし、これは別の機会に確かめよう。
その他にもたくさんミュウは話してくれて、私もだいぶこの世界について知った気がする。
「ありがとう、ミュウ。おかげでいろいろわかったよ」
「どういたしまして」
だいぶ長い間話し込んでいたはず……なのに、嫌な顔一つしないで付き合ってくれたミュウには感謝しかない。今日初めて会った人にここまで優しくできるなんて……天使かな。
ちなみに、ミュウがかなりの知識人なのは、将来困らないようにって両親にいろいろ教わったからだとか。ミュウの両親は現役の冒険者で、経験したことや聞いたことなんかをミュウに叩き込んだらしい。お父さんからは戦い方とか魔獣について、お母さんからは雑学……スキルとか魔法について。子どものときから冒険者について触れてきたから、ミュウは冒険者になったばかりなのに詳しいんだって。
突然ふわぁとあくびが出た。ウトウトしてるミュウに声をかける。
「……もう遅いね。寝よっか」
「うん、さすがにもう眠いや……」
「おやすみ、ミュウ」
「おやすみ……ミサキ」
冒険者としての活動は明日から。……少しでもお金を稼がないと生活できない。心配事はたくさんあるけど、新たな異世界での生活に、胸が高鳴っているのも事実。
「ふふ……明日からは、本格的に冒険者だね、ミュウ」
「だね。頑張ろう」
「うん」
ミュウもワクワクしてるのか、眠る直前までテンションが高かった。しばらくまた、おしゃべりを再開。
いつ眠りに落ちたかの記憶がないんだけど……それだけ疲れていたのか、朝が楽しみだったのか……多分どっちもだよね。
「おはようミサキ」
「おはよー……ミュウ。早いね……」
「うん、いつもなんだ。冒険者になるなら早起きしなさいってお母さんに言われてて。いつの間にか癖になっちゃったんだよねぇ……」
翌日、私が目を覚ましたら、ミュウはもう身支度を済ませていた。外はまだ薄暗いのに……一体いつから起きていたんだろう。昨日だってかなり遅かったよね? え、私が怠けてるだけ? そんなことないって言えないのがつらい……
「……冒険者ってこんなに朝早いの?」
「うん。朝早くのほうが、ギルドに依頼いっぱいあるんだって。選び放題」
「……へぇー……」
「だから今くらいが一番多いらしいんだ……ギルドに行く人」
「……マジですか」
こ、これは慣れるまでは大変そう……頑張りますか。持ち物は極端に少ないし……あっという間に荷造り終了。バッグ一つに、今の私の全てが詰められる。手早く準備して宿から出た。ほぼ無一文だし……早くなんとかしないと……ね。
宿はギルドから近かったので、出発してから割とすぐ着いた。
相変わらず人が多いなぁ……え、ということはあの人混みの中で依頼を探すの? ちょっと厳しくない?
「……いい依頼、見つけられるかな……」
「んー……聞いたほうがいいかも」
「……うん? 聞く?」
「うん。受付嬢さんに」
そんなことできたんだ。にしてもミュウ、やっぱりすごく冒険者に詳しい……これがアルメリア家式冒険者英才教育の賜物かぁ……すごいね。
ともあれ依頼を探すなら、私の最低条件……武器がいらないって依頼を探さなきゃ。丸腰で街の外に出たら軽く死ねる。……あっても戦える気がしないけど。
「すみませーん」
「はーい……あら昨日の。もう依頼探しですか?」
早速昨日の受付嬢のお姉さんを呼ぶ。こういうときって、なんとなく知ってる人に聞きたくなるんだよね。
「はい。武器のいらない依頼ってありますか?」
ミュウが尋ねると、お姉さんはにこやかに頷いた。
「Fランクの武器なし……ありますね。ちょっと待っててください」
おお、意外と簡単に見つかりそう。よかった。
「お待たせしました。こちらですね」
「あ、結構ある」
どれどれ、とミュウと一緒にお姉さんが出してくれた紙を見る。
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