上 下
2 / 8

婚約破棄について父からお言葉をもらいました!

しおりを挟む


「ハンナ、エリックがお前に婚約解消を申し込みたいそうだ」
「存じ上げております」

一通り脳内で暴れ回った夜、お父様から部屋に呼び出された。そういえばそんなこともあったわね、そんなことどうでも良すぎて忘れていたわ。

「全くお前は…なんてことをしてくれたんだ」
「わたくしは何もしておりませんわよ」
「何もしてないってことはないだろう。先方からも苦情が何回か来ているし、私もお前に何度か態度を直せと言ったはずだが」
「直さなければならないような態度をとった覚えはございませんもの」
「お前なぁ…」

私のつっけんどんな態度を見てお父様は深いため息をついた。
そんなふうにため息をついたって何も変わりませんわよ。
わたくし、あの方に近づく女に「婚約者がいる男にそのようにベタベタするのはどうかと思う」とお伝えしたくらいで、手は出してない…ってあら?これ、前世と同じ状況じゃなくて?あら、あらあらあらあら。どうしましょう。




うーーんと頬に手を当てて考え込んだわたくしを見て何を思ったのか、口を開く。


「どうやらやっと心あたる節があるようだな。しばらく謹慎していなさい。婚約の話はこちらでまとめておく。解消にはならないようにするから安心しなさい」
「あら、どうして解消してしまいませんの?」
「どうしてって…お前、エリックのことが好きなんじゃなかったのか」
「好きじゃありませんわよ」


お父様が呆気に取られた顔でわたくしを見ている。
本当だ。本当に好きではないのだ。嫌いでもないけれど。前世のように愛していたとかでもない。
じゃあなんでエリックの浮気相手の女にあんなことを言っていたのかというと、普通に常識的に考えて良くないと思ったのだ。わたくしや婚約者、果てはあの女の世間体にも関わるから、ただ常識を説いていただけだ。
それが何故かエリックにも誤解され、お父様にも曲解されて、わたくしがエリックを好いているということになっている。


誰が浮気男など好きになるものですか。わたくし、これでも見る目はあるのよ。


「そういうことで、エリックとの婚約解消を進めてくださいませ。よろしくお願いいたしますわ」
「……」
「婚約が取り消しになった娘がいてはこのおうちも外聞が悪いでしょうから、わたくし、このおうちを出てきいますわ!」
「……?!ちょっとまて、どういうことだ、?!まて!!おい!!!ハンナ!!!」



お父様の声に耳もくれずそのまま部屋の扉を閉めると、声は少しくぐもってもう何を言っているかはっきりと聞こえない。
ドタドタッドカッと大きな音がして、その後は何も聞こえなくなる。

騒々しいこと。いつもわたくしにはお淑やかにすごしなさいと言うくせに。まあ、もうそんなことはどうでもいいわね。このおうちから出ていくのですもの!お父様に止められる前に荷物をまとめて家を出ないと!!


「エミリア!カバンの準備をして頂戴!なるべく大きいものを!」
「お嬢様、何に使われるのですか?」
「家を出るの!だから最低限必要なものを持って行けるくらいの大きさのものをお願い」
「……?家を、出る?」
「ええ!早く持ってきて!お父様が来ちゃう!」
「待ってください、家を出るってどういうことですか?!お嬢様!」
「ほら、早く!!」

そう言って無理やり何か言っているエレノアを部屋から追い出して、鍵をかける。
鍵をかけただけじゃ外から無理やり開けられる可能性もあるわね。ここは…この術式かな!

「施錠」

これでドアはビクともしないでしょう。わたくしが出ていくまでの時間稼ぎくらいはしてくれるはず。


本当はわたくし、家出を一度はしてみたかったんですの。だから、エミリアに頼まなくたって、家出の準備くらいはもう整えてある。
服の中にしまっておいた細いチェーンを取り出して、その先に付けられた宝石を撫でる。この宝石は収納の魔術を内蔵している。魔力を流し込めば、わたくしの部屋ひとつ分くらいは簡単に収納出来る。
これは16の誕生日にお母様がくれたものだ。わたくしがおねだりしたんですけどね。


もう持っていくものはほとんどここに入っている。後はこれだけだ。

先程まで読んでいたあの童話が書かれた本を掴んで、私は青く輝く宝石に魔力を流し込む。何を収納するかを意識すると、するりと手から本が消えた。


「これでよし。じゃあ行きますか」


これまた予めいつかの為にと描いておいた大型の魔術式を取り出し、その上に乗る。先程と同じようにその魔術式に魔力を注いで…


「転移」


そうしてわたくしは生まれ育った家から姿を消した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

結婚二年目、愛情は欠片もありません。

ララ
恋愛
最愛の人との結婚。 二年が経ち、彼は平然と浮気をした。 そして離婚を切り出され……

処理中です...