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31 邪龍襲来

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【自己奉仕バイアス】
 成功は自分の力、失敗は他人のせいにしてしまうこと 

 この日、王都周辺諸国に悪い知らせが届く。邪龍と呼ばれる龍が、こちらに向かっているらしい。
 各国は慌てた。邪龍の襲来など、ほとんどなかったからだ。周辺国と連絡を取りあい対応を迫られている。
 幸い進行スピードは遅く、寄り道をするように飛んでいるらしい。なぜ邪龍がこんな行動をしているのかは分からない。

 ゴスプルの町長リカルドは、この知らせを聞いてすぐにギルドマスターのグレイブとAランク冒険者のジェラルを呼び寄せた。

「グレイブ。邪龍はあとどのくらいでここまで来る?」
「今のところ約12日かと。真っすぐに飛んで来たらもっと早まります」
「うむ。真っすぐに飛んで来ることも考えて対応策を練った方がいいな」
「はい。今、冒険者や戦える者を集めております」
「Bランク以下は厳しいだろう?」
「一応、Bランク以上に限定しています」
「王都の方はどうだ?」
「さすがに勇者を出すようですが・・」
「勇者か・・。ジェラル、ユキヤは今どこにいる?」
「彼は今、ギルドの依頼で出てます。山奥なので連絡がつきません」
「こんな時に!いや、ギルドの仕事をしているのに責めるのは酷か」
「そんなに難しい依頼ではないので、すぐに帰ってくるかと」
「ジェラル、ユキヤも今回は参加するように伝えてくれ」
「分かりました」

 リカルドは悩んでいた。天使の帰還者エンジェルリターナーはもうないのだ。ゆえに前回のような犠牲者を出さない方法はとれない。
 邪龍は魔王の配下に入ったドラゴン。その戦闘力は人間が太刀打ちできる相手ではない。さらに魔王によって力を底上げされてるだろう。一体どれほどの犠牲者が出るだろうか?
 せめての救いは王都の勇者が参加することか。
 しかし、あの国が本当に勇者を出してくるだろうか?
 リカルドは思考を続けた。


 幸也はゴスプルより少し離れた山奥に向かいっていた。ギルドの仕事のためだ。
 山奥にいたはずのゴブリンが人里に降りてくるようになったらしい。それでゴブリン退治の依頼だ。
 幸也はこの依頼を喜んで引き受けた。
 最初はゴブリンばかり相手にしていたので、どこか懐かしいような気がしたからだ。いや、油断は禁物。
 幸也は気を引き締めて目的地まで向かう。

 依頼のあった人里は本当に何もない所だった。
 高い山々に囲まれひっそりとしている。畑が多く自給自足で生活をしているようだ。若者は都会に働きに行き、残った者はお年寄りが中心だ。
 まるで日本のようである。
 もちろん久しぶりの若者の来訪に歓迎されてしまう。そして【食べろ攻撃】・・・。
 よく親戚の家とかに行くと、ご馳走を出されて『食べろ!食べろ!』言われるやつだ。
 正直、食欲もないときにこの攻撃はキツイ。愛想笑いをしつつ食べてるフリをするしかないのだ。
 これからゴブリン退治に行かなければならないのに腹がはちきれんばかりである。
 『うっぷっ』幸也は膨らんだ腹をさすりながら山奥へ向かう。

 森に入り、しばらくするといた。ゴブリンだ。ゴブリンもこちらに気づいたらしく向かってくる。
 幸也はゴブリンに【トラップ】を仕掛け態勢が崩れたところで斬りつけた。懐かしい!
 調子にのった幸也は、次々にゴブリンを退治する。どのくらいの数がいるか分からないので少し時間がかかりそうだ。
 初日は無理をせず村に泊めてもらった。
 やっぱり【食べろ攻撃】が・・・。

 翌日朝早く、昨日よりも奥に行ってみる。数匹のゴブリンがいたが簡単に倒し先に進む。
 しばらくすると洞窟があった。ここがゴブリンの住みからしい。数匹が出入りをしている。
 幸也は迷った。数が分からないからだ。
 とりあえず飛び出して行って出てくるゴブリンを倒していく。出てくるゴブリンの数が多すぎたら【ウォール】で洞窟の入り口を塞ぐ。この作戦でいこう。

 幸也はアイテムボックスから不知火を取り出し、ゆっくりと洞窟に向かった。
 ゴブリン2匹が幸也に気づき襲いかかる。
 先に棍棒を振り上げたゴブリンを【シールド】で防ぎ、もう1匹【トラップ】で足止めをする。
 そしてゴブリンが戸惑っているうちに不知火で切り裂いた。
 洞窟から騒ぎを聞きつけたゴブリンが出てくる。
 その数10・・20・・まだ出てくる。あわてて入り口を【ウォール】で塞いだ。
 幸也は『ふぅー』と溜息をつくと、ゴブリンの群れに突っ込む。休みなくゴブリンを斬りつける。
 ゴブリンはどんどん数を減らし、しまいには全て倒された。
 洞窟の入り口に張った【ウォール】のせいでゴブリンは外に出れずもたついている。
 しかし脳内に響くあのメッセージ。

【チャージタイムは15分です】

 幸也が入り口を見ると【ウォール】が砕かれている。つまり【ウォール】を砕ける力を持った者がいるのだ。そこから出てきたのは他のゴブリンよりふた回り大きいゴブリンキングだ。
 ゴブリンキングを中心にして洞窟からゴブリンが続々出てくる。その数、おおよそ40匹。
 さすがの幸也にも焦りが出る。
 ゴブリンキングに、この数だからだ。数の利で押されるとキツイ。
 ジリ貧になる前に先手でいく。

暗黒千本針ダークネスサウザンドニードル

 無数の黒針かゴブリンに襲いかかる。
 と同時にゴブリンの群れに突っ込む。一太刀ごとに倒し数を減らすが、それでも数の不利は変わらない。
 幸也も少しずつ傷を負っていく。一旦、後ろに下がり距離を取る。

 まだゴブリンキングもいる。統率力も高く連携が上手い。
 とりあえず雑魚どもを減らそうと【イーター】で書き換えをしようとしたとき、

「ボウズ、助太刀は必要かね?」

 声の主は白髪、60代くらいの老人だった。手には木の棒を持っている。

「必要なんですが、その棒じゃ・・・」
「ワシのことは気にしなくて良い。さて倒してしまおう」

 老人が棒でゴブリンを打ち付けるとゴブリンが吹き飛んだ。一振りごとにゴブリンを吹きとばりしていく。とてつもない怪力なのだが体つきはそのようには見えない。
 幸也も負けじとゴブリンを斬りつける。さすがに2人になると雑魚どもでは相手にならない。
 残りはゴブリンキングのみ。
 だが老人の持っていた棒もすでに折れてしまっている。

「ここは俺が」
「ワシに任せなさい」

 そういうと老人はゴブリンキングに手の平で打つ掌底を放った。ゴブリンキングは吹き飛び壁に叩きつけられて動かなくなった。絶命しているのだ。
 幸也は【ウォール】を砕くほどの力を持ったゴブリンキングを掌底一撃で倒したことに驚いた。

「ボウズはなぜ、こんな山奥におる?」
「ゴブリン討伐の依頼を受けて・・」
「冒険者というやつか?」
「はい」
「若いわりには、なかなか強そうに見えるが?」
「そこまで強くは・・」

 老人は東の空を見上げると、

「邪龍か・・」
「邪龍?邪龍とは?」
「魔王の配下になったドラゴンのことだ。王都に向かっている」
「王都!?すぐに帰らないと」

 幸也は急いで帰ろうとするが。老人は、


「待ちたまえ。ボウズ」

 と幸也を引き止めた。


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