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17 スタンピード

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 ギルドに珍しい男がやってきた。
 
 ギルドマスターのグレイブのもとに向かうこの男。
 そう元【SS】ランク冒険者にして現町長、リカルド・バレンティヌス。
 【S】ランクを超え【SS】ランクになった冒険者の1人だ。
 現役時代は勇者すらも超えると言われたほど。
 
 引退し町政に関わってからは王都の支援を拒否し、独自の財政を得ることにまでに発展させた。
 その腕は豪快かつ繊細。

 リカルドはグレイブに状況を尋ねる。

「状況はかなり厳しいです。町民の避難を急いでください」
「分かった。すぐに手配する」
「王都から応援は?」
「期待できんな」
「冒険者とこの街の衛兵だけでは・・・」
「まぁ、全滅だろうな。ジェラル。冒険者の方はどうだ?」
「全員に参加を呼びかけいますが・・・それでも数が」
「うむ。参加者全員に金貨30枚報酬として出すと伝えろ」
「それでは街の運営は・・」
「死んでしまったら運営もへったくれもあるまい」
「分かりました」
「ところで、ジェラル。ルーキー決定トーナメントに出ていたユキヤという少年はどこにいる?」
「彼は今・・・」

 リカルドはルーキー決定トーナメントで幸也の【アイテムボックス】に気づいた1人である。
 彼もまた【鑑定眼】の持ち主なのだ。


 町民の避難が終わったのは魔物の到着の半日前だった。
 幸也はギルドに来ていた。
 冒険者達はお互いの持ち場に向かっている。
 ミレイユが幸也に

「これを・・どうぞ・・」
「これは・・・」

それはミレイユの髪の毛20本だった。

「たくさんあった方が効くかと思って・・」
「・・ありがとう・・ミレイユさん」
「ちょっとー!あんた達、またー?」

 美人受付嬢がやってくる。

「私だって・・・」

 美人受付嬢も髪の毛30本近くを幸也に渡す。

「・・ありがとうございます。・・えーと・・・」
「アリスです!」
「・・ありがとう。アリスさん。じゃ・・行って来ます・・」

 幸也はギルドを出て持ち場に向かう。
 ミレイユとアリスは幸也を見送ったあとも浮かない顔をしていた。知っていたのだ。幸也が特攻に選ばれたことを。

 
 ジェラルは冒険者の先頭で目を閉じていた。
 もうすぐ夜明けだ。やって来る。魔物達が。

「ジェラル。もうすぐだな」
「あぁ、スクラド。世話になったな」
「諦めるの早いだろう」
「そうだな・・少し弱気になっていたようだ」
「おまえの弱気なんて久しぶりだな」
「そうか?」
「冒険者学校で女に振られたとき以来」
「スクラド・・・それは言わないでくれ」
「だったら、いつものように冒険者共に発破をかけてやれよ?」
「そうだな」

 ジェラルは冒険者達の方に向き直し深呼吸する。 

「冒険者共よ、聞け!我が名はジェラル!今より、魔物のクソ野郎を蹴散らす!全員、俺に続けー!!」

「「「「おおー!!!」」」」

 冒険者が声を張り上げる。それは声が枯れるまで続く。
 冒険者達は分かっていた。生き残れないことを。

「行くぞ!!野郎ども!!」

 ジェラルの咆哮ほうこうがこだまする。


 移動速度の関係で先頭の魔物の数は少ない。
 なので、この段階では冒険者も対抗できる。
 問題は中間層から一気に魔物の数が増えてからだ。

 ジェラルは相棒スクラドと共に魔物を蹴散らす。
 だが、徐々に魔物の数が増えつつある。
 このままでは持ちそうもない。でも諦めない。
 先頭を任されたリーダーとして、傷を負おうが構わず自らの斧を振るう。

 スクラドも双剣でジェラルのカバーに入る。
 お互いの付き合いは長い。ジェラルの考えそうなことは分かっている。
 ジェラルは最初の犠牲者になろうとしている。
 他の冒険者に申し訳がないと思っているのだろう。
 故に、防御お構いなし攻撃。スクラドはそんなジェラルを守り抜くと誓った。

 中衛陣でラーラとキリルは魔力切れのお構いなしに魔法を撃ちまくる。
 前衛に比べたら安全な所にいる自分達が申し訳なく思ったからだ。
 
 ラーラはジェラル、スクラド、そして幸也が前衛にいる事を知っている。それはつまり・・・。
 涙が出そうなるのをこらえ全力の魔法を放つ。

 
 前衛陣が崩れる。怪我人も出始めている。
 そんな時、街の方から
  
「撃てー!」

 声の主はリカルド。街までかなりの距離があるのにこちらまで響く。
 王都に対抗するため密かに開発中であった魔導砲。
 魔導砲が魔物を蹴散らしていく。

 魔導砲の支援を受けたジェラルは再び勢いづく。
 が、やはり数の有利性はくつがえらない。
 徐々に押され出す。

 すでに犠牲者は出てしまっている。なのに自分はまだ死んでいない。
 そんな考えをしていたジェラルに油断が生じた。魔物の放つ槍がジェラルを襲う。

 『グポッ』鈍い音がした。
 しかしジェラルは傷を負わなかった。ジェラルの前に男が立っている。男の腹部からは槍が突き抜けている。男の後ろ姿には見覚えがあった。 

 「スクラドーーーー!」

 ジェラルはあたりの魔物を吹き飛ばしスクラドを支える。スクラドの腹部からの出血が酷いのが分かる。早く治療しないとマズい。

「ジェラル・・怪我は・・ないか?」
「しゃべるな!スクラド」
「何年冒険者・・をやってると・・思っている。助からないこと・・くらい・・分かる」
「スクラド ・・しゃべらないでくれ・・」
「ジェラル・・先に・・すまな・・。。。」
「スクラドーーーー!!!」

 その時、ジェラルの身体が赤く光る。
 ジェラルの脳内にメッセージが響く。

【斧術がLV8になりました】

 ジェラルの身体から赤いオーラが吹き出す。そして、その眼は怒りに満ちていた。

「おまえらーー!許さんぞーー!」

 ジェラルは斧を自らの前に構えて唱えた。


神聖大竜巻殲滅陣セントトルネードアナイアレイション


 赤い竜巻きが辺りの魔物を全て吹き飛ばす。
 それは肉片すら残らないほど強烈な一撃だった。
 ジェラルがよろめく。肉体の限界をすでに超えているのが分かる。それでも倒れない。再び力を溜める。

「・・スクラド・・俺に・・力を・・」


神聖大竜巻殲滅陣セントトルネードアナイアレイション


 それは再び襲いかかってきた魔物の群れを吹き飛ばした。
 しかし・・ジェラルは前のめりに倒れこむ。
 もはや指一本すら動かす力も残っていなかった。
 ジェラルは思った。

(あの世でもスクラドとコンビを組めるかな・・) 

 
 前衛の要もいなくなり魔導砲も限界。
 それでも魔物の進行は止まらない。
 冒険者達に絶望が広がる。
 
 それは突然やって来た。ワイバーン。
 ワイバーンは街から魔物の進行に向けて飛んで行く。

 すでに魔力の切れていたラーラはぼんやりとワイバーンを見た。誰かが乗っている。
 それは見覚えのある姿だった。


「ユキヤ君!」


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