すいれん

右川史也

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終節 新しいきせつへ

第26話 明日香の大晦日

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 イヴから一週間が経った年の瀬。
 あれからずっと、明日香は彼の言葉を何度も思い出していた。

 慎太郎は私の幸せを願ってくれていた――。
 だから、距離を置こうって言った……のかな――。
 慎太郎が思う、私の幸せ――。

『手術を受けるべきだ』――。

 でも、それだと慎太郎は、離れてしまうかもしれない――。

 明日香の幸せのロジック、その中心には常に慎太郎がいた。

 慎太郎がいれば私は幸せだ……でも――。

 ならば、彼がいたら満足なのか。
『慎太郎』の他に望むものはないのか。
 そう考えると、やはり浮かぶのは昔からの願い。

 傷……を治す――。
 だけど、そうすると慎太郎は去っていくかもしれない――。

 同じ場所を何度も巡る。
 同じ様に自らに問い、同じ様に答えを出し、同じ様に悩む。

 しかしながら、いつまでも同じではなかった。
 絶えず悩み、考え、答えを出し、また悩む。
 そうする事で、内心は練磨れんまをされるかの如く、本人も気が付かぬ内に徐々にはっきりとした輪郭を持つようになっていった。

 いつしか、明日香の中で揺らぎ続ける想いは、一つの答えへと向かっていた。
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