16 / 29
第二節 暑くなってきたきせつ
第16話 七月の中頃 -その2-
しおりを挟む
「もう観た?」
翌日の放課後、アパートに来た彼女はテーブルの上にあるDVDを見て尋ねてきた。
「いや、昨日はすぐに寝ちゃって、まだ――」
慎太郎は咄嗟に嘘をついた。
〇
『愛の苗』は慎太郎にとって衝撃的な作品だった。
主人公・ナオヒトは、若手のインテリアデザイナーで、自分の事務所を持ち、時折雑誌に紹介される程の成功を収めていた。
また、人柄も良く、友人に囲まれ、好意を抱き声をかけてくる女性も少なくなかった。
ある日の仕事帰りに一人で入ったバーでもいつものように女性に声をかけられ、そのまま二人で郊外にある彼のアトリエへと向かう。
全てが順調なナオヒト。
だが実は、彼には一つだけ悩みがある。
それは彼の特殊な趣味――性癖にあった。
ナオヒトは花が好きだった。
それも、女性から生えた花を自分の手で育てる事が特に好みだったのだ。
彼は連れ込んだ女を薬で眠らせると、身体のあちこちにメスで切れ目を入れ、そこに種を植えた。女を監禁状態にすると彼は世話をしながら、既に開花している別の女の花を愛でた。
そうして着実に苗床を増やしていくと捜査の手がナオヒトに延び、最後には逮捕直前にアトリエを燃やして花たちともに心中する。
――といった内容だ。
〇
軽い気持ちで観始めたのだが、見終わると考えが止まらなくなり眠れず、もう一度観た。そして何かを洗い流したい気分になり再びシャワーを浴びた。
観るべきではなかったと後悔した。
しかし観てしまったからには放っておく事はできない。
慎太郎は可能性を感じてしまっている。
ナオヒトは『人から生えた花』が好きで、慎太郎は『植物』を愛し、人を愛したかった。
違うと分かっていた。しかし、その特異な偏りを、どうしても結びつけようとしてしまう。
自分の明日香への気持ちが怖くなった。
「どうしたの?」
彼女の声で我に返る。いつのまにか昨晩の悩みが再訪していた。
心配そうに覗き込む明日香。その時、額と腕の絆創膏を見え、慎太郎は彼女を抱きしめた。
「え? どうしたの?」
彼女は驚きながらも優しく慎太郎の背に腕を回し、そっと抱きしめ返してくれた。
その感触が解ると慎太郎はより一層彼女を強く抱きしめた。
明日香の睡蓮が見えぬように、深く彼女の中に逃げ込むように、と。
翌日の放課後、アパートに来た彼女はテーブルの上にあるDVDを見て尋ねてきた。
「いや、昨日はすぐに寝ちゃって、まだ――」
慎太郎は咄嗟に嘘をついた。
〇
『愛の苗』は慎太郎にとって衝撃的な作品だった。
主人公・ナオヒトは、若手のインテリアデザイナーで、自分の事務所を持ち、時折雑誌に紹介される程の成功を収めていた。
また、人柄も良く、友人に囲まれ、好意を抱き声をかけてくる女性も少なくなかった。
ある日の仕事帰りに一人で入ったバーでもいつものように女性に声をかけられ、そのまま二人で郊外にある彼のアトリエへと向かう。
全てが順調なナオヒト。
だが実は、彼には一つだけ悩みがある。
それは彼の特殊な趣味――性癖にあった。
ナオヒトは花が好きだった。
それも、女性から生えた花を自分の手で育てる事が特に好みだったのだ。
彼は連れ込んだ女を薬で眠らせると、身体のあちこちにメスで切れ目を入れ、そこに種を植えた。女を監禁状態にすると彼は世話をしながら、既に開花している別の女の花を愛でた。
そうして着実に苗床を増やしていくと捜査の手がナオヒトに延び、最後には逮捕直前にアトリエを燃やして花たちともに心中する。
――といった内容だ。
〇
軽い気持ちで観始めたのだが、見終わると考えが止まらなくなり眠れず、もう一度観た。そして何かを洗い流したい気分になり再びシャワーを浴びた。
観るべきではなかったと後悔した。
しかし観てしまったからには放っておく事はできない。
慎太郎は可能性を感じてしまっている。
ナオヒトは『人から生えた花』が好きで、慎太郎は『植物』を愛し、人を愛したかった。
違うと分かっていた。しかし、その特異な偏りを、どうしても結びつけようとしてしまう。
自分の明日香への気持ちが怖くなった。
「どうしたの?」
彼女の声で我に返る。いつのまにか昨晩の悩みが再訪していた。
心配そうに覗き込む明日香。その時、額と腕の絆創膏を見え、慎太郎は彼女を抱きしめた。
「え? どうしたの?」
彼女は驚きながらも優しく慎太郎の背に腕を回し、そっと抱きしめ返してくれた。
その感触が解ると慎太郎はより一層彼女を強く抱きしめた。
明日香の睡蓮が見えぬように、深く彼女の中に逃げ込むように、と。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。


アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる