42 / 58
第六章 氷を繰る敵対者
第41話
しおりを挟む
外河川とは、重陽町の外周を流れている河川を指す。陸路で重陽町から出るとなれば必ず外河川にかかる橋を渡る必要がある。
『冬鷹、聞こえるか』
襟から佐也加の声が流れてくる。拾った背後の音からは、まだ戦闘中なのが窺える。
『敵の戦力は現在、徐々にではあるが集中しつつある。とはいえ、まだ他方での戦闘が続き、被害が少しずつ拡大している。救助にも人員を割くため、戦力は大きく分散されている状態だ』
『外河川では敵陣五名に対し、自陣四名はで戦闘中だ。橋の前にて足止めはできているようだが、敵の一部が、先の男がしたように氷の中に籠城しつつ、隙を伺い攻撃をしかけているらしく、苦戦を強いられている。故に、私は此度の対籠城に特化した隊を組んだ。我らが着けば状況は大きく動くはずだ』
『だが問題は先の通り、機動力が低い事だ。我々が現着するまでに状況が良くない方へと動く可能性が十分にある』
良くない方向……冬鷹の身体に自然と力が入る。
『取り調べ班、現状で判った事を教えろ』
繋ぎます。と、オペレーターの後、しゃがれた声が通信に応えた。
『はい、取り調べ担当利賀です。現状判った事につきまして、まず奴らの目的ですが、郡司雪海さんと郡司冬鷹隊員である事は間違いないようです。次に、奴らの半数以上は所謂「傭兵」で、主犯と思われるのは五名前後。取り調べ中の対象はその主犯たちの事を「研究所の人間」と呼んでいます。伊東怜奈につきましても、この「研究所の人間」に該当するようです』
『伊東怜奈の家族――「美堂家」については何か判った事はあるか』
『それにつきましては蓮見の方から報告があります』
と言って、今度はバリトンが効いた別の隊員に替わった。
『蓮見です。「美堂家」についてですが、伊東怜奈の父「美堂勝彦」、兄「美堂俊助」も伊東怜奈と同研究組織に所属していたようです。ですが、父は二年前に研究中の事故で、兄は八ヶ月程前に病で亡くなっているという話です。研究内容は第一異能分類にこだわらず、治癒・医療系、晩年では〈反魂〉などのあらゆる異能についてだったそうです。どうやら伊東怜奈の母が重い病だったらしく、容体に伴い研究が変わっていったようです』
『それと、伊東怜奈についてですが、信じがたい事ではありますが、あの氷冷系異能具は郡司雪海さんの捕獲に重点をおいて彼女が設計したものだそうです。使用者のキャパに合わせてより高度な〈氷冷操作〉も付随させているものもあるとか』
取り調べ班からの報告が終わると佐也加は再び口を開く。
『聞いたか。伊東怜奈は間違いなく「研究所の人間」だ。意図は判らぬが、目的は冬鷹と雪海。つまり、貴様が手を貸そうとしていた少女は間違いなく貴様の「敵」。そして貴様は奴らの「餌」だ』
「覚悟はできています」
『無論だ。今さら怖じ気付くなど許さぬ』
冬鷹の力強い返事を、佐也加は淡々と受け流した。
『外河川前にいる敵五人の内、「研究所の人間」は恐らく伊東怜奈を含めた三人だ。「傭兵」ほど機動力がないようで、容易には逃げられぬだが、過信はするな。
〈転移妨害〉を警戒してか判らぬが、奴らは〈転移〉を使用していない。使用したとて、街の〈転移妨害〉は強力だ。仮に〈妨害〉が突破されたとて、目の前での〈転移〉ならば痕跡を辿り、すぐに追い付く事ができる。痕跡が残らぬほど高等な〈転移〉が可能ならばすでに使用しているのが道理であろう』
『だが、やはり何があるかわからぬ。故に、貴様らはあくまで我らが着くまで「足止めの加勢」に徹しろ。いいか。他の者の邪魔をするな。余計な仕事を増やすな。さもなければ、それだけ雪海の奪還確率が下がる事に繋がると肝に銘じておけ』
「……わかりました!」
それでもいい――冬鷹は奮う気持ちを込め、応えた。
『冬鷹、聞こえるか』
襟から佐也加の声が流れてくる。拾った背後の音からは、まだ戦闘中なのが窺える。
『敵の戦力は現在、徐々にではあるが集中しつつある。とはいえ、まだ他方での戦闘が続き、被害が少しずつ拡大している。救助にも人員を割くため、戦力は大きく分散されている状態だ』
『外河川では敵陣五名に対し、自陣四名はで戦闘中だ。橋の前にて足止めはできているようだが、敵の一部が、先の男がしたように氷の中に籠城しつつ、隙を伺い攻撃をしかけているらしく、苦戦を強いられている。故に、私は此度の対籠城に特化した隊を組んだ。我らが着けば状況は大きく動くはずだ』
『だが問題は先の通り、機動力が低い事だ。我々が現着するまでに状況が良くない方へと動く可能性が十分にある』
良くない方向……冬鷹の身体に自然と力が入る。
『取り調べ班、現状で判った事を教えろ』
繋ぎます。と、オペレーターの後、しゃがれた声が通信に応えた。
『はい、取り調べ担当利賀です。現状判った事につきまして、まず奴らの目的ですが、郡司雪海さんと郡司冬鷹隊員である事は間違いないようです。次に、奴らの半数以上は所謂「傭兵」で、主犯と思われるのは五名前後。取り調べ中の対象はその主犯たちの事を「研究所の人間」と呼んでいます。伊東怜奈につきましても、この「研究所の人間」に該当するようです』
『伊東怜奈の家族――「美堂家」については何か判った事はあるか』
『それにつきましては蓮見の方から報告があります』
と言って、今度はバリトンが効いた別の隊員に替わった。
『蓮見です。「美堂家」についてですが、伊東怜奈の父「美堂勝彦」、兄「美堂俊助」も伊東怜奈と同研究組織に所属していたようです。ですが、父は二年前に研究中の事故で、兄は八ヶ月程前に病で亡くなっているという話です。研究内容は第一異能分類にこだわらず、治癒・医療系、晩年では〈反魂〉などのあらゆる異能についてだったそうです。どうやら伊東怜奈の母が重い病だったらしく、容体に伴い研究が変わっていったようです』
『それと、伊東怜奈についてですが、信じがたい事ではありますが、あの氷冷系異能具は郡司雪海さんの捕獲に重点をおいて彼女が設計したものだそうです。使用者のキャパに合わせてより高度な〈氷冷操作〉も付随させているものもあるとか』
取り調べ班からの報告が終わると佐也加は再び口を開く。
『聞いたか。伊東怜奈は間違いなく「研究所の人間」だ。意図は判らぬが、目的は冬鷹と雪海。つまり、貴様が手を貸そうとしていた少女は間違いなく貴様の「敵」。そして貴様は奴らの「餌」だ』
「覚悟はできています」
『無論だ。今さら怖じ気付くなど許さぬ』
冬鷹の力強い返事を、佐也加は淡々と受け流した。
『外河川前にいる敵五人の内、「研究所の人間」は恐らく伊東怜奈を含めた三人だ。「傭兵」ほど機動力がないようで、容易には逃げられぬだが、過信はするな。
〈転移妨害〉を警戒してか判らぬが、奴らは〈転移〉を使用していない。使用したとて、街の〈転移妨害〉は強力だ。仮に〈妨害〉が突破されたとて、目の前での〈転移〉ならば痕跡を辿り、すぐに追い付く事ができる。痕跡が残らぬほど高等な〈転移〉が可能ならばすでに使用しているのが道理であろう』
『だが、やはり何があるかわからぬ。故に、貴様らはあくまで我らが着くまで「足止めの加勢」に徹しろ。いいか。他の者の邪魔をするな。余計な仕事を増やすな。さもなければ、それだけ雪海の奪還確率が下がる事に繋がると肝に銘じておけ』
「……わかりました!」
それでもいい――冬鷹は奮う気持ちを込め、応えた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる