36 / 58
第五章 繋ぐ
第35話
しおりを挟む
「冬鷹、アンタ本当にどこまでバカなのッ!? 私らが止めなきゃ二、三秒後には足が無くなってたわよッ!」
眉間に皺を寄せた杏樹は、念を押すように指で冬鷹の胸を何度も強く突く。彼女の言う通り、あのまま続けていれば今頃は医務室で痛みに悶えているところだっただろう。
「すまん、完全に頭に血が上ってた。英吉もワリぃ」
「別に気にするな。まあ正直、ちょっとは痛いの覚悟したけどな」
「マジですまん…………だけど、ごめん。その『すまん』ついでにさ、もうちょっとだけ迷惑かけられてくれ」
「は? ……何するつもりだ冬鷹?」
首を傾げる英吉に、冬鷹は黒い扉の前に立ち短く答える。
「扉を斬る」
〈黒川〉にリンクする。焦りのせいか心拍数は普段より高いが、扉を斬るにはまだ足りない。だが、何度も切り続ければすぐに心拍数は上昇するはずだ。
パシッ――と頭を叩かれた。
その拍子にリンクが切れてしまう。
「はいはい、またバカが発症してる」
「ってえな、杏樹! わるいけど、この件は目を瞑って――、」
「少しくらい話聞きなさい」
深く溜め息を吐くと、杏樹は扉の前に立ち、ガタガタと扉の具合を調べ始める。そして何かを見付けたのか、扉をスライドさせるように力を入れ始める。
「あー、やっぱりね。うんッ! んーっ! ――はぁ。ちょっとアンタたち代わって」
冬鷹と英吉は場所を代わり、杏樹がしていたように扉に対して横方向に力を入れる。
すると、ギギギ、と噛み合わせの悪そうな音を鳴らしながら扉が徐々に横へとずれた。
「部屋全体を凍らされたやら、天井が落ちたやらの影響で、歪んだか、施錠魔術がイカレたかしたんだと思うわ」
「よく気付いたな」
驚きでそれ以上の言葉が浮かばなかった。
「別に気付いてはないわよ。ただそんな事も有り得ると思って試しただけ。まあ、駄目ならピッキングなり他の方法を試したわ。なんやかんやの影響で普段よりも簡単にできるかもしれないしね――というか、まずは穏便な方法から試すもんでしょ、普通。もしいろいろ試してそれでも駄目ならその時荒っぽい方法に移る。『斬る』なんて最終手段の類よ」
何も言い返せないでいると「まったく」とため息交じりに杏樹が肩に手を置いてきた。
「とりあえず、落ち着きなさい。じゃないと、助けられるもんも助けられなくなるわ」
「……協力、してくれるのか?」
冬鷹が抱いた疑問に、杏樹はこれでもかと目を剥く。
「はあ!? 今さら何言ってんの? 英吉、このバカ、どうにかしてよ」
英吉はいつもの楽しげな笑みを浮かべる。
そんな二人が寄り添ってくれる事に、冬鷹も自然と笑みが漏れた。
雪海の部屋の扉は開いた。とすれば問題はもう一つの扉――郡司家居住スペースの出入り口の扉をどう突破するか。扉の前にはすでに根本と去川が何処か気怠そうに並んでいる。
「冬鷹、アンタ扉を斬って出た後どうするつもりだったの?」
「それはな……」
全くのノープランだった――故に言葉が途切れる。
「はあ。まったく……まあ、そんなんだろうとは思ったけどね」
「んだよ、その呆れた目は! じゃあ杏樹には何か策があるのかよ!?」
「んなもんないわよ」
「んだよ、一緒じゃねえか」
「はあ? 一緒になんかしないでくれる。私は技術屋としての役割を十分果たしてるわ」
杏樹はすました顔で、今し方こじ開けた扉をビシビシと指さす。
「まあまあ、落ち着け。とりあえず、二人とも案が無いんだよな?」
英吉の問いに冬鷹と杏樹は少しバツが悪そうに頷く。
「英吉は何か案ないのか?」
「うーん……目を盗んだりして抜けるのはかなりキビシイかな」
正直少し期待していた。三人でいる時、こういった頭脳プレイはもっぱら英吉の担当だった。
しかし、英吉は穏やかな口調で続ける。
「だからさ、もう正面から行くしかないかな。幸い、トイレは入口近くにある。トイレ貸してくださいとか言って近づいて、隙を突いて奇襲をかける」
「え?」「は?」
英吉らしからぬ思慮が浅げな案。冬鷹と杏樹は思わず声を重ねる。
「時間をかければ、仕掛けなんかも踏まえた良い案が他にはある。だけど、そんな時間はないからな。今は一分一秒がおしい。スマートにできるところはスマートに。出来なければ粗っぽくても仕方ないから最短ルートで。それが最善手だと思うけどな」
「……確かに」「……そうね」
納得した。
――というより、他に案が無いのだから納得するしかなかった。
眉間に皺を寄せた杏樹は、念を押すように指で冬鷹の胸を何度も強く突く。彼女の言う通り、あのまま続けていれば今頃は医務室で痛みに悶えているところだっただろう。
「すまん、完全に頭に血が上ってた。英吉もワリぃ」
「別に気にするな。まあ正直、ちょっとは痛いの覚悟したけどな」
「マジですまん…………だけど、ごめん。その『すまん』ついでにさ、もうちょっとだけ迷惑かけられてくれ」
「は? ……何するつもりだ冬鷹?」
首を傾げる英吉に、冬鷹は黒い扉の前に立ち短く答える。
「扉を斬る」
〈黒川〉にリンクする。焦りのせいか心拍数は普段より高いが、扉を斬るにはまだ足りない。だが、何度も切り続ければすぐに心拍数は上昇するはずだ。
パシッ――と頭を叩かれた。
その拍子にリンクが切れてしまう。
「はいはい、またバカが発症してる」
「ってえな、杏樹! わるいけど、この件は目を瞑って――、」
「少しくらい話聞きなさい」
深く溜め息を吐くと、杏樹は扉の前に立ち、ガタガタと扉の具合を調べ始める。そして何かを見付けたのか、扉をスライドさせるように力を入れ始める。
「あー、やっぱりね。うんッ! んーっ! ――はぁ。ちょっとアンタたち代わって」
冬鷹と英吉は場所を代わり、杏樹がしていたように扉に対して横方向に力を入れる。
すると、ギギギ、と噛み合わせの悪そうな音を鳴らしながら扉が徐々に横へとずれた。
「部屋全体を凍らされたやら、天井が落ちたやらの影響で、歪んだか、施錠魔術がイカレたかしたんだと思うわ」
「よく気付いたな」
驚きでそれ以上の言葉が浮かばなかった。
「別に気付いてはないわよ。ただそんな事も有り得ると思って試しただけ。まあ、駄目ならピッキングなり他の方法を試したわ。なんやかんやの影響で普段よりも簡単にできるかもしれないしね――というか、まずは穏便な方法から試すもんでしょ、普通。もしいろいろ試してそれでも駄目ならその時荒っぽい方法に移る。『斬る』なんて最終手段の類よ」
何も言い返せないでいると「まったく」とため息交じりに杏樹が肩に手を置いてきた。
「とりあえず、落ち着きなさい。じゃないと、助けられるもんも助けられなくなるわ」
「……協力、してくれるのか?」
冬鷹が抱いた疑問に、杏樹はこれでもかと目を剥く。
「はあ!? 今さら何言ってんの? 英吉、このバカ、どうにかしてよ」
英吉はいつもの楽しげな笑みを浮かべる。
そんな二人が寄り添ってくれる事に、冬鷹も自然と笑みが漏れた。
雪海の部屋の扉は開いた。とすれば問題はもう一つの扉――郡司家居住スペースの出入り口の扉をどう突破するか。扉の前にはすでに根本と去川が何処か気怠そうに並んでいる。
「冬鷹、アンタ扉を斬って出た後どうするつもりだったの?」
「それはな……」
全くのノープランだった――故に言葉が途切れる。
「はあ。まったく……まあ、そんなんだろうとは思ったけどね」
「んだよ、その呆れた目は! じゃあ杏樹には何か策があるのかよ!?」
「んなもんないわよ」
「んだよ、一緒じゃねえか」
「はあ? 一緒になんかしないでくれる。私は技術屋としての役割を十分果たしてるわ」
杏樹はすました顔で、今し方こじ開けた扉をビシビシと指さす。
「まあまあ、落ち着け。とりあえず、二人とも案が無いんだよな?」
英吉の問いに冬鷹と杏樹は少しバツが悪そうに頷く。
「英吉は何か案ないのか?」
「うーん……目を盗んだりして抜けるのはかなりキビシイかな」
正直少し期待していた。三人でいる時、こういった頭脳プレイはもっぱら英吉の担当だった。
しかし、英吉は穏やかな口調で続ける。
「だからさ、もう正面から行くしかないかな。幸い、トイレは入口近くにある。トイレ貸してくださいとか言って近づいて、隙を突いて奇襲をかける」
「え?」「は?」
英吉らしからぬ思慮が浅げな案。冬鷹と杏樹は思わず声を重ねる。
「時間をかければ、仕掛けなんかも踏まえた良い案が他にはある。だけど、そんな時間はないからな。今は一分一秒がおしい。スマートにできるところはスマートに。出来なければ粗っぽくても仕方ないから最短ルートで。それが最善手だと思うけどな」
「……確かに」「……そうね」
納得した。
――というより、他に案が無いのだから納得するしかなかった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
異能レポーターしずくの小さな記事録
右川史也
ファンタジー
主人公の御厨(みくりや)しずくは、東京の異能都市で出版社に勤めて二年目の新米記者。
彼女の担当する情報誌は、異能界で起きた旬なニュースばかりを取り扱うのではない。
異能界で暮らす人々が引き起こした日常的なハプニングから人間ドラマ。
妖怪やドラゴンなどの異能生物にまつわる事情。怪異や異能などが絡む事件・事故・災害の振り返り。それらについての専門家の対策。
政治・経済など、異能界のあらゆる情報を取り扱う。
しずくの日常や取材などをオムニバス形式で描く『日常パート』
しずくの担当したニュースなどを読者感覚で楽しめる【記事パート】
2つのパートを通して、異能界の今を知る!
※この作品は、『東京パラノーマルポリス』『水都異能奇譚』と同じ世界設定です。
※この作品は、『カクヨム』『小説家になろう』『アルファポリス』に掲載しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる