東京パラノーマルポリス -水都異能奇譚-

右川史也

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第三章 妹

第25話

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 雪海と怜奈が二人だけで会うようになるのにそう時間はかからなかった。

 冬鷹の知らないうちに二人は互いに通信用の簡易型〈式神〉で連絡を取り合うようになり、放課後や休日には中央区でよく遊んでいるらしい。それに伴い、怜奈と冬鷹の距離も、『友人の兄』という事からか、少し近くなった気がする。

 だが氷の巨人については二週間経った今でも、依然何も分かっていない。怜奈からの情報ももちろんだが、捜査班、鑑識班、研究班、共々に有力となる情報は全く掴めずにいる。

 捜査は初手から暗礁に乗り上げたまま、風化しそうな空気が漂い始めていた。

「ま、再度現れなきゃ、風化してもかまわないんだけどな」

 木箱を抱えながら冬鷹がつぶやくと、向かいで同じ木箱を抱える英吉が「手柄は良いのか?」と相槌を打つように言った。

「できれば欲しいけど。だからって、事件が起きてほしい、とは思えないな」
「ふーん……ま、そうだよな」
「ほら! のんびりやってないで、ジャンジャン積んじゃって!」

 杏樹の激が飛ぶ。冬鷹と英吉、それに根本と去川の動きに無理矢理キレが戻される。

「二ノ村たちの幼馴染、なんていうか……すげえな」

 去川は告げ口するようにそう言い残すと根本と一緒に次の木箱に取りかかる。
 冬鷹・英吉・根本・去川は、黒川工房に頼んでいたメンテナンスの異能具を舟に運び込んでいた。

        ○

 一時間程前の事だ。冬鷹が根本と中央区のパトロールをしていると、突如空から鳥型の紙片が、冬鷹の歩行を遮るかのように目の前に降りてきた。

 根本は「誰の式神ぃ?」と首を傾げる。

「たぶん幼馴染のです」
 答えながら手を差し出すと紙鳥は甲に止まり、案の定、杏樹の声を届けた。

『助けて、緊急事態。今どこ?』

 その声には焦りや緊迫感はなかった。むしろ、聞き慣れた日常的な声色ですらある。

 嫌な予感しかしない――だからといって、言葉が言葉なだけに無視するわけにもいかない。
 とりあえず、自らの簡易型式神で居場所を伝えた。すると、すぐに返信が飛んできた。

『近いわね。すぐにウチに来て』「なんで?」『メンテ終わったの。運ぶの手伝って』「自分でやれ。こっちは仕事中だ」『私一人だと腰ヤる』「嘘付け女子高生」『ドリーミンアイス』

 ドリーミンアイスぅ? と、根本が首を傾げる。だが、まだ連れて行ってないとか、約束を被せたとか、そんな事を先輩に説明するのは恥ずかしかった。

 冬鷹が説明に困っていると、水の猫が空からやってきた。

『お兄ちゃん、薄情だね』

 雪海の声だ。何故だ、と式神を飛ばすと、どうやら雪海は杏樹の家に怜奈を連れて行っている事が判った。それを根本に伝えると、彼は眠たそうに言った。

「困ってる市民を助けるのも軍の仕事ではあるよねぇ。内容も軍と無関係ではないし」

 まもなく、二人は黒川家へと足を向けた。
 道中、杏樹が冬鷹と英吉の幼馴染だと知った根本は、英吉のバディである去川に式神を飛ばす。人手を増やすのが目的だったようだが、「女の子が助けを求めてるみたい。一緒に来てくれない?」と勘違いしやすいように伝えると、去川は根本の計略通り揚々と参上し、恐らく察していただろう英吉は、冬鷹を見るなりおかしそうに笑みを零していた。

        ○

 木箱を全て載せると舟には、荷降ろしのために冬鷹・英吉・根本・去川も同乗させられた。

「雪海と怜奈ちゃんも乗ってったら?」
 エンジンに魔素子を流しながら杏樹は雪海と怜奈にも声をかける。

「うん」と応える雪海の隣では、怜奈が「いいんですか?」と目を輝かせた。

「大丈夫、大丈夫。むしろ、男ばかりで大丈夫? って感じだけど」
「いえいえ、全然!」

 怜奈は慌てて手と首を振る。その横で英吉はそっと眉間に皺を寄せる。

「でも、杏樹。雪海ちゃんはいいとしても、怜奈ちゃんが本部に入るのは不味いと思うよ」

 英吉の忠告に去川と根本も頷く。

「ああ、許可がない部外者はちょっとマズいなー。キミツジョーホーもあるだろうし」
「こっそりやってもぉ、たぶんバレちゃうだろうねぇ」
「そっか。……んじゃあ、途中まで。中央区のどっかで降りてもらうけど、それでもいい?」

 杏樹の問いに倣うように雪海も視線を向けると、怜奈は「はい」と明るく頷いた。
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