28 / 58
第三章 妹
第27話
しおりを挟む
「応援は望めそうにないねぇ」
「根本先輩、冷静ですね」と英吉は笑みを浮かべる。
「そうでもないよぉ? どっちかっていうと絶望してる。二ノ村君こそ、いつもと変わらない感じだけどぉ?」
「僕は、内心ビビってます」
「へ、へえ。二ノ村、ビビっちゃってんの? 俺なんか手柄チャンスにわくわくしてるけどな」
「僕には虚勢を張る勇気すらないです。去川先輩、さすがです」
「そうだろ?」と去川はドヤ顔を見せる。どうやら冷静さを欠いて皮肉になってしまっている英吉の言葉に気が付いていないようだ。
「冬鷹はどう?」
「ああ。やるしかねえだろ」と冬鷹は、英吉に力強く頷いた。
四人は頷き合い、再び氷の巨人へと踏み込んだ。
根本と去川がタイミングを合わせて翻弄し、切り込む。英吉は射氣銃〈ERize-47〉と〈パラーレ〉による中距離サポート。順調に心拍数が上がっている冬鷹は隙を見て、〈ゲイル〉で速度を上げ、〈力天甲〉と〈黒川〉で強力な一撃を入れる。
一見、戦況は押しているようにさえ見える――だが、ダメだ。
固い。その上、少し前に根本と去川がつけた傷が、いつの間にかなくなっている。
「これ倒せるのかなぁ?」「一気に切ればイケんだろ」と根本と去川は挟み込むように巨人の脚に刀を叩きつける。だが、芯を残すような具合に、刃が通りきらない。
――その時だ。去川は〝それ〟を見上げ、息を漏らすように絶望をつぶやく。
「おいおいおい、嘘だろ」
氷の巨人。その後ろに、巨人が新たに二体立っていた。
今まで闘っていた巨人とは微妙に――しかし、はっきりとした造形の違いが見られる。つまり、見間違い、蜃気楼、幻覚などの類ではない。
誰もが言葉を失った。目の前の脅威が一瞬にして三倍に膨れ上がった事に頭が追い付けるわけがない。
しかし――。
突然、爆発音が鳴り響く。
そして、新たに現れた巨人のうち一体が倒れ込んだ。
「は?」「へ?」「ん?」「え?」なんだ――?
予期せぬ展開の連続は冬鷹の理解を越える。同様に他の三人もと疑問を口にしていた。
「みな、無事か?」
瓦礫の山の上に人影が現れる。別の巨人の拳を躱しながらその人物が目の前にやってくると、冬鷹たちは再び疑問を口にする事になる。
「「「郡司副本部長!?」」」「姉さん!? なんでここに!?」
「笑顔教室の帰りだ。それ故、装備は〈パラーレ〉だけだがな」
笑顔教室? と疑問をぶつけたくなる。だがそんな状況ではない。オフだったのだろう、佐也加はTシャツにジーンズというラフなスタイルで、武器は全く所持していない。それが重要だ。
「じゃあ、さっきの爆発は?」
「途中の雑貨屋で手に入れた加熱調理用の異能具だ。無理やり暴発させたが、やはり大した威力にはならんな」
冬鷹たちが四人がかりで苦戦していた氷の巨人を、佐也加は一瞬で倒れ込ませた。しかも『一人で』『戦闘用でない日用品異能具で』『暴発という制御がままならない手段で』だ。
事も無げに言うその様子に、四人とも――根本でさえも驚きを見せる。
「それより冬鷹、ここは戦場だ。故に私は貴様の姉ではなく上官だ」
「すみませんでした。郡司佐也加副本部長」と、冬鷹はすぐに口調を改める。
「うむ。それで、周囲の被害状況を教えろ、去川隊員」
「は、はい! ええ、応戦に専念したため周囲の被害状況を確認できておりません!」
「遅い。すぐに二班に別け、一方は市民の避難誘導に回れ。貴様ら自身の被害状況は?」
「応戦したばかりなので、全員ほぼ万全です」
「うむ。では去川・根本・二ノ村隊員は周囲の避難誘導及び救助だ。ここは私と郡司冬鷹隊員で対処する」
「えッ!? お、俺がですかッ!?」
「不服か?」
「い、いえっ、不服という訳ではッ! しかし、自分のような者より根本先輩や去川先輩の方が戦力になるのではと、」
手柄のために前線に立ちたい気持ちがある。それを佐也加が汲んでくれたのかもしれない。だが、今は緊急事態だ。情よりも理を優先すべきだ、と冬鷹は思った。
だが、佐也加は普段と変わらぬ凛然とした態度で言い放った。
「案ずるな。これが私の考えた最良の采配だ」
「根本先輩、冷静ですね」と英吉は笑みを浮かべる。
「そうでもないよぉ? どっちかっていうと絶望してる。二ノ村君こそ、いつもと変わらない感じだけどぉ?」
「僕は、内心ビビってます」
「へ、へえ。二ノ村、ビビっちゃってんの? 俺なんか手柄チャンスにわくわくしてるけどな」
「僕には虚勢を張る勇気すらないです。去川先輩、さすがです」
「そうだろ?」と去川はドヤ顔を見せる。どうやら冷静さを欠いて皮肉になってしまっている英吉の言葉に気が付いていないようだ。
「冬鷹はどう?」
「ああ。やるしかねえだろ」と冬鷹は、英吉に力強く頷いた。
四人は頷き合い、再び氷の巨人へと踏み込んだ。
根本と去川がタイミングを合わせて翻弄し、切り込む。英吉は射氣銃〈ERize-47〉と〈パラーレ〉による中距離サポート。順調に心拍数が上がっている冬鷹は隙を見て、〈ゲイル〉で速度を上げ、〈力天甲〉と〈黒川〉で強力な一撃を入れる。
一見、戦況は押しているようにさえ見える――だが、ダメだ。
固い。その上、少し前に根本と去川がつけた傷が、いつの間にかなくなっている。
「これ倒せるのかなぁ?」「一気に切ればイケんだろ」と根本と去川は挟み込むように巨人の脚に刀を叩きつける。だが、芯を残すような具合に、刃が通りきらない。
――その時だ。去川は〝それ〟を見上げ、息を漏らすように絶望をつぶやく。
「おいおいおい、嘘だろ」
氷の巨人。その後ろに、巨人が新たに二体立っていた。
今まで闘っていた巨人とは微妙に――しかし、はっきりとした造形の違いが見られる。つまり、見間違い、蜃気楼、幻覚などの類ではない。
誰もが言葉を失った。目の前の脅威が一瞬にして三倍に膨れ上がった事に頭が追い付けるわけがない。
しかし――。
突然、爆発音が鳴り響く。
そして、新たに現れた巨人のうち一体が倒れ込んだ。
「は?」「へ?」「ん?」「え?」なんだ――?
予期せぬ展開の連続は冬鷹の理解を越える。同様に他の三人もと疑問を口にしていた。
「みな、無事か?」
瓦礫の山の上に人影が現れる。別の巨人の拳を躱しながらその人物が目の前にやってくると、冬鷹たちは再び疑問を口にする事になる。
「「「郡司副本部長!?」」」「姉さん!? なんでここに!?」
「笑顔教室の帰りだ。それ故、装備は〈パラーレ〉だけだがな」
笑顔教室? と疑問をぶつけたくなる。だがそんな状況ではない。オフだったのだろう、佐也加はTシャツにジーンズというラフなスタイルで、武器は全く所持していない。それが重要だ。
「じゃあ、さっきの爆発は?」
「途中の雑貨屋で手に入れた加熱調理用の異能具だ。無理やり暴発させたが、やはり大した威力にはならんな」
冬鷹たちが四人がかりで苦戦していた氷の巨人を、佐也加は一瞬で倒れ込ませた。しかも『一人で』『戦闘用でない日用品異能具で』『暴発という制御がままならない手段で』だ。
事も無げに言うその様子に、四人とも――根本でさえも驚きを見せる。
「それより冬鷹、ここは戦場だ。故に私は貴様の姉ではなく上官だ」
「すみませんでした。郡司佐也加副本部長」と、冬鷹はすぐに口調を改める。
「うむ。それで、周囲の被害状況を教えろ、去川隊員」
「は、はい! ええ、応戦に専念したため周囲の被害状況を確認できておりません!」
「遅い。すぐに二班に別け、一方は市民の避難誘導に回れ。貴様ら自身の被害状況は?」
「応戦したばかりなので、全員ほぼ万全です」
「うむ。では去川・根本・二ノ村隊員は周囲の避難誘導及び救助だ。ここは私と郡司冬鷹隊員で対処する」
「えッ!? お、俺がですかッ!?」
「不服か?」
「い、いえっ、不服という訳ではッ! しかし、自分のような者より根本先輩や去川先輩の方が戦力になるのではと、」
手柄のために前線に立ちたい気持ちがある。それを佐也加が汲んでくれたのかもしれない。だが、今は緊急事態だ。情よりも理を優先すべきだ、と冬鷹は思った。
だが、佐也加は普段と変わらぬ凛然とした態度で言い放った。
「案ずるな。これが私の考えた最良の采配だ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

異能レポーターしずくの小さな記事録
右川史也
ファンタジー
主人公の御厨(みくりや)しずくは、東京の異能都市で出版社に勤めて二年目の新米記者。
彼女の担当する情報誌は、異能界で起きた旬なニュースばかりを取り扱うのではない。
異能界で暮らす人々が引き起こした日常的なハプニングから人間ドラマ。
妖怪やドラゴンなどの異能生物にまつわる事情。怪異や異能などが絡む事件・事故・災害の振り返り。それらについての専門家の対策。
政治・経済など、異能界のあらゆる情報を取り扱う。
しずくの日常や取材などをオムニバス形式で描く『日常パート』
しずくの担当したニュースなどを読者感覚で楽しめる【記事パート】
2つのパートを通して、異能界の今を知る!
※この作品は、『東京パラノーマルポリス』『水都異能奇譚』と同じ世界設定です。
※この作品は、『カクヨム』『小説家になろう』『アルファポリス』に掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
不埒な社長と熱い一夜を過ごしたら、溺愛沼に堕とされました
加地アヤメ
恋愛
カフェの新規開発を担当する三十歳の真白。仕事は充実しているし、今更恋愛をするのもいろいろと面倒くさい。気付けばすっかり、おひとり様生活を満喫していた。そんなある日、仕事相手のイケメン社長・八子と脳が溶けるような濃密な一夜を経験してしまう。色恋に長けていそうな極上のモテ男とのあり得ない事態に、きっとワンナイトの遊びだろうとサクッと脳内消去するはずが……真摯な告白と容赦ないアプローチで大人の恋に強制参加!? 「俺が本気だってこと、まだ分からない?」不埒で一途なイケメン社長と、恋愛脳退化中の残念OLの蕩けるまじラブ!
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる