東京パラノーマルポリス -水都異能奇譚-

右川史也

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第三章 妹

第27話

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「応援は望めそうにないねぇ」
「根本先輩、冷静ですね」と英吉は笑みを浮かべる。

「そうでもないよぉ? どっちかっていうと絶望してる。二ノ村君こそ、いつもと変わらない感じだけどぉ?」
「僕は、内心ビビってます」
「へ、へえ。二ノ村、ビビっちゃってんの? 俺なんか手柄チャンスにわくわくしてるけどな」
「僕には虚勢を張る勇気すらないです。去川先輩、さすがです」

「そうだろ?」と去川はドヤ顔を見せる。どうやら冷静さを欠いて皮肉になってしまっている英吉の言葉に気が付いていないようだ。

「冬鷹はどう?」
「ああ。やるしかねえだろ」と冬鷹は、英吉に力強く頷いた。

 四人は頷き合い、再び氷の巨人へと踏み込んだ。

 根本と去川がタイミングを合わせて翻弄し、切り込む。英吉は射氣銃〈ERize-47〉と〈パラーレ〉による中距離サポート。順調に心拍数が上がっている冬鷹は隙を見て、〈ゲイル〉で速度を上げ、〈力天甲〉と〈黒川〉で強力な一撃を入れる。

 一見、戦況は押しているようにさえ見える――だが、ダメだ。
 固い。その上、少し前に根本と去川がつけた傷が、いつの間にかなくなっている。

「これ倒せるのかなぁ?」「一気に切ればイケんだろ」と根本と去川は挟み込むように巨人の脚に刀を叩きつける。だが、芯を残すような具合に、刃が通りきらない。

 ――その時だ。去川は〝それ〟を見上げ、息を漏らすように絶望をつぶやく。

「おいおいおい、嘘だろ」

 氷の巨人。その後ろに、巨人が新たに二体立っていた。

 今まで闘っていた巨人とは微妙に――しかし、はっきりとした造形の違いが見られる。つまり、見間違い、蜃気楼、幻覚などの類ではない。

 誰もが言葉を失った。目の前の脅威が一瞬にして三倍に膨れ上がった事に頭が追い付けるわけがない。

 しかし――。

 突然、爆発音が鳴り響く。
 そして、新たに現れた巨人のうち一体が倒れ込んだ。

「は?」「へ?」「ん?」「え?」なんだ――?
 予期せぬ展開の連続は冬鷹の理解を越える。同様に他の三人もと疑問を口にしていた。

「みな、無事か?」

 瓦礫の山の上に人影が現れる。別の巨人の拳を躱しながらその人物が目の前にやってくると、冬鷹たちは再び疑問を口にする事になる。

「「「郡司副本部長!?」」」「姉さん!? なんでここに!?」
「笑顔教室の帰りだ。それ故、装備は〈パラーレ〉だけだがな」

 笑顔教室? と疑問をぶつけたくなる。だがそんな状況ではない。オフだったのだろう、佐也加はTシャツにジーンズというラフなスタイルで、武器は全く所持していない。それが重要だ。

「じゃあ、さっきの爆発は?」
「途中の雑貨屋で手に入れた加熱調理用の異能具だ。無理やり暴発させたが、やはり大した威力にはならんな」

 冬鷹たちが四人がかりで苦戦していた氷の巨人を、佐也加は一瞬で倒れ込ませた。しかも『一人で』『戦闘用でない日用品異能具で』『暴発という制御がままならない手段で』だ。

 事も無げに言うその様子に、四人とも――根本でさえも驚きを見せる。

「それより冬鷹、ここは戦場だ。故に私は貴様の姉ではなく上官だ」
「すみませんでした。郡司佐也加副本部長」と、冬鷹はすぐに口調を改める。

「うむ。それで、周囲の被害状況を教えろ、去川隊員」
「は、はい! ええ、応戦に専念したため周囲の被害状況を確認できておりません!」
「遅い。すぐに二班に別け、一方は市民の避難誘導に回れ。貴様ら自身の被害状況は?」
「応戦したばかりなので、全員ほぼ万全です」
「うむ。では去川・根本・二ノ村隊員は周囲の避難誘導及び救助だ。ここは私と郡司冬鷹隊員で対処する」
「えッ!? お、俺がですかッ!?」
「不服か?」
「い、いえっ、不服という訳ではッ! しかし、自分のような者より根本先輩や去川先輩の方が戦力になるのではと、」

 手柄のために前線に立ちたい気持ちがある。それを佐也加が汲んでくれたのかもしれない。だが、今は緊急事態だ。情よりも理を優先すべきだ、と冬鷹は思った。

 だが、佐也加は普段と変わらぬ凛然とした態度で言い放った。

「案ずるな。これが私の考えた最良の采配だ」
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