東京パラノーマルポリス -水都異能奇譚-

右川史也

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第二章 氷の巨人

第11話

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 少女は数歩先、女性隊員に付き添われる形でいる。
 彼女は目が合うとぺこりと頭を下げてきた。つられて冬鷹も頭を下げた。

「あ、あの! 先ほどは助けていただき、本当にありがとうございました!」

 目の前まで来ると少女は再び、今度は激しく頭を下げる。ぶらんと揺れた赤いリボンの付いたお下げは乱れたままだ。

「あ、いえいえ! その、ケガは? 大丈夫だった?」

 彼女の横にある赤い旅行鞄は、着ている白いワンピースと共に、先の事件のせいか汚れてしまっていた。

「はい。私は全然平気で。あなたは?」
「俺も全然。ちょっとだけ疲れたから、特別に休ませてもらってるだけだから」

 冬鷹は立ち上がってみせる。まだ痛みは残るが、顔に出さないように堪えると、「よかったぁ」と少女はホッと胸を撫で下ろした。

「えっと……旅行か何か? 一緒に来た人は大丈夫だった?」
「いえ、一人で来たんで」
「一人? 友達か親戚の家が近くに?」

 中学生くらいの少女が一人で重陽町西区に来ると言えばそれくらいだろう。案の定、少女は「はい」と少し疲れた目元を伏せがちに応えた。

「そっか。こんな事が起きたけど、普段この辺りは本当に静かで素敵な街なんだ。懲りずに是非また来てほしいな」
「はい――というか、その、今日からこの街に住まわしてもらうので、」

 引っ越し? でも、さっき「一人で来た」って――中学生が一人で?

 冬鷹の疑問を察したのか、少女はさらっと答える。

「両親は他界しています。兄と私の二人兄妹なのですが、その兄も病気で――その治療のために、私は親戚の家に引っ越す事に」
「あっ、その、ごめんっ!」
「いえ、そんな! ご心配してくれたんですよね? ありがとうございます!」

 少女は優しい笑顔でちょこっと頭を下げた。苦労に負けない健気な姿に、冬鷹の胸はきゅっと締まる。
 よく見れば目元も少し疲れている。
 事件に巻き込まれ疲弊もあるだろう。
 しかし、「日常の蓄積によるものかもしれない」と思わずにはいられなかった。

「あ、あのさ、俺にも君くらいの妹がいて。ちょっと難しい病気みたいなのを抱えてんだけど、君みたいに元気でさ。だから、その……」

 上手く言葉にできなかった。

 元気出して。がんばって。――そんな言葉いくらでも浮かぶ。
 しかし、目の前の少女はそんな言葉がなくとも、すでにそう振る舞っている。

「もし困った事があったら力になるから」

 そんな社交辞令のような定型句しか出てこなかった。

「俺は郡司冬鷹。帝都第一学園の高等部一年。軍の本部も帝都第一も中央区にあるから、もし何かあったら、気軽に訪ねて来てくれれば協力するよ」

 え? と、少女は冬鷹の言葉に目を丸くする。

「『郡司』って、あの『郡司家』ですか?」
「そうだけど……親戚から聞いたのかな?」
「いえ、その、実は私、七歳まで重陽に住んでいて、帝都第一の初等部に通っていたんです」

「あ、ああ」と冬鷹は納得した。

 重陽町は郡司家が治めていると言っても過言ではない。
 町長を務めているのはもちろんだが、重陽の治安組織『帝都北方自警軍』、重陽一の教育機関『帝都第一学園』の長も、代々郡司家の者が務めている。

 郡司家は代々街を治め、重陽に住まう民に尽くしてきた。町民たちもそれを十分に理解している。故に、重陽町に住んでいて郡司の名を知らぬ者はいない。

「そっか。でも、変に構えないでくれると助かるな。『困った事があったら力になる』ってのも本心だから。本当に気軽に訪ねてよ」
「ありがとうござます! 私は伊東怜奈です。来週から重陽西中学校に通う中学一年です」
 
 中学一年という事は雪海と同い年だ。余計に親近感が湧いた。

「伊東さん、そろそろ」と付き添っていた女性隊員が呼びかける。
 怜奈は今一度「ありがとうございました!」と頭を下げると、冬鷹の下から去っていった。
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