3 / 58
第一章 冬鷹
第2話
しおりを挟む
東京には『異能によって秘匿された異能者たちの大都市』が五つ存在する。
冬鷹たちは暮しているのはその一つ、東京北部に位置する『重陽町』だ。
異能界は独立自治が基本とされている。故に各街が治安組織を有している。
重陽町の治安組織の名は『帝都北方自警軍』――通称『軍』。
重陽町中央区に構える帝都北方自警軍本部。
建物内には防衛、隔離、避難、訓練などのための各種施設を備えている。
その中の一つ、第一闘技訓練室。
平地戦闘を想定した、約五十メートル四方の闘技区画が中心にあるだけのシンプルな作りだ。有事の際には避難所としても活用される。
そんな場所が今は物々しい数の隊員で埋め尽くされている。
ざっと見た限りで五十は超える。その全員が装備を整えていた。
――が、その半数近くが今は床に倒れている。
一人、また一人、と。戦場ならば屍が増えてゆくだろう光景だ。
その仮想死体の山を作っているのは、中央でたった一人、他を圧倒する女性。
猛禽類を思わせる鋭い眼光。猛々しさを感じさせる外にはねたセミディヘア。そして出会った頃より、美しく、大人らしく成長した背格好――郡司佐也加だった。
『一人』対『その他大勢』の形式で開始された特別訓練だが、形勢は予想通り『その他大勢が劣勢』と言わざるを得ない。
――と、冬鷹が状況を整理している間にもベテラン隊員たちが一瞬で四人倒された。
「冬鷹君、一斉にしかけよぅ」
隣から眠たげな声をかけられる。冬鷹のバディで先輩隊員である根本だ。こんな状況にも関わらず、平時通り夢現な事に冬鷹は内心驚いた。
と、その時、〈氣〉――〈生命子〉の弾が冬鷹の一メートル横を通り過ぎていった。
弾道を追うと、喉を抑え今まさに倒れ込もうとする隊員の姿があった。
彼の頭上には、〈火球〉がバランスボール大に膨れ上がっている――が、瞬く間に乾いた泥団子のようにボロボロと崩れ去った。
詠唱中に撃たれた。つまり、恐らく〈魔術〉で形成されたのだろう。術者を失い散ったのだ。
――そう気付く頃には、佐也加は別の誰かを戦闘不能にしていた。
数名の隊員が取り囲むように一斉に攻め込んだ。
佐也加は床に落ちる倒れた隊員の武器の柄を強く蹴り、飛ばす。攻め込む隊員の一人がそれを受ける――が、間髪入れず、同じ様に佐也加は数名に向けて落ちている他者の武器を放つ。
佐也加は手薄になったエリアに踏み込む。
一人の隊員を一刀の峰打ちで素早く沈めると、返す刀で自らの刀を背面の頭上に向け放った。
――と同時に、今しがた沈めた隊員から銃と剣を素早く奪い、後方から攻める三人の中央にいる隊員に斬りかかる。
隊員は佐也加の一刀を受け止めた。そして逆に一刀を返す。
佐也加は意外にもあっさりと引き下がる
――が、突然飛び上がった。
――かと思えば、先程宙に放った自らの刀を足の指で掴み、踵落としの要領で振り下ろす。
――と同時に右手の剣で男の首に強烈な一撃を入れた。
隊員は軍用配備品である防壁生成異能具〈パラーレ〉で頭上を護り、首は剣で受ける。だが、その瞬間を狙っていたのか、佐也加は左手の銃で男の頭部を撃ち抜いた。
倒れる仲間に目もくれず、左右にいる隊員が空中にいる佐也加へ攻撃を放とうとしていた。
右にいる巨漢の隊員は巨大なパイルバンカーを向ける。だが佐也加は〈パラーレ〉を、空中にある自身の足元に発生させた。
逃げるのか――と頭で言葉にする間も無く、佐也加は冬鷹の予想を裏切る。
彼女は『壁』を足場とし、逆足でパイルバンカーに蹴りを放った。
パイルバンカーは軌道が逸れた形で発射される。その先にはもう一人の隊員が。
身体をくの字に曲げる隊員からヌンチャク状の双剣を奪うと、鎖部分を素早くパイルバンカーの主の首に巻き付け意識を飛ばした。
「あの、根本先輩。今の御三方ってみんな戦闘ランク[B+]以上の上級隊員ですよね?」
「そうだねぇ。うーん……早めに行かないと、郡司佐也加副本部長の武器が増えるだけだねぇ」
戦場に持ち主の不在の武器が増えれば、それだけ佐也加の選択肢が増えてしまう。
冬鷹は意を決した。簡単に打ち合わせると数十秒後、根本と戦地へと飛び込んだ。
さらに数秒後、冬鷹は意識を失った。特に何も出来ずに。
冬鷹たちは暮しているのはその一つ、東京北部に位置する『重陽町』だ。
異能界は独立自治が基本とされている。故に各街が治安組織を有している。
重陽町の治安組織の名は『帝都北方自警軍』――通称『軍』。
重陽町中央区に構える帝都北方自警軍本部。
建物内には防衛、隔離、避難、訓練などのための各種施設を備えている。
その中の一つ、第一闘技訓練室。
平地戦闘を想定した、約五十メートル四方の闘技区画が中心にあるだけのシンプルな作りだ。有事の際には避難所としても活用される。
そんな場所が今は物々しい数の隊員で埋め尽くされている。
ざっと見た限りで五十は超える。その全員が装備を整えていた。
――が、その半数近くが今は床に倒れている。
一人、また一人、と。戦場ならば屍が増えてゆくだろう光景だ。
その仮想死体の山を作っているのは、中央でたった一人、他を圧倒する女性。
猛禽類を思わせる鋭い眼光。猛々しさを感じさせる外にはねたセミディヘア。そして出会った頃より、美しく、大人らしく成長した背格好――郡司佐也加だった。
『一人』対『その他大勢』の形式で開始された特別訓練だが、形勢は予想通り『その他大勢が劣勢』と言わざるを得ない。
――と、冬鷹が状況を整理している間にもベテラン隊員たちが一瞬で四人倒された。
「冬鷹君、一斉にしかけよぅ」
隣から眠たげな声をかけられる。冬鷹のバディで先輩隊員である根本だ。こんな状況にも関わらず、平時通り夢現な事に冬鷹は内心驚いた。
と、その時、〈氣〉――〈生命子〉の弾が冬鷹の一メートル横を通り過ぎていった。
弾道を追うと、喉を抑え今まさに倒れ込もうとする隊員の姿があった。
彼の頭上には、〈火球〉がバランスボール大に膨れ上がっている――が、瞬く間に乾いた泥団子のようにボロボロと崩れ去った。
詠唱中に撃たれた。つまり、恐らく〈魔術〉で形成されたのだろう。術者を失い散ったのだ。
――そう気付く頃には、佐也加は別の誰かを戦闘不能にしていた。
数名の隊員が取り囲むように一斉に攻め込んだ。
佐也加は床に落ちる倒れた隊員の武器の柄を強く蹴り、飛ばす。攻め込む隊員の一人がそれを受ける――が、間髪入れず、同じ様に佐也加は数名に向けて落ちている他者の武器を放つ。
佐也加は手薄になったエリアに踏み込む。
一人の隊員を一刀の峰打ちで素早く沈めると、返す刀で自らの刀を背面の頭上に向け放った。
――と同時に、今しがた沈めた隊員から銃と剣を素早く奪い、後方から攻める三人の中央にいる隊員に斬りかかる。
隊員は佐也加の一刀を受け止めた。そして逆に一刀を返す。
佐也加は意外にもあっさりと引き下がる
――が、突然飛び上がった。
――かと思えば、先程宙に放った自らの刀を足の指で掴み、踵落としの要領で振り下ろす。
――と同時に右手の剣で男の首に強烈な一撃を入れた。
隊員は軍用配備品である防壁生成異能具〈パラーレ〉で頭上を護り、首は剣で受ける。だが、その瞬間を狙っていたのか、佐也加は左手の銃で男の頭部を撃ち抜いた。
倒れる仲間に目もくれず、左右にいる隊員が空中にいる佐也加へ攻撃を放とうとしていた。
右にいる巨漢の隊員は巨大なパイルバンカーを向ける。だが佐也加は〈パラーレ〉を、空中にある自身の足元に発生させた。
逃げるのか――と頭で言葉にする間も無く、佐也加は冬鷹の予想を裏切る。
彼女は『壁』を足場とし、逆足でパイルバンカーに蹴りを放った。
パイルバンカーは軌道が逸れた形で発射される。その先にはもう一人の隊員が。
身体をくの字に曲げる隊員からヌンチャク状の双剣を奪うと、鎖部分を素早くパイルバンカーの主の首に巻き付け意識を飛ばした。
「あの、根本先輩。今の御三方ってみんな戦闘ランク[B+]以上の上級隊員ですよね?」
「そうだねぇ。うーん……早めに行かないと、郡司佐也加副本部長の武器が増えるだけだねぇ」
戦場に持ち主の不在の武器が増えれば、それだけ佐也加の選択肢が増えてしまう。
冬鷹は意を決した。簡単に打ち合わせると数十秒後、根本と戦地へと飛び込んだ。
さらに数秒後、冬鷹は意識を失った。特に何も出来ずに。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

異能レポーターしずくの小さな記事録
右川史也
ファンタジー
主人公の御厨(みくりや)しずくは、東京の異能都市で出版社に勤めて二年目の新米記者。
彼女の担当する情報誌は、異能界で起きた旬なニュースばかりを取り扱うのではない。
異能界で暮らす人々が引き起こした日常的なハプニングから人間ドラマ。
妖怪やドラゴンなどの異能生物にまつわる事情。怪異や異能などが絡む事件・事故・災害の振り返り。それらについての専門家の対策。
政治・経済など、異能界のあらゆる情報を取り扱う。
しずくの日常や取材などをオムニバス形式で描く『日常パート』
しずくの担当したニュースなどを読者感覚で楽しめる【記事パート】
2つのパートを通して、異能界の今を知る!
※この作品は、『東京パラノーマルポリス』『水都異能奇譚』と同じ世界設定です。
※この作品は、『カクヨム』『小説家になろう』『アルファポリス』に掲載しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる