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第22章 淫紋の宝珠編

第367話 ウェスタニア神聖国緊急国防会議

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 人口38万人の小国であるウエスタニア公国に取って、存亡に関わる重要事案であると急遽『緊急国防会議』が招集された。
 会議には、ウェスタニア神聖国親衛隊のフェルナンデス隊長と国防警備隊本部のローランド隊長が呼ばれ出席した。

 ウェスタニア神聖国には国軍は存在せず、首都セントエリスの治安維持と王宮の守備が目的に組織された神聖国親衛隊(隊員数3千名)と地方都市の治安維持と国境警備を目的に組織された国防警備隊(隊員数4千名)が軍の代わりに治安維持と国防の任に当たっているのだ。

 会議には秘書のセレスティーナと情報省情報統括官のリリアン・ブライデを同席させ、セレスティーナには議事の記録、リリアンにはオレの補佐と情報分析を担当させた。

 全員揃ったところで、オレが予め考えていた議案を説明した。
 ①国境地帯で捕らえた盗賊147名の移送・収監
 ②戦死した護衛60名の埋葬
 ③盗賊のアジトに監禁されていた女性36名の処遇
 ④アジトで盗賊の世話をしていた女性15名の処遇
 ⑤魔道具を使った盗賊団首領の尋問
 ⑥魔道具の製造販売元の割り出しと容疑者の捕縛
 ⑦他地域に潜伏する盗賊団の洗い出し

 最初に①の『盗賊147名の移送・収監』について話し合った。
「現在、盗賊147名は国境検問所の牢に収容されております。
 首都セントエリスへ移送するには約1週間の時間と護送兵士60人が必要で、その間の食事や野営の事を勘案すると、すぐに移送するのは難しい状況です」

「なるほど…、
 そんなに大人数の移送となると国境検問所だけでは人手が足りんな。
 近郊の駐屯地から応援を派遣しなければ対応できないとなると、倍以上の時間が掛かりますな」
 そう分析したのは国防警備隊のローランド隊長だ。

「私から一つ提案があります。
 もし、許可を頂けるのでしたら、私の管轄する監獄に空きがありますので、そこへ移送して収監したいと考えておりますが、如何でしょう?」
 オレが言った監獄とは、デルファイ公国の捕虜4万人を収容した円形監獄コロッセオの事を言っているのだ。
 今では聖都セントフィリアの貴重な労働力として約2万人もの元囚人が駆り出され、円形監獄コロッセオはガラガラの状態なのだ。

「えっ、宜しいのですか?
 そうしていただければ、我々としては大助かりです」
 ローランド隊長は両手もろてを上げてオレの提案に賛成した。

「しかし、元々は我が国で捕らえ、本来は我々が収監すべき囚人です。
 147名もの大人数を公爵閣下に押し付けるのは余りにも申し訳ない」
 グランヴェール教皇は眉間に皺を寄せながら言った。

「147名くらい、今いる囚人の数からすれば誤差の範囲内です」
 オレは、円形監獄コロッセオの概要を説明し、デルファイ公国の捕虜が未だに2万人ほど収容されていることを話した。

「確かに、そんなに大勢の囚人がいるのであれば、少し位増えても大差ないですね」
 レオノーラ枢機卿は頷いた。

「はい、後で話そうかと思っていたのですが、もし貴国内に潜伏している盗賊が居るとすれば、捕縛後はこの円形監獄コロッセオに収監したいと考えております」

「我が国の問題なのに、貴国に押し付けるようで申し訳ないですが、今のお話を聞く限り、シュテリオンベルグ公爵閣下のご提案に従った方が良さそうですね。
 貴方はどう考えていますか?」
 グランヴェール教皇はフェルナンデス隊長に意見を聞いた。

「はい、私も同意見です。
 ここは公爵閣下にお任せした方が良いように思います」

「分かりました。
 では、147人の盗賊と今後捕らえる盗賊の移送と収監、その後の処遇や処罰の決定も含めて全て公爵閣下にお任せすることと致します」

「了解致しました。
 この件が決着するまで、お互いに連絡を取り合って齟齬がないようにしたいと思います」

 次に②の『戦死した護衛60名の埋葬』の問題を討議した。
 これもオレの提案で全員の遺体を棺に安置し、ソランスター王国から派遣するクジラ型飛行船の船室に収用し、首都セントエリスまで運ぶ事となった。
 その後、国立墓地に手厚く埋葬し、祖国のために勇敢に戦い戦死した英雄としてまつられることとなった。
 また遺品は全て遺族に返還し、弔慰金と年金を支給することが決まった。

 ③の『盗賊のアジトに監禁されていた女性36名の処遇』と④の『アジトで盗賊の世話をしていた女性15名の処遇』は、ソランスター王国が派遣するクジラ型飛行船に乗せ、セントエリスまで輸送すると言うオレの案が採用された。
 その後、一人ひとり事情聴取した上で、本人たちの意向を聞き、旅費を支給して故郷へ帰らせたり、救護施設に入所するなど個別に処遇を決める事となった。

 ⑤の『魔道具を使った盗賊団首領の尋問』は、盗賊全員を円形監獄コロッセオへ収監した後、首領を特定し別室でジックリと尋問を行う事となり、この件もオレに全権委任された。
 尋問に関しては、その道のスペシャリストに依頼する予定だ。

 ⑥の『魔道具の製造販売元の割り出しと容疑者の捕縛』は⑤で首領が自白した後でないと手を付けられないので、容疑者が特定された時点でウェスタニア神聖国側へ通告後、オレが捕縛し円形監獄コロッセオへ収監することとなった。

 ⑦の『他地域に潜伏する盗賊団の洗い出し』は飛行船の拡張機能の一つ『生体探知レーダー』を使えば一目瞭然である。
 オレは『生体探知レーダー』について一同に説明した。

「ほ~、そのように便利な機能があるとは思いませんでした…
 流石は女神様がお造りになられた船です」
 そう言ったのはレオノーラ枢機卿である。

「では、それを使えば敵意があるかどうか一目ひとめで分かりますな」
 生体探知レーダーの機能に興味を示したのは、親衛隊のフェルナンデス隊長であった。
 職務柄便利な機能だと思ったのだろう。

「ひとつ気になっていることがあるのです。
 それは、我々が飛行船で盗賊を見つけた時に彼らは敵対を意味する赤い点の反応がありました。
 彼らが私の存在を知らなければ、味方でもなく敵でもない白い点の反応が出るはずなのです。
 赤い点の反応が出るとすれば、かつて敵対していた勢力と言う事です。
 恐らく、先のゴラン帝国とデルファイ公国による侵略戦争の敵方の残党ではないかと我々は考えております」

「なるほど、国境地帯に盗賊が出没するようになったのも、ちょうど1年前位ですから、時期的には符号しますな…」
 国防警備隊のローランド隊長は頷いた。

 そこでリリアンが発言を求めた。
「彼らは北方諸国出身ですから、ゴラン帝国軍が撤退した後に国境が閉鎖され、フォマロート王国軍による残党狩りで行き場を失った敵兵が、越境してウェスタニア神聖国へ入国し、徒党を組んで盗賊となったのではないかと分析しております」
 リリアンが話した内容は、情報省国外情報本部が集めた情報をリリアンが分析して辿り着いた答えだ。

「侵略戦争の余波が我が国にまで及んでいようとは…」
 グランヴェール教皇は、苦々しそうに唇を噛み締めた。

「逆に考えれば、『生体探知レーダー』で敵対勢力が一目瞭然に分かる訳ですから、こちらに取っては好都合です」
 他地域に潜伏する盗賊の炙り出しは、情報省特務本部長のシラー・レーベンハウトに任せるつもりだ。

 その日は昼食を挟み、約5時間に亘り打ち合わせを行った後、オレたちは慌ただしく王都へ戻り、ゲートを経由してアクアスターリゾートへ移動した。
 エレノーラ大司教は娘の様子を気に掛けていたが、アウレリアはまだ眠ったままであった。
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