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第20章 女神降臨編

第320話 国王と2人の老紳士

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 ソランスター国王クラウス2世は、エメラルド・リゾートの休日を楽しんでいた。
 とは言っても流石に一般庶民に混じって各種アクティビディを楽しむ訳にも行かず、オーナー専用室付属のスカイテラスから、ビーチの景色を眺め、お茶を飲む程度のことしか出来なかったが、思いのほか満足げであった。

 このオーナー専用室には専用エレベーターで来るしか出来ないので、警備は1階に限定して、あとは18階の警備を厳重にすれば良いのだ。
 今回は王室一家6名全員が、このリゾートに滞在しており、万全を期して護衛の女戦士10名のほか、リドル・ポラーレス隊長率いる王室親衛隊の精鋭20名も隣室で警戒に当たっている。

 そんな中、秘書のセレスティーナが2人の客が国王陛下にお目通りを願い出ているとオレに告げた。
 この部屋に制限を受けずに到達出来るのは、数名に限られている。

 オレは国王に来客を取り次いだ。
「陛下、お寛ぎ中のところ失礼致します。
 このリゾートのオーナーでありますゼビオス・アルカディアとエルビン・サエマレスタが謁見を申し出ておりますが、如何がなさいますか?」

「ふむ、構わんぞ、ここへ通すが良い」
 国王は殊の外、上機嫌なようだ。

 オレは2人の老紳士をスカイテラスに案内した。
 ゼビオスとエルビンは国王が座るソファの前で跪き、臣従の礼を取り2人揃って口上を述べた。
「国王陛下に於かれましては、ご機嫌麗しく恐悦至極に存じます。
 此度は、拝謁の栄を賜り、身に余る光栄でございます」

「うむ、両名ともおもてを上げよ」

「はは~」

「して、今日は何用じゃ」

 国王の質問に代表して、ゼビオス・アルカディアが答えた。
「はい、私ども2人は、シュテリオンベルグ公爵閣下の勧めに従い、当リゾートに出資した者でございます。
 此度は、当リゾートのオープニングイベントにご臨席賜り、また御祝辞を賜りましたこと、お礼申し上げたく参上致しました」

「うむ、殊勝な心がけ、大義である。
 その姿勢では話もできん、そこに座るが良い」
 そう言って国王は、向かいの席を指し示した。

「め、滅相もない、私共はここで十分でございます」

 恐れ多いと遠慮する2人の老紳士にオレは声を掛けた。
「お2人共、陛下のお心使いを無駄になさいますな」
 オレの言葉に諦めたゼビオスとエルビンは、恐縮しながらも国王の向かいの席に腰掛けた。

「陛下、この2人は私のリゾート構想に賛同し、巨額の資金を投じてくれました」
 オレは説明しながら、国王の隣の席に座った。

「うむ、名は何と申したかのう…」

「はい、こちらがセントレーニアを本拠地に一大企業グループを展開されるゼビオス・アルカディア殿。
 そちらが領都エルドラードを本拠地にリゾートホテルを展開されるエルビン・サエマレスタ殿でございます」

「そうかそうか、両名ともカイト殿から話は聞いておるぞ。
 カイト殿の領都復興策に積極的に協力してくれたこと、感謝致すぞ」

「過分なお褒めの言葉、身に余る光栄でございます」

「これからもカイト殿を宜しく頼むぞ」

「はは~」
 2人は、それ以上下げられない位に平身低頭した。

 その時、セレスティーナがレモンティーとチーズケーキを運んで来た。
 ケーキはヒカリが作った自信作である。
「どうぞ、お召し上がり下さい」

「ささ、冷めない内にお召し上がり下さい」
 オレは遠慮している2人に勧めた。

「カイト殿、このケーキは初めて見るが、実に美味いのう。
 甘さが控え目で、チーズのような味がするぞ」
 真っ先にケーキを口に入れた国王が感想を述べた。

「こ、これは、実に美味……
 しっとりしていて、しつこくない上品な甘さで実に美味しゅうございます」
 美食を極めたゼビオス・アルカディアがチーズケーキを的確に表現した。

「左様で御座いますな、コクと甘さの中に微かな塩味が感じられます」
 エルビン・サエマレスタも食の探求者として知られる美食家なのだ。

「カイト殿、これは何と言うケーキじゃ?」
 クラウス国王が聞いた。

「はい、これはチーズケーキにございます」
 この世界にはケーキにチーズを使うという発想が無かったのだ。

「ほほ~、チーズケーキと申すか。
 これはクセになる味じゃな」

「はい、私どものパティシエが作ったケーキにございます」

「これは、どこで手に入るのじゃ?」

「はい、もうすぐ王都に開店致します『ルミエール・ド・エトワール』と言う店で販売する予定でございます」

「カイト殿、このケーキを私の店でも出したいのですが…」
 ゼビオス・アルカディアは商人の血が騒いだようで、オレに食い付いてきた。

「まあまあ、お待ち下さい。
 今は陛下の御前ですから、そのお話はまた後ほど」

「こ、これはご無礼致しました」
 そう言って頭を下げた。

「まあ、気にするでない、今日は無礼講じゃ」

「あ、有難きお言葉…」
 ゼビオスは恐縮した。

 それから国王と2人の老紳士は、オレが時々合いの手を入れながら世間話に花を咲かせた。
 国王は2人の商売がどのような様子か質問し、興味深げに聞いていた。

 謁見は約1時間にもおよび、2人は国王に何度も礼を述べ、部屋を退出した。

「陛下、昼食の時間でございますが、本日は趣向を凝らしておりますので、部屋を移動していただいても宜しいでしょうか」

「ほぉ、趣向とはどのようなものじゃ?」

「それは、後ほどのお楽しみでございます」

 オレは国王陛下と王妃、マリウス王子と3人の王女を伴い、ある部屋へと通じている『ゲート』を潜った。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 ゲートの先は『アクアリウム・ラウンジ』である。
 ここは、このリゾートで1棟のみの最上級ハイエンドなヴィラ『エメラルド・ヴィラ』に付属する海中展望塔の最下階にある部屋だ。
 海底12mに高さ3.6m、直径12mのドーム型の部屋『アクアリウム・ラウンジ』があり、そこから水族館のように熱帯魚が見られるのだ。

「おお、なんじゃこの部屋は……」

 移動した先が、海底であることを知ると、国王と王妃、マリウス王子の3人は辺りを見回し驚いていた。

「ここは、海底に作った透明な素材で出来た部屋にございます」

「な、なんと…、海底とな…」
 国王はオレの予想通りの反応を見せた。
 3人とも呆気に取られていたが、状況を把握するとアクリルガラスの傍まで近寄り、優雅に乱舞する色とりどりの熱帯魚に夢中になっていた。

「これが、海の底か…、儂は初めて見たぞ…」
 国王の目の前をウミガメが悠々と泳いで行った。

「こ、これは、ウミガメじゃな」
 何度見ても飽きない景色であるが、既に昼食の用意が出来ているのだ。

「陛下、お食事が冷めてしまいますので、まずはお食事をお召し上がり下さいませ」

「おお、そうじゃったのう」

 昼食は、コース料理であった。
 前菜としてカプレーゼ、サーモンのカルパッチョ、トマトと生ハムのブルスケッタから始まり、冷製スープのビシソワーズ、伊勢海老のチーズ焼き、バルサミコソースが爽やかな牛肉のタリアータと続いた。
 水中展望塔の1階には厨房があり、そこで調理された料理が海中にある『アクアリウム・ラウンジ』に運ばれ提供されるのである。

 続いて口直しのソルベ、ウニの冷製パスタ、シーザーサラダ、デザートとしてティラミス、イチゴとマンゴーとオレンジのカットフルーツ、最後にコーヒーが出てきて締めとなった。

「どの料理もとても美味しかったわ」
 王妃は満足そうに感想を述べた。

「うむ、これは王宮にも負けぬレベルじゃのう」

「ありがとうございます」

「カイト、陛下に褒められて一安心ね」
 3人の王女達も満足そうであった。

 王室一家は、それから3日間、エメラルド・リゾートに滞在し、満足そうな様子で王都へ帰っていった。
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