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第20章 女神降臨編

第316話 建築デザイナー採用試験

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 MOG(多次元物体生成装置)が10台に増え、建物や構築物の建設速度が飛躍的に速くなったのは良いが、肝心の設計データが間に合わなくなっていた。
 過去のBIM(Building Information Modeling)データをコピーして使うにしても、立地や要望に合わせた手直しが必ず必要だ。
 また、新たに設計しなければならない建物も急激に増えている。
 こうなる事は、ある程度予想していたが、オレが建築デザインに割ける時間は限られているので、新たな社員を採用し、建築デザイナーを育成することが急務となっていた。

 幸い、小さな天才リトルジーニアスのスー(スージー・ローズマリー)がBIMをマスターし、オレの仕事を手伝ってくれるようになったので、多少は助かっているが、建築デザイナーの育成が喫緊きっきんの課題であることに変わりはない。

 グループ会社の1つであるアクアスター・デベロップメント株式会社は、王都を中心にソランスター王国内全土の商業施設、ホテル、住宅、公共施設を設計施工する総合建設会社ゼネコンである。

 王都に建設した複合商業施設併設型合同庁舎『フローリア・ガーデンモール』を見学して、商業施設やホテルの建設を打診する企業が増えてきた。
 今は、セントフィリアの都市開発を優先しているが、それがある程度落ち着けば、他社の要望に答えようと、オレは考えている。

 今日は、これから建築デザイナー採用試験をアクアスター王都アリーナの会議室を借りて実施するのだ。
 ソランスター王国には王立大学など建築学科がある大学が幾つかあり、その大学から建築の基礎知識を持った学生を社員として採用しようと考えていた。
 今回の採用予定者数は12名であるが、優秀な人材が多ければ採用を増やしても良いとオレは考えていた。

 試験は大学の学業成績を元にした書類選考と学力試験を経て、最終選考に残った約30名(男性17名、女性13名)の中から面接で合否を決めることとした。

 試験官はオレとアスナとジェスティーナ、それと面接試験には欠かせないサクラにお願いした。
 午前9時から面接試験を開始し、1人10分~15分の持ち時間で面接した。
 それだけでも30人全員を面接すると、約7時間掛かるのだ。
 今回もサクラが作った5点満点の面接評価シートを使って面接に臨んだ。
 面接評価シートは、第一印象、コミュニケーション能力、志望動機、業務理解、職業適性、学業成績、建築技術、デザイン力、発想力、順応性など20項目を各5点満点で採点、それを合計し、数値化して採用の判断材料とする評価ツールである。

 面接試験は順調に進み、残すところ後1人となっていた。
 最終面接者の履歴書を見ると女性である。
 名前は『アリス・ティンバーランド』とあった。
 アリスか……
 そう言えば白バニーのアリスは、その後どうしているだろう。
 あれから2ヶ月近く経ったが、奨学金の受給条件として夜の仕事に就くことを禁じたから、恐らくバニーの仕事は辞めている筈だ。
 この世界の履歴書には当然写真は無く、本人と会うまでどんな人が来るのか分からないのだ。
 大学名・学科を見ると『エッセン市立大学建築学科』とあった。
 まさかな……

 その時、面接会場のドアがノックされ、失礼しますと言って1人の女性が入ってきた。
「エッセン市立大学建築学科のアリス・ティンバーランドと申します。
 どうぞ宜しくお願いします」
 そう言ってその女性は、深々とお辞儀した。

 その綺麗な金髪ポーニーテールの両脇には、なんと可愛いうさぎの耳がついているではないか。
 リクルートスーツを着ているものの、その見事なプロポーションと目鼻立ちが整った清純系の顔立ちは、紛れもなく白バニーのアリスであった。

「アリスさん、どうぞお掛け下さい」

「はい、失礼致します」
 アリスが座り、正面を向くとオレと視線があった。
 その瞬間、アリスは飛び上がるほど驚いているのが分かった。

 オレもアリスと目が合って動揺を隠せなかった。
「それでは、面接を開始します」

「は、はい……」

 明らかに動揺しているアリスを見て、進行役のサクラが異変に気付いた。
「アリスさん、どうかされましたか?」

「い、いえ、ちょっとビックリしただけです」

 こうなっては、もう知らんぷりは出来ない。
「サクラ、彼女はオレがエッセン市に視察に行った際に、市長のアーロンが連れて行ってくれたバーでバイトしていただ」
 オレは嘘は言っていない。
 バニー・ガールズバーとは言え、バーには変わりないからだ。
 しかし、その店で彼女を指名して性的な関係を持ったことは、この場では言えない。
 オレの為にもアリスのためにもだ。

「へ~、バーねぇ…、それって健全な店なんでしょうね~」
 すかさずアスナがツッコミを入れた。

「もちろん、王国公認の適法な店だ。
 彼女は大学の学費を稼ぐために、そのバーでバイトしてたんだ」
 オレがエッセン市立大学の不正事件で元学長と経理責任者を処分し、奨学金制度を創設した件はジェスティーナやアスナ、サクラも知っていることだ。

「まさか、面接会場で面接官と応募者として再会するなんて、不思議な巡り合わせね」
 ジェスティーナは、まだ何か疑っているようであったが、それ以上追求しなかった。

「アリスさん、カイトの知り合いだからと言って、面接の手は抜きませんよ」
 アスナが釘を刺した。

「はい、もちろんです」

 そこから、ようやくアリスの面接が始まった。
 最初の質問者はサクラである。
「では、まず志望動機を教えて下さい」

「はい、私の出身地『ティンバーランド』は、周囲を森に囲まれ、林業が盛んで製材や伐採した木材を使ったログハウスの建築が盛んです」
 アリスの話では、ラビティア族は優れた木材加工技術を持ち、家業がログハウス建築業であったことから、幼い頃からログハウスに興味を持っていたそうだ。
 アリスは、エッセン市立大学に入学して3年間、この世界の建築設計技法を学び、将来は『ティンバーランド』へ戻ってログハウスの設計者になろうと考えていた。
 ある日、大学の掲示板に貼られていたアクアスター・デベロップメントの建築デザイナー募集の告知を見て、アリスは衝撃を受けたと言うのだ。
 この世界では、定規や製図盤ドラフターを使って設計図を書くのが当たり前だ。
 しかし、その募集要項にはコンピュータと言う機械とBIMと言う未知の仕組みで建築設計を行うとあり、施工実績として写っている建物の規模の大きさや精巧さに度肝を抜かれ、ぜひこの会社で働きたいと思い、応募を決意したと言うのだ。

「では、ご両親の職業を教えて下さい」

「はい、父はログハウスビルダーで、部族長をしています。
 母は木工職人で、木製の日用雑貨を製作しています」

 次に質問したのはジェスティーナである。
「あなたの名字と出身地は、同じ『ティンバーランド』ですが、それは何故ですか?」

「はい、我々一族は元々ファミリーネームを持たない部族で、名字を聞かれた時は、便宜上地域名である『ティンバーランド』を名乗っているのです」

 次はサクラが質問した。
「履歴書にはラビティア族とありますが、どんな種族か教えて下さい」

「はい、エッセン市北部の森林地帯に住む少数民族で、生まれながらに兎の耳と尻尾を持っている獣人です」
 アリスの話によるとラビティア族は、元々狩猟民族で大陸北部から南下し、数百年前に現在地に定住したそうだ。
 ラビティア族の総数は現在6千人ほどで、エッセン市の人口に占める割合は2%ほどである。

 次にアスナが質問した。
「あなたは、うさぎの耳と尻尾を持って生まれましたが、それをどう思いますか?」

「はい、私はこの耳と尻尾を一族の誇りだと思っています。
 この耳や尻尾があることで誂ったり、悪口を言う人もたまに居ますが、私は全く気にしていません」

 最初に若干時間ロスもあったこともあり、予定を10分もオーバーして約25分でアリスの面接は終了した。

「私、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」
 そう言って、一礼しアリスは部屋を退出した。

「なかなか、いいじゃない、カイト」
 アスナの印象は、なかなか良好であった。

「そうね、説明も理路整然としているし、熱意もあるみたいだし…」
 ジェスティーナの評価も上々である。

 もし、アリスが不採用だったら、会長権限でアリスを採用しようと思っていたが、どうやらその必要はなさそうだ。

 面接終了後、オレたち4人は会場に残り、採用者決定会議を行った。
 サクラがノートPCに全員の採点結果を入力し、集計結果を表にして配布した。
 合計得点の高い順にソートされ、とても見やすくなっていた。
 応募者が30人、面接官が4人なので120枚の評価シートがあるが、サクラはそれを短時間で入力し、集計表にしたのだ。
 さすがは優秀な元秘書である。

 その結果、18名(男性10名、女性8名)を採用することに決定した。
 因みにアリスは、どの項目でもトップ評価に近く、全員一致で首位合格と決まった。

 大学のインターンシップ制度を利用して勤務し始めるのは1ヶ月ほど先であるが、アリスと会えるのが今から楽しみである。
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