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第20章 女神降臨編

第315話 エッセン市立大学の不正疑惑

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 翌朝、オレは眠い目を擦りながら、エッセン市長の執務室オフィスへと向かった。
 ステラとセレスティーナは、眠そうな素振りなど一切見せず、任務に集中していた。
 やはり、オレとは鍛え方が違うのだろう。

 市長の執務室オフィスに行くと、アーロンが爽やかな笑顔でオレたちを出迎えた。
「カイト様、お早うございます」

「やあ、アーロン、昨日は色々ありがとう」

「いえいえ、お気になさらずに…
 ところでカイト様、随分お疲れのようですが…」

「いや、ちょっと寝不足でね」

「そうですか、もしかして枕が合いませんでしたか?」

「まあ、そんなところだ。
 ところで、アーロン、オレをバニーガールの店に連れて行ったのは、何か魂胆があってのことだろう?」

「さすがは、カイト様
 私の意図に気づかれましたか?」

「まあ、キミが仕組んだと言うことは、容易に想像できたよ」

「恐れ入ります。
 百聞は一見にしかずと言いますから…
 言葉で説明するより、実際に見ていただいた方が、問題点を把握できると思ったのです」

「それで、エッセン市立大学の学費は、何故そんなに高いんだ」

「はい、元々は旧領主が大学に補助金を出していたのですが、ギルド連合の不正絡みで税収が落ち、5年前に打ち切られたのです」

「そうか、こんなところにまで影響が出ているとはなあ……」

「大学は、補助金が減った分を学費に転嫁し、経費が嵩むと言って毎年のように学費を値上げしているんです」
 アーロンの話によると、5年前と比べ今の学費は約1.7倍になっているそうだ。
 値上げにより、学費を支払えなくなり、中退する学生や仕事を掛け持ちする学生が増え、大学のレベル低下に繋がっているそうだ。

「それと、市立大学の『事業活動収支報告書』を見ると、必要ないと思われる支出や使途不明金が異常に多いのです」

「使途不明金?」

「はい、まだ十分に精査出来てないのですが、恐らく幹部職員による目的外使用、或いは横領があるのでは無いかと推測しております」

「そうか…、前市長はそれをチェックできなかったんだな」

「そのようです」

「う~ん、アーロンには、潜入調査は難しいだろうしなぁ…」

「ここは情報大臣のお力の見せ所かと存じます」

「分かった、早急に調査チームを派遣しよう」

 エッセン市立大学自体は、優れた教育を行い優秀な卒業生を多数排出する伝統ある大学なのだ。
 大学を食い物にする不届き者のせいで学費が上がり、学生が学ぶ時間を奪っているせいだと考えられる。

「何れにしても調査には、ある程度時間が掛かる。
 その間も学生たちが、しなくてもいい仕事をさせられて苦しむのは見過ごせない」

「仰る通りです」

「アーロン、この市に奨学金制度はあったか?」

「あるにはありますが、資金不足でずっと募集を停止しております」

「よし、新しい奨学金制度をスタートさせよう」

「はい、カイト様なら、そう言われると思ってました」

「アーロン、『シュテリオンベルグ公爵領奨学金制度』を創設するから、その運用をキミに任せる」

「はい、ありがとうございます」

 オレとアーロンは、その場で新奨学金制度の骨子を決めていった。
 1.奨学金の原資
 奨学金の原資はシュテリオンベルグ公爵個人が国王から賜った褒賞金の一部である金貨1万枚(10億円)を拠出し原資とする。
 2.奨学金の貸与
 奨学金貸与は、学生1名当たり金貨20枚(200万円)を上限とする。
 3.奨学金の利子
 奨学金は無利子とする。
 4.奨学金の返済
 返済は卒業3ヶ月経過後から200回の均等払いととする。(早期償還可能)
 5.奨学金の返済免除
 下記に該当した者は奨学金の一部または全部の返済を免除する。
 ◎奨学金免除の条件
 ①エッセン広域市内の企業・官公庁に就職して5年以上継続勤務すること
 ②シュテリオンベルグ公爵領内の企業・官公庁に就職し5年以上継続勤務すること
 ◎返済免除の割合
 ①毎年学業成績優秀者上位10名は奨学金を全額返済免除
 ②上位20位以内の者は奨学金の2分の1を返済免除
 ③上位30位以内の者は奨学金の3分の1を返済免除
 6.奨学金原資不足分の補填
 不足する奨学金原資は毎年下記の方法により補填する
 ①2分の1をエッセン市の税収から補填
 ②2分の1をシュテリオンベルグ公爵領の税収から補填
 7.事務局
 奨学金の給付等一切の手続きは、エッセン市庁舎内に置く『シュテリオンベルグ公爵領奨学金事務局』で取り扱う。
 8.理事会
 『シュテリオンベルグ公爵領奨学金事務局』の理事会は下記の構成とする。
 理事長  カイト・シュテリオンベルグ (領主・公爵)
 副理事長 アーロン・リセット     (エッセン市長)
 事務局長 シェロン・レスポーザ    (エッセン市会計部長)
 理事   若干名

「だいたい、こんな感じかな」
 秘書のセレスティーナが、ノートPCで入力した奨学金制度の創案をアーロンに見せた。

「カイト様、素晴らしいです…
 こんなに簡単に奨学金制度を作り上げるなんて…、お見逸れしました」

 オレには、現代日本の常識があるとは言え、最近は様々な制度設計に携わってきたので、すっかり慣れっこになっていたのだ。

「奨学金制度の運用を開始するに当たり、オレから1つ注文がある」

「どのような事でしょう」

「奨学金の払込も利用も、キャッシュレス決済限定にしたいんだ」

「なるほど、記録が残るようにするのですね」

「その通り、利用記録が残れば、不正利用も防げるし、証拠が残るからな」
 オレは、奨学金の入出金をキャッシュレス決済限定にすることを決めた。
 つまり、大学の授業料の支払いや、その他の学費、家賃や食費、水道光熱費などあらゆる支払いにステカを利用させることで、キャシュレス決済の普及を加速させようと思ったのだ。

「う~ん、反対意見を述べる者もいるでしょうが、市立大学なので市の決定、いや領主の決定と伝えれば、文句も言えんでしょうな」

「その通り…
 アーロン、オレは近い内にシュテリオンベルグ公爵領内の決済を、全てキャッシュレス決済にしようと思っているんだ」

「それは、また大胆な計画ですね」

「半年間の移行期間は設けるが、その後は100%キャッシュレス決済に切り替えるつもりだ」

「分かりました…
 私も出来得る限りご協力致します」

「アーロン、頼りにしてるよ」

「あの白バニー、エッセン市立大学の女子学生たちが、辛い仕事をしなくても学べるように私も頑張ります」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 オレは王都の合同庁舎に戻り、大臣執務室に情報省諜報本部長のキアン・ベルアーリを呼んだ。

「大臣、お呼びでしょうか?」

「キアン、キミを呼んだのは、他でもない。
 潜入調査の要請だ」
 オレは、エッセン市立大学の『事業活動収支報告書』を見せて、使途不明金の洗い出しと不正経理の証拠を掴むよう命じた。
 
「またエッセン市ですか?
 あの街は不正の温床なんでしょうか? 」

「まだ不正と決まった訳ではないが、この報告書を見る限り、その可能性は高いように思う」

「分かりました、早速調査に入ります」

 それから10日後、キアンから潜入調査の成果が出たと報告があった。

 彼らの潜入調査は、大学事務局内にステルス式リモートカメラを数台設置し、電波の届く範囲で調査員6名が交代で監視するのである。

 そんなこととは露知らず、こともあろうか大学の経理責任者と学長が、経費の目的外使用(私物購入等)や横領、2重帳簿のことをベラベラ喋り始めたのだ。
 その様子はビデオに鮮明に記録され、おまけに2重帳簿の在り処である地下書庫の存在まで明らかとなった。

 オレは、その翌日、情報省特務本部と諜報本部の合同チーム50名をエッセン市立大学へ派遣した。
 そして学長と経理責任者他、関係者9名を捕縛し、不正の証拠を全て押収したのだ。

 言い逃れ出来ない証拠を突きつけられた学長と経理責任者は、あっさり罪を自白した。
 2名は公金横領と背任の罪で、財産没収、鞭打ち100回の上、領外追放とした。
 また学長らの公金横領に関与した職員は、財産の2分の1没収、鞭打ち10回の上、領外追放とした。
 後任の学長は、元王立大学学長のオディバ・ブライデにお願いすることにした。

「カイト殿、儂のような老いぼれに、このような大役、務まるかのう」

「ええ、大丈夫です。
 昔取った杵柄と言う諺があるじゃないですか」
 オディバ・ブライデには、市長のアーロン・リセットとタッグを組んで、大学改革をお願いすることにしたのだ。

「優秀な学生は、私の会社で何人でも引き受けますよ」

「カイトどの、何を言っておる…
 お主の会社に入りたいと言う学生は大勢いて、引く手数多なのを儂は知っておるのじゃぞ」

「まあ、確かにそうですが、優秀な学生はこれからまだまだ必要になりますから…」
 こうしてオレは、エッセン市立大学の問題に決着を付けたのである。
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