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第20章 女神降臨編

第311話 エッセン市公設市場の視察

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 エッセン市に建設中だった公設市場が完成し、オープンの日を迎えた。
 オレは、秘書のセレスティーナと護衛のステラを連れ、お忍びで視察に出かけた。
 王都から飛行船『空飛ぶイルカ号Ⅱ』に乗り、50分弱でエッセン市上空に到達すると降下を開始し、オープンしたばかりのエッセン市空港に着陸した。
 ハッチが開き、オレがタラップを降りていくと市長のアーロン・リセットが笑顔で出迎えてくれた。
 オレが今日視察に行くことは、事前に知らせていたのだ。

「カイト様、お疲れ様です」

「やあ、アーロン、調子はどうだい」

「はい、極めて良好です」
 何だか、顔色も良さそうだし、本当に調子は良さそうだ。

「今日お連れの方は、秘書と護衛の方だけなのですね」

「そうだけど、何かあったかい?」

「いえ、婚約者フィアンセの方をどなたかお連れになるのかと思いましたので…」

「彼女達も、結構忙しいんだよ。
 グループ会社の社長だし、公務もあるから」

「なるほどですね…
 ところで、カイト様、今日は日帰りですか?」

「うん、今日は視察が終わったら帰る予定だ」

「もし、お時間がございましたら、夕食をご一緒願えないかと思いまして…」

「夕食?、アーロンがオレにご馳走してくれるのかい?」

「はい、美味い店を見つけましたので、ぜひご案内したいのです。
 それに市長に抜擢していただいたお礼を兼ねて、お連れしたい所がございまして…」

「なるほど、そういうことなら、ご馳走になろうか」

「はい、それでは予約しておきます。
 本日は、先に公設市場を御覧いただいて、その後公設ギルドにご案内致します」

 オレたちは、アーロンの用意した馬車に乗り、公設市場へ向かった。
 公設市場は、市内中心部の公共広場を取り囲むようにして建てられた4棟の平屋の建物だ。
 因みに営業時間は、午前9時から午後5時までの8時間で、毎週水曜日が定休日である。
 
 1号棟は、生鮮食品館だ。
 近隣の農家で採れた新鮮な野菜や果物、米・麦・豆などの穀類、食肉や乳製品、領都エルドラードから毎日空輸される新鮮な魚介類を売る店が並んでいた。
 2号棟は、加工食品館である
 菓子・餅・団子・ケーキなどの加工食品、スープや焼き魚・串焼き・焼き飯などの惣菜や調理済食品を販売する店が並んでいた。
 3号棟は、工業製品館である。
 椅子やテーブルなどの木製品、ザルやカゴなどの竹加工製品、調理器具や工具などの金属加工製品、食器や土鍋などの陶器、ガラス加工製品などを販売する店が並んでいる。
 4号棟は、魔導具・錬金館である。
 主に元魔導具ギルド加盟のメンバーが製作する色々な魔導具を販売しているのだ。
 火を起こす魔導具や、遠くの物が拡大されて見える魔導具、温水を作り出す魔導具、氷を作る魔導具、食品を冷やす箱型の魔導具の他、スタミナポーション(体力回復薬)、ヒールポーション(怪我治癒薬)、キュアポーション(病気治癒薬)など各種ポーションを販売する店が並んでいた。
 ポーション類は何れも3級程度の低品質なもので、トリンが作るような高品質なものではない。

 因みに公設市場は、ステカを持っていれば誰でも出店できるのである。
 使用料は店舗の広さにより変わるが、基本的に安く設定している。
 1コマ(2m四方)を1日10時間使用して小銀貨2枚(2千円)と良心的な料金だ。
 料金計算はコマ数✕ 小銀貨2枚なので、とても分かり易い。
 1日単位で借りられるし、月単位の長期契約も可能である。
 出店場所は基本的に抽選であるが、場所が足りない場合、露天であるが公共広場に店を出すことも可能だ。
 使用料は前払いで、支払いは全てキャッシュレス決済となる。
 売り買いに使用するキャッシュレス決済端末は事務局で貸し出しており、その料金は出店料に含まれているのだ。

 オレ、アーロン、ステラ、セレスティーナの4人は、最初に生鮮食品館に入った。
「カイト様、公設市場ってこんなにも広いんですね…
 それに色々な物が売ってて、見てるだけでも楽しいです」
 町娘姿のステラが笑顔で感想を述べた。
 余談であるが、ステラは完全に男性恐怖症とコミュ症を克服し、オレと違和感なく会話できるまでに成長していた。
 ステラと最初に会った頃から比べると飛躍的な進歩である。

「ステラの言う通りね。
 こんなに新鮮な食材が安く買えるなら、毎日でもここに通いたくなるわ」
 そう言ったのは、秘書のセレスティーナである。
 最近はステラとセレスティーナのペアがオレの公務に同行することが多く、武道の道を極めた2人は、趣味も合いすっかり仲良くなっていたのだ。

「そうだね、平日なのにこんなに大勢の人で賑わってるし…
 この市場には、地元の農家や果樹園も出店しているそうだよ」

「仰るとおりです。
 出店者の約7割はギルドメンバーですが、残りの3割はギルドに加盟していない地元の農民なのです」とアーロンが言った。

「でも、残りの3割は何故ギルドに加盟しないんだろう」
 オレは素朴な疑問を口にした。

「それはですね…
 加盟金が高額で支払えず、旧ギルドに加盟出来なかったのが、未だに尾を引いているからです」
 アーロンは、理由を説明してくれた。
 ギルドに加盟すれば、色々な恩恵に浴せるのであるが、旧ギルドに加盟金が支払えず未加盟であった人たちが、ギルドに悪い印象を持っており、公設ギルド設立後も加盟を躊躇していると言うのである。

「なるほど、旧ギルドの悪弊が、こんなところに影響しているとはな…」

「その件は、ギルドマスターのレイン・サンダースとも話しております。
 ギルドが公的な組織に刷新されたこと、ギルド加盟のメリットを根気よく説明しておりますが、なかなか首を縦に振ってもらえないと申しておりました」

「なるほど、それは何かカンフル剤が必要かも知れないな」

「はい、私もそう思っております。
 あとで新ギルマスと面談する時間がありますので、その時に話しましょう」

 オレたちはその後、加工食品館に移動した。
 中に入ると美味しそうな匂いが漂い、思わずオレのお腹が鳴った。

「カイト様、私のお腹の虫も文句言ってます」
「私もお腹が減りました、何か食べませんか?」
 ステラとセレスティーナもお腹が空いたと訴え、オレは昼食抜きだったのを思い出した。

「そうだね、何か買って食べようか」

 オレたちは、美味しそうな匂いを漂わせている串焼きの店で鳥串と牛串を買い、魚介焼の店で焼き海老と焼きホタテを購入、最後にパエリアのような焼き飯を購入して、公共広場にある休憩スペースに腰掛けて食べ始めた。

「ん~、この牛串、最高に美味しいです」
 肉好きのステラが美味しそうに牛串を頬張っている。

「こっちの焼海老も新鮮だし、大っきくてプリップリで美味しいですよ」
 セレスティーナも普段の上品な様子からは想像できないほど大胆に大海老に齧り付いていた。

「その海老とホタテ、実はサンドベリア海から穫れたてを直送してるんですよ」
 アーロンがそう教えてくれた。

「えっ、そうなんですか?」
 2人は口一杯に頬張りながら驚いていた。

「そう言えば、この辺て海が無いですもんね」

「直送が可能になったのは、アクアスター・エアロトラベルの領都直行便が就航したからなんだ」とオレが説明した。

「なるほど~」
 オレたちのグループ会社が公爵領の繁栄に如何に寄与し、相互関係を深めているかを目の当たりにしたのである。

 その後、工業製品館と魔導具・錬金館を見学した後、すぐ近くにある公設ギルド本部を訪問するとギルドマスターのレイン・サンダースがオレを待っていた。

「ご領主様、公設ギルド本部へのご訪問、光栄に存じます」

「サンダース、ご苦労さま。
 ギルマスの大役、何かと大変だろうが、よろしく頼むよ」
 オレとサンダースは、課題であるギルド未加盟の人々の加盟促進について話し合った。

「私どもと致しましても職員を派遣してギルド加盟のメリットを粘り強く説得しているのですが、如何せん彼らのギルドに対する不信感が根強くて、今のままでも公設市場は使えるし、別に困らないと言われ、打つ手が無い状況なのです」

「なるほど…
 それでは、ギルドに加盟しないと公設市場に出店できないように規約を変更すればよいのだな…。
 その代わり、期間限定でギルド加盟料を半額にするとか、出店料を1ヶ月間無料にするとか、飴と鞭の両面で攻めるしか無いだろうな」

「えっ、そんな大胆なこと……
 よ、宜しいのですか?」

「あ~、いいさ、領主権限で決められることだから問題ないだろ」

「ありがとうございます、その条件を提示して必ずや全員加盟させてみせます」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 オレたちは、公設ギルドを後にすると、アーロンが取ってくれた宿へチェックインした。
 『森の山ねこ亭』と言う、どこかで聞いたような名前の宿であるが、部屋は狭くサービスレベルはお世辞にも良いとは言えず、しかも宿泊だけで居酒屋は無かった。
 ステラとセレスティーナはツインの部屋、オレはダブルの部屋をシングルユースで取った

 オレたちが宿のロビーで待っていると、約束の午後6時ちょうどにアーロンが現れた。
「カイト様、お待たせしました」

「アーロン、どんな店に連れてってくれるんだい」

「はい、エッセンの郷土料理の店です」

「ほ~、それは楽しみだ」
 オレはステラとセレスティーナを伴いアーロンの予約した店へと向かった。
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