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第20章 女神降臨編

第307話 株式会社「踊る銀ねこ亭」

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 オレは王宮を後にすると秘書のセレスティーナを連れ、王都のメインストリートを少し入った場所にある宿へと向かった。
 その宿の入口には、ロートアイアンの技術で作られた銀色の猫が踊っている看板が掛けられており、その上と下には『踊る銀ねこ亭』、『Hotel&Bistro』と言う文字があった。

 ドアを開けるとドアチャイムが鳴り、威勢の良い女将の声が聞こえてきた。
「いらっしゃ~い。
 おや、カイトさんじゃないかい」

「女将、お邪魔するよ」

「この前は、すっかりお世話になったねえ。
 お陰様で命の洗濯が出来たよ、ありがとね~」
 女将は、アクアスター・リゾートの社員旅行に娘のマリンの家族として参加し、1週間もの間、旅行を満喫したのである。

「満足して貰えたみたいで、主催者としては嬉しい限りだね」

「今日は、秘書の方と2人きりなんだね」

「そうなんだ、今日は折り入って女将に相談があってね…」

「えっ、カイトさんが、あたしに相談?」

「まあね、ちょっと大きな話になるかも知れないから、ご亭主も一緒に聞いて欲しいんだ」

「そうなのかい…
 何だか聞くのが怖いね~」

 女将は、そう言いながら奥で仕込みをしていた亭主を連れて来た。
 亭主は小声でオレに挨拶し、いつものようにペコペコ頭を下げた。

「これから話すことは、まだ計画段階なので、どうか内密にお願いします」

「分かったよ、口が裂けても言わないから安心しておくれ」
 女将がそう言うと、亭主もコクコクと何度も頷いた。

「実は、先日アクアスター・リゾートに、女神フィリア様が降臨されて1週間ほど逗留されたんだ」
 オレがそこまで言うと、女将は目を剥き、口を大きく開けて驚いた。
「め、女神様が…、降臨された?!」

「まあまあ、女将、落ち着いて…」

 女将は驚きのあまり口を半開きにしたまま何事かブツブツ呟いていた。
 亭主が女将にコップに入った水を持ってきて飲ますと少し落ち着いたようだ。

「カイトさん、女神様にお会いしたのかい?
 フィリア様って、どんなお姿なんだい?
 やっぱり、お綺麗なんだろ?」
 女将は矢継ぎ早に質問した。

「女神様って言っても、姿は普通の人と変わらないよ。
 まあ神々こうごうしいと言うか、美しいのは確かだけどね…
 まあ、それは置いといて話を先に進めるよ」
 オレは女将と亭主に女神フィリアから提案された内容を順を追って説明した。

 ミラバス山とミラバス湖を中心とする東西南北120km四方の神域とよばれる領域の統治をオレが女神フィリアから委任されたこと。
 その領地内にある聖地を目指し、多くのフィリア教信者が聖地巡礼の旅に訪れるであろうから、受入れ体制を整えるよう指示されたこと。
 信者の受入には宿泊施設や飲食店も必要不可欠であること。
 そこまで話した時、女将が急に口を挟んだ。

「もしかして、あたし達に来てくれって言うんじゃないだろねぇ。
 それは無理だよう、この銀ねこ亭はさあ、そんなに簡単に畳むわけには行かないんだから…」
 どうやら女将は、早合点したようだ。

「いや、そうじゃないんだ。
 確かに、ご亭主と女将さんの力は借りたいんだけど、それは別の形でお願いしたいと思っている」

「別の形って言ったって、どうすりゃいいのさ…」

「それは、チェーン展開と言う方法だよ」

「チェーン展開?
 何だいそれ、聞いたことのない言葉だねぇ」

「踊る銀ねこ亭の名前と、宿の経営ノウハウを提供してもらって、他の場所に同じような宿を出すんだよ」
 オレは2人に『踊る銀ねこ亭』をチェーン展開する腹案を披露した。

 王都で評判の宿『踊る銀ねこ亭』の名前で、同様の規模で居酒屋併設型の宿を王国内各地に出店するのだ。
 名称は『踊る銀ねこ亭◯◯店』で、看板は本店と同じものを付ける。
 チェーン店の従業員には『踊る銀ねこ亭』本店で数ヶ月間、料理や接客、宿と居酒屋の経営ノウハウを女将とご亭主から叩き込んでもらう。
 女将と亭主は、今まで通りに『踊る銀ねこ亭』本店の経営を続けてもらう。
 踊る銀ねこ亭には、経営指導料という名目で毎月本部から一定のロイヤリティーを支払う。
 アクアスター・グループの子会社として『株式会社踊る銀ねこ亭』を設立し、その会社が店舗を建設し、社員を派遣して従業員として店舗運営に当たらせる。
 チェーン店の形態は、当面の間直営店での展開を想定している。
 また、女将と亭主には看板料と経営ノウハウの提供料名目で『株式会社踊る銀ねこ亭』の株式の40%を持ってもらい経営に積極的に参加してもらう。
 店舗の建設や用地確保、資金調達、従業員の採用はアクアスターグループの所管企業が代行し、店舗の運営指導・社員教育・接客調理は女将と亭主が担当する。
 社長には、女将と亭主の娘で、今現在アクアスター・リゾートの専属客室係バトラーを務めており、オレの将来の側室でもあるマリンの就任を予定していると伝えた。

「お2人とも、この案どうですか?」

「どうですかって、言われてもねぇ~。
 あたしらには、話が難しくて理解できないよ」

 確かにそうだろう。
 この世界には無い、新しいビジネスモデルを理解しろと言うのだから無理もない。

「分かった、それじゃオレが一つ一つ分かり易く説明するから」
 オレはそれから2時間にわたり、女将と亭主に一つ一つ噛み砕いて丁寧に説明した。

「なるほどね~、つまり私らは『踊る銀ねこ亭』の名前と看板を貸して、カイトさんが採用した人に接客や料理を教えてやればいいんだね。
 で、カイトさんは、建物を建てたり、社員を採用したりお金を出す担当って訳だ」

「まあ、簡単に言えばそんな感じですね」
 2人は、ようやく腑に落ちたと言う表情になった。

「なるほど、ようやく分かったよ。
 分かったけど、この宿をやりながらだと、大変そうだね~」

「実は、社員教育はここでやれば良いと思ってるんだ。
 だから、銀ねこ亭に従業員が増えたと考えればいいのさ」

「ん~、簡単に言うけどねぇ、教えるのって大変なんだよ…
 あら、いけない、もうこんな時間だよ、開店準備しなきゃ…」
 既に午後2時を回り、夜の仕込みの続きや開店準備の時間となり、その日は結論が出ることなく、後日また来ると言って、オレは銀ねこ亭を後にした。
 女将と亭主は、暫く考えてから返事をくれると言っていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 その夜、オレはマリンの部屋を訪ね、昼間マリンの両親に説明した内容を話した。
 マリンはオレの話を冷静に聞いていた。

「カイトさま、うちの両親に気を遣っていただき、ありがとうございます」

「いや、気を遣ったと言うか、オレが『踊る銀ねこ亭』のファンだから、こんなアットホームな宿が他にもあったらいいのになあと思ったのさ」

「その言葉、嬉しいです。
 でも、新会社の社長が私なんかで宜しいんでしょうか?」

「元々、マリンが銀ねこ亭の跡取りだったんだし、アクアスター・リゾートで鍛えられた良い部分を抽出して融合させれば、もっと良い宿になるかなって思ってね」

「なるほど、いいとこ取りを狙ってたんですね!、さすがはカイト様です」
 マリンは嬉しそうにオレの手を握った。

「前途多難だし、上手く行くか分からないけど、マリンのご両親が賢明な判断を下してくれるといいなあ」

「私、今度の休みにでも実家に行って両親を説得してみます」

「うん、マリン頼むよ」

「ところで…、私、今夜カイト様が1人でこの部屋にいらっしゃると聞いて、ドキドキしてお待ちしてたんです」

「え、ドキドキして待ってた?
 マリンが?」

 オレは最初、マリンが何を言っているのか分からなかった。
 しかし、マリンの紅潮した頬と潤んだ瞳を見て、そのドキドキの理由が分かった。
 それは、マリンを抱くために、オレがこの部屋に来たのだと勘違いしていたのだ。

「なるほど、そう言うことか……
 では、マリンのお望み通り、今夜はこの部屋に泊めてもらおう…」
 オレはマリンの首に腕を回して抱き寄せると、彼女の暴力的なまでに豊満な隠れ巨乳がオレの胸に当たった。
 それからオレとマリンが深夜まで濃密な時間を過ごしたのは、言うまでもない。
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