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第19章 社員旅行編

第278話 ウェルカムパーティ

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 エメラルドリゾートのビーチレストランでウェルカム・パーティが開かれた。
 グループ社員130名と、その家族合計300名が一同に会して食事するのである。

 因みにウェルカムパーティは、特別に開かれた訳ではない。
 このパーティは、滞在客ゲストがリゾートに到着した日に開かれるレギュラーイベントであり、料金に含まれているのだ。

 砂浜に8人掛けの長円形ラウンドテーブル38卓が並べられ、自由に座ってもらったが、仲の良い者同士で座る場合や、初対面同士が座るテーブルもあり、その顔ぶれは多彩であった。
 ちょうど、日が暮れる直前の素晴らしいオレンジ色の夕陽を見ながら、全員がウェルカムドリンクを楽しんでいた。

 開会に当たり、グループ会長のオレがステージに上り挨拶した。
「アクアスター・グループ社員の皆様、並びに遠路遥々お越し下さいました、ご家族の皆様、こんばんわ…
 私は、当グループの会長を努めます、カイト・シュテリオンベルグです。
 本日は、当グループ初の試みとなる社員旅行に、社員並びにご家族をご招待できましたこと、とても嬉しく思っております」
 そこで、会場から拍手が沸き起こった。

「このエメラルド・リゾートは、アクアスター・グループも出資している超大型リゾートです。
 ご覧のように美しい砂浜、宝石と見舞うばかりの綺麗な海、正にこれぞリゾートと言えるような素晴らしい環境にあります。
 実はこのリゾート、まだ開業前ですが、今回特別に1週間だけプレオープンしてもらうこととなりました。
 当リゾートのスタッフは、まだ研修中の社員が多くおりますので、サービスが行き届かかず、ご不便をお掛けするかも知れませんが、何とぞご容赦のほど宜しくお願い致します。
 さて、皆さんも御存知のようにアクアスター・リゾートは暗黒竜ダークドラゴンの襲撃と言う未曾有の災厄に見舞われ、壊滅的な被害ダメージを受けました。
 現在、急ピッチで復旧作業が行われておりますが、営業が開始できるようになるまでには、最低でも後1ヶ月以上掛かる見込みです。
 幸いなことに、当グループの2番目のリゾートである「エメラルド・リゾート」、そして3番目のリゾートである「エルドラード・リゾート」の開業準備中です。
 アクアスター・リゾートの社員たちは、開業準備のサポートを行うことで結果的に質の高いサービスをご提供出来ると考えております。
 2つのリゾートが営業を開始し、新たに採用した社員たちが活躍することで更なるグループの発展が見込めると考えております。
 さて、硬い話はこの位にして乾杯に移りたいと思います。
 乾杯の発声は、今回の社員旅行を取り仕切ってくれた、サクラにお願いしたいと思います。サクラ、あとは宜しく」

 オレの突然の指名に、サクラは少しだけ動揺した表情を見せたが、意を決してステージに登壇した。
「え~っと、カイト様からご指名をいただきましたので、乾杯の音頭を取らせていただきます。
 私が、カイト様の元で働くようになってから既に1年以上経過しました。
 最初は、まだスタッフも少なくて今の半分以下だったと思います。
 思えば、あれから色々なことがありました。
 カイト様は、様々な難題をクリアし、今もグループの発展のため日夜努力なさっておられます。
 これからも、みんなの力を結集してカイト様を支え、このグループを更に発展させましょう。
 また、本日ここにいらっしゃるご家族の皆様方、日頃から当社の社員をお支え下さり、感謝申し上げます。
 今後とも継続してご支援下さいますよう宜しくお願い致します。
 それでは、皆さま、グラスをお持ち下さい。
 アクアスター・グループとシュテリオンベルグ公爵領の発展、並びに本日ご参加の皆様方のご健勝を祈念して、カンパ~イ!」

 サクラの乾杯の音頭で、社員とその家族は一斉にグラスを掲げ「カンパ~イ」と唱和した。
 そしてグラスを置くと全員が拍手した。

 会場にはギターとスティールドラムのような楽器、パーカッション、サックスなどの生演奏でトロピカルな音楽が流れ、それを合図としてホテルスタッフ達が次々と豪華な料理を運んできた。
 サンドベリア近海で穫れた海老や蟹、様々な魚料理、セントレーニア牧場の豊かな環境で育った牛、豚、鶏、羊などの肉料理、新鮮な野菜と果物を調理した各種の料理とスイーツ。
 酒はアクアスター・ワイナリーとアルカディア・ワイナリーの赤・白・スパークリング各2種類ずつ合計12種類、ビールは冷え冷えの樽生ビールが3種類、ピルスナー、エール、スタウトが用意され、ウィスキーや焼酎、日本酒まである。
 ソフトドリンクは実に120種類の中から選び放題だ。
 その他に南国特有のマンゴーやパイナップル、バナナやパパイヤなどの果実をあしらったカクテルや各種サワー、ハーブティー、紅茶、コーヒーなど選り取り見取りである。

 基本は、会場の海側以外の3方向に配置されたテーブルから好みの料理を選ぶビュッフェ形式であるが、各テーブルにはホテルスタッフが配置されており、好きな料理を好きなだけ盛り付けてくれるのだ。

 オレのテーブルには、他に婚約者フィアンセ7名が座っているが、ひっきりなしに客が訪れていた。
 多くはスタッフの家族であるが、中にはこの国の王女3人と隣国の王女2人の絶世の美女を間近で見たいと言う輩もおり、護衛たちは彼女達の周りで目を光らせていた。

「カイトさ~ん!」
 どこかでオレを呼ぶ声がした。

 辺りを見回すと、よく見知った顔がそこにあった。
『踊る銀ねこ亭』の女将と娘のマリンがこちらに向かって、手を振っていた。
 その脇で影の薄い『踊る銀ねこ亭』の亭主が、こちらへ向かってペコペコと頭を下げていた。

 女将達は、人混みを掻き分けながら、ようやくオレの傍に辿り着いた。
「女将、久しぶりだね」
 オレは女将と握手した。

「こちらこそ、
 今回は旅行に招待してもらって、申し訳ないね~」

「いやいや、マリン始め社員が、毎日一生懸命頑張ってくれるから、たまには恩返ししなくちゃと思ってね」

「カイトさんが社員の皆んなのことを気遣ってくれるから、社員もそれに答えなきゃって頑張るんじゃないのかい?」

「そうなんですかね~、ホント、みんなには感謝しなきゃ」

「それにしても、大変だったねえ」

「えっ、何がですか?」

「ほら、何とかドラゴンに領地を荒らされちゃってさぁ」

「あ~、そっちの話ですね。
 確かに大変だったけど、そのお陰で、こうして旅行に来られたんだから、今考えれば逆に良かったのかも知れません」

「へ~、カイトさんは、そういう前向きな考え方が出来るんだね~。
 さすがは公爵様だけのことはあるよ」
 女将は妙に感心していた。

「ちょっと母さん、後がつかえてるから、その辺にしといてよ」
 マリンが女将の袖を引っ張って注意した。
 見ると女将の後には、オレに挨拶しようと長蛇の列が出来ていたのだ。

「あらら、ホントだね、それじゃカイトさん、またね」
 そう言って女将たちは、自分の席へ戻って行った。

 後ろに並んでいた人たちが、オレに挨拶しようと次々と訪れた。
 娘や息子がいつもお世話になってますとか、家族まで社員旅行に招待してくれてありがとうと礼を言われたり、中には自分の娘や息子を売り込みに来た親もいたが、そのような話は秘書を通して下さいと、やんわりお断りした。

 列が進んでいくと見覚えのある顔を見つけた。
 それはアスナの父リカール・バレンシアであった。
「カイト殿は、大人気ですな~」
 リカールは片手にグラスを持ち、ほろ酔い加減も手伝ってか上機嫌であった。

「リカール殿、ずいぶんとご機嫌が宜しいようですね」

「うんうん、今夜は頗る機嫌がいいぞ。
 婿殿が儂を旅行に招待してくれたのだからなぁ。
 それもこんな凄いリゾートに一週間もだぞ」

「わざわざお越しいただき、ありがとうございます。
 予行演習にちょうど良かったし、思い切って全員で旅行に来てみました」

「そうかそうか、人間思い切りも大切だからな」
 そこでリカールは声を潜めてオレ聞いた。
「ところでカイト殿、このリゾート1泊幾らなのだ」
 根っからの商人としては、どれ位の価格設定か気になったのだろう。

「え~っと、まだ決定ではないですが、スタンダード・ツインルームで2名1泊金貨1枚(10万円)と考えてます」
 つまり1名1泊当たり金貨0.5枚(5万円)である
「なるほど…、しかしこれだけのサービスが無料と考えれば安いかも知れんなぁ」
 このリゾートは、宿泊代・飲食代・エルドラードからの飛行船運賃・アクティビティ利用料、パーティ代、税金サービス料が全て込みなのであるから、リカールの言う通り安い方だとだと思う。

「因みに一番高いエメラルド・ヴィラ(500平米)は1室1泊金貨24枚(240万円)ですけどね。
 ただ、12人泊まれるから一人当たりで考えると1泊金貨2枚なので、部屋の豪華さと広さを考えればお得だと思います」
 因みにエメラルド・ヴィラ(500平米)には、専用ビーチ、専用プール、海上展望塔連結型テラス付の3階建てヴィラで、専用海上展望塔の最下階は海の中に部屋があり、水族館のように魚が見られるのだ。
 部屋数はツインベッドの部屋が6部屋とリビングダイニングが2つ、展望ラウンジ、トイレ4、ジャグジーバス2と超豪華な作りだ。

 オレとリカールが話していると娘のアスナが気づきこちらへやって来た。
「ちょっとパパ、カイトと何話してるの。
  また、困らせるようなこと言ってるんじゃないわよね~?」

「アスナ、パパはだなぁ、カイト殿と部屋代の話をしていただけだ」

「ホント?、まだ決定じゃないんだから、言いふらしちゃ駄目よ」
 王都でトップクラスの商家『バレンシア商会』の当主も愛娘に係っては形無しである。
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