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第17章 フォマロート王国救国編

第241話 王都エルサレーナへの凱旋

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 ゴラン帝国軍7万人は皇帝の勅命を受けたエルドバラン将軍の決断により、本国へ向けて撤退を開始した。
 恐らく4~5日中には国境を抜け、フォマロート王国領から離脱するであろう。

 一方、ゴラン連合軍の残存勢力は、デルファイ公国軍と諸国軍の合計6万人である。
 フォマロート同盟軍は、13万人余りの兵力を保有し、力ずくで敵兵を排除することも可能だが、結局その必要はなかった。

 その夜、飛行船から敵陣数カ所に大量のボムポーションを投下したのだ。
 敵は、激しい閃光と大音量の爆発音によってパニックに陥り、指揮命令系統が機能不全に陥り、兵たちは我先に撤退を開始したのだ。
 撤退した兵を追討せよとの意見も出たが、それよりもフォマロート王国内から敵兵を追い出し、国土を取り戻すことが優先と決まった。

 5日後、ゴラン帝国連合軍は、全ての兵がフォマロート王国内から撤退し、フォマロート・アプロンティア・ソランスター3王国に対する侵略戦争に一応の幕が下りた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 オレは、エルドバラン将軍の撤退開始を確認した後、レクサグラード宮殿の牢から救い出したイシスの妻と娘2人、それに一族の若い娘7人を飛行船に乗せ、リーゼンベルグ司令部へ向かった。

 到着を待ちわびていたイシスは、妻のカズハ、長女のナツナ、次女のミナモと再会できたことを喜び、人目も憚らす抱き合って泣いた。
 それもその筈、お互いに生死の境目を潜り抜けたのだから無理もない。
 イシス親子をリーゼンベルグに一泊させて、翌日飛行船でワレン族の村へ送った。

 その別れ際、イシスとその家族たちは、オレに礼を言った。
「あなたには、何とお礼を述べて良いか分かりません。
 あなた方を攻撃しようとした私の命をお救い下さり、その上人質となっていた私の家族まで救っていただいて…
 この御恩は、いつか必ずお返し致します」

「そのお気持ちだけで充分です。
 私たちは、自らに課せられた任務を果たしただけですから」

「そうは、行きません。
 我々、ワレン族は受けた恩は必ず返すのが、一族の掟なのです。
 何か、困ったことがあれば、その時は何でも言って下さい」

「分かりました、心に止めておきましょう」
 オレは、イシスと再会を約してワレン族の村を後にした。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 レクサグラード宮殿を占拠していたソランスター王国軍のレイシス将軍とサバティーニ将軍の部隊は、エルドバラン将軍率いるゴラン帝国軍がフォマロート王国領を完全に出た日に『ゲート』を使って全軍撤退した。

 エルドバラン将軍が帝都に到着しても既に敵兵は居らず、レクサグラード宮殿は、もぬけの殻という訳だ。
 因みにレクサグラード親衛隊の6千人は、ソランスター王国軍が撤退する際に、全員拘束を解いてあるから問題ないだろう。

 一方、ゴラン帝国皇帝と10人の重臣は、気化睡眠ポーションで眠らせ、飛行船の船室に放り込んで、フォマロート王国まで移送し、エルサレーナ王宮の地下牢に監禁した。
 リアンナの両親である国王と王妃を始め、王族をことごとく死に追いやった責任は、軍事侵攻を計画した彼らにもあるからだ。
 もう一方の戦犯であるサルーテ将軍とロズベルグ将軍の罪状は明らかであり、死罪以上の罪は確実である。
 捕虜達の処分は、侵略を受けた当事国であるフォマロート王国に任せられることとなった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 リアンナ王女は、国境の街に避難していた100万人の国民と共に、王国第2の都市リーゼンベルグに到着した。
 その翌日、リアンナ王女は、フォマロート同盟軍13万人を率いて、王都エルサレーナに向けて行進した。
 沿道には多くのフォマロート国民が手を振り、リアンナ王女の帰還を心から喜んだ。
 リアンナ王女は、そのままエルサレーナ王宮に入城し、王宮正門の側防塔に作られた急拵えの演台に上った。
 そして集まった王都民とフォマロート同盟軍合計40万人の割れんばかりの声援に手を振って答えた。

 その両脇には、唯一の肉親となった妹のレイナ王女と従妹のクリスティーナが寄り添った。
 その右側にはベルガー、サンドバル、ミューレンのフォマロート王国の3人の将軍が立ち、左側にはアプロンティア王国代表のシュトラーゼ伯爵、ソランスター王国代表のオレが立ち、大観衆の声援に答えた。

 リアンナ王女は、オレが用意したワイヤレスマイクを握り、上空に浮かぶ飛行船のスピーカーから、国民に語り掛けた。

「親愛なるフォマロートの民よ…
 そして勇敢に戦ったフォマロート救国同盟軍の兵士たちよ…」

「我々は、悪逆非道なる反逆者を捕らえ…
 国土を蹂躙した侵略者を追い払い…
 我がフォマロート王国は完全勝利し、自由を取り戻した!」
 リアンナ王女の言葉に、エルサレーナ王宮前広場を埋め尽くした40万人の観衆は、拍手喝采で答えた。

「この勝利は、勇敢なる我がフォマロート王国軍、そしてアプロンティア王国軍、ソランスター王国軍を始めとする同盟軍の知略に依るものです。
 勇敢なる彼らに拍手を!」
 リアンナがそう言うと、地鳴りのような拍手が沸き起こった。

「王女殿下、勝鬨かちどきを上げましょう!」
 ベルガー将軍が提案した。

「そうね、ではベルガー将軍、同盟軍を代表して勝鬨かちどきをお願いしていいかしら」

「それでしたら、私ではなく…
 一番の功労者であるシュテリオンベルグ伯爵にお願いするのが筋かと存じます」
 ベルガー将軍がそう言うと、周りからも賛同の拍手が沸き起こった。

 全く予想していなかったが、何とも光栄なことだ。
「分かりました、それではその大役、承ります」
 オレは、このような役回りは苦手だが、この状況では逃れようもない。

 オレが、急拵えの演台に上がると、王宮正門前広場は、遥か向こうまで見えないくらい多くの人で埋め尽くされていた。

「え~、フォマロート王国の皆さん。
 私は、ソランスター王国代表のシュテリオンベルグです。
 我々同盟軍は、力を結集してゴラン帝国軍に完全勝利しました!」
 オレがそう言うと、嵐のような大歓声と拍手が沸き起こった。

 余りの歓声と拍手の大きさに次の言葉を続けられず、オレが両手を上げて制すと、再び水を打ったように静まり返った。

「え~、ご指名ですので、勝鬨かちどきを上げたいと思います。
 私が『えいえい』と叫びますので、皆さんは『おー』と私の後に続いて下さい。
 それを3回繰り返します」

「それでは、行きますよ…」
「えい、えい」
「おぉー!」
「えい、えい」
「おぉー!」
「えい、えい」
「おぉー!」
 それは、辺り一帯にこだまする地鳴りのような勝鬨かちどきであった。

 役目を終え、演台を下りると、リアンナ王女が駆け寄りオレの頬にキスした。
 それを見た周りの人々は、一斉に声を上げオレたちを冷やかした。
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