上 下
205 / 374
第15章 アプロンティア王国編

第203話 クーデター(中編)

しおりを挟む
 傷心のリアンナ王女と一緒に迎賓館に戻ると、オレはすぐにソランスター国王へ電話した。

 早朝にも拘わらずクラウス国王は、すぐに電話に出てくれた。

「陛下、朝早くに申し訳ございません」

「いや、そんなことは気にせんで良い。
 カイト殿、リリアンから概略は聞いた。
 しかし、たいへんな事になったのう…」

「はい、リアンナ王女と、レオニウス国王には、第1報をお伝えしました。
 レオニウス国王は、派兵を即断下さいました」

「おぉ、そうか、派兵を決断されたか…
 しかし、リアンナ王女は気落ちしておるであろう。
 今はどうすることも出来んからのう…」

「そのことですが、私に腹案がございます」

「なんじゃ、カイト殿、申してみよ」

「はい、陛下は私の飛行船が持つステルスモードをご存知ですね」

「おお、確か、外から見えなくなる機能じゃったのう」

「はい、その通りで御座います。
 そのステルスモードのまま、フォマロート王国の王都エルサレーナまで飛び、上空から兵の配置や軍の情報を探ろうと思っております。
 そして機をうかがって、王宮内に降り立ち、王族の救出を試みようかと思っておるのです」

「カイト殿、上空からの情報収集はともかく、王族の救出は危険すぎるぞ」

「その通りでございます。
 ですので、機をうかがってと申したのでございます」

「う~ん、まあカイト殿じゃから、勝算のないことはせぬと思うが、アリエスとジェスティーナの悲しむ顔は見たくないからのう。
 くれぐれも慎重に事を運ぶのじゃぞ」

「ありがとうございます。
 陛下のお言葉、心に刻みまする」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 その日はオレ史上、最も忙しい一日となった。
 まず、フローラの部屋で一緒に寝ているアリエスとジェスティーナをメイド長のソニアに呼びに行かせた。
 王女2人とその護衛4人が戻ってきたところで、オレの同行者全員にフォマロート王国で反乱軍によるクーデターが勃発したこと、ゴラン帝国の兵が同国内に進軍中であることを話した。

 その後、クリスタリア王宮から、ライアス王太子とフローラ王女の婚礼の儀は状況が落ち着くまで無期限延期と正式な通知があった。

 オレたちは、婚礼の儀に出席することを主目的に、遥々アプロンティア王国まで来たわけであるが、それが延期となり、滞在理由がなくなった訳だ。

 すぐに帰国しても良いのだが、流石にそういう訳には行くまい。
 レオニウス国王に逐次情報を伝えると言った手前もあるし、リアンナ王女を放おって帰る訳にも行かない。
 それに同盟国なのだから、クラウス国王の手前、協力しなければならないのだ。

 しばらくして、リアンナ王女がオレの部屋を訪ねてきた。
「伯爵、お願いがあります。
 私を飛行船に乗せて、エルサレーナまで連れて行って欲しいのです」
 リアンナ王女は、悲壮感漂う顔でオレに言った。

 リアンナは、何を考えているのだろう。
 自分1人で救出に向かうとでも言うのだろうか?

「実は、私もエルサレーナまで飛んで情報収集しようかと考えていたところです。
 今の状況では、王宮内に着陸するのは無理だと思います。
 それでも宜しければお連れしますが、2つほど条件があります」

「その条件とは、なんですか?」

「1つは、飛行船に乗ってからここに戻るまでは、船長である私の指揮下に入り、命に従って頂くこと。
 2つ目は、無茶は行動は控えること。
 場合によっては、エルサレーナは悲惨な状況にあることも想定されますが、そのような場合も取り乱さず、落ち着いて行動することです」

「分かりました、その条件を飲みましょう」

「宜しい、それでは一度レオニウス国王に、報告してから飛行船で偵察に出発しましょう」

 オレは、偵察に出かける人員の選抜を行った。
 王女2人の護衛としてフェリンとアンジェリーナを残し、ステラ、セレスティーナ、リリアーナ、レイフェリアの4人を連れて行くことにした。
 一方、リアンナ王女は護衛の女性3人と女性文官を1名同行させることにしていた。

 その間に、フォマロート王国に潜入している諜報グループ(SGU011)から連絡があった。
 王都内では、反乱軍の兵士と王国軍の兵士の間で戦闘が発生し、王国軍内に於いても全てが反乱に加わっている訳ではないこと。
 反乱軍の首謀者は、第2歩兵師団のサルーテ将軍で、子飼いの兵士8千名を指揮し、王宮を急襲したこと。
 反乱には、ロズベルグ公爵の私兵2千名も加わっており、フォマロート国内の反乱勢力は合計1万人に及ぶとの情報がもたらされた。

 別の諜報グループ(SGU027)からも、驚くべき報告がなされた。
 市内には既にゴラン帝国軍の兵士がおり、反乱軍の兵士と連携しているとの事だ。
 それが事実だとすれば、何らかの手段により、反乱軍が帝国軍兵士を手引し、密かにフォマロート王国内に引き入れたことになる。

 オレの話を聞いたリアンナ王女は苦々にがにがしそうに言った
「まさか、ロズベルグ公爵とサルーテ将軍が裏切り者だったとは…
 陛下が、あれだけ目を掛けていたのに…」

 オレたちは、午前10時頃クリスタリア王宮まで飛行船で飛んで、再びレオニウス国王に謁見した。

 国王は王国軍4万を本日中にフォマロート国境へ向けて出発させること、総司令官にライアス王太子を、副総司令官に第2王子のジュリアスを任命したことをオレに伝えた。
 もちろん、彼らは形式上の総司令官に過ぎず、実際の指揮はそれぞれの司令官(将軍)が担うのである。

 オレは国王にフォマロート王国の王都エルサレーナの状況を伝えた。
 サルーテ将軍とロズベルグ公爵の2名が反乱に加わっていること、反乱軍が帝国軍兵士を手引し、密かにフォマロート王国内に引き入れていたことを説明した。

 その上で、これから飛行船に乗り、王都エルサレーナの上空まで飛び偵察活動を行うこと、それにリアンナ王女を同行させることを伝えた。

「なるほど、飛行船で偵察とは、考えも付かんな。
 もし席に余裕があるなら、我が家臣も乗せては貰えぬだろうか?」

「はい、それでしたら6名までであれば、搭乗可能でございます」

「おお、そうか、それでは早速人選するから、しばし待たれよ」

 国王はそう言うと、側近に数人の名前を伝え、呼びに行かせた。
 聞くと大臣2名と王国近衛軍兵士のようだ。

「陛下、飛行船にお乗りいただくに当り、一つだけ条件があるのですが、宜しいでしょうか?」

「伯爵、何なりと申されよ」

「条件とは、飛行船に乗ってから戻るまでの間、船長である私の指揮下に入り、不合理な命令で無い限り従うと云うことです。
 そうでなければ統制が取れませんので、はっきりさせて置きたいのです」

「シュテリオンベルグ伯爵の申すことは、至極最な考えだ。
 家臣には、そのように申し付けておくので、心配不要じゃ」

「陛下、ありがとうございます」

 それから暫くして、飛行船に乗る者が集合した。
 同行するのは、外務大臣のライゼン子爵と軍務大臣のシュトラーゼ伯爵の2名。
 彼らとは歓迎の宴で挨拶しており、既に面識がある。
 あとは近衛軍のアムラー少佐と精鋭兵士3名であった。

 オレたちは簡単な自己紹介を済ませ、飛行船に乗り込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...